異世界転移した現代人ががんばる話/試作品
こんな調子の話を考えてる。
「さて、どうすっか」
困った時に誰もがいだく気持ちを口に出し、佐々木ヒロノリは戸惑う。
鳥居の外を一通り周り状況は把握した。
そこが異世界だという、創作物におけるお約束な状況だというのも把握した。
「まさか本当にこうなるとはなあ……」
色々あって人生が嫌になり、もうどっかにいってしまいたい、と願いはした。
しかしまさかそれが、
『その願い、しかと聞き届けた』
と頭の中に響くお返事つきで承諾されるとは思わなかった。
当然、
「なんなんだ今の」
と驚き、すぐに周囲を見渡した。
誰かの悪戯なのかと思ったが、人の気配は無い。
どこかに何かが仕掛けられてるのかと思ったが、それもない。
追い詰められた精神がもたらした幻聴か何かか、と思う事でとりあえず納得した。
そこまで自分が疲れてたのかと考えると頭を抱えたくなったが。
しかし、仕事帰りにふらりとよった神社で手を合わせてのお願いは、しっかり実現していた。
鳥居の外に出たら、見慣れた町の中ではなく、見知らぬ平野だった。
アスファルトではなく、踏み固められて出来た道があり、その向こうに町が見える。
いったい何がどうなってるんだと思って町に向かって、完全に見慣れない町並みになってる事に更に驚いた。
そこから町の探索やら、適当な人に話しかけたりだとか、とにかく色々と細々とした情報を集めていく事になる。
だいたいこの辺りの行動は、様々な作品などで紹介されてたりするので省略する。
同じような事を繰り返してもおもしろみもないし、記述していくだけ時間の無駄であろう。
唯一、ページ数を稼げるという利点はあるが、現在考慮する必要がない。
そして、そこが全くの見知らぬ場所である事を理解し、自分が異世界などに飛ばされたという事実を受け入れる事になる。
そして、
「この先どうすっかな」
とお約束通りに悩む事になった。
何せ今までの生活から切り離されているのだ。
嘆くのも無理はないだろう。
いきなり仕事先も貯金も住む家も頼るべき親や親戚・友人が消えたのだ。
裸で野原に放り出されたようなものである。
明日どころか、今夜泊まり込む場所もどうしようかと考えるのは自然な事だ。
「本当、どうすんだよ」
こんな時の対処方法を記したマニュアルであれば良いのだが、そんなもんあるわけもない。
やむなくその日は神社の社の中に入って一夜を過ごす事とした。
見知らぬ異世界に神社があるんだ、という事に疑問を抱く事すらなく。
そして翌朝。
なんでこうなったのかという事を探るより先に、とにかく当面の生活をどうにかせねばと活動をし始める。
最低レベルの大学すら入学出来ないレベルで高校卒業、専門学校すら行けずにフリーター、どうにか入った所はブラック企業。
そんなヒロノリのこれまでの人生が活かされた。
数え切れないほど書いた履歴書と、何度も繰り返した面接。
ようやく入った会社でのサービス残業と泊まり込みと、上司の人格否定の怒声に鍛えられたヒロノリである。
不審者がられるのを承知での聞き込みや、見知らぬ所へとの飛び込み営業なんぞ何一つ怖くはなかった。
それに、アニメ・ゲーム・漫画・ラノベに劇場版アニメに動画サイトに囲まれて育った世代である。
今置かれてる状況が異世界転移かそれに該当する何かであろうと察するのは早かった。
普通なら「信じられない、どうしよう」と混乱するところだろうが、多少は耐性があった。
夢物語のような状況だが、受け入れる下地はある。
ならばと頭に入っていたファンタジー知識を駆使して行動を進めていった。
言葉と文字が読めるのも幸いした。
どういうわけか人々が話してるのは日本語だし、書かれてる文字は日本語だ。
言葉の壁など存在しない。
意思の疎通が出来れば怖いものなど何もなかった。
その結果。
その日のうちに冒険者というものが存在し、それならば誰でもなれる事を突き止める。
仕事内容は色々だが、基本的な作業は町の外でのモンスター退治だという。
本来は派遣会社のようなもので、様々な仕事を請け負って作業員に回すのが仕事だったとか。
しかしモンスターがあらわれてからは、モンスター退治も舞い込むようになり、いつしかそれが主流になっていったという。
が、そんな経緯はどうでもよい。
モンスターがどこから来て、どうして人間を襲うのかというのもどうでも良い。
大事なのは、
『倒して核というのを持ってくれば換金できる』
という事実だけである。
これで食っていける。
少なくとも、当座の生活を凌ぐ事も出来る。
更に、倒して経験値を得て、それが一定になればレベルが上がるという。
ゲームのような状況に驚いたが、オタクな素養をもっていたヒロノリにとっては再興の状況だった。
「レベルアップして稼いで、将来は安泰だ!」
と声に出さずに胸の中で大絶叫した。
ついでに胸の中で万歳三唱した。
そのまま躍り上がってしまいそうになったがかろうじて自重した。
「これで月給十六万(更に税金と社会保障が引かれていく)とおさらばだ!」
そちらの方が喜ぶ理由として大きかった。
というわけで、ヒロノリは冒険者として、というより派遣会社としか言いようが無い周旋屋に登録して冒険者となった。
なること自体は簡単である。
何も資格や条件は必要ないのだから。
大変なのはなったあとである。
どうやって稼ぐのかという部分でたいてい躓く。
それから色々あった(便利な言葉である)。
その間に可能な限りの情報を集め、日銭を稼いで武器や防具を買いそろえ、モンスター退治にへと向かった。
と言っても最初に相手にするのは畑を荒らすネズミ退治である。
ネズミと言ってもモンスターで、通常のネズミより大きいし凶悪だ。
それが畑を荒らしに来る。
農家の敵であり、作物を年貢として徴収する領主や貴族の敵であり、畑の作物を食料としてる人類の敵である。
それを見つけて倒すという、誰もが出来るほどの底辺な仕事が最初のモンスター退治になった。
(なーに、誰でも最初は出来る所からだ。
いきなりの飛び込み営業やノルマがあるわけじゃない!
出来なくたって金が入らないだけで上司の怒鳴り声はない!)
比べてみれば何とありがたい事だろうと思う辺り、色々悲惨であろう。
だが、ブラックな現実から解放されたヒロノリは、上機嫌で町の外れへと向かい、ネズミ探しを始めた。
そんな事が二ヶ月三ヶ月続いて、新しい生活にも慣れた。
現代日本から、江戸時代あたり文明レベルというか科学段階の異世界に飛ばされ様々な不便もあった。
しかし総合的に考えてヒロノリにとってこれは最高の状況だった。
(仕事を自分で切り上げる事が出来て、睡眠時間がしっかりとれる!)
これにまさる喜びはなかった。
しかも、週休二日もとろうと思えばとれるのである。
残業というか、作業時間を延長してモンスターを多く倒せば、その分だけ実入りも増える。
これほどありがたい事はなかった。
朝は太陽が出る前に出勤し、夜は日付が変わって一時間して帰宅していた頃に比べてしまうのは失礼なほどである。
さすがに明かりがないのでそこまで働く事は出来ないが、日の出前に出勤し、日没ギリギリまで働く事など、雑作もない事だった。
おまけにそれだけ働けばかなりの成果になる。
一日に倒したモンスターは四十や五十に簡単に到達する。
それらを倒して得た、核と呼ばれるモンスターの器官を売り払えばかなりの儲けになる。
この世界の金銭で、銀貨一枚から一枚と半分まで稼げる。
この世界における単純労働者の最底辺あたりに比べれば二倍三倍くらいの稼ぎになる。
そこから税金を差し引かれるのだが、それでもかなりの金額が手元に残った。
何せ働いただけ手元に残る。
残業をしてもそれがサービスになる事は無い。
「すげえ……」
そんな事実にヒロノリは感動した。
働いた分だけ稼ぎになるという、資本主義としてはまっこと正しい事実に涙が出るほどの感謝を捧げた。
現代日本は資本主義社会のはずなのだが、その事については触れる事も無い。
ただひたすらに、今の状況と以前の現実との落差に驚いている。
「資本主義って……いいなあ!」
少なくともその他の経済体制よりも、こうして働いた分だけ手元の残る現実の方がヒロノリを幸せにしてくれていた。
それだけで十分である。
それで多少は豪遊、となれば身を持ち崩すのだろうが、ブラック企業時代に培われた倹約精神と習慣はそれをゆるさなかった。
酒に博打に女といった悪い遊びは言うに及ばず、その他の楽しみに耽溺する気にもなれなかった。
そんなものよりも、もう少し品質の良い武器防具が先である。
今の目標は、
『もっと良い武器を買って、もっと強いモンスターを倒して稼ぎにいく』
である。
やればやるだけ稼げる仕事が楽しみになっていた。
わざわざ趣味を持つ必要がない。
仕事が趣味と言える状態になってると言って良い。
そのせいで、休みもそこそこにモンスター退治に出かけていく。
レベルアップを果たし、更に強くなるとこれに拍車がかかった。
「休むなんてとんでもない。
俺には倒せるモンスターがいるんだ!」
そこまで気張って大丈夫なのか、休んだらどうだ、と声をかけた周旋屋の受付に返した言葉である。
普段は、「もっと作業員が働いてくれないかな」とぼやく周旋屋の者達も、さすがに心配するレベルで働いていった。
これが現代日本ならワーカホリックやら仕事病などと言われていたかもしれない。
しかしそんな事を言うような者はいない。
かつてはお世話になりたくて仕方なかった労働基準監督署がない事を、ヒロノリは神に感謝した。
作業時間などに口を出されてはたまらない。
手取りを増加させるためにも、今は労働時間を可能な限り確保したかった。
今なら、二十四時間年中無休で働いても悔いはない。
人間、手取りがあるというのはとても素晴らしいとつくづく思った。
そんなヒロフミが異世界にやってきて半年。
ある考えをもってとある場所へと赴いていった。
そこは町の外れにある、廃墟と言っても良い家だった。
やたらと子供がいて、それを世話する老女が住んでいる。
この世界に来てから色々見聞きして知ったのだが、孤児院だという。
モンスターがあふれる世界の事、親をモンスターのせいで失った者も多いという。
そういう者達が集められるのがこういった施設だとか。
だが、お世辞にも環境は良いとは言えない。
既に書いたように、廃墟寸前のボロ屋に子供が集められてるだけなのだ。
運営に多少は領主からの金が回されてるらしいが、大部分は周囲からの差し入れや寄付で賄われてるという。
また、おおっぴらに口に出せないが、春を売る女達が身ごもった結果がここに流れて来るとか。
社会における様々な出来事の悲惨な部分の結果がそこに集まっていた。
最初見た時にはなんと悲惨な、と思ったものだ。
しかし、やってきたばかりのヒロノリに何が出来るわけもない。
それでも、何かしら力になれればと、一週間に一回、稼ぎの一部を用いて購入した食材を持ち寄っていた。
子供達の腹を満たすのには全然足りないが、そんなものでも孤児院の老女はたいそう喜んでくれた。
だが、根本的な解決にはならない。
もっとしっかりした収入がなければ、運営も維持も出来ない。
どうにかできないかと思ったヒロノリは、この日一つの決意をして孤児院に向かう。
「冒険者をやりましょう!」
そういってヒロノリは切り出した。
最初は驚き、次いで「それは危険すぎます」と尻込みする老女を説得。
このままではどのみち孤児院は建ち行かなくなる。
ならばやる気のある子を連れてモンスターを倒そう。
そういってとにかく説得した。
最初は子供を案じていた老女も、現実を知るが故についには納得。
希望者だけに限定するという事で子供達に声をかけた。
年長の男の子を中心にすぐに五人くらいが集まった。
一番上が十三歳、下が十歳といった者達である。
だが、それだけいれば十分だった。
そしてネズミ退治に出かけていく。
稼ぎは十分とは言えなかったが、食材を少し買って帰るには十分だった。
その日、孤児院では今まで以上にたらふく食事がとれた。
「明日も行ってくるから!」
「楽しみにしとけよ」
そういう年長の少年達の言葉に子供達は目を輝かせた。
かくてヒロノリは一緒にいく仲間を手に入れた。
なおかつ、将来の安定した人員供給源を手に入れた。
なかなか見つからない仲間をようやく確保出来た。
人手が増えて安全に稼げるりょうになり、ネズミ退治が楽になった。
収入は今のところ据え置きだが、少年達のレベルが上がればそれも解消出来るだろう。
それを期待して日々を過ごしていった。
(これなら、いずれは!)
将来への期待もある。
夢が広がる。
元の世界で持ち得なかったものを、今手に入れた。
『目標、手取り三十銀貨』
それが目標になった。
随分とささやかなものだが、ヒロフミにとっては大きな儲けである。
ヒロノリの冒険は決してはじまることはないが、この町と周辺での確実な稼ぎが始まった。
「いくぞみんな」
「おお!」
元気な声が孤児院前で毎朝あがるようになった。
かつて朝礼とよんで毛嫌いしていた儀式である。
しかし、今は違う。
仕事に向かうため、生活の糧を得るため、今まで以上の生活を購入するための金を得るための景気づけである。
これほど心躍るものだったのかと認識をあらたにしていた。
(いい、みんなと心を一つにして目標に向かうって……いい!)
同じ会社の社員で協力し合う仲間である者達の足の引っ張り合いがない。
それだけで天国だった。
ノルマをあげるために客の奪いあいをする事も無い。
あげた成果を上司の手柄にされる事も無い。
同僚が失敗をなすりつけてくることもなければ、無理に仕事に引きずり込んでくる事も無い。
ただ純粋に、成果をあげるためにひたむきに努力する、そのあらわれとしてのかけ声があった。
たかだか出発するまえの号令である。
それだけでこれだけ感動できる事に、驚いてしまう。
そしてつくづく思うのだ。
(俺、こっちの世界に来て、本当に良かった。
冒険者になれて、本当に良かった)
なお、この世界における冒険者は、元の世界におけるブラック企業、あるいは3K(キツイ、汚い、危険)に該当する。
モンスター相手の危険な仕事であり、命の危険が常につきまとうものだ。
そんな仕事であるのだが、「今までよりはるかにマシ!」と思えるヒロノリはとても哀れと言えるだろう。
しかし現代日本の悲惨な現実から解放され、ヒロノリはこの世の幸せを謳歌していた。
彼にとって、この異世界こそが約束された楽園に思えてならなかった。
決してそんな事はないはずなのだが。
そんなヒロノリの冒険────否、独立自営業な生活はまだまだ始まったばかりである。
今は夢と希望と将来の安定を目指している最中だった。
彼らの今後は、ただただブックマークと評価点が知っている。
多ければ多いほど…………まあ、言わぬが花であろう。
連載でやってみたいと思ってたネタ。
とりあえず短編で出してみようかと。
でもまあ、既に似たようなのは他にもいっぱいあるんじゃないかとは思ってる。
二番煎じ所か、何番煎じなんだろ。
でもまあ、面白いと思ってもらえたならそれで良い。