白亜の天導師。
白亜の天導師。
私も今年で30才……
25を過ぎた頃から、友達の結婚 ラッシュ。
今では小学生の子供がいたり、お 家を建てて幸せな暮らしをスター トさせている。
それにひきかえ、私は彼氏いない 歴、更新中まっしぐら!
合コンや結婚相談所などに、足繁 く通うが効果なし……
男の人の視線は可愛い娘たちに、 持っていかれ地味な私は蚊帳の 外。
毎日、実家からバイト先まで通 勤、休みはゲーム、一人カラオ ケ、漫画喫茶で暇潰し。
現実逃避したくなるこの頃。
私にもいつか白馬の王子様が現れ て、どこか夢の世界へ連れていっ てると信じていた少女時代も遠い 記憶。
毎日五時間の単純作業労働、時給 が10円上がったと喜ぶ私はいっ たい……
将来に夢が持てない。
何がしたいのか、分からない。
希望の意味が分からない。
暗い部屋の隅で布団を頭からかぶ り、何も手につかず、虚脱感だけ が頭を過る。
どこかで読んだ本にパニック障害 という心の病いがあると知った。
突然騒がしくなったり、かと思う と死んだように静かに沈んでし まったり…
騒鬱病というものなのか。
心療内科で定期的にもらう薬でな んとか精神安定を保っているが…… この先どうなるのか。
1人子の私が、高齢の年金暮らしの 両親の世話をする日も、そう遠く ない未来。
カップラーメンにお湯を注いで ボーッと窓から外の景色を見てい る。
公園デビューていうやっかな?
私とそう、年も変わらないヤンマ マが笑顔で、同世代のお母さんた ちと笑顔で話している。
本来ならば、私もあそこにいるは ずなのに……
コンコン……コンコン……
誰かがドアをノックする音。
もう、だれ!
ラーメンが伸びちゃう!
仕方なくドアを開けてみる。
『集金ですか?、勧誘とかなら結 構ですので……』
初老の紳士が何やらパンフレット を手渡した。
『突然、お伺いいたしまして申し 訳ありません。』
『わたくし、永遠人とこしえびと の、白亜の天導師と申します。
『お近くの公園脇にあります幸せ な未来へ導く天導師館から参りま した。』
………………
『新興宗教かなんか?』
『結構です!』
『興味ありませんので!』
そう言ってドアをバタンと閉め た。
ラーメンのびちゃつたじゃない!
もう!
手早くラーメンを食べ終えると、 お昼ねタイム。
ゴロンと万年ベットに横になる。
太ることは、目に見えてわかる。
どうせ私になんか興味を持ってく れる男の人とか現れないし!
と言いながらも、やはり、体重や 体型は気になる。
洋梨型になるのは、イヤだ!
公園散歩だぁ!
翼のロゴが入った軽めのスニー カーを履いて意気揚々とドアを出 る。
この公園は一周20分だから二周 でじゅうぶん!
杖を付いた老人や子供たち、ベ ビーカーを押す若い夫婦。
犬に散歩をさせる、オジサンやオ バサンの姿。
9月の風がこんなに気持ちがいい とは今まで気が付かなかった。
緑の小道を足早に歩くと気持ちも リフレッシュされる。
『こんにちは♪』
行き交う人々と軽い挨拶を交わ す。
あれ?
こんな所に道があったかな?
とりあえず進んでみよう!
しばらく行くと、10数名の人々 が芝生の上に座り牧師らしき人の 話を聞いている。
立ち止まり、目を凝らして見る と、あの牧師は先ほどの初老の紳 士だった。
牧師はわたしに気が付いたのか手 招きをしてくれた。
きまづくなった、わたしは、まぁ 暇だし最後列に座った。
牧師の言葉に耳を傾けてみる。
『私たちの住んでいるこの世界 は、実は存在していません。』
『厳密に言うと、現れたり消えた りしています。』
『にわかに、皆さんは、信じる事ができないでしょう。』
『しかし、すべてのものは、空から出でて 空へ戻る』
『みなさん、おひとり、おひとり は、大海から汲み上げられた小さ なコップの中の水なのです。』
『コップの中にある間は、取り分 けられた水です。』
『しかし、一旦、大海へ戻す と、もうコッブの中の水は海と一 体となります。』
『みなさんの体は、この時代、一 度限りの魂の乗り物なのです。』
『再び大海から水がコップで汲み上げ られるまで取り分けらることはありません。』
『みなさんの魂は大宇宙の 中に溶け込んでしまっています。』
『この地上に再び生まれる時に、前 世の記憶は取り去られています』
『しかし、記録としてそれは永遠人の書に記 されているのです。』
『すべては、魂の成長のため悠久の時を越えて生き続けます。』
そこまで聞くと、私は腰を上 げて牧師に軽く会釈をして、その 場を去った。
なんか、むずかしい話で分かった ような~分からないような~
サァ!
後、一周!
運動!運動!
もと来た道を更に円周を描くよう に早足で歩きだす。
公園の真ん中にある池に小石を投 げる男の子。
『何してるの?』
『何かいるの?』
男の子に訊ねてみた。
『お姉ちゃん、見てて!』
そう言うと男の子は、再び小石を 池の真ん中に投げた。
普通なら小石が落ちたところから 波紋ができるはず……
しかし、いくら投げても波紋がで きない。
そればかりか、投げたはずの小石 が再び手元に戻っていた。
因果の法則、原因があるから結果 がでる。
しかし、この場合は、結果を先に 確定してしまったから原因が形を 変えた。
因果ではなく果因の法則へと時間 軸が逆流したんだよ。
科学少年の蘊蓄うんちくに感心す る。
『不思議なこともあるものね…』
わたしは、スタート地点を過ぎ て、あの牧師のところまで歩いて みようと思い立ったが、不思議な ことに二つに別れていた道が無く なっていた。
あれは何だったんだろう?
まぁ、いぃや!
帰りにコンビニでアンマンと肉ま ん買って帰ろう♪
時給も10円上がったし!
幸せになっている未来の私が、今 の私を形造る。
幸せになれないのではなく……
自分自身が幸せになれないような現状を呼び寄せているのかも……
幸せになれない原因を取り去る 時
つまり、現状をどう受け止めるかという心がけしだいで
私の未来、そして過去も一瞬にして変わるはず!
白亜の天導師の意味が少し分かっ たような気がした……