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死神さん!

作者:

「おーおー。お前、轢かれたのか?ちゃんと還らないとだめだぞー」

 春の日差し誰もが薄着の中で、1人上下黒ずくめの男が1人、フードをかぶってネコの頭をなでていた。フードから覗く顔の左半分は仮面で覆われているのに、子猫は男に気持ちよさそうに頭をなでられている。なでる手はとても優しく、男の頬がふっと和らいだ。

 それだけを見ればただの変な人がいる、というだけで終わる話だが、周りを見れば存在自体がおかしいことが分かる。

「あらぁ、また子猫が轢かれてますわ」

「自治体も大変ねぇ…」

 ひそひそと話す奥さんたちは、道路の端を歩きながら、視線を中央の白線付近に向けている。そこには、残酷にも車に轢かれてしまった子猫の遺体と、その子猫と瓜二つの猫をなでる変な男がいた。

 一台の車がその道を通る。子猫の遺体を避けるとまっすぐに男たちの方へ向かっていく。

「あぶないっ」

 小さな女の子が叫ぶのと同時に、車は男と猫をすり抜けて走っていった。

「ほらほら、もう行くぞー」

「みゃーー」

 何事もなかったかのように、男は抗議の鳴き声をあげる子猫を抱きあげた。

 そして、その猫の首根っこを掴み思いっきり上空へ投げた。そして、男の影から大きな鎌が躍り出る。

「今回は子猫かよー」

「文句を言うな。そして言い方を考えろっあ、あれはまだまだ生きるはずだった…」

「あーはいはい。それはもう聞きあきたから!勝手にやるからな」

 こぶしを握りしめ、男が熱く語っているのを鎌はため息一つで流す。そして重力により戻ってきた猫に向かって刃を向ける。

「や、やーめーてーっ」

『!?』

 みゃー…。男は真後ろから叫ばれた声に驚き、鎌は驚くと同時に猫に刃が触れてしまい、靄が消えるように猫は消えた。

『…』

 一時の沈黙。男は視線だけを鎌に向ける。鎌は、男に振り向けという合図で切っ先で男の後ろをさした。

「猫さん…」

「またあのこだわ…ほら、工藤さんとこの」

「かわいそうよね…まだ若い夫婦だったのに。事故以来、いつもああなんでしょ?虚空を見て何か叫んだりするの」

「…ついてこい」

 唇をかみしめ下を向いていた少女は、男の言葉にぱっと顔を上げた。目の前から数歩進んだところで男は振り返り、またゆっくりと歩き出す。少女は少しの好奇心といっぱいの不安の顔でぱたぱたと男の後ろを追いかけた。


「…ここらへんで大丈夫か」

 人通りが減った小道に入ると、男はくるりと振り向き女の子に視線を合わせる。

「お前、俺が見えているんだな?」

「(コクリ)」

「まじかぁー、まーじーかー」

 男は唸りながらその場にしゃがみこんだ。少女もしゃがみこむと、男はまだきれいな方に座らせ、話し始めた。

「俺はな、死神なんだよ。死んだ奴らの魂を選定者のとこに送ってんの」

「せんていしゃ?」

「あー…っと、選定者っていうのはな…」

 選定者。それは天国の扉の前にいる選らばれた天使のこと。死神が刈ってきた魂が天国に相応しい生き方をしてきたどうかを見定めるのだ。相応しいと判断されれば、転生か、天国に行くかを選ぶ権利がすぐに得られる。逆に不可と言われれば地獄への階段から転げ落とされ、地獄の門番の判断に任される。

「ふーん」

(理解できるわけないよなぁ…)

 体育座りした少女は自分のつま先に視線を落としており、男から表情は見えない。

「…かれんのね、お母さんと、お父さんはね、死んじゃったんだって」

「…だって??」

「かれんは覚えてないの。でも、みんな言ってた。お父さんが運転する車が事故にあって、花蓮だけが助かったんだって。可哀想だわってみんな言うの。…変な子って」

 死神は納得した。花蓮というこの少女は、事故にあった時も死神の姿を見てしまったのだろう。そして焦った死神が、花蓮の記憶に手を加えて事故の記憶だけが消されてしまったのだ。

 そんなことがあったから、死神の姿が見えてしまった。近所の人間に、あんなふうに言われてしまうようになったのか。

「ごめんな…」

「え?なんで死神さんが謝るの?死神さんは何もしてないよ?」

「…俺みたいな生きてないものが見えるせいで、寂しい思い、してんやろ?」

 花蓮の純粋な疑問に死神は心苦しくなりながら、出た言葉は関西弁になってしまった。

「かれん、さみしくなんかないよ!幽霊さんたちが一緒に遊んでくれるもん!」

「…一緒に遊ぶ?」

 その一言に、死神の目が険しくなった。影に戻っていた鎌が、もぞもぞと再び出てきて、暗い小道の奥に切っ先を向ける。

「…おい」

「分ってる。な…」

「わぁ、剣がしゃべってる!」

 死神の言葉を遮り、花蓮は鎌に目を輝かせていた。一瞬茫然とした死神は、やがてため息とともにがっくりと肩を落とした。

「お、おい、俺に触んなよ、お前死んじまうぞ!?」

「なんで?死んじゃうの??」

「…!!花蓮!」

 後ろから見ていた死神は、はっとして花蓮の元に駆け寄る。花蓮に向かってきらりと光るものが迫ってきていたのだ。

 キーンと金属のぶつかる高い音がして、花蓮はとっさに目を瞑ってその場にしゃがみこんだ。

「…花蓮、なんでそんなやつと一緒に居るの?」

「!た、たかし君…」

 名前を呼ばれておそるおそる顔を上げると、暗い小道の奥からいつも遊んでいる幽霊の少年が立っていた。死神は花蓮を背中に、たかしと呼ばれた少年を睨みつける。

「おいこら、これは遊びの域を超えてるだろ」

「ねぇ、花蓮?僕言ったよね?死神には近づいちゃだめだって」

「え…」

「止まれ。それ以上近づくな」

 ふらふらと歩み寄るたかしに、鎌は切っ先を向ける。しかしたかしは止まることなくこちらに向かってくる。彼の眼には花蓮しか映っていないようだ。

「ファルチェ!」

「だめー!」

「!花蓮!そこをどけ!!」

 (ファルチェ)の前に飛び出した花蓮に死神たちは怯み、たかしは驚いていた。ファルチェの言葉が荒くなる中、花蓮は両手を広げて首を激しく横に振る。

「花蓮、君は…」

「たかし君は、かれんの友達なの!こ、殺しちゃダメっ」

 花蓮に触れれば殺してしまうため、ファルチェは動けずに死神の元まで下がる。一瞬の静寂があたりを包み、それを破ったのは、たかしの笑い声だった。

「あはははっ。花蓮はこんな僕を友達と言ってくれるのかい??もう死んでいて、魂だけの存在のぼくに!何てユカイなんだヨ!なら、ボクといっしょニ落チテクレルヨネ??」

「た、かし、くん?」

 後ろを振り向いた花蓮の目に、黒い霧に包まれていくたかしが映った。少年の姿をしていた彼は左半分が闇に染まり、目が虚ろになる。ニヤリと笑ったたかしは、黒く染まった左手で花蓮の左胸を貫こうとした。しかし、その手は花蓮に届くことなく、砂のように消えて行った。寸前のところでファルチェが割り込んだのだ。

「お前は1人で行くんだ」

「!!」

 後ろから聞こえた声にたかしが振り向くと、そこには死神が立っていた。驚くたかしをぎろりと上から睨みつけ、そっと仮面をずらした。

「や、やだっキエタクナイ!」

 声にならない悲鳴を上げながら、たかしは空に消えて行った。

 再び静寂があたりを包む。

「花蓮、だい…」

「いやっ!やだ、もうやだよ!」

「おい!待て!」

 死神の差し伸べた手は化弱い力で振り払われ、ファルチェの制止の声を無視して、花蓮は大通りに向かって走って行った。

 死神は、振り払われた手を見つめ、1人その場に立ち尽くしていた。

「おい!追いかけんだろ!」

「お、おう」

 影に引かれるように、死神はよたよたと走り出した。



 ファルチェたちが大通りに出ると、泣きながら前も見ずに走る花蓮がいた。

「ほら!いたぞ!」

「うわぁ!!」

 ファルチェが影を思い切り引っ張ると死神はその場にべしゃりとこけた。すると、前を走っていた花蓮がちらりと振り向いた。

「は、はは…」

 空の笑いを浮かべると、花蓮は再び走り出してしまった。

 死神は起き上がると、今度は自分の意思で花蓮を追いかけた。

 まだ小さい花蓮はうまく人込みを走ることができないため、徐々に距離は縮まっていく。

 あと少し、手を伸ばせば届きそうな距離で、花蓮は小さな段差に躓いた。

「きゃっ」

「危ない!!」

 正面からこけると思った花蓮は、ぎゅっと目を瞑った。しかし、おそれていた痛みはなく、温かなぬくもりに包まれていた。

「いてて…怪我ないか??花蓮」

「!!」

 花蓮の目の前に居たのは、黒いフードを被り左目に眼帯を付けた17歳くらいの少年だった。衝撃がなかったのは、彼が花蓮と道の間に入り込んで身を呈して守ってくれたからだった。

「し、しにがm」

「おおおおっ!ちょい待ち!そいで呼んだらあかん!!」

『変態に見えるから、とりあえず起きろ』

 どこからか聞こえた声に少年は慌てて花蓮を抱いて起き上がると、ゆっくりと地面に下ろした。

 一息ついて、2人は近くにあったベンチに腰を下ろした。

「えーと、この姿ん時は、(かい)って呼んでくれ。そして、さっきは本当にごめんな。俺…」

「…しかたないんだよね?だって、し…かいお兄ちゃんは、死んだ人があんなふうにならないようにお仕事してるんだもん。かれんこそ、ごめんなさい」

 花蓮はしゅんとすると、下を向いてしまった。わたわたと焦る櫂に、どこからか追い打ちがかけられる。

『うーわーお前最低ーー』

「うぅぅ」

「??そういえば、かまさんは??」

 今度は櫂が落ち込み、花蓮が辺りを見回す。しかし、どこをみてもしゃべっている影は見当たらない。

『俺はこーこ』

「…あ!」

 声のする、足元を良く探してみると、真っ白い兎がぴょこんと跳ねた。花蓮は目をキラキラと輝かせ、白い兎を抱き締める。

「可愛いっ」

「よかったな、ファルチェ」

『…』 

 笑顔の花蓮と、不服そうな顔で抱かれている兎、そしてその兎を斜め上から見下ろす櫂という、なんとも変な図になった。

「おっと、もう限界のようだ」

『失礼するぜ』

「あ…」

 するりと腕から離れた兎を名残惜しそうに花蓮は見つめた。隣で立ち上がった櫂は、一瞬小道に入ると、いつもの死神スタイルで戻ってきた。

「ごめんな。あの姿でいるのにも、限度があるんだ」

「そっか…」

 死神は、再び花蓮にしか見えない存在になってしまいはたから見れば、花蓮はまた独りぼっちだ。

「そんな顔するな。俺に会いたくなったらその鈴を鳴らせばいい。どこに居ても、その鈴は俺に聞こえる」

「!!」

 足元に小さく音を立てて転がった鈴を花蓮はそっと拾うと、死神を見上げた。

「ただし、一日3度までだ。そんなに何度も呼ばれていたら、俺も仕事ができないからな」

「…はぁい」

『呼べるのが3回ってだけだ。時間は制限されてない。つまり、一回呼んでずっと一緒に居ればいいんだろ』

 そっけない声が、花蓮にぼそりとアドバイスをした。下を向きかけていた花蓮が再び死神をみると、死神はニヤリと笑ってみせた。

「とりあえず、今日はお家に還りましょうか??」

「!!うん!!」

 何もない空間に一喜一憂する花蓮を通りすがりの人たちは不審そうな眼で見ていた。

 しかし、花蓮はもう気にしない。なんてったって、花蓮にはもうりっぱなお友達がいるんですから。

 花蓮と死神は、夕暮れに染まる大通りを二人並んで家路に着くのでした。













~おまけ~

A「花蓮ちゃん、お疲れ様です。さてさて、頑張った花蓮ちゃんに残念なお知らせだ…」

花「な、なんですか…??」

A「死神…彼は、300歳は越えているんだ!つまり、“お兄ちゃん”と呼べる年齢ではないのだよ!!」

花「そ、そうだったのですか…」

A「そうなのだ!さらには、花蓮ちゃんに“お兄ちゃん”と呼ばれた瞬間に一瞬口元が…」

死神「ちょい待てこのあほ!!なに子供に変なこと教えとるんじゃ!」

A「あ、あと、焦ったり、人間の姿になると、憧れていた関西弁が出て…」

死神「もうえぇちゅーとんのやろ!!」

A「もがもが…」

花「死神さんにも、秘密がたくさんあるんだね!」

死神(あぁ、この子まじ天使だわー)

ファル「あぁ、この子まじ天使だわ―(棒)」

死神「!?ファル、いつの間に!?」


 と、茶番はこの辺で終わりにいたします。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。もっともっと勉強して、良い作品が書けるように頑張りたいと思います。

 本当に、ありがとうございました。

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