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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第9話 オペレーション・キングフィッシャーⅡ
98/358

ハーフタイムの過ごし方

 ――――月面キャンプアームストロング

      地球標準時間4月22日 1000





 月面基地に帰投して一週間。相変わらず待機命令が出たままで手持ち無沙汰な日々ではあるが、それでも日中は5日間連続してシェルの運動訓練を行っている。Bチームの高機動型だけでなく、AチームCチームの両方もシェルを使っての戦闘訓練を続けていた。

 従来型と違い機動力を向上させたシェルを使うA・C両チームは、今までとは勝手の違う動きに振り回され、衝突一歩前のニアミスを何度も発生させていた。だが、それもまた戦闘訓練には必要な事なのかもしれないと皆が思っている。

 咄嗟にどう動かすのか?を実地で学んでいくのだから、いざ乱戦になった時はきっと役に立つのだろうと思っていた。そして、どうやらBチーム以外のシェルも戦力として勘定のうちに入っているということも。


「理屈で考えるな。人類の思考速度を軽く超える乗り物だ」


 Bチームのシェルをアグレッサー(敵機役)にして訓練を続けるA・C両チームは、テッド隊長とブル大佐の2人から徹底してしごき上げられていた。本来であれば常時クロックアップを行えるBチーム向けの機材を使った訓練と成っていたはずなのだが、さすがにいきなり高機動型を当てがうと事故が続発するだろうと言うエディの一言で、リミッターを外した標準型のシェルを使っていた。高機動型とは言え、エンジンやスラスター以外の部分は基本的に共通だ。この機体を上手く使いこなせれば、高機動型も行けるだろうという手順だった。


「考えてから動いたって間に合わない。感じたままに動け」

「こうすればこうなる。あぁすればこう動く。そんな思考速度じゃ間に合わない」


 繰り返し繰り返し基礎的な三次元機動を繰り返し、そこからだんだんと服雑な動きを加えていくのだが、その中で見せたBチームメンバーの芸術的な動きにA・C両チームメンバーは全員が同じことを考えていた。やはり彼らは『選ばれた存在』なんだと。そして、特殊で特別な存在だと痛感する。


「集中力を切らすな。考える前に身体を動かせ」

「本を読みながらでも歩けるだろう?それと同じさ」

「意識しないで出来るようになれば良い」


 テッドとブルのスパルタ教育だが、その恩恵はBチームにも十分に降り注いでいた。高機動型を手に余しているA・C両チームのシェルに接近するのはかなりの集中力を要するのだ。そして、スラスターの扱いに不慣れな分だけシェルの動きがトリッキーなモノになる。


「バーディーはいつもこれを飛ばしてるんでしょう?」

「そうよ、最初からこれだった」

「やっぱりバーディーは凄い」


 多分に羨望の色が混ざるホーリーの言葉。そこには自分が出来ない事へのいらだちも混じっていた。だが、結局は自分で乗り越えるしか無いのだから、バードだって鬼になる。ホーリーを鍛えて戦力にして、そして、少しでも自分が楽を出来るようになりたい。だが、それを思うことはできてもエディの思惑までは気が付かなかった。


「最初は簡単な動きだったけどさ、だんだんコツを掴んだら、最後は自分が飛んでるつもりになるのよ」

「自分が?」

「そう。自分自身がシェルだと思って振る舞うの。多分出来るよ。それ位の変換はシェルがやってくれるはず」

「そうかな?」

ティンカーベル(妖精)にでもなったつもりで」

「……なるほど」


 バードの言葉を聞いたホーリーのシェルは突然大人しくなり始めた。そして宇宙空間を滑るように流れ始める。それまでの直線的な動きがなりを潜め、流れる水のように滑らかな動きになり始めていた。


「あ、なんか掴んだかも!」

「その調子よ!」


 5日目の午後ともなると格段に動きが変わってくるもので、ホーリーだけでなくAチームのメンバーは、バードを含めたBチームのメンバーと集団空中戦を行うレベルになり始めていた。もっとも、その状態でもBチームの圧勝なのは変わらない。しかし、少しずつノウハウを積んでいるその姿は、頼もしいという表現が最も正しかった。


「さて、そろそろ集中力の限界だろう」


 唐突にブルの声が無線へと流れた。A・C両チームのメンバーは訓練の終わりを期待した。だが、その言葉を違う解釈で捉えるのがBチームだ。自分たちが散々経験したことなのだから、当然のようにそれを覚悟していたのだった。


「疲労により人間の集中力は低下し判断力は鈍ってしまう。だが、軍隊という所は戦闘続行の指令が出た以上、続行するのだ」

「どうするんですか?」


 不安そうな声で聞いたホーリー。その言葉を聞いたバードがニヤリと笑った。


「対処法としては幾つかあるが、最もシンプルで簡単な決断が望ましいだろう」

「そうだな、テッドの言うとおりだ」


 戦闘空域で編隊を組んでいたシェルだが、テッド機は突然真横に進路を変えAチームのシェルへ襲い掛かった。かつて中国上空で見たエディ機の身のこなしと全く同じ動きをしたテッド機。それと同じ動きを試みたバードは、機体の可動限界警報が頭に中に鳴り響くのを聞きつつ、ちょっと甘い機動で同じ動きを再現していた。


 ――出来た!


 胸の内で呟きつつもテッド機の立体機動範囲から脱したバードはAチームが一方的に鏖殺されていくシーンを見ていた。そして、そんなシーンの向こう側に、なんとなくエディの思惑を感じ取った。


「これが終わったら基地へ帰ろう。なに、手間は取らせないよ。すぐに終わらせる」


 テッド隊長の言葉が終わり切らないうちだったのだが、あっという間にAチームは全機が撃墜判定を取られていた。同じようにCチームもブルによって撃墜判定を取られていた。全く付け入る隙を与えられないまま一方的に撃墜された各機は、想像を超えるシェルの能力に舌を巻いていた。


「必要なことは練習だ」

「場数を重ねて考える前に動けるようになればいい」

「練習だけは裏切らないからな」


 そんな言葉を聞きながらもヨタヨタと飛び続けていたA・C両チームのシェル。そんな中を涼しい顔してBチームのシェルが飛んでいた。


「疲れ切って意識がボンヤリしている時ほど練習には良いタイミングなんだよ」


 恐ろしくサディスティックな言葉を吐いたロック。アチコチから『ウヘェ』とうめき声が漏れる中、徐々に月面基地へと接近していくシェルのパイロット達は、遠く金星方向にキラッと光る流星を見た。


「金星側で流星だな」

「大気圏外に残ってたデブリが落っこちたのかもな」


 ジョンソンの言葉にライアンが軽口を挟んだ。


「シリウスがちょっかい出してなきゃ良いね」


 ボソッと軽口を挟んだバード。本人は完全に冗談のつもりで言った一言だが、無線の中が一瞬完全に静かになって、そしてビルの言葉が漏れた。


「バーディーは冗談のつもりだろうけどな……」

「なんか猛烈に嫌な予感がしてきた」


 ビルの言葉にペイトンが反応する。


「……言わなきゃ良かった」


 無線の中に沈んだバードの声が流れ、再び無線が静まりかえる。

 だが、そんな空気を掻き消すようにして、ロックが口を開いたのだった。


「シリウスがリターンマッチ挑むんなら大歓迎してやろうぜ。俺も今度こそケリを付けてやるチャンスが巡ってくるしな。2回続けて左腕を切り落とされてるから、次は向こうの腕を切り落としてやるさ」


 ヘラヘラと軽く笑ったロック。そうやって一人盛り上がっている最中、無線に中にエディの声が漏れた。


「シェル各機は帰投後に必ずデブリーフィングを行うんだ。余り時間が無いから技量の向上に努めてくれ。それと、ロックは私の部屋に出頭しろ。すぐにだ」


 ロックが呼び出された。その事態の意味を理解したのはロックとバードだけだろう。機体を捻って月面ルートへ進入しつつ、バードはヘルメットを取ってロック機を呼び出し素顔を見せた。コケティッシュに笑いながらカメラに向かって指をさして。


『エディのお呼び出しよ?』

『……ちょっとしごかれてくる』

『しごく?』

『エディと親父が剣でやり合ったんだが、親父は全くエディに歯が立たなかった』

『……ほんとに?』

『あぁ……』


 ロックもヘルメットを取ってバードに素顔を見せている。嬉しそうに笑うその顔は、どこか凶相をも帯びている鬼気迫る表情だった。そして、リターンマッチに燃える男の顔だ。


『今度こそこの手で斬ってやる』

『……無茶しないでね』

『必要な時以外は無茶しないさ。バーディもいるしな』


 ちょっと甘い言葉を吐いて笑ったロック。バードはカメラに向かって投げキッスしたあと、ウィンクしてカメラのスイッチを切った。遠くにシェル用ゲートが見えてきて誘導のミラーボールを視認した時、急に恥ずかしくなってきてウズウズと身悶えるのだった。



 ……それから1週間後





 ――――月面キャンプアームストロング

      地球標準時間4月29日 1200






 休みを入れずに訓練し続けたA・C両チームだが、この日になってから高機動型シェルに乗り換えた。段々と技量を向上させた成果を発揮し、通常の動きであれば問題なく扱える事が確認されていた。かつては常時クロックアップを可能とするBチーム専用装備だった筈の高機動型シェルだが、第1作戦グループ全体がこれを使いこなせるようになっているのは大きな前進だった。

 ただ、戦闘機動を行うにはまだ多少時間が掛かるようで、お昼時になって急遽エディから緊急招集を掛けられた第1作戦グループの35人は緊張した面持ちでウォードルームへと集合していた。

 食事の用意が整っているテーブルの上だが、給仕役となる下士官が一切入っていない室内。35人のサイボーグは張り詰めたような空気で大型モニターを見つめている。モニターの向こうには国連の臨時総会が開かれていて、国連軍の三軍統合元帥サー・ジム・ロイエンタール卿による演説が続いていた。

 すでに演説は30分を超えていて、聞いている側もそろそろ飽き始めた空気だったのだが、演説の核心がここから始まりそうだという空気もまた残っていて、聞き耳を立てている各国の代表は辛抱強く次の言葉を待っているのだった。


 ――三軍の将兵らによる献身的な努力により、金星における戦闘は当初の目的を達成したと考えて良いと私は考えております。つまり、メインベルトの内側からシリウス政府による大規模な軍事活動を行う拠点を一掃したという事です。これは地球人類共通の利益であり、また悲願でもありました。2250年以降から続いていた地球連合政府とシリウス連合政府との宇宙戦争は、我々の手による反攻、そして反撃の局面へと移りました。長年掛けて着々と進められてきた戦力整備と組織の洗練は、総合的な大反攻を可能にするものと確信し、その機運は高まっております。いまだ決戦への道のりは遠いでしょうが、着々と太陽系からシリウスシンパの影響力を排除し、絶対安全圏を構築せねばなりません。メインベルトの内側はある程度の安全が確保されたと見て良いでしょう。しかし、これは到達点ではなく、単なる通過点であると我々は認識せねばなりません。つまり、本当の勝負はここから始まるのだと……


 まだまだ続きそうな演説を聴きながら僅かに首をかしげているバード。そして、多くの者も首をかしげていた。


「ところどころに知らない単語が出てくるんで困る」


 ボソリと日本語で呟いたバード。日常会話の中では全くと言って良いほど問題にならないのだが、公式な場における『硬い英語』の場面となると途端に混乱をきたす事がある。

 母国語でもある日本語とて公式な場における硬い表現となると日本人ですらも混乱するのだから、異言語として使いこなそうとする場合は、そう言う部分での知識の幅をも要求されるのだった。

 だが……


「ロック?」

「……ん? 終わった?」


 助け舟を出してもらおうとしたロックは腕を組んで眠りこけていた。全く話を聞いていないどころか、各関節部を動かないように固定し、そのまま椅子の上で寝ていたのだった。


「お偉方の勢力争いは俺にゃ関係ねーさ。どこそこ行ってドンパチして来いって言われたら『はいそうですか』って行って行きゃ良いだけだぜ」

「そーだけどさぁ……」

「要するにアレだろ? 国連議会に潜んでるシリウス派を炙り出そうとしてるんだろ?」


 ロックの言葉に僅かながら肩をすくめ、困ったような表情を浮かべたバード。そんな姿にロックはグッと来ているのだった。だが。


「それちょっと無責任過ぎない?」

「そうか?」

「また不可抗力で地獄巡りだよ?」


 隠しようのない不快感を示したバードだが、ロックはあっけらかんとしていた。根本的な性格の違いというものは如何ともし難い部分だ。基本的にロックは楽観主義者で、バードは悲観主義者的な部分が大きい。困りごとにならないように早めに手当てする悲観主義者と、困った時に困ればいいという思考回路の楽観主義者の話が噛み合うわけが無い。

 それ故、楽観主義者のある意味で『いい加減さ』という部分にバードは不安を感じるのだが、鷹揚として泰然自若な振る舞いのロックが居ることで安らぎを覚えるのも事実だ。


「随分眠そうだけどどうしたの?」

「ん? あ、いや、毎晩のようにエディにしごかれててさ」

「エディ?」

「そう。親父が全く敵わなかったって言ったと思うけど」


 ロックは何が楽しいのかクククと笑いを堪える仕草だ。


「全ての面で考え方を変える必要があった。正直参ったよ」

「参ったって?」

「戦い方という部分で発想の転換を迫られたよ」

「……良くわからない」


 ロックは少しだけ身を乗り出して小声で説明を始めた。


「剣術には(かた)がある。それは流派によって区々(まちまち)だが、簡単に言えばそれぞれの流派が考える一番効率の良い動きって事だ。そして、俺や親父が使う剣術もそうで、その型を学んで使いこなす事が剣術の肝ってわけさ。生身の身体が特定の動きを覚えるまで。神経系統にプリセットするわけよ。で、相手の動きに合わせて考える前に自動対応するのさ」


 わかるか?と言う様な表情のロックに、バードは僅かな首肯で応えた。


「それに対しエディは全く違うアプローチなんだ。曰く、水の流れは理に逆らわない。あっちを先にこっちを後になどとも考えない。器が四角なら水も四角に。それが円なら水も円くなる。戦いも同じ。水は少しでも低ければそこへ流れ込む事を躊躇わない。見るとは無しに全体を見て、少しでも隙があれば躊躇無くそこを叩く。要するにシェルと一緒なんだよ。考えて動いたんじゃ遅いんだ。無意識に身体が動くレベルまで鍛えておくってこった。

「……無意識って言ってもやってる事は同じじゃ無いの?」

「まぁ、おおむね同じなんだけど中身が大きく違うんだ」


 ニコッと笑ってサムアップしたロック。


「もうちょっと精進するさ。次は勝つ」


 迷う事無くそう言い切ったロック。そんな姿を心配そうに見ているバードの頬に手を寄せ、自信溢れる顔で笑っていた。


「無茶しないでね」

「あぁ。だけどそれはバーディも一緒だぜ?」

「え?」

「無茶するなよ」

「……うん」


 少し恥ずかしそうに頷いたバード。そんなバードとロックのふたりへチラリと目をやってから、エディは皆の前に立って静かに両手を広げた。


「さて、ネタの前振りはそろそろ良いだろう」


 モニタの電源を落とし、室内をぐるりと見回したエディ

 どこか楽しそうにしながら、アリョーシャに指示を出して各自に資料を行き渡らせた。真っ赤な文字で機密事項のスタンプが押されている資料は、これをまとめるだけで随分と時間が掛かっただろうという代物だった。。


「ここから先は仕事の話だ。もう判っていると思うが、今回はちょっと気不味いミッションだ。身内を疑うのは不本意だし、出来れば穏便に済ませたい。だが、裏切り者は確実に存在していて、今も我々を含む国連軍の弱体化を虎視眈々と狙っている」


 エディは資料の束を指差して、皆に中身を読めと促した。ページをめくり始めたバードはその資料の中身に驚く。このピンボール計画前半戦において宇宙軍全体が被った被害の全体像が表示されているのだった。そしてそれは、おいそれとリカバリー出来ない莫大な被害と言えた。


「軽く見積もっても一千億アメリカドル相当の被害だ。ついでに言えば、人的被害はすぐにはリカバリー出来ない。つまり、ここからまた時間を掛けて装備を調え人を育成しなければならない。逆に言えばシリウスにはチャンスと言う事だな」


 失った艦艇はコロラド級戦列艦1隻を筆頭に恒星間高速飛行デバイスを搭載した高速巡洋艦が5隻。近軌道向け小型艦艇は20隻を越えていて、大気圏内突入を可能とするバージなどの装備は金星戦闘の最中に夥しい数が失われていた。

 更に言えば、それらの艦艇を操船するクルーの損失は余りに大きく、また、直接戦力となるODSTの補充や海兵隊の隊員と言った人的資源の損失が余りに大きく響いている。


「シリウス側は息の掛かった企業や組織を通じたり、或いは、国連政府と各委員会と言った組織を通じて、様々な政治工作を仕掛けてくる事が予想されている。我々はその全てに先回りして接触の尻尾をつかみ、政治的に失脚させ根絶やしを図る」


 エディの言葉を聞いたバードはふと思い出した。あのCIAの女性エージェントは国連軍の中身を探っていた。NSAではなくCIAが中心となって動いている裏切り者狩りの現場は、恐らく相当緊迫しているはずだ。

 エディはアリョーシャへと目配せして『説明を始めろ』と促した。その合図を受け皆の前に立ったアリョーシャは資料の束を持ち、数ページ捲ってから静かに切り出した。


「情報部が今日のいま現在掴んでいる情報だが、シリウス側の工作員はまず通信衛星をジャックしているようだ。先にBチームが空振り出撃をやったルナⅡを含め各衛星に工作員を送り込み、各国の代表団が通信している部分を盗み聞きしている。相当複雑な暗号化を施してあるはずだが、それでも上手の手から水は漏れる」


 アリョーシャはウォードルームに揃った面々の不満そうな顔に気が付いた。


「なぁアリョーシャ。もしかして俺たち、CIAの使いっぱしりやるのか?」


 一番最初に声を出したのは案の定ライアンだった。そもそもがハッカー上がりなのだから、その舞台裏は手に取るようにわかるのだろう。勿論相槌を打つ者が現れる。もう一人の凄腕ハッカーであるペイトンは怪訝そうに漏らす。


「CIAの指示か依頼かはどうでも良いけど、つまり簡単に言えば俺たちはドンパチしに行くんじゃ無くてとっ捕まえに行くんだろ?」


 その言いたい事を理解した面々は、より一層不満そうな表情を浮かべて不機嫌になって居た。刺すような視線を浴びるアリョーシャは狼狽える事無く、次のページを捲れと言うジェスチャーを見せる。


「その通り。捕まえに行くと言う事だ。これは、我々のアルバイトで、もっと判りやすく言えばポイント稼ぎ。国連の中にいる軍縮派に対するプレゼンの意味もある。つまり、我々は自分の居場所を自分たちで掴み取ろうと言う事だ」


 アリョーシャの言葉でやっと合点が行ったらしい面々は、それぞれに左右の顔を見て微妙な表情を浮かべている。そんな中、エディは薄笑いで切り出した。


「今はピンボール計画のハーフタイムと言うわけさ。スポーツのハーフタイムと言えば双方の陣営が相手の腹を探りながら選手交代したり、或いはポジションの確認を行う。そして、手札を見ながら相手の出方を伺う訳だ。つまり、ここが一番の工作の為所と言う訳だが、その動きを逆手にとって一網打尽にしてしまおう。その為には君らの能力が必要だと言うわけさ。そして、もう一つ言えばCIAに花を持たせて貸しを一つ作っておく。後で役に立つぞ。きっとな」


 皆が僅かに首肯する中、エディの薄笑いは凶悪な笑いへと変貌した。それを見る誰もが本能的に恐怖を感じるような笑み。それは倣岸な支配者その物の笑みだ。


「これ以降も今まで通り訓練に励んでもらう。だから、いきなり出撃になるだろうから。それはふくんでおいてくれ。いつもの様に普通に振舞ってくれれば良い。向こうに気取られないようにな。だが、ここは重要な駆け引きの最中だと言うのも忘れないでくれ。いいな」


 エディは再び両手を広げ話をしめた。


「以上だ。解散」


 そのまま部屋を出て行くエディの後姿を見送ったロックとバード。前回の空振り出撃から半年を経過し、仕切り直しのチャンスが巡ってきたのだった。

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