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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第8話 オペレーション・シューティングスター
96/358

サイボーグの墓場

 ――――金星 イシュタル高原中央部

      ジェフリークレータ付近

      金星標準時間 4月9日 0200



 イシュタル高原の中央部。海兵隊の手により金星の地上へ墜落したジェフリーは金星の地表を大きく削り取っていた。ジェフリーの墜落は直径14キロ、最大深度500メートルに達する巨大なクレーターを生成し、金星標準時間4月9日午前0時を持ってジェフリークレーターと呼称すると発表されていた。 


 そのジェフリークレーターの脇。ジェフリー及びイシュタル基地攻防戦に参加していた501大体のサイボーグ達は生身の兵士が一人も居ない環境に結集した。ピンボール計画が発動する段階では第1作戦グループだけで140名近いサイボーグが在籍していたのだが、現状でチームに欠員が出ていないのはBチームだけだ。

 生き残った者達は黙々と瓦礫を運んできて、ピラミッドの様に積み上げていく。誰も一言も発しない中、その作業をエディはひとり、静かに見守っていた。


「結局…… けりを付けられなかった……」


 誰にも聞こえないような声で呟いたロック。その手にはロクサーヌのヘッドユニットにあった通信アンテナが握られている。ジェフリーのから唯一持ち出せたロクサーヌの残骸。あの恐ろしく鋭い踏み込みを見せていた姿を思い出し、柔らかな人工皮膚で作られた唇をかんだ。


「ちきしょう……」


 自らの手で積み上げた瓦礫の中に、そのアンテナ部をそっと埋め込んだロック。まるで死者を埋葬するような心境だった。ロクサーヌに残っていた『人間』の部分など何もない。だが、いま瓦礫に埋めたパーツは『人の一部』なのだ。


「ちくしょう……」


 もう一度そう呟いて空を見上げたロック。もはや金星の空にジェフリーは漂ってはいない。それだけでなく、常に金星の空を包んでいた遮光幕に大きく穴が空いていて、そこから眩い光がさんさんと降り注いでいる状況だった。

 おそらくはこのままゆっくりと金星の地上に光が溢れるのだろう。そして再びCO2が充満し、高温高圧の世界へと戻るのだろう。そうなった時、ここにはもう誰もやってくる事が出来なくなる。

 機械の墓場というべき瓦礫のピラミッド。その中へロックと同じようにして、皆が淡々と『中間達だった部品』を埋めていた。放棄が決定した金星に残されるサイボーグの墓場へ……


「バーディー」

「……ホーリー」

「最後にお別れを」

「そうね……」


 ホーリーが何処かから持ってきたのは、アントニーの右腕。Lー47のグリップ部を握り締めた右手は開く事が出来なかった。ジョンソンのシェルで到達したCチーム展開エリアは、シリウス軍の装甲戦闘車両と激しい戦闘になったらしい。

 シェルでの戦闘を行ったアントニーはシェルを破壊され、Lー47を持って戦闘支援に当たったようだった。だが、どれ程高性能なサイボーグといえど、戦車とやりあう事など出来やしないのだ。至近距離からシリウス戦車の砲撃を受けたらしいアントニーの身体は、直撃弾を受け見事に爆散したらしかった。


「アントニーは最後の一発を撃ったんだから……」

「思い残す事は無い筈よね」

「そうだね」


 その指はトリガーを引き絞っていた。スナイパーの義務を果たしたアントニーの身体は、榴弾の爆発で完全に破壊され、原形らしい原形を留めているのはこれだけだった。Lー47のバットストックに守られた部分だけが榴弾の威力を受けなかったらしい……

  スナイパーに課せられた義務と責務。そして、運命。ホーリーがそうであるように。チームメイトのジャクソンがそうであるように。バードは理屈抜きで理解しているつもりだった。


「私も…… こうなっているはずだったのに……」


 アントニーの右腕を瓦礫に埋めながら、ホーリー震え続けていた。僅かな運命の差でしかない生死の境を実感し、彼女は自らの生を偶然の物と捉えるしか出来なかった。


「スナイパーの宿命だ…… 仕方ねぇ」


 震え続けていた彼女にジャクソンが声を掛けた。驚いて振り返ったホーリーが見たものは、Dチームスナイパーだったライトの右目カバー。三次元スキャナーになっていたライトの右目部分をカバーしていた、半透明なアクリルのカバーだ。


「ライトはこれしか残っていなかった。至近距離であんなのに焼かれりゃ、まぁ、こうなるわな……」

「あんなのって?」

「あの荷電粒子砲戦車の直撃を受けた降下艇にはDチームが乗ってたんだ」


 ジェフリーを脱出したDチームは二つの降下艇に分乗していたのだが、バイパー隊長を始めとするDチーム38人のうち、五体満足で生き残ったのは僅か7名。そもそも重傷者の成れの果てとも言えるDチームの場合、機体大破と現認されてしまうとそのまま廃棄処分される運命だ。そして、身体の大半が機能不全に陥ったバイパー隊長は、仲間を逃がす為に自分自身の身体を降下艇の制御コンピューターに直結し、中間達が脱出する時間を稼ぐ為に降下艇を制御し続けていた。


「Dチームってなんでこんなに過酷なんだろう」


 そっと呟いたバードはジャクソンの手にあったカバーを見つめた。人であることすら諦めてなお戦う事を求めた人々。そんな言葉が付いてまわるDチームは、海兵隊の置かれたポジションと、そしてその責任の過酷さを雄弁に物語っている。

 戦地で死ぬ間際に助け出され、そして完全な機械となってなお戦わなければならない運命。だがそれは、自らの意思として志願しなければならないモノだった。つまり、ライトもまた人である事を自分自身で捨てていたのだった。


「全ての者がやがて報われ、全ての者がいつか救われる」


 ライトのパーツを瓦礫の山へ投げ込んだジャクソンは、空を見上げて呟いた。金星の黄色がかった空の彼方に、青く輝く地球が見える。


「エディが口癖みたいに良く言ってるな、それ」

「あぁ。なんでも…… 育ての親の口癖だったそうだ」

「育ての親?」

「あぁ。俺も詳しくは知らないが、エディはガキの時分に親が死んで、親代わりの手で育てられたそうだ。日本人だったらしいが、そんな頃に聞いたんだろうな」

「だからあんな日本語が上手いんだな」

「……たぶんな」


 ロックとジャクソンが取りとめの無い会話をしているとき、バードとホーリーはアントニーの腕を金星に埋め終わったところだった。


「アントニーは筋ジストロフィーで10歳の時には車椅子だったそうよ」


 立ち尽くして瓦礫のマウンドを見下ろすバードは静かに切り出した。ロックもジャクソンもその姿を見ていた。悲しそうな表情を浮かべたその姿に皆が掛ける言葉を見つけられないでいた。

 同じように病気で身体を失ったバードにしてみれば、アントニーの辛さは嫌というほどわかる事だ。身体が思うようにならない辛さは経験者で無ければ分からないことなのだから。


「15歳になった頃には身体が動かなくなって、18歳でもう身体が石の様に硬直していたんだって。だから、シミュレーターの中ではいつも笑顔だった。犬みたいに走り回って飛び跳ねて、身体が動くってこんなに楽しいのかって……」


 バードの右手が口元を押さえた。サイボーグは涙を流さない。だけどそれは悲しみという感情が無い事ではない。むしろ、泣けないからこそ悲しみと上手く付き合わなければならない。涙というモノは、悲しみを体外へ放出する為の媒体だ。それが出来ないからこそ、感情を上手く制御しなければいけないのだ。


「まだ配置について半年も経ってないのに……」

「仕方が無いのよ。これも運。そして運命」


 バードの肩を抱いてホーリーも悲しみに暮れていた。避けては通れぬ宿命ともいえるものだ。気が付けば巨大な塚になりつつある瓦礫のマウンドは、大量のサイボーグの一部を組み込んで、まだまだ成長を続けているのだった。


「ここなら…… 墓荒らしは来ないよね」

「……そうだね」

「人も来ないわよね……」


 バードの手がホーリーを抱きしめた。


「仲間達の大きなお墓。金星が…… これ自体が」

「そうだね…… 生ける者のたどり着けない墓場だから」

「私たちも歩く死人みたいなものよね」

「そうね」


 悲しみに暮れるバードとホーリーのふたりをロックは見ていた。何か言葉を掛けようとして、その直前にジャクソンがロックの方へ手を置いた。驚いて振り返ったロックを見つめたジャクソンは、力なく首を左右へと振った。沈黙もいたわりの形の一つだと、ロックは学んだ。


「こっちもお別れは済んだか?」


 いつもと違う声色でやって来たドリー。隣にはデルガディージョ隊長の右腕だったブラックアフリカンなアォウキとブラウンアフリカンのドゥドアラウジョが一緒だった。


「君がバード?」

「……そうです」


 チラリとホーリーを見てからドゥドァラウジョはニコリと笑った。同じようにアォウキも笑った。アフリカンなネグロイド特有の人懐こい笑顔だった。


「いつもホーリーから話を聞いていたよ」


 バードの目がホーリーを捉えた。ただ、いつものような軽口は出てこない。押し黙って感情の持って行き場を思案するのはバードだけじゃなく、ホーリーもそれ以外も皆同じだった。


「アントニーは…… 彼は黒人を差別しない人間だった。いつも笑顔で陽気で、そして歌っていた。惜しい男だ」


 ドゥトァラウジョの悲痛な言葉が流れ、皆が沈黙した。三々五々と集まり始める生き残ったサイボーグたち。結集地点に指定された場所だ。腕を組んでジッと見つめていたエディの周りにサイボーグたちが結集しつつあった。


「生き残ったのは…… これだけか」


 小さく溜息を吐いたエディは集まったサイボーグたちをグルリと見回した。

 ジェフリーの墜落に巻き込まれ、Aチームはデルガディージョ隊長を含め半数以上が戦死した。生き残ったのはアォウキとドゥドァラウジョとホーリーと、そしてその他に10人足らずの僅か12名。

 Cチームは大半が行方不明かまたは戦死確実の状況で、幸か不幸か生き残った者は40名居たうちの僅か5名だった。乱戦を行きぬいた生き残りの5名だが、ウッディ隊長を含め、皆が精も根も尽き果てていて、集合地点に座ったまま動けなくなっている。やはり、どれ程サイボーグが高性能でも戦闘車両と直接やりあうには荷が勝ちすぎていたのだろう。だが、彼らは果敢に戦い義務を果たした。その結果がこれなのだから、胸を張って帰らねばならない。

 そしてDチームは満足に動ける者が僅か7名。


「130名以上居たサイボーグが残り36名か……」


 目を閉じ俯いたエディは深く深く溜息を吐いた。積み上げられた瓦礫のピラミッドを見ていたその後姿には、指揮官の苦悩と葛藤がにじみ出ているようだった。


「任務…… ご苦労…… ゆっくり休むと良い」


 指揮官は戦死した部下に許しを請うてはならない。戦死者の家族を思う事もよろしくない。必要な結果を得る為に、時にはどれ程の非情をも肯定する。それが軍隊の真実であり、そして、それを支える事も士官の義務だ。


「美しく輝く金星を見る都度に君らを思い出すだろう」


 エディの背筋がスッと伸びた。その僅かな所作に気が付いたのか、ブルが一際大きな声で全員に向かって叫んだ。


「アテンション!」


 踵を揃えたエディは静かに敬礼を送った。その姿の向こうにはサイボーグたちの墓場があった。皆はその後姿を美しいと思った。


「ピンボール計画は前半戦が終わったところだ。ここからハーフタイムになる。だが諸君らの責任が軽くなるわけではない。501大隊は再び陣容を整え後半戦に挑む事になる。だが……」


 その言葉を切ったエディの目がテッドを捉えていた。Bチームのテッド隊長はDチーム、バイパー隊長の戦闘メモリーを持って肩を震わせている副長のグレイフォックスの隣に立っていた。強化プラスチックと軽金属で作られたハードボディの肩に手を乗せ、悲しみを分け合っていた。


「グレイ……」


 頭部の下半分が露出しているグレイフォックスは悲しそうな声で呟く。


「俺たちは…… 最初から死んでるのさ」


 グレーの濃淡に塗り分けられた身体には銃弾の直撃を受けた弾痕がいくつも付いていて、左の腕は肘のやや上辺りで破断されていた。そんな姿ではあるが、グレイは毅然とした態度で立ち尽くしていた。


「中身は全部吸い出した。隊長の戦闘記録と技術は俺の中で生き続ける」


 右手一本で戦闘メモリーを瓦礫の山へと埋め、グレイフォックスは胸の前で十字を切った。残っている左肩に赤い十字を入れたグレイの祖先は、赤十字軍遠征を行った騎士団だったそうだ。


「父と子と精霊の御名において…… エイメン……」


 片膝をついて祈るその姿をバードは美しいと思った。そしてそれはバードだけじゃなく、その場に居た者たち全てが同じ事を思っていた。最後は神の御手に委ねられる。生と死を分かつレッドライン(境界線)は、まだ生きている側の者には見えない。


「ロクサーヌは…… レッドラインの向こう側へ行っちまったんだな」


 ガックリとうな垂れるロック。その背をジャクソンがポンと叩いた。


「踊っちまったのさ…… 俺たちを殺し損ねた死神って奴とよ……」

「……そうだな」


 そんな二人の会話を聞いていたグレイ。バイザーの隠された顔の上半分は見えないが、その視線に気が付いたロックとジャクソンはグレイを見た。


「ロクサーヌの祖先には侍が居るそうだ」


 グレイは突然不思議な事を言い始めた。

 驚いた眼差しで皆がグレイを見るなか、グレイはそのまま言葉を続けた。


「遠い昔、日本からスペインを経由してローマを目指した者たちが居た。ロクサーヌはその子孫でハポンと言う姓を持っていた。ロクサーヌは侍の子孫だったんだ。だからあいつは……」


 グレイはじっとロックを見た。バイザーの中に様々な情報表示が浮かび上がっているのがロックにも見えた。全くもって作り物にしか見えないグレイの姿だが、その雰囲気に力強さを感じたロックは、グレイから視線を切る事が出来なかった。


「ロクサーヌはお前に勝ちたかったんだ。だから負けるな。負けないでくれ。ロクサーヌが生きた証として」


 言葉に詰まったロックは黙って頷いた。事ある毎にロックへ突っかかっていたロクサーヌは、きっと言葉に出来ないコンプレックスを持っていたのだろう。


 ――私の仕事は世の中の底辺に居て、人々の暗い欲望を満たすのが仕事だった


 そんなロクサーヌの言葉を思い出す。


「彼女も苦しんでいたんだな」


 チラリと目をやったバードは、堆く積み上げられた瓦礫の山を見上げていた。同じような境遇で苦しんでいた仲間がたくさん埋まっている所を……だ。


「バーディ」

「ロック……」


 なんとなく気まずい空気にロックは身悶えた。

 だが、そんなロックがチラリと見たバードもまた気まずそうにしていた。


「……その」

「まぁ……」

「……あの」

「なんだ……」

「……えっと」

「とりあえず……」


 会話にならない会話でドギマギと舞い上がっているバード。ロックもロックでバードを正視するのが非常に気まずかった。だが、意を決し何かを言おうとしてロックを見上げたバード。そんなタイミングでズバリと視線がぶつかってしまい、ロックは理由も無く一瞬身構えた。そして、バードの目をジッと見つめた。


「無茶しやがって……」

「……ごめん」


 ロックはいきなりバードを抱きしめた。他のチームの生き残りも見ている前で。ホーリーもジャクソンもそのシーンを暖かな眼差しで見ていた。


「心配したんだぜ」

「……ありがとう」


 抱きしめられていたバードの手がロックの背中にまわされた。その指先にロックの背負っていた長刀のマウントがあった。


「また沢山斬ったね」

「あぁ、俺は血塗られた人斬りだからな」


 ロックの腕の中に居たバードは、ロックの肩へ顔を乗せた。そんなバードの身体が僅かに震えていて、それを止めたくてより一層力強くロックはバードを抱きしめた。


「ねぇロック」

「ん?」

「私が血に酔って我を忘れて、ただの殺人マシーンに陥った時……」


 バードはロックの顔を見上げた。

 そこには哀しいまでに誠実な瞳をしたロックが居た。


「あなたが私を斬ってくれる? 私を止めてくれる?」

「バーディ……」

「自分が怖いの。どうしても。どうしても。自分が怖いの」


 頭一つ分背の高いロックはバードの頭を抱きしめた。


「あぁ、俺が斬るさ。バーディを真っ二つに斬って俺も死ぬ」

「……よかった。ちょっと安心した」

「任せとけ」

「うん」


 やっと少しだけ笑みの戻ったバード。

 そんな所に一番うるさい男がたどり着いた。

 早速、面倒なテンションでだが。


「ったくよぉ! やっと終わったってのに見せ付けてんじゃねーよ!」


 いきなり不機嫌なライアンは両手に様々なものを持っていた。

 誰かの腕やらドッグタグやら、様々な物を持ちながら。


「おい! ライアン! いきなり妬くなよ!」

「そうよ! 妬いてる暇があるなら早く誰か口説けば良いのに!」


 いきなり茶化したジャクソンだったが、その言葉に続いてホーリーが声を掛けた。そしてライアンが見ている前でホーリーはいきなりジャクソンの手をとった。


「え?」

「え?じゃないでしょ!」


 ポカンとしたジャクソンだがホーリーは偉い剣幕だった。


「なくなったはずの心臓がキュンキュンしたんだから責任とってね!」

「まっ マジか?」

「冗談でこんな事言わないわよ! だいたいさ……」


 上目遣いで見上げるホーリーの表情があまりにもコケティッシュだったので、バードとロックに妬いていたライアンまでもが言葉を失った。


「あんなドピンチの時にさっそうと現れたら、誰だってドキッとするじゃ無い!」

「……って言うか」

「白馬の王子様じゃ無くて白人の王子様だったのが悔しいけど……」


 一瞬口籠もったホーリーだが、一回り背の高いジャクソンを見上げたホーリーは恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。


「ドキッとするのに人種なんか関係ないでしょ! どうせ機械なんだから!」


 強い口調でホーリーは言い切った。全く逡巡すること無く……だ。

 ジャクソンは困った表情を浮かべ頭をかいたのだが、そんな所へジョンソンとスミスが現れ、それに続いてリーナーとビルも一緒に現れたのだった。


「おいおいジャック。腰が引けてんぜ?」

「そうだぜ。アラブの諺じゃ、花と女は酒のように愛でよって言うんだぜ」


 明らかに出任せだと皆が気が付いて一斉に大笑いした。

 ここ一発でスミスが使った必殺のアラビアジョークだった。


「酒飲みのムスリムって話しに無理がありすぎだろ」


 ビルは指を指して大笑いしている。続々と集まってくるBチームの面々。


「さすがBチームだな」


 へたり込んでいたはずのウッディ隊長が笑っている。


「いままで色々経験したが、テッドのチームはよく鍛えられているな」


 感嘆する言葉を吐いたウッディ隊長は、静かに立ち上がってマウンドに正対し背筋を伸ばして敬礼を送った。そんな姿に促され、生き残ったサイボーグ達も背筋を伸ばし、仲間達の眠るマウンドに敬礼する。

 何処からか冷たく冷え切った金星の風が吹き込み、ドライアイスの粒を舞い上がらせていた。その粒がキラキラと光りながら昇華していって、やがて金星の空に消えていった。まるで、金星の地に消えていった者達の魂のように……


「お! 迎えが来たぜ!」


 空を指さしたジャクソン。

 金星の空に降下艇が浮いていた。


「さて、俺たちは自力で帰るぞ」


 ドリーに促されBチームはシェルの起動を始める。

 名残惜しそうにジャクソンの手を解いたホーリーが手を振って降下艇へと乗り込んでいった。それを見送ってからシェルの起動を始めるジャクソン。何故か一斉に無線が飛び交う。


『おいジャック。まさかとは思うが』

『そうだぜ。彼女完璧ホの字だぜ?』

『精密狙撃ライフルで口説く方法って本書けよ』

『ハリウッド辺りで映画化するぜきっと』


 皆が一斉に声を掛け、バードは一瞬誰の発言だが把握し損ねた。

 だが、当のジャクソンは困った様に言うのだった。


『墓の中で俺が来るのを待ってる女房が居るんだけどなぁ』


 だが、そんな声に最初に反応したのはやはりライアンだった。

 どんな時でもライアンのキャラはぶれてない。


『どつもこいつも見せつけやがって!』


 心底悔しがってるライアンを皆が笑った。

 金星の空を上昇しつつ、バードは金星の地上に別れを告げた。


 ――そういえば……


 エディは何を言おうとしたのだろう?

 ふとバードはそれに気が付いた。だが今は基地へ帰るのが優先だ。

 エディの手によって金星の地上へ下ろされたシェルをコントロールしながら、バードはもう一度地上を見ていた。


 ――さよならアントニー

 ――でもたぶん、また来るよ……





 第8話 オペレーション:シューティングスター ―了―



 第9話 オペレーション:キングフィッシャーⅡ へ続く

 一身上の都合によりちょっと休載します。

 第9話は12月1日より公開します。

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