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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第8話 オペレーション・シューティングスター
91/358

空中の牢獄

 ――――金星上空 高度10キロ付近

      空中都市ジェフリー 中央部

      金星標準時間 4月8日 1900





「おいおい……」


 最初に声を漏らしたのはスミスだった。

 北ゲート付近にシェルを留置し、そこから先は徒歩で侵入したセンタードーム。そこは見事な開放空間になって居る広大な平原だった。ただ、戦列艦の艦砲射撃によりセンタードームの屋根が破壊され、空に向かってオープンになった状態だった。


「しかし、こりゃスゲェな」


 スミスに相づちを打ったペイトンは呆れるしか無かった。砲弾が直撃したらしいセンターシャフト付近は見事な大穴になって居て、その淵へ立てば金星の地上が見えるほどだ。

 貫通したらしい砲弾は各所を破壊しながらジェフリーを通り抜け、そしてジェフリーの機能全てを停止させていたらしい。この様子ではセントラルリアクターも破壊した事だろう。いまジェフリーを支えているエネルギー源は、太陽光発電とバッテリーだけと言う事に成る。


「たしか予備司令室があったな」

「あぁ、南ゲートから降りていった辺りにあるはずだ」


 構造図を確認しながらドリーとジョンソンが確認している。下へ降りるにはエレベーターではなく階段しかない。南ゲートにほど近い階段入口辺りに集合し、口々に『またかよ!』とボヤキつつ、突入の準備をしていたそんな中、周辺を警戒していたダニーは何かを見つけた。


「アレなんだ?」


 ダニーが指さした瞬間、そこへ向かって銃弾が飛んできた。装甲服へ直撃を受け打撃に数歩下がったダニー。銃弾痕を見れば、大口径ライフルだと判る。


「とりあえず排除しろ!」


 テッド隊長を中心に全員が散開し、南ゲート側に向かって前進を始めたBチームの面々。各個に射撃を行いつつ進んでいくと、各所から白い血を流して斃れるレプリの兵士が続出していた。だが。


「なんかスゲーぞ!」

「やる気満点だな!」

「大歓迎ね!」


 南ゲートからは次々と新手のレプリがドーム内へ侵入してくる。撃っても撃っても尽きる事無く、Bチームの12名はあっという間に劣勢に陥った。とにかく撃つしかない状況で善戦するが、頭数の違いだけはどうしようもない。ジリジリと北ゲートへと押し返されはじめ、南ゲートの辺りに結集したレプリの面制圧を受けていた。

 並の装甲服なら撃ち抜かれる威力の大口径ライフルで撃たれると、一瞬だけアクチュエーターが反応しなくなる。ただ、サイボーグ向けに作られた装甲服は生身なら着ると動けなくなるレベルの装甲で、チームはまだなんとか戦闘を継続出来ていた。


「ジョン! 地上に救援を要請しろ! いくら何でも荷が勝ち過ぎだ!」

「イエッサー!」


 ジョンソンが地上に救援を要請している中、レプリ達はジリジリと前進を続けていた。センタードームの広い平原は広大な農耕地になっていて、労働者の胃袋を満たす食料を生産しているらしい。だが、この場で銃撃戦をする者にすれば悪夢でしかなく、身を隠す遮蔽物がほとんど無い平らな場所故に敵の射撃をまともに浴びる事になる。

 巨大な貫通孔付近まで押し返されたBチームは、崩れた天蓋構造物をバリケード代わりにし、地上からの救援を待つことにした。


「早いとこ天使が来てくれねぇと!」

「こっちが昇天しちまうぜ!」

「心配すんな!ここには美の化身がいるぜ! なんせビーナス(金星)だらな!」


 妙な笑いをしながら銃撃戦を続けている面々は、ふと包囲一歩前で有ることに気がついた。着々と方位の輪が閉じつつ有り、なんとかしないと全周から撃たれて、この貫通孔へ身を投げる事になりかねない。


「ボス! 南ゲートに救援が来ます!」

「でかした!」


 ジリジリと圧され後退していたBチームは、遂に北ゲート付近へ後退しきってしまった。射撃点の数からして、まだドームの内部に500近い数のレプリ兵が居る事になるらしい。


「いま、なんか爆発しなかったか?」


 持てる火力を総動員してレプリと銃撃戦を演じる中、ジャクソンはスコープを覗き込んで南ゲート側をジッと見ていた。


「間違い無く何かが爆発した!」


 ジャクソンはかすかだが、何処かで何かが爆発したような音を捉えた。音波や振動を探れるセンサーの塊であるジャクソンの場合、爆発による微気圧波までも捉える事が出来る。


「おいおい! いきなり戦闘無線が賑やかだぜ!」


 ジョンソンの顔色がうって変わって喜色満面になった。が、それとほぼ同時にドームの中で大音響が響き、ドーム内部のレプリが一斉に南ゲートを目指して逃げ出している。北ゲート付近まで迫っていたレプリは何を思ったのか、Bチームの陣取るゲートへと殺到した。


「ネクサスⅩⅠ!」

「おいおい! いきなり団体様のお越しかよ!」

「喚いてねぇでぶっ放せ!」


 ジャクソンとスミスがそれぞれの獲物で射撃を始めた。後先考えずバンバンと射撃を続けているのだが、撃たれているレプリはBチームでは脱出を最優先にしているらしい。余りに不思議な振る舞いに首をかしげたバードだが、最大ズームで南ゲートを睨みつけると、そこには余りに異形な姿の者が立っていた。


『Bチーム諸君! こちらDチームのバイパーだ』

『バイパー?! いきなり何やってんだ?!』

『エディから遊びに行って来いって指示を受けたんだが迷惑だったか?』


 いきなり無線の中に響いた声。Dチームのバイパー隊長とテッド隊長の会話にBチームのメンバーは、連続射撃の手を止めてしまった。ドームの中へとなだれ込んできたのは大量のODST達。そして、全身に火器を装備した小型戦闘ロボそのものと言えるDチームの隊員たちだ。

 前進黒尽くめになった細身の体躯だが、その両手にはバルカン砲を装備したサイボーグだ。猛烈な勢いで射撃をし続け、遠慮なく前進を続けている。その背後にはODST隊員がいて、手押し台車にバルカン砲用の弾薬箱を積みあげ、弾薬を供給していた。


「おいおい、アレじゃ歩くファランクスシステムだぜ」

「しかも2門とか凶悪だな」


 羨ましそうな声を出したスミスとジャクソン。トリガーハッピーコンビの声に隠し様の無い羨望が混じった。だが……


「こっちも負けずに押し返すぞ!」


 テッド隊長の声に弾かれ全員が総力射撃を始めたBチーム陣取る北ゲート側も、ややあって続々とODSTがなだれ込み始めた。着々と火線を敷き収束射撃を加えてレプリを押し返し始める。


「テッド!」


 何処かで誰かがテッド隊長を呼んだ。戦闘中にもかかわらず余所見をしたバードだが、そこには何時ぞや中国戦線で顔をあわせたODST103(第三大隊)のフィールズ少佐がやってきていた。


「フィリー! 何でまたこんな所に!」

「ティアマット大佐から北ゲートに突入しろって指示を受けて来た!」

「そうか! とりあえず歓迎はするが……」


 北と南の両方から挟まれレプリは着々とすり減らされている。ただ、基本的に恐怖感を持たないレプリ故か、火線に向かって撃ち帰し始めている個体が多く、銃弾が音を立てて通過していっている最中だった。


「地上はどうしたんだ?」

「地上軍が包囲していて、そのケツをA・C両チームが支援してくれている。ただ、ジェフリー内部のレプリが予想より多いので我々103とスコルツォーニの102がDチームと一緒に派遣されたって訳さ」

「オーケー 分かった」

「ここの中のレプリと守備隊はこっちで面倒見るからBチームはジェフリーの予備司令室を目指せって伝えろとマット大佐に言われてきた。頼むぜテッド」


 サムアップで応えたテッド隊長が無線の中に指示を飛ばした。激しい銃撃戦の最中では両耳のセンサーが受音レベルを自動で絞るのだがか、一時的に耳が遠くなる状態だ。


『全員力尽くでレプリを押し返せ! 出来る限り磨り潰し減耗させろ!』


 Bチームの背後へやって来たODST103の支援を受け、各員が手持ち火器で壮絶に打ち返し始めた。スミスは何処からか調達した分隊支援用のチェーンガンを持ってきて、恐ろしい勢いで弾を撒いている。

 Dチームのチェーンガン8門とスミスを含めた103の4門で猛烈に撃ち掛けられたレプリの守備隊はジリジリと後退をはじめ、ドームの下層にある作業エリアへと退避を始めた。太陽光が降り注ぐドームの下にある工業セクションは、金星開発の様々な施設や道具や機材を作り整備する場所らしい。その広大なエリアへ逃げ込んだレプリたちをODSTが圧倒していく。


「良い方向に転がり始めたな」


 少しだけホッとした表情のテッド隊長がBチームに集合を命じた。着々とレプリを押し返していたBチームは、いつの間にか南ゲート手前まで来ていた。挟み撃ちにされすり減らされていたレプリは先を争うようにしてジェフリーの下層エリアへと逃げ込んでいる。

 センターシャフトのエレベーターが無い以上、階段で下りていくしかない。皆が覚悟を決め下層エリアへと足を踏み入れると、センタードームの平原から一つ下に下りた場所には、広大な工場ゾーンが広がっているのだった。


「このエリアはDチームと生身に任せ、俺たちは管制室を目指す。全員抜かるな」


 テッド隊長の言葉に気合いを入れ直したバード。事前にジェフリーの構造情報をダウンロードしておいたので、そのデータを解凍し視野に構造マップをオーバーレイさせる。


「さて、じゃぁ行こうか」


 行動を開始したテッド隊長をジャクソンがニヤニヤと笑いつつ見ていた。Lー47のバレルをロングからミドルに換装しながらだ。火星の戦闘でホーリーが見せた神業に影響されているのか、ミドルバレルでのスナイプをやりたがっている節がある。超ロングレンジ射撃でなければ、加速行程の長くなるロングバレルは必要ない。ただ、威力至上主義だったジャクソンが見た『まず当てる』の精神は少なからぬ影響を与えたようだった。


「今回も階段ですか?」

「そうだな、今回もだ」


 楽しそうに笑っているテッド隊長はいたずらっぽい笑みでそう言った。そんな言葉に皆が一斉に反応する。


「また降りんのかよ」

「登るよりは良いだろ」

「今回はバーディーの兄貴も居そうにねぇしな」


 アハハと気楽に笑った面々を眺めつつ、バードも楽しそうに笑いながらYeakを支度していた。突入戦ならライフルより使い慣れたこっちの方が良い。ドラムマガジンを装填し、相変わらず2丁拳銃を気取った。

 隊長の支持で皆が一斉に階段へ突入する。渋谷の時と違って今回は別のチームやODSTたちが戦闘を行っている真っ最中だ。広域戦闘無線が賑やかに飛び交い、各部で様々な状況が進行していた。


「なんだか調子狂うな」


 ジョンソンのボヤキが廊下に響き着々と階を降りていく。ジェフリーはそもそも上下方向に余り広い構造では無い。ドーム部分とそのサポート層や、その階下に広がる工業セクションとその支援機器層が天地方向に多少大きいだけだ。

 レプリが立て篭もっている事も無く、また抵抗も無い。Bチームは実にあっけなく労働者たちのリビングゾーンまでやって来た。一つ一つの部屋が非常に巨大なベッドルームだった。


「呆気ねぇな」


 スミスの呟きには警戒感が溢れていた。部屋にはビッシリと2段ベッドが続いていた。その部屋全てを虱潰しにしていく時間など無い。やむを得ずそのまま通り過ぎようとした時、大型の作業用エレベーターが到着しいきなりドアが開いた。

 驚いて物影に隠れ銃を構えたBチーム。だが、エレベーターから出てきたのはODST102の隊員50名ほどで、そのメンバーは第2大隊の大隊長スコルツォーニ少佐が直卒していた。


「テッド少佐!」

「コッツ? 何やってんだ?」

「ヴァイパー少佐がこっちを支援してやってくれって言い出して」

「そう言うことか。いや、むしろありがたいが」


 テッド隊長はエレベーターの周辺に広がる小部屋を指差した。


「俺たちは更に下へ降りる。この辺りの小部屋を虱潰しに調べてくれないか」

「了解した。お安い御用だ。地上からの連絡では最新型のネクサスは全部地上らしいから、この中には旧式しか居ないそうだ」

「なら安心だな。うちのブレードランナーも嫌がるくらいだ。例の最新型は」


 サクサクと打ち合わせを終えてテッド隊長が手を上げた。それはつまり前進の再開を意味する。皆が一斉に階段を降り始め、着々と階を下っていくのだが……


「……なんか居るぜ?」

「あぁ。間違いねぇな」


 階段の踊り場前でひり付く様な殺気を感じている面々。あの渋谷の一件以来、バードもこういう部分が異常に鋭くなっているように感じている。そして今は会談の踊り場からドアを一枚隔てた向こう側に、大型肉食獣のような気配を感じているのだった。


「ドアを開けたらバクッとやられるんじゃないか?」

「あぁ、そんな気がするな」


 ドアの前に立ったペイトンがナイフを抜き、ロックは一歩下がって愛刀を抜く。接近戦のスペシャリストが刃物を構える中、バードは少し離れて拳銃をフルオートにし、手首を交差させて構えた。準備が整ったところでテッド隊長の手が『開けろ』と指示を出し、リーナーはそっとドアを開いた。


「キェエエエエ!」


 甲高い声を出していきなり何者かが踊り場へと飛び出した。考える前にバードはトリガーを引き絞り、至近距離から11ミリの拳銃弾を猛烈に受けたソレは白い血を撒き散らして動かなくなった。

 だが、その白い血を撒き散らしたレプリの後ろから次々と新手のレプリが階段部分へ飛び込んできて、バードは猛烈に撃ち掛けながら後退し、距離を取った。


「任せろバーディ!」


 ロックの声が響き、バードは素直に射撃を止める。階段へと飛び込んできたレプリは3匹。みなロングソードを持っていたらしい。半ばパニック状態だったバードの乱射で1匹が即死し、もう一匹は胴体部分へ数十発を受けて動かなくなった。まともに戦闘を続行できそうなのが1匹だけとなったらしいのだが、そのレプリはロックが見事なまでの袈裟懸けで切り捨てた。

 一瞬の打ち込みだったのだが、レプリの身体を斜めに切り裂いた太刀筋は完全に身体を切り裂いていて、相当強靭な肉体を持つ筈のレプリを見事に両断してしまっていた。


「やっぱ接近戦なら刃物だな」

「全くだぜ。で」


 ペイトンの言葉に反応したライアンが見下ろす先。痙攣を起こしていたレプリをバードが改めた。


「うそ……」

「どうしたバーディ」

「これ、ⅩⅢだ」

「マジか!」


 バードの言葉に驚くロック。ペイトンやライアンも驚いていた。もちろん、テッド隊長を始めとするメンバー全員もだが。


「全部下に降りた訳じゃ無さそうだな」


 まだまだ痙攣していたレプリの脳をドリーが撃ち抜きトドメを入れた。その上で改めて周りを見回したあと、ジッとテッド隊長を見た。


「楽しい事になりそうな気配です」

「そうだな」


 隊長までもがニヤリと笑いフロアへと躍り出た。通路の奥には隠しきれない気配を放つ何かが待ちかまえていた。

 手にしているのはロングソードやショートソードばかり。接近戦を挑むのが目的らしいレプリは、廊下を一気に加速してやってきた。撃たれる恐怖など微塵も無いような姿だった。


「調子乗ってるわね!」


 なぜか一番最初にバードがキレた。廊下を加速していたレプリに向けて、遠慮無くフルオートでの掃射を浴びせかけた。そして、それを合図にするようにチーム全員が総力射撃を浴びせかけた。

 狭い廊下をバカ正直に走ってきたレプリは次々と挽き肉に変わっていき、15か16程のレプリを血祭りにあげたのだった。


「なんだか……」


 ボソリとダニーが呟く。言いたい事は皆わかっている。あまりに戦い方が杜撰でいい加減だ。少なくとも『勝とう』と言う戦い方には見えないし感じられない。シリウス側がこれでも勝てると踏んでいたいい加減な戦略ならば問題はない。だが、こんな時には潜った修羅場の数だけ疑心暗鬼が顔を出す。

 油断を誘っている。或いは、安心させておいて大きな罠を仕掛けている。そんな恐怖。または疑念。そして、どこか相手を疑うマインドは、咄嗟の判断に微妙な陰を落とす。『平気か?』『大丈夫か?』『罠じゃないか?』1秒未満の僅かな時間に3つのアクションを行うサイボーグにしてみれば、その僅かも僅かな時間でしかない逡巡が命取りになりかねないのだ。


「ガタガタ言っても始まらない。先に行くぞ。迷ったら撃て。死体は反撃してこないさ」


 半ば冗談のような事を言ったテッド隊長だが、全身から発する空気には拭いようがない警戒感がにじんでいた。

 そして再びいくつか階を下っていくと、チームは小さなオフィスエリアへ出た。小さな区画に仕切られたデスクが幾つも連なるフロアには、電源の落とされたパソコンが並んでいた。

 立てこもるには最適のエリアだが、ここもアチコチから異常な殺気が漏れていて、間違いなくアレがいると皆が顔を見合わせた。


「炙り出すか」


 リーナーはおもむろにスタングレネードと催涙ガスを取り出し、部屋の中へランダムに投げ始めた。催涙ガスが部屋に充満し始めると、アチコチから咳き込みながらレプリが姿を表した。そして恨みがましい目で睨み付けた後、ソードを抜いて襲い掛かってきた。


「やれやれ……」


 まるで七面鳥撃ちのようにレプリを撃ち殺し、その死体を片付けたメンバーは改めて部屋の中を検分した。恐らく何らかの事務エリアだ。それだけは間違い無い。部屋の壁には大型モニターが幾つか設置され、小部屋の中からはそのモニターが全部見える構造だ。


「もしかしたら、ここが予備指令室じゃないか?」


 ペイトンの言葉にライアンも同意している。


「構造的には間違い無いようだな。ただ……」

「あぁ。機器は全部死んだようだぜ」

「つまり、全部砲撃のせいか」


 端末の起動を計っていたライアンやペイトンだが、機器は全く反応しなかった。恐らく予備指令室なのは間違い無いのだが、ここに居ても出来る事は少ない。


「無駄骨だったか?」


 不機嫌そうなスミスの言葉が部屋に漂った。そんなスミスにリーナーが何か声を掛けようとした瞬間……


 

『化け物だ!』

『助けてくれー!』


 広域戦闘無線の中に響く断末魔の声。顔を見合わせたメンバーが一瞬黙った。サイボーグと違い、この声は生身だ。その直後、全員の視界に生身の兵士が持つアイカメラの映像が流れた。

 数フロア上にあった居住ゾーンの中、生身の兵士が包囲していたエリアにシリウス側の労働者が集まっていて、捕虜の搬送を始めようとしたところへ例のソードを持ったレプリが現れていた。


「嘘だろ?」


 言葉を飲み込んだロック。そこには剣士の集団へ突っ込んでいくロクサーヌが映っていた。ODST兵士のアイカメラに写るロクサーヌは長いソードを振り回し、レプリの剣士をバサバサと斬っていた。


「……なんだよ、えらい差だな」

「全くだ。ロックとやり合ってたのは遊びだったのか」


 ロックを冷やかすドリーとスミス。今日はやけにスミスが饒舌だとバードは思うが、それよりも問題は視界に写っているロクサーヌの向こう側だ。そこには明らかに『あの男』が映っていた。


「隊長!」

「……わかったわかった。そんな目で見るな」


 ロックの目が何かを訴えている。それを理解したテッド隊長は苦笑いだ。


「リターンマッチをするのは良いが遅れはとるなよ?」

「イエッサー!」


 男のメンツを掛けて走り出したロック。そんな姿にバードはふと不安を覚えた。もう会えないような気がしたのだ。決して後れを取るような事は無いと自分に言い聞かせたが、それでも不安が溢れるのだった。


「隊長……」

「ロックの件は本人に任せろ」


 一緒に行こうとしたバードだがテッド隊長はそれを止めた。


「ジョンソン、ペイトン、ライアン。ここのパソコンを起動させられるかどうか試せ。バード、ダニー、ビル。上に行って労働者の捕虜移送について支援しろ。スミス、リーナー、ジャクソン、ドリー。周辺を捜索しろ。どこかにここのオペレーターが隠れている可能性がある」


 テッド隊長の明確な指示が飛び、バードはダニーやビルと一緒に再び階段を駆け上がっていった。


 ――――ロック…… 死なないでね……


 そんな事を祈りながら……

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