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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第8話 オペレーション・シューティングスター
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激戦


『あの野郎!』


 一番最初に叫んだのはロックだった。瞬間湯沸かし器のように沸騰したロックの意識は周辺の戦闘機から外れ、モニターの中の剣士に注がれた。握りしめていたシェルコックピットのバーグリップを握り潰す勢いだったロックだが、無線の中に響いたバードの声でハッと我に返った。


『ロック! 後ろ!』


 声を出すと同時にロック機のすぐ後ろに居たシリウスの戦闘機を撃墜したバード。動態予測射撃だったが放ったモーターカノンの砲弾全てが戦闘機へと吸い込まれていき、バラバラとパーツをまき散らして空中分解していった。


『不用心過ぎんぜ! ロックよぉ!』

『よそ見してんな!』


 ライアンもペイトンも遠慮無く唸り付けた。以前のロックなら逆切れしかねない状況だった為、普段にも増して力一杯殴りつけた恰好だった。だが、この日のロックはちょっと違った。前夜遅くにバードへ心の全てを吐き出したロックは、自分でも不思議な程に冷静だった。そして周囲を観察し直す余裕があった。


『わりぃ! 目を開けたまま寝てた!!』


 ロックの素直な言葉に仲間達は驚く。だが、ソレを考察している余裕があるわけでも無かった。シリウスの戦闘機は、まだまだ遠慮無く襲いかかってきていたのだから。


『昼寝するには早いぜ!』


 空気を読んだのか意図的に無視したのかは解らないが、ライアンは遠慮無くそんな軽口をロックへ浴びせた。以前のロックなら間違い無く敵そっちのけで沸騰していたはずだ。だが、当のロックは『わりぃわりぃ!』とスルーだった。

 そんなロックの様子にニヤリと笑ったドリーは、無線の中が静かになるのを待ってから戦闘広域無線でCチームの状況を確かめに掛かった。正直、基地上空はそろそろ限界に近かったからだ。


『ドリーよりウッディー隊長!』

『どうしたドリー!』

『そっちの状況はどうですか!』

『こっちか!』


 無線の中に流れる緊迫した声。基地の内部奥深くではウッディー隊長率いるCチーム28名が、ロングソードを構えたレプリの兵士と対峙していた。何度も何度も襲撃を受け、力尽くで撃退するかトラップで始末していたのだが、少々状況的に不味い所まで来ていた。手持ちの爆薬は底をつき始め、手榴弾やトラップ向け爆薬も心許ない。


『ドリー! このまま基地の外へ出る! 俺たちが全員脱出したら基地ごと焼き払ってくれ!』

『了解しました!』


 無線を切ったウッディー隊長は、基地中央部にあるセントラルリアクターの周辺で絶望的な戦いをしていた。反応速度に勝るネクサスが揃っている関係で、至近距離から撃たない限り弾丸を交わされてしまうケースが多い。

 その為、危険を承知で荷電粒子モードでに射撃をしているのだが、そもそも単純な戦闘能力としてレプリ兵士がサイボーグと互角という、洒落にならない状況なのだった。


「厄介な敵だな!」


 思わず愚痴をこぼしたウッディ隊長は銃を構えつつ後退していた。セントラルリアクターのある中央棟の隣、西棟に向かってゆっくりと下がっているCチームは、既に10名以上の隊員が死亡していた。


「ホーバス軍曹!」

「ヤー!」

「メインピラーをぶっ飛ばせ!」

「ヤッサー!」


 Bチームと違いCチームには下士官のサイボーグが居る。むしろ士官だけで構成されるBチームが特殊なだけで、501大隊には普通にサイボーグの下士官が在籍している。その多くは戦闘中の重度負傷でサイボーグ化した兵卒や下級下士官などで、施術後に身体のメンテナンス条項を求めて再契約するケースが多いのだった。

 幾つもの修羅場を潜り経験を積んだヴェテランの下士官がサイボーグになると、下手な士官より余程使える上にしぶとく撃たれ強くなる。事実、ウッディ少佐の右腕としてサポートに徹しているホーバス軍曹は既にサイボーグ歴40年を越えるヴェテランだった。


「Fire in the Hole(爆破するぞ)!」


 ホーバス軍曹の叫び声と共に大音響を響かせてC4爆薬が爆発した。西棟のメインピラー12本を同時爆破し、内側に向かって建物が崩れていく。その煙の中をCチームの生き残り26人が走って逃げだすのだが、不運にも幾人かが瓦礫の直撃を受け昏倒し巻き込まれた。


「ボス! ディフォレストとスペンズが!」

「何とか引っ張り出せ! 頭だけでも連れて帰るぞ!」

「ヤー!」


 ウッディ隊長を呼んだグェンは濛々たる煙へと飛び込み、瓦礫の中から下半身を押しつぶし擱座しているスペンズを引っ張り出した。脊椎部分を破断したスペンズが苦笑いを浮かべていた。


「わりぃ!」

「仕方ネーだろ!」

「おーれもボチボチくたばりそうだぜ!」


 ヘラヘラと笑っているスペンズ上級曹長はグェン2等軍曹に担がれ廊下を移動していた。その向こうではCチームの2班を率いるグヌム中尉が必死に瓦礫をほじくり返し、ディフォレスト1等軍曹を引っ張り上げた。


ガニー(一等軍曹)! しっかりしろ! ずらかるぞ!」

「へへへ、厄介掛けますね中尉」

「くたばられると俺が始末書書く羽目になるから面倒なんだよ」

「そりゃいい! んじゃここで自爆しましょうか!」

「ソレも止めてくれ!」


 瓦礫の山を駆け下りたCチームのメンバーを引き連れ、ウッディ隊長は再び走り出した。大きく後退し、距離を取って剣士と対峙する為だ。古来より兵法に曰く『山を越えて陣を張れ』という。銃火器では無くソードで襲いかかってくる以上、距離を取った戦いの方が有利なのは言うまでも無い事だ。


「アントニー! 何処だ!」

「中央棟のタワーです! 全エリアを射撃圏内に捉えました!」

「よし! 俺がラビット(おとり)だ! 確実に()れ!」

「ヤー!」


 ザクザクと走って行くウッディ隊長はチームのメンバーを先に行かせ、自らが殿を買って出て走っていた。時々は立ち止まって瞬発雷管付きのブービートラップを仕掛けながら。


「ドノバン! ミゥラ! ミートチョッパー(クレイモア)を仕掛けろ!」

「ィヤー!」


 隊列の先頭を走っていたドノバン少尉とミゥラ少尉が通路の左右に互い違いにしてクレイモアを設置した。瓦礫で偽装しぱっと見では見えないレベルの出来映えだ。瞬時にこれだけの加工を行えるCチームもまた、実戦で鍛えに鍛え抜かれていた。


「キェェェェェ!」


 後方から激しい咆吼が鳴り響き、ウッディ隊長は短く舌打ちして走った。後方センサーにエコーを感じチラッと目をやれば、後方にはレプリ剣士の群れ。身軽な恰好でソードだけを持っているのだから向こうの方が早い。

 だが、その課程で何度もブービートラップを作動させ、連続して何匹もレプリが吹っ飛んでいるのが見える。ウッディ隊長はニヤリと笑って先へ急ぐのだが、幾つものトラップをかい潜ったレプリはジリジリと接近していた。汗を流しながら走る事こそ無いモノの、瓦礫の散乱したエリアでは重量級のサイボーグだと走りづらい。

 速度が乗らずジリジリと接近を許し始め、そろそろヤバイかと無いはずの冷や汗を感じた時、左右から一斉にクレイモアが発動した。往復ビンタでクレイモアの直撃を受けたレプリは、文字通り挽肉以下に成り下がって一気に数を減らした。だがそれでもしつこく追いかけてくるレプリが居るのだった。


「これだけしつこいってのも考え物だな!」

「全くですな!」


 ウッディ隊長の愚痴にホーバス軍曹が応え、そのまま建物を飛び出したふたり。後方から迫ってきた剣士のレプリが更に距離を詰める中、その追跡列の先頭に居たレプリは、突然頭を弾けさせその場に崩れた。後方を走っていたレプリが巻き込まれ次々と転んでいて、抜き身の長刀を持っていた関係で同士討ちを頻発させた。


「はっはっは! よっしゃよっしゃ!」


 満足そうな笑みを浮かべウッディ隊長は快活に笑っていた。


「アントニー! 構わずぶち殺せ!」

「ヤー!」


 中央棟のタワー部に腹ばいで陣取るアントニーは遠慮無く地上へ射撃を始める。弾着距離二千メートル程度で次々とレプリの頭が弾けていた。正確無比な射撃の前に一瞬足を止めたレプリ達だが、その間こそ文字通りの殺し間だった。


 ────動かないとか莫迦の所行だな


 ふとそんな事を思ったアントニー。遠慮無く5連射し、レプリの剣士を血祭りに上げていた。そして、その次のレプリをスコープのレティクルに捉えた時、ふと視界の中に右足の膝辺りがホログラムで浮かび上がり、機能不全の表示が浮かんだ。


 ――――え?


 痛みは無い。『こんな時に故障か?』と怪訝な顔をしたのだが、アントニーは構わず6発目を撃った。高倍率スコープに映るレプリの頭がパッと弾け、ミスト状になった白い血が飛び散った。そのシーンを無表情に眺めた後、再びスコープの中のレプリ目掛け7発目を撃ったアントニーは、不意に身体を預けてある非常階段の踊り場がグラグラと揺れている事に気が付いた。状況を理解できず振り返ったとき、視界に飛び込んできた光景に言葉を失った。


 ――――……!


 アントニーの眼差しに映っていたのは、自分のいるタワー目掛け急降下してくるシリウスの戦闘機だった。そして、自分の右足に目をやったアントニーの表情が凍りつく。いつの間にか戦闘機に攻撃されていたらしく、自分の右膝の辺りに炸裂痕が残っていて、しかも、タワー本体の外部に溶接されていた筈の踊り場が、数本の細いワイヤーでぶら下がっているだけだった。

 ここから地面へ叩きつけられればサイボーグとて死を免れない距離だ。少しでも射界を広く取る為に駆け上がった階段は50メートル以上ある。航空基地の管制塔外部に作られた非常階段は吹き曝しの酷い環境だ。


 ――――動いたら落ちるな……


 間もなくシリウスの戦闘機に撃たれるだろうが、それはそれで仕方が無いと割り切った。どうせ自分は死んでいるようなものだ。一度は死んだ人間だ。本来であれば多臓器不全で死んでなければおかしいし、家族はすでに死んだものと思っている筈だ。つまり、いまの自分は幽霊だ……

 アントニーは戦闘機から目を切って地上を探した。いまは隊長たちを援護するのが先だと思ったからだ。


『おぃアントニー! 援護するからそこから降りろ!』


 広域戦闘無線の中に響くジャクソンの声。アントニーは改めて驚き空を見た。アントニー目掛け急降下していたシリウス戦闘機が爆散し、その向こうにBチームのシェルが見えた。砲身を真っ赤に焼け付かせたモーターカノンを構え、上空を旋回していた。


『階段と右足が関係で動けません。ここで仲間を支援します』

『アホ抜かせ! 今からそこへ降りる!』

『援護ありがとうございます! ですが――


 その言葉を切るようにジャクソンのシェルが中央棟のタワー付近へ舞い降りた。地上を走ってきていたレプリの剣士目掛けチェーンガンを乱射しながら。


「アントニー! Bチームシェルに収容されろ! 撤収する!」


 ウッディ隊長の声に促されアントニーが動き始めた。その場所へ手を伸ばしたジャクソンはアントニーの背中をシェルの手で摘み上げてから握りなおし、そのままシェルを離陸させたのだった。


『ガタガタ騒ぐな! 余裕があるなら地上を撃て!』


 無線の中で吼えたジャクソンに促され、アントニーはシェルの手に抱き締められたままLー47を構えた。しかし、普段Cチームが使っているシェルとは比較にならない急加速を行ったBチームのシェルだ。加速度に押しつぶされ思うように身動きが取れない。


『凄い加速です! 中尉殿!』

『ジャクソンで良いんだ! ジャクソンで! 面倒は気にすんな!』

『イエッサー!』

『ぶっ飛ぶぜ!』


 そんなやり取りを聞いていたバードがニヤリと笑う。やはりルームメイトで同期の人間は気になる。ジャクソンに抱えられたまま高度を上げ、高空から基地を見下ろしたアントニーは、基地の通路を走る陰に気が付いた。


『隊長! 西棟と中央棟の間を例のソードマンが逃げています!』


 広域戦闘無線で全員に呼びかけたアントニー。だが、ウッディ隊長がそれに答える前にロックが叫んだ。


『こちらロック! その辺りにモーターカノンを打ち込む! どちらさんもアブねーから距離を取ってくれ!』


 ロックの視界に浮かぶモーターカノンの状態表示が変わり、徹甲弾を示す赤が表示された。そして戦域情報を頼りに遠距離からバリバリと遠慮なく撃ち込んだ。基地の外壁コンクリートを次々に粉砕し、その内部へ打撃力を伝えている。


『おい! ロック! 中国の恨みをここで晴らすなって!』


 ビルの声に苦笑いしたロックは射撃を止め観察モードに入った。基地の上空をフライパスし、砲弾を叩き込んだ辺りにモーションセンサーを使って動く物を探す。


『中国じゃカマされたからからよぉ! こんチクショウめって奴さ!』


 中国の基地で無様にやられた仕返しだと皆は思っていた。あの最強剣士がロックの父親で有ることを知っているのは、この場だとバードだけだから。

 手痛い一撃を受けただけでなく、恋人の前で無様な思いをさせられた。つまり恥を掻かされた以上、恥辱を雪ぐにはその手で相手の息の根を止めるしかない。なんとも東洋的精神論ではあるが、その前に『男の誇り』であり『プライド』の問題なのは洋の東西を問わないのだった。


『ロック! 何なら地上に降りて斬りあってくるか?』


 いきなりスミスが嗾けるような事を言い出した。アラブの男にとってもロックの経験した事は、なによりも男の沽券にかかわる事だ。汚名を返上し名誉を挽回するには、相手を指名し決闘に及び、実力で乗り越えなければならない。そしてそれは、ヨーロッパであろうとアメリカであろうと、地球人の男にしてみれば、世界共通の認識だ。

 ただ、戦闘指揮官という肩書きを持った全く違う責任を持つ者にしてみれば、余り聞き捨てなら無い話しでもある。事実、ドリーは無くなったはずの心臓がギリッと痛みを発したような錯覚に陥った。


『ジョークならもうちょっと笑わせてくれロック! 余りシャレになってない』


 そんなドリーの言葉に皆が爆笑した。地上の部隊が続々と降下艇に収容されるなか、ジョンソンは全員に改めて声を掛けた。バードはそんな心配りに感心するのだった。


『まぁ冗談はとにかく、早いとこズラかろうぜ。この状況なら艦砲射撃も仕方ねぇだろ』


 ウッディ隊長率いるCチームの激闘と時を同じくして、海兵隊を中心とする歩兵も激闘を繰り広げていた。レプリの銃撃が続く中をやって来た降下艇のパイロットは、ここから再び決死の覚悟で離陸していく。

 ブースターに点火し一気に高度を稼いで行くのだが、その降下艇にシリウス戦闘機が追いすがって攻撃を始めた。固体燃料系ブースターを使っている降下艇が一機また一機と火達磨になる中、Bチームは上昇を続ける降下艇群の護衛もやらねばならない状態になっている。

 忙しいなどと言う言葉すら生ぬるい状況下、Bチームのメンバーは嫌と言うほど痛感していた。テッド隊長一人で5人分は戦っていたと言う事に。


『やっぱ隊長スゲーぜ!』

『全くだ!』

『隊長なら一人で地上を撃滅しかねねぇ……』


 切羽詰まった状況だと言うのにライアンとペイトンは軽い調子だ。そんな声を聞いたバードはハッと気が付いて、そして高度4000メートル程度の辺りから一気に急降下し、速度を稼いでレプリ兵士の真上をフライパスした。猛烈な速度での通過により衝撃波を発生させたバード。

 中国戦線でのテッド隊長が取った作戦は、一人で効率よく片付ける為の手段だったんだと今更ながらに気が付くのだった。


『この方がやっぱり早いよ!』

『流石だぜバーディー!』

『イィィィィヤッホォォォォォォォ!!!!!』


 バードの言葉にスミスが急降下を始め、その直後にイカれた声を出してペイトンも急降下を始めた。地球の地上よりも気圧が高い関係で衝撃波の破壊力も相応に高いらしく、次々とレプリが押しつぶされ動かなくなっていた。


『よっしゃ! ンじゃ俺たちも離脱だ!』


 エンジンの推力を上げ高度を稼ぐジョンソン。ドリーはそこへ指示を出した。やはり隊長というポジションは大変だと再認識していた。


『ジョンソン! 砲撃支援要請出してくれ!

『あいよ!』


 グングンと高度を上げているバードは、先行する降下艇がシリウスの戦闘機に攻撃されている姿を見た。そして、攻撃態勢に入った戦闘機から順次攻撃を開始していた。


『しかし、往生際の悪い連中ね!』

『しつこいのが取り柄なんだろ』


 バードのボヤキにロックが応じた。その時バードは、今までとは違う雰囲気をロックがまとっている事に気付く。一瞬の間が開いたことにロックは失言かと変な気をつかうのだが……


『砲撃要請が通った! 五分以内に初弾が来るぞ!』

『巻き込まれんのはゴメンだぜ!』

『サクサク行こうぜ!』


 ジョンソンの声にリーナーとビルが応じ、皆が垂直上昇モードに入る。エンジン推力に余裕があるBチームのシェルならではといって良い。だが、ジャクソンがハッと気が付き苦笑いだった。


『おぃアントニー! このまま離脱して良いか?』

『ヘルメット被ってるから平気だと思いますけど……』

『サイボーグって損だよな!』

『……そうですね』


 一瞬口ごもったアントニーに皆が大爆笑した。そして、同じタイミングで大気圏外から眩い光が降り注いだ。大光量ライトによる対地砲撃警告だ。


『来やがるぜ!』


 砲撃大好きなスミスの声が弾む。ややあって上空から眩いばかりの塊が落下してきた。所々に残っていた遮光幕を突き破って次々と落下してくる有質量弾頭は、一発一発が戦術核並みの威力を持って地上へ着弾していた。

 退避する降下艇へと襲い掛かっていたシリウスの戦闘機も、落下してくる弾頭の衝撃波に揉まれ空中分解するモノが出始めている。アントニーを抱えていたジャクソンは弾頭に背を向け上昇を続けていた。


『本当にしつこいな!』


 呪う様な声でダニーが叫ぶ。戦闘機たちは実用上昇高度一杯まで降下艇にまとわりつき、ありとあらゆる手段で攻撃を続行している。その周囲を飛びながら、Bチームのシェルは戦闘機を撃墜していた。ただ――


『チキショー! 弾切れだぜ!』

『クソッ! こっちもだ!』


 スミスやリーナーが持ち弾を使いきった。時を同じくしてBチームのメンバーが続々と弾を使い切り、迎撃手段を失いつつあった。バードも同じでモーターカノンに残弾は無く、チェーンガンも最後の一連射で終わる。


 ――――体当たり?


 バードの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

 高度20キロを越えつつある状況では大気密度の大幅な低下が避けられない。つまり、衝撃波を使った抵抗が意味を成さない。


『いよいよ手詰まりだな』


 ジョンソンの声が妙に楽しそうだとバードは感じた。困難にぶちあたった時、ブリテン人というのは妙に楽しそうに振舞う。何度かそんなシーンを見ているが、今この時もジョンソンは絵に描いたようなブリテン人だった。


『俺の国じゃ昔からこう言うのさ。凪の海は船乗りを鍛えないってな』

『だけど、あとはもう天任せだぜ?』


 ジョンソンの言葉にペイトンが噛み付く。だがそれに口を挟んだのはドリーだった。意外な人物の意外な言葉にバードは驚いた。


『天任せってのはやれる事を全部やった奴だけが口にして良いんだぜ?』


 何かを言おうとして言葉を飲み込んだバード。ここは黙って様子を見るべきだと判断したのだが、ドリーはある意味で予想通りの対応を見せた。


『まだ手はあるさ! 例えばこうやって!』


 降下艇に向け突っ込んできた戦闘機へ急接近し、ドリーはスラスターを使う事無くシェルの身体を捻って戦闘機の背面へ両脚を撃ちつけた。タイミングを計ってサーフボードの上に着地したサーファーのようだった。

 いきなりの衝撃を受けた戦闘機がフレームを損傷したのか、エンジンを失火させ錐揉み上に墜落して行った。そして、それと同じ動きをジョンソンも始めた。意地をはるブリテン人の心意気をバードは感じた。


『燃料がある限り飛べるさ! 飛べるなら戦い方はある』


 ドリーとジョンソンの見せた動きを手本にして、Bチームのシェルは戦闘機への体当たり攻撃を始めた。流石のレプリパイロットも迂闊には近づかなくなり始め、徐々に高度を取り始めていた。

 だが、着陸するべき基地が続々と艦砲射撃で焼き払われている状況下だ。高度を稼いだ降下艇の周辺にいた戦闘機たちはついに最終手段を始めたようだった。


『おい! あいつら突っ込んでくるぞ!』


 いつも冷静なリーナーが叫んだ。

 最後のアフターバーナーを使って進路を取った戦闘機は、次々と降下艇に向かって突入し始めたのだった。文字通りのカミカゼアタックだった。


『あいつらヤケになりやがった!』

『じょーだんじゃねーぞ!』


 高度40キロに達した降下艇は脱出に成功したらしいが、それ以下の高度を飛んでいた降下艇たちは次々と戦闘機の捨て身の攻撃を受けていた。30艇以上が上昇を続けていたのだが、次々と体当たりを受け、5艇が空中で爆発を起こした。

 必死で追いすがる戦闘機を、それを足で蹴り壊すBチームのシェル。その行き詰る攻防が続く中、レーダーに新手の反応が出る。同じ高度を維持したまま、艦砲射撃の隙間を縫って高速で接近してくる航空機群だ。だが、そのレーダーエコーにはIFFの友軍反応があった。


『味方か?』


 縋るように目をやったライアン。ロックもバードも同じように見た。その先に飛んでいたのは国連宇宙軍航空隊の全域戦闘機ヴァンデット・マークⅡだった。


『奴らに任せてズラかるぞ!』


 ジョンソンの声に弾かれBチーム全員が大気圏外を目指した。

 ふと振り返ったバードが見たものは、壮絶な空中戦の中で続々と撃墜されていくシリウスの戦闘機たちだった……


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