辛い現実
次々と爆散を繰り返すシリウスの艦艇。その断末魔をバードは眺めていた。
神経接続ハーネスでシェルとコンタクトされているサイボーグは、シェルの機体を自分の身体の一部ではなく身体そのものに感じている。それゆえ、宇宙でも地上でも、機体へ何かが当たれば、その情報を接触感として脳に伝えている事になる。
そしていま、バードの身体にはシェルの外殻装甲に接触する様々なモノが砂粒でも当てられているかのように感じられていた。大きいもの小さいもの。そして、真空中へ投げ出された者が放出した赤や白の血液と体液。眼窩から飛び出してしまった眼球や、眼底部を突き破って飛び出した頭蓋骨の内容物……
「何てこと……」
バードの呟きが引き金になったかのように、シリウス艦艇の側面部が次々と爆散し始めた。艦内与圧部分の圧に負けたのか、船殻を構成するパーツ単位で船体から引き剥がされ、そのまま金星の大気へと吸い込まれていく。
眩く光を放ちながら大気圏で燃え尽きるパーツの中には、まだ間違いなくクルーが乗っていたはずだと皆が思う。だが、船体の崩壊はとどまる事を知らず、見る見るうちに見るも無残な姿へと変わっていく。その姿はまるで、身を食べられ、皿に残った焼き魚の骨のようだとバードは思った。
「ボス! ブリッジから発光信号!」
ジョンソンの上ずった声が無線に流れた。テッド隊長機はその声に弾かれる様にブリッジ部へ急接近する。編隊を組んだままの各機もそれに続くので、バードもその流れに乗っていった。シリウス艦艇のブリッジ部分にある大きな耐圧ガラス部分には夥しい数の人の姿が見えた。今まで知識でしかなかったシリウス宇宙軍士官の姿を、バードは初めて見た。
「あちこちぶっ壊れて姿勢制御出来なくなってんだな」
「だろうな。どう見たってバーニアスラスターの数が足りねぇだろ」
ペイトンのぼやきにジャクソンが反応した。ブリッジ部分を通過する時にチラリと中身をのぞいたバード。シリウスの士官は身振り手振りで指示を出しながら、艦の誘導を試みていた。
「シリウスより信号を受信! 本艦操舵不能! 船首回頭し太陽へ向け進路をとるので支援を求む! 人類万歳!」
ジョンソンが通信を読み上げた時、シリウス艦艇の中央付近から一際大きなパーツが剥がれ飛んだ。まるでキノコのような形をしたそのパーツから、夥しい量の人が宇宙へ放り出されていた。次々と放り出される人々。僅かに残った分離パーツの与圧部分にある窓には、悲壮な表情で宇宙を見る者たちの顔があった。
「救助…… しますか?」
祈るような声でテッドを呼んだバード。テッド機はシリウス艦艇の周囲を大きく周回しながら様子を伺っていた。非戦闘状態にある今、地球とシリウスの間に結ばれた宇宙協定により、地球の国連宇宙軍は救助の義務を負うはずだった。戦闘員であるか否かを問わず、人道的見地として宇宙を漂流する危険がある時は、可能な限り救助の義務を負うのだ。
「……状況を確認し検討する」
何処までも冷徹な声が無線に流れ、引き続きテッド機はシリウス艦艇の周囲を周回し続ける。スラスターの残量が乏しくなり始め、バードだけでなく皆が見るとは無しにテッド機を目で追っていた。その眼差しの先を飛ぶテッド少佐のシェルは、まだまだスラスターの残量を残し、優雅に宇宙を漂う状態だった。
――――どうやってるんだろう?
なぜかシリウスの艦艇よりテッド機の姿勢制御に興味が移ったバード。テッド隊長のシェルは両足のスラスターを使わず、メインエンジン部のベクターノズルだけで進路を制御していたのだった。その秘密を理解したバードは同じように飛ぶ事を試みる。あれこれと試しつつも左右を見たバードは、チームメイトたちが実に上手に姿勢制御しているのを見たのだった。
――――さすがね……
溜息混じりに姿勢制御を続けていたバードだったが、その目の前でシリウス艦艇の中央部分に残っていた機関部ブロックが急激に変形を始めた。ぶ厚い装甲板の内側から様々なものが激突するかのように、ボコボコと変形を繰り返している。おそらく機関部自体が限界を迎えたのだろう。
イオン反応エンジンの主幹部が次々と爆発し、船体の各所からキセノンガスの光を漏らしている。文字通りに断末魔のシリウス艦艇は姿勢制御ですら不可能な状態になり始め、そして、限界は唐突に訪れた。
「全機散開! 距離をとれ!」
テッド隊長の声に弾かれ、バードは進路を急激に変更した。機体の各所に宇宙を漂っていた血液や体液や、そして、人間だったデプリを張り付かせ、距離を取るべく一気に離れた。
自分の身体の一部に衝突の衝撃を感じながら飛ぶバードが振り返ったとき、シリウスの艦艇は内部で次々と連鎖爆発を起こし、各所がパーツ単位で飛び散り始めたのだった。
「チクショウ! デプリばら撒きやがって!」
恨みがましい声でダニーが叫んだ。金星の周回軌道上に夥しい数のデプリがばら撒かれ、地上方向へ向かって様々なものが落下していった。僅かに残った部分もまたゆっくりと周回軌道の高度を維持できなくなるだろう。やがて金星の重力に捉えられ落下するはずだった……
「……全機、ハンフリーへ帰投する。後ろは振り返るな」
テッド隊長の言葉に導かれバードは進路を変えた。後方で何かが光っているような気がするが、それは意図的に無視した。間違いなく発光信号だ。しかし……
『Bチーム諸君 悪いがそのままネルソンへ来てくれ』
無線の中にエディの声が流れ、バードは無意識にテッド隊長機を見た。エンジンをアイドルまで絞りきり、慣性飛行を続けるテッド機の後姿には、言葉に出来ない哀愁が漂っていた。シリウス艦艇を見殺しにした隊長は何を思っていたのだろうか……と、バードは不意にそんな事を思う。
自分の手を汚しレプリの胎児を処分したバードだけに、間違いなく後味の悪い出来事だと容易に想像が付く事だ。あの船の中にはまだまだ『普通の人間』が居たはずだが、それら全て見捨てたテッド隊長もまた心の重荷と戦っているはず。
ふと目をやったシェルの両手が硬く握り締められていた。普段は開いた状態で必要な時だけ握られる筈の手が――だ。きっとそれは、テッドという人間の内心を表すものだと。バードはそんな事を思っていた。
――――金星周回軌道上 高度250キロ
金星標準時間 3月29日 1900
任務を終えネルソンへ着艦する頃、海兵隊のカンパニーラジオ内にシリウス艦艇が金星の地上へ墜落した報告が流れた。生存者はゼロで、金星を離れシリウスへと帰る算段だったシリウス系技術者500人以上が死亡したと言う事だった。
だが、バードにとっては、そんな事などもはやどうでも良い事だ。終わったことと気持ちを切り替えた方が楽なのだとエディに教えられ、それを実戦し始めたバードの心は自由だ。バードなりに悩み、考え、懊悩の果てに得た結論でもある。
そして、そんな事よりいま現状では初めて着艦するネルソンのシェル用デッキが使い慣れたハンフリーに比べ余りに小さく、その針の穴のような背面部の出入り口へ引っかけないように着艦するべく気を使う方が問題だった。
艦の全長が500メートル近い巨艦であるモンスーア級に比べ、ネルソンは全長僅か200メートル少々しかない小さな船だ。だが、その艦の表面には突起物がほとんど無く、全域に向かって様々なアンテナが伸びている通信機能に特化した構造が特徴の戦闘指揮艦である。
つまり、直接の交戦装備は殆ど無い上に、こんな事でネルソンの装備に被害を与えてしまったらBチームの立場まで悪くなるはず。細心の注意を払って接近したバードは、シェルデッキの入口へ僅かな姿勢制御だけで一発着艦をして見せた。初めてシェルで飛んでから半年と経過していないのだが、技量を大きく向上させているのだとテッドは静かにほくそ笑んでいた。
『この船なんでこんなに小さいのよ!』
シェルデッキのスタッフがエプロンフックにシェルを固定する間、コックピットから身を乗り出したバードはBチーム無線の中で小さな艦体を精一杯呪っていた。
『しかたねーだろ。砲戦する船じゃねーし』
『そーだぜバーディー。むしろ小せぇ方がいいだろ。流れ弾にもあたらねぇし』
スミスやビルも無線の中で言いたい事を言っている。口を突いて出てしまった言葉を後から考えれば、ちょっとわがままっぽい部分でも有ったと自嘲したバード。だが、そんな彼女はなんとなく視線を感じ、それほど大きくないシェルデッキの中を見回す。
『どうしたバーディ』
『……見られてる』
『見られてる?』
『視線を感じたのよ』
バードと一緒になって周りを確かめたロックは不意に天井方向を見上げると、そこには全く無表情で真っ白な顔をした女性がいた。スタッフルームのハッチ部分にある手すりをつかみ、無重力の環境下でフワフワと漂っている女性。
だが、その姿はあまりに異形であった。首から下は完全にロボットの様になっていて、白を基調とし青と銀に塗り分けられた軽金属と炭素複合繊維のカバーに包まれていた。そして、生身の兵士が使うパワードスーツの様に両肩と両足部にはスラスターノズルが口を開けていて、頭部の両耳部分にはアンテナのような突起が青い髪の中から突き出している。
その顔には陶器か、さもなくばプラスチックのような素材で出来た仮面が付いていて、その風合いを一言で言えば、ショッピングセンターにあるマネキンのようであった。
『……作業用アンドロイドかな?』
そっと呟いたバード。
『女性型だからガイノイドだろ?』
『そうだね』
ロックとふたりしてジッと見ているのだが、そのマネキンのようなガイノイドは僅かに手を振って、そして両足のスラスターを使って無重力環境下を流れて行き、スタッフハッチの奥へと入っていった。
『なんだアレ……』
バードの隣に居たロックもそんな事を呟く。そんなふたりの所へジョンソンがやって来た。流れるように無重力の環境を泳ぎながらだが。
『Dチームの紅一点さ。名前はロクサーヌ。超凄腕のCQBスペシャリストだぜ。なんせ何度シミュレーターファイトをしても、あのブルが切り刻まれる位だから』
ジョンソンの言葉に絶句したロックはヘルメット越しにバードを見た。
『Dチーム?』
『そうだ…… そういえばDチームを見るのはロックもバードも初めてか』
『うん……』
バードとロックはジョンソンに引率されネルソンの中へと入った。重力補償を行っているところに入り通路の床へ立つと、バードは緊張の糸が解けたようにホッとした表情を浮かべ、ロックと顔を見合わせ微笑みあう。
バードより約半年早くBチームへとやって来たロックだが、まだまだ知らないことも多いのだろう。彼にもまだまだ知らない事があるのだと、変な部分で安心したバード。ジョンソンは既に一人前判定を出しているが、とうのロック自身はまだまだ半人前だと自嘲している。
「Dチームって一番ヤバい所へ突入するの専門なんだってね」
「そうらしいな。俺も聞いただけだけどDチームは死んでも死亡扱いにならネェらしい」
「え ?なんで?」
「そもそも死んでる集団なんだってよ」
「凄い……」
言葉を失って考え込むバード。
だが、そこへいきなり聞き覚えのある声が響いた。
「Dチームは俺たちBチームの真逆な集団だ」
振り返ったロックとバード。通路にはテッド隊長がやって来た。そしてその奥にはエディがいた。直感としてバードは悟る。シリウス艦艇の出来事を報告したんだと。
「私たちの逆ってどういう事ですか?」
テッド隊長は窓の外に見えるゲイリーを指差した。船体の側面には燃え盛る炎に向かってジャンプするブリキの人形が描かれていた。
「俺たちBチームは基本的に適応率90パーセントを超える人間が集まっている。俺が30年掛けて集めたんだ。一番最後に来たバードは事実上100パーだし、ロックも今はほぼ100パーだろう。チームの中じゃドリーが一番数字が悪いが、それでも基礎データで92パー程度はある。今は身体に慣れているから95パー相当だ。ジャクソンにしろペイトンにしろ、そこらのサイボーグじゃ出来ない芸当をやっている」
何処か自慢げな調子でテッドは胸を張った。そんな姿をバードは誇らしげな眼差しで見ていた。適応率が事実上100パーセントという事でエリート扱いされるバードだが、正直に言えばありがた迷惑な部分でもある。自ら望んでこうなったわけじゃ無いのに……と、酒場で散々愚痴った事もあるくらいだ。だが今は違う。海兵隊の内部にいる限り、全てのポジションから頼りにされているのを実感している。そして、間違いなく尊敬の眼差しで見られている事も。
「だが、Dチームは逆で適応率60パー以下の人間が集まっている。チームの平均適応率は50を切って49パーだ。つまり、普通なら安楽死させられる重傷者や脳構造に問題がある人間ばかりを集めたチームなんだよ。そして……」
テッド隊長の表情が一瞬翳った。
重い話だとバードは直感した。
「Dチームは全員ハードボディ装備だ。俺たちみたいに人工皮膚で覆われていない、機械がむき出し状態なんだ。さっきお前が見たロクサーヌも含め、首から下はロボットそのまんまだし、頭部ユニットも機械じみてる者ばかりだ」
ハードボディという言葉にバードは言葉を飲み込んだ。首から下が事実上ロボットの様になっている姿のサイボーグは、バードが知る限り高度感染性細菌やウィルスなどを研究するスタッフか、さもなくば核関連産業に従事する被爆耐性を得る為にそんな姿になったケースが多い。だが、戦闘用サイボーグでハードボディともなると……
「あのチームの隊員は大半がアンドロイド状態だ。脳だけが人間で、身体はある程度自立的に動いている多重人格型っぽい部分がある。精神的に荒んでる者が多いから上手く付き合え。向こうから見たら俺たちはある意味で一番鬱陶しい存在で、しかも、羨ましいし妬ましいと思う存在だから」
何とも掴み所がない言い方で話を終えたテッドの姿を、バードは不思議そうな眼差しで見ていた。そんな頃合いになって、チームの面子が通路にそろい始めた。不思議そうにバードやロックを見たあと、なにかしらの説明があったのだと察していた。
「あっ、そうか。ロックもバーディーもDチームを見るのは初めてか」
ライアンがにやりと笑った。少しだけ鼻が高い風だが、その頭をスミスがグリグリと押さえつける。
「おぃライアン! 今回は大乱闘起こすんじゃねーぞ?」
「……しねーよ! ガキじゃあるまいし!」
ちょっと口を尖らせたライアンの態度で、バードとロックは何があったのかを理解した。ナチュラルにわがままキャラなライアンがひと悶着起したのだと。しかも、スミスの口から大乱闘という言葉が出た以上、あまり穏便ではなかったはずだ。
「よしよし。その言葉忘れんなよ?」
「そうだぜ。今回はトミーもいねぇしな」
ジョンソンとペイトンにも釘を刺されたライアンは、何処か少しだけムクレている様にも見えた。だが、いつまでもふて腐るほど子供でもないのだから、スッと気持ちを切り替えて表情を変えていた。
「さて、じゃぁ行こうか。サイボーグ大隊の第1作戦グループが結集したんだ。私の知る限り、おそらく史上初めてだな」
エディに促されテッド隊長を先頭にネルソンの大会議室へと入ったバード。普通、人の集まっている部屋というのは人間の体温で加熱され、不思議と暖かさを感じさせるものだ。だが、この部屋の中は他の船室と全く同じ室温でしかなく、むしろ妙な寒々しさを感じさせていた。
「バーディー!」
部屋に入ってすぐに声を掛けられたバード。声の主はホーリーだった。
その隣には見覚えのある男が立っている。冷静に記憶の糸を辿っていくと……
「アントニー!」
「おーっ! バーディー!」
背の高いホーリーだが、さらに一回り近く背の高い男だった。
短く切りそろえられた短髪はレディッシュゴールドで、しかも、眉毛やまつげまで同じ色だった。肌の色は恐ろしく白く、その瞳は海の様に蒼く深い。まるで絵画の中から出てきたような姿の男……
「……へー」
どこか剣呑な声で感心したロック。バードはその横腹を肘で突いた。
「あっ! ロックが妬いてる!」
「妬いてねーよ!」
「ふーん…… そーなんだ あーそー」
ロックとバードの掛け合いにライアンがニヤニヤと笑っていた。
「おぃロックよぉ」
「……んだよっ!」
「なーに不機嫌なんだよ」
「不機嫌じゃねーよ!」
あからさまに不機嫌で怪訝な表情のロック。その姿を中間達が指差して笑っている。そんな状態では益々不機嫌になっていくのだが、バードはロックの手をとってホーリーとアンとニーの元へと歩いていった。
「ダメじゃんロック!」
「あ! ホーリーまで言うか……」
口を尖らせてふて腐るロックの腕にバードが抱きついた。
「赤毛のノッポさんはアントニー。ドイツ系で私と同じ遺伝子疾患系で人間やめた口なの。ホーリーと同じくシミュレーター学校の同期」
近くに寄ってみたら、文字通り見上げる程のノッポだったアントニー。
上から見下ろされるロックにしてみれば、人種の違いを超えてもなお悔しがる所ではあるのだが……
「アントニーです。どうぞよろしく」
右手を差し出したアントニー。ロックは何処か不承不承にその手を取った。
「俺はロック。Bチームでバーディのチームメイトだ」
「そうでしたか。自分はCチームに所属していて、ホーリーと一緒でスナイパーなんですが……」
そんな自己紹介をしていたアントニーのところへジャクソンがやって来た。どうやらスナイパーという言葉に反応したらしい。その隣には全身金属製の外骨格を持つ細身の男が立っていた。ファッションモデル並みにほっそりとした体躯で、東洋系な顔立ちをした人間だった。
「へぇ、スナイパーか」
「そうです」
「俺はジャクソン。バーディーと同じBチームだ。で、こっちは……」
「ライト……ダ」
合成音声のような声を響かせて自己紹介した男は、ぎこちなく笑った。
「ワタしモ スイナパー を してイる Dちームメンバーだ」
そんなライトを指差したジャクソン。
ライトはぎこちない笑みを浮かべたままだった。
「ライトはこんな形だが腕はスゲーぜ。第1作戦グループじゃ最強だろうな」
「ホメすギだ ジャック おレのバアいは ゼンブジドウダ」
機械音声で話をするライト。その顔立ちは確実に日本人だという確信をロックもバードも持っていた。そして、あれほど不機嫌だったロックは、そんな事を忘れてライトを見ていた。
「ここに第1グループのスナイパーが全部揃ってんだね」
「そうだな。場数はライトが一番多いし、スコアも一番上だ」
バードの新鮮な驚きにジャクソンがそう答えた。そんな姿を見ていたライトは僅かに口を開いている。顎や舌を使う事無く、声帯部のスピーカーを使って声を出しているのだと気が付いた。
「キミのぽジショんはどこダ?」
まるでラジコン人形の様に動くライトの身体は、どこか動きが直線的だ。しかし、それでもなお人間の様に振舞おうとする姿に、バードはどこか心が震えていた。
「私はブレードランナー。そして、こっちのロックは……」
「CQB担当だ。鉄火場専門でどっちかというと死狂いなんで……」
「妬いたり怒ったりだけど、実は凄腕なんですよ」
そんな風に談笑している時だった。ふと、バードの背筋にゾクリと寒気が走った。それとほぼ同時か、ほんの僅かな後、ロックの手がバードを突き飛ばした。恐ろしい勢いで押されたバードはホーリーに抱きつく形で身体が止まるが、怒って振り返り何かを言い掛けて、そして凍りついた。
刃渡り1メートルを越える刃を右腕から伸ばしたロクサーヌがそこに居た。DチームのCQBスペシャリストがいきなりロックへと斬り掛かっていた。その彼女の刃を左腕に仕込んだソードブレイカーで受けていたロックは、右手一本で腰に合った短刀を抜き放ち、ロクサーヌの右腕を切り落としに掛かっていたのだった。




