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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第8話 オペレーション・シューティングスター
81/358

金星へ

 太陽系第二惑星『金星』


 古来より暗天に美しく眩く光るその姿から美しい女性の如しと讃えられ、或いは明けの明星・明けの明星と讃えられてきた惑星だ。


 そして、この惑星を物理学的見地から見ると、この星は中心核まで岩石で出来た地球と驚くほどの点で似通っていて、その意味では『兄弟星』と呼ばれていた。

 実際、惑星のサイズやその成り立ちなどを見ると、驚くほど地球と同じ構造の惑星なのだが、そんな金星には文明を生み出す生物を育む事が出来なかった致命的な欠点が一つある。なんとこの惑星は、自転軸が完全に倒立しているのだった。

 しかも悪いことに金星はその自転速度が極めて遅く、その結果として惑星の地表面は延々と太陽に焼かれる事になり、常識では計れない高温高圧環境となってしまっていた。


 創世記の地球がそうであったように、この惑星も成立当初は様々な成分の大気に被われていたはずだった。だが、太陽に焼かれ続けた結果、金星の地表は摂氏450度を軽く超え、地球では海や岩石に吸収され固体化していった二酸化炭素が濃密なまま大気に残り、結果として温室効果を押し上げる悪循環を引き起こしていた。

 その為、この星をテラフォーミングするに当たって最初に行われたのは、まず地表付近の温度を下げることだった。ただ、その厄介な熱をどうやって逃がすかが科学者達最大のテーマとなったのだが、その中で様々な可能性が検討され、最終的に得た結論は発電の為の熱媒体を加熱する熱源だった。


 神の定めしたった一つにして究極の摂理。熱力学第二法則により、熱を電気へと変換する作戦だ。そして、その莫大な電気は金星の上空にある極低温層との熱交換に費やされることになる。


 高温高圧な大気とは言え、その高度を上げれば相対的に気圧は低下し気温もそれなりに下がっていく。故に金星の惑星改造労働者は巨大なフローティングシティの上に暮らしていたのだが、その周囲に遮熱遮光幕を展開し、金星の地表を常闇の世界に変えて太陽からの熱を断つ計画が立てられた。ただ、金星を覆うような遮光幕をどうやって作り上げるのかは、なかなか解決できない難問だった。

 ところが、その問題は意外な形で解決された。地球上の二酸化炭素を分解するべく研究していた民間企業は、偶然にも二酸化炭素を酸素と炭素に分解してしまう働きを持った生分子構造を持つ生物パネルを作り上げたのだった。

 人工的な光合成により二酸化炭素は酸素と炭素に分離還元され、炭素はそのまま炭素繊維として遮光幕を生成する様にされたのだった。また、その遮光幕だけで無く、最大で90気圧を超える環境下な地表付近に加圧設備を作り、二酸化炭素を加圧して液化した後、今度は急減圧して気化熱を大気から奪い惑星自体を冷却すると言う気の遠くなるような作業をセットで行った結果、広大な遮光幕により太陽からの熱供給を失った金星の表面はゆっくりと温度の低下をはじめ、かつて最大摂氏500度に達していた金星の地表面は、作業開始から100年の月日を経てドライアイスの雪がシンシンと降り積もる、薄暗く、そして摂氏零度を大きく切る極寒の世界へと変貌していた。


 そんな金星の上空10キロ付近。


 20世紀の後半にフローティングシティを最初に提唱したジェフリーランディスの名を冠した巨大フローティングシティ『ジェフリー』は、金星開発の最大拠点として文字通り金星の空に浮かんでいた。

 かつては高度50キロ付近に居たのだが、地表付近の二酸化炭素が遮光幕やドライアイスとして固体化されるに従い気圧が降下していき、今では10キロ付近へと高度を下げている。 

 だが、今もなおジェフリーは空中に漂っている。自らが持つ酸素や水素・ヘリウムからなる浮力タンクと、そして、莫大な量で生み出される電気を使い地表方向へ向かって推力ファンを回し続け、金星の上空を文字通り漂っているのだった。


 地表付近にある分厚いドライアイスの層は、火星からのレプリカント輸送船が帰り道に持ち出し、火星や月面へと運び込まれている。炭素と酸素に分解した後で各惑星の大気改善に大きく寄与しているのだった。そして、およそ100年を掛けて金星の大気を調整し続けてきた結果、大気中酸素濃度が20パーセント少々まで上昇していて、ここから先は二酸化炭素ではなく窒素などを供給し大気調整作業の改良を完成させる必要があった。

 ただ、その作業を行うレプリカントの武装蜂起は一向に収まる気配が無く、地球圏における絶対安全宣言を出すには、一度金星を捨てねばならない状況に陥っていた。莫大な資金投入と犠牲を払って作り上げて来た金星における開発拠点の全てを棄てるのか否か。難しい決断の末に、国連金星開発委員会は作業の全てを一旦停止すると宣言。それはつまり、金星におけるフローティングシティを破棄するということだった。


 そうまでしてなお、シリウスの影響を排除しなければならない所まで来ている金星開発の現場へ、海兵隊は今まさに踏み込もうとしていた。指令は簡単で単純なものでしかない。抵抗する全ての敵を排除し、フローティングシティを含め、金星のすべてを地球の国連管理下に取り戻せ。難しい場合はフローティングシティごと地上へ落下させても構わない。


 つまり、金星におけるシリウス派の全てを排除せよ。それだけだ。


 バード達Bチームはジェフリーへの突入を求められた。未起動のままリザーブされているレプリカントがいる為だ。また酷い戦闘になる。そんな予感をバードは持っていた。そして、金星へは二度三度と来ることになると……








 作戦ファイル990325ー01

 Opelation:ShootingStar

 作戦名『流星』












 ――――金星周回軌道上 高度300キロ

      金星標準時間 3月25日 0700





 金星軌道へやって来たハンフリーは金星周回軌道をすでに100周以上回っていた。惑星の表面をすっぽりと覆う広大な遮光幕は白銀色に輝き、バードにとって初めて見る金星の姿は『とにかくまぶしい』以外に感想が浮かび上がらなかった。


「さて、諸君。ご覧の通り金星だ。言うまでも無いだろうが、面倒な星だ。だが、海兵隊にとってはその存在価値を試される惑星だ。したがって我々は下手を打つ事が出来ない。諸君らの勇気と、そして、真価が問われている。脅すつもりは無いが絶対忘れるんじゃない。決して抜かるんじゃないぞ?」


 ニヤリと笑いながらエディ少将はブリーフィングを続けている。

 ハンフリーのウォードルームでは金星の地上へ降りるA・B両チームの士官と海兵隊第一遠征師団隷下にある五つの大隊すべての士官が話を聞いていた。

 ふと窓の外を見たバード。その目には国連宇宙軍の第一艦隊旗艦であるホレーショ・ネルソンが見えた。ネルソン級戦闘指揮艦のネームシップであるあの船は、自分の命と引き換えにトラファルガー海戦を勝利に導いた稀代の提督であるネルソンの名を冠する船であり、そして、宇宙軍艦隊全ての旗艦をかねていた。


「さて、では先ず現状の再確認だ」


 エディの後を受けたアリョーシャが状況の説明を始めた。

 巨大モニターに次々と映像が表示され、各士官が食い入るように見ている。


「金星におけるテラフォーミングは基礎的作業の最終段階へ来ている。つまり、金星におけるCO2は大半がドライアイスなどに姿を変えた。地表付近の気圧は過去には最大で90気圧に達したが、現状では最大でも2気圧程度で収まっている。故に地上での戦闘は余り問題では無い。だが、我々は地上では戦闘を行わない。地上は地球から来る海兵隊の中央即応団が受け持つことになっている。つまり、地上側の準備完了を待って我々はフローティングシティへ突入する」


 金星のテラフォーミング手順から説明を始めたアリョーシャの声を聞いているバードは、手にしていた書類の端にアレコレとメモ書きをしていた。

 本来であればそんなモノは必要ないのだが、この辺りの細々した部分ではやはり神経質で心配性なバードの一面が顔を見せている。


「ここで重要なのは、フローティングシティの制圧では無く、シリウス側の反撃手段を全て事前に奪っておくと言う事だ。金星は2年後に準衛星2002VE68を使って自転軸倒立の補正を行う。具体的に言えば、準衛星の軌道を変更し、金星の表面へ激突させる作戦だ。これにより金星の自転軸をたたき直し、地球と同じように自転軸をまともにしてやる」


 そんな姿を横目に眺めながら、ロックはこの日のバードがここ数日で一番いい顔をしていると思っていた。サイボーグとは言え内面的な不安や葛藤で表情は大きく変わってしまう。そんな部分を再確認することで、やはり自分は・自分たちは機械では無いと再確認して安心しているという部分も否定出来ないのだが。


「バーディ」

「なに?」

「なんかあったのか?」

「なんで?」


 不思議そうな顔でロックを見たバード。僅かに首を傾げ薄笑いを浮かべている。その姿にロックは思わずグッと来てしまうのだが、表情に出ないよう必死で堪えた。


「なんかいい顔してるよ」

「美人系?」

「どっちかというと充実してる人間系」

「……良くわからない」


 ウフフと笑いながら再びメモ魔になっているバード。そんな姿を眺めつつ、ロックもまた手順説明にもう一度意識を向けた。かなり極限環境な金星では戦闘手順を間違えると死に直結する。


 ――――まだ死にたくねーしな


 ふとそんな事を思ってもう一度バードを見たロック。この日、バードの唇にいつものルージュが無かった。ちょっとだけ首を捻ったロック。バードはそっと手を伸ばし、そのロックの顔をモニターへ向ける。


「集中するのはあっち」

「オーケー」


 薄笑いを浮かべモニターを見つめるロック。その横顔をチラリと見て、そして満足そうな薄笑いを浮かべてバードもモニターを見ている。そんな二人の姿を離れた場所で見ているエディは、優しげな眼差しで見ていた。


 バードは引きずってない


 そう判断しても良さそうだとエディは確信した。難しい局面で厳しい判断をし辛い決断を行って、そして、最悪の作業を引き受けて、完遂した。文字にすれば大したことでは無いのだが、その作業の内容を考えれば、まだまだ人間的に幼いと言って良い女の子にやらせる事では無かった筈だ。ある意味で一番後悔していたのがエディなのだった……


「さて、ここで問題なのは金星の地表側だ。ここには本来フローティングシティを防御する為の地対空ミサイルが設置されている。ここは地球から来るCチームとベルトに駐屯しているDチームの到着を待って地上拠点を一掃する地上戦が開始されることになっている。つまり、我々の仕事は金星へ来る増援を待ち、地上の基地を片っ端から攻撃し、併せて地上からのサポートが切られたフローティングシティを勢力下に納めることだ」


 モニターの上にフローチャートが示された。

 そして太陽の周りを公転する金星や地球、火星の位置が詳細に表示されている。


「ここから半年間、太陽とシリウスの間には地球が入り、太陽の裏側辺りに向けて金星が引き込まれる形になる。つまり、シリウスサイドから見れば金星拠点が地球より遠くになってしまうと言う事だ」


 巨大モニターには太陽を公転する各惑星の位置配置がどんどんと変わっていく動画で表示された。その隣には日付表示があって、タイムスケジュールが何故重要なのかを教えていた。


「そして、金星が太陽の裏を抜ける頃には金星とシリウスの間に火星が入る。火星も地球サイドが強い拠点であり、また、火星におけるレプリ供給源は完全に機能を停止している。つまり、この半年間はこっちが有利だ。故に、一気にベルトの内側を掃除すると言う事だ。理屈としては簡単なモノだろ?」


 どや?と言わんばかりの顔でアリョーシャが説明している。シリウスサイドの補給線は外太陽系にある各拠点を経由して居るのが解っているのだが、外太陽系エリアでは表だって戦闘を行っていない。現状の外太陽系は各企業などが作った補給プラントなどを束ねた自治組織による半独立集団として機能している為だ。

 その補給プラントなどで生産されたシリウスサイドの戦闘兵器を輸送するにはメインベルトを横切り、更に地球か火星の防衛線を突破して金星に到達せねばならないと言う事に成る。

 つまり、彼らシリウスの戦術的限界点への距離がウンと離れ、しかも、手ぐすね引いて待ち受ける地球サイドの防衛線が二本あると言うことになる。

 そして消耗品として割り切れるレプリの供給源はすでにつぶされている。火星でも地球でもレプリカントは生産されていない。つまり、シリウスサイドは外太陽系から人を入れるか、遠くシリウスから長い長い距離を宇宙船で航海してきて戦闘に参加する事になる。


「ベルトにはEチームが残っている。Fチームは土星、Gチームは木星、Hチームは天王星に陣取っている。各地点でODSTの兵士と一緒にだ。外太陽系の各拠点で防衛体制を固めているので、シリウス側も迂闊には各惑星の拠点を使えない。と言っても、木星や土星は位置的にどうしようも無い場所だがな」


 太陽とシリウスを結ぶ線と木星―土星を結ぶ線のふたつは、現状ではほぼ直角に交わるような状態だ。シリウスサイドから見れば人を送り込むのに一苦労で、尚且つ、送り込んだ人が金星に行くのも一苦労。

 そして、天王星はシリウスから見て便利な位置へ入るまでにあと3年ほど掛かるあたりをゆっくりと公転している。つまり、海兵隊としてはその前に金星を片付けたいと言う事だった。バードの脳裏に浮かぶタイムスケジュールのデットラインは、おおよそ3年程度と言う事に成る。


「金星の地上戦はかなり手間だろうと予想されている。地球上で言えば常に明け方程度の明るさしか無い環境で、しかも平均気温は氷点下22℃だ。ドライアイスの雪がしんしんと降るエリアともなると、一気に気温が下がり恐らく氷点下40℃程度の極限環境になる。我々はシリウスの地上戦力と戦うだけで無く、金星の苛酷な地上環境とも戦う事に成る」


 モニターの表示が再び切り替わった。地上における環境情報だ。平均気温や大気の組成などが詳細表示されている。少なくとも……生身が気軽に行って良い場所じゃ無いのは、バードにもすぐにわかった。


「現状、金星の地上は大気組成で見れば地球と変わらない。酸素と窒素の比率は21:79で安定している。かつて地上付近にあった二酸化炭素はドライアイスに姿を変えてあるし、着々と火星や月へ運び出されている。だが、地上では常に酸素の携帯が必要だ。場所によっては二酸化炭素濃度が7パーセントを越えている。マスクを取って一呼吸すれば、魂だけが戦線離脱という状態だ。ヴァルハラへ早く行きたいと言う人間を引き留めはしないが、各員はどうか課された義務を確実に遂行する事を期待する。仕事さえ果たせば、後はヴァルハラへ行って良い。もっとも、私個人としてはヴァルハラより地球へ帰りたいがね」


 そんなアリョーシャの言葉に皆が大爆笑した。生身のODST士官達は目にやる気を漲らせている。ある意味で恐ろしいテンションなのだが、それはどうやらBチームも同じらしいとバードは気が付いた。まるで遊びに行く男の子達のようにして、チームの面々が笑っているのだった。


「しっかし…… こんな星だと思わなかったぜ」


 ぼそりと呟いたロックの言葉にライアンやダニーが笑っている。


「お熱いふたりを冷やすにはちょうど良いぜ?」

「まったく何処でも盛りやがって。少しは冷えろってんだよ」


 ジェラシー剥き出しの口を尖らせるライアン。そんな姿を仲間が一斉に冷やかす。ライアンはライアンで、その冷やかしに苦笑いを浮かべる。皆に愛されるわがままキャラなライアンだが、表裏が無い性格はロックとそっくりだとバードは思う。


「ロックも金星来たこと無いの?」

「あぁ 初めてだ」


 バードの質問に少しぶっきらぼうな口調でロックが答えた。そこへ声を掛けたのはジョンソンだった。ドリーと顔を見合わせニヤリと笑う。


「実は俺も初めてだ」

「うそ!」

「そして……」


 ジョンソンが指さしたドリーも笑って言う。


「実は俺も初めて地表に降りる事に成る。空中都市には何度が来ていたんだがな」


 苦笑を浮かべる面々を眺め、素人が自分だけじゃ無いとバードは分不相応にも変な安心を覚えた。


「地表に限らず金星上ではヘルメットの常時装着と言う事だな」


 ジョンソンの言葉にバードは首を傾げる。

 サイボーグなら問題ないはずだが……


「なんで?」

「俺たちにつられて生身が不用意にメット取ったら、場所に寄っちゃ即死だろ?」

「……あ、そっか」


 ニヤリと笑ったジョンソンはバードを指さして言う。そして、ドリーもまた笑っている。これから場数を踏んでいく筈の、まだまだ半人前な人間だ。だが、下士官以下はみな、士官だと見ている筈だ。


「そういう所も気を使わなきゃダメだぜ。何せオフィサー(士官)様だからな」

「……はい」


 少しだけ小さくなって神妙に応えたバード。

 その頭をグリグリとジョンソンが押さえた。


「俺やドリーだって少尉の頃があったし、馬鹿みてーなドジも散々踏んだ。勿論、嫌なことも汚れ仕事も散々やったさ。そして今がある。だから、今のうちにドジ踏んどけよバード。少尉でドジんのと大尉でドジんのじゃ意味が全然違うから」


 そんなジョンソンの言葉にBチームの中尉達が微妙な顔で笑っていた。まだまだアリョーシャの戦略説明が続く中、バードは一言一句聞き漏らすまいと真剣に耳を傾けていた。だが、仲間内のこっそりとした雑談が終わった時、ロックは我慢ならずにバードへ声を掛けた。


「バーディ」

「なに?」

「……今日はルージュ無しなんだな」

「毎日使ってるとすぐ無くなっちゃうから」

「そっか……」


 ちょっとだけ残念そうなロックの声にバードは驚く。

 だけど、ブリーフィングを疎かにして良いわけじゃ無い。


「……ロック以外にルージュをひいてる姿見せるの勿体ないしね」


 呟くようにそっと囁いたバードは、流し目でロックを見て薄く笑った。そんな姿を見たロックは、とっくの昔に無くなったはずの心臓がドキリと不整脈を撃つ錯覚に捕らわれた。


「……ロック」

「なんだ?」

「もっと集中して」

「……わりぃ」

「この作戦は……ヤバイよ」

「だな」

「……先に死んじゃ嫌だからね」


 隣に座るロックの手をそっと握ったバード。無いはずの温もりを感じたロックは、その手を握り替えした。


「あぁ。頑張るよ」


 手を繋いだままブリーフィングを聞くふたり。アリョーシャはそれに気を止めず説明を続けていた。


「さて、地上戦力展開の手順だが――」


 モニターの表示が再び変わり、太陽系メインベルト内側の各惑星配置状況が表示された。月だけで無く地球からも直接的に金星を目指す集団が居ることが分かる。

 月面にいるほぼ全ての海兵隊が投入され、さらには地球に居る海兵隊中央即応団およそ20万人が展開することになる。そして、宇宙軍により輸送される地上軍の精鋭部隊50万も投入される事になるようだ。


「見ての通り、地上掃討の主力は海兵隊だが、地上軍の精鋭部隊にも応援を受ける事に成る。金星への侵攻を前提に長らくトレーニングしてきた地上軍だ。聞いた話だが、完全密封型のアーマードスーツを装備しているそうだ。つまり」


 一度言葉を切ったアリョーシャはウォードルームの士官を見回した。

 どの顔を自信に溢れた歴戦の勇士だと思った。


「きっと我々の足手まといにはならないだろう。上手く連携し、仕事を速やかに片付けよう。そして、浮いた時間でバカンスを楽しもう。なんせ時間的猶予は大きいからな」


 アリョーシャのそんな言葉に皆が笑った。勿論バードもロックも笑った。本当に厳しい戦闘になるのは間違いないだろう。そんな予感を持つなという方が無理だ。しかし、それでもなお、自らを奮い立たせて事に当たらねばならない。

 バードの目に映るモニターには、金星へやって来ると思われるシリウス側の支援艦隊ルートが表示され始めた。ベルトの辺りに隠れているはずのシリウス遠征艦隊だ。


「最初のステップは、まず地上戦力の金星降下からだ。我々は降下班を全力で支援する。具体的に言えば、まず金星の地上にある地対空兵器の全てを破壊し、次に金星降下中の仲間を護衛し、そして金星の地上へ待ち構えているシリウス側へ襲いかかると言う事だ。地上戦が始まったら、我々の主な任務は支援が無くなったフローティングシティを制圧する事だが、同時進行で金星へ増援にやってくるシリウス軍艦艇を攻撃する事になる」


 モニターの表示が切り替わり、バード達は目が点になる。

 そこに表示されているのはシェルだった。


「地上も宇宙もシェルを使って戦闘を行う事になる。金星の大気圏内ではドルフィンエンジンだ。地球上と変わらないが、一つだけ注意して欲しいのは地表付近で遠慮なくエンジンを吹かすなと言う事だ。ドライアイスはいとも簡単に昇華して二酸化炭素へ姿を変える。ここまで散々苦労したのだから、余り手間を増やしたくない」


 大気圏外でシェル戦闘をした事の無いバードは、一瞬だけ不安げな表情を浮かべた。考えてみればシェルで実戦を行ったのは地球上だけだ。大気圏外ではエディとの鬼ごっこが精一杯で、後は機動運動訓練程度だった。


「シェルで実戦だね」

「あぁ。考えてみれば大気圏外でシェルを使った戦闘ってやった事無いな」

「え? ほんとに?」


 ロックは少しだけ不思議そうな顔を浮かべた。


「シェルを使ってやり合う相手が居なかったってこった」

「……そうだね」


 顔を見合わせて不敵に笑うロックとバード。

 火と鉄の試練は、すぐそこまでやって来ていたのだった。

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