火星、再び
火星周回軌道、高度350キロ。
火星のの赤道付近は、多くの国連宇宙軍艦艇で賑わってた。
およそ70隻が集結するその付近には、強襲降下揚陸艦ハンフリーの姿もある。
多くの艦艇がアクティブステルスモードを選択しておらず、むしろ積極的にレーダーに映るべく、様々に活動を繰り広げていた。
状況把握に努めたい側のモニターへ丸映りなのを全部承知での航行。
それはある意味で、宇宙軍のデモンストレーションとも取れる行為だ。
その中心はアメリカ海軍宇宙艦隊の最新鋭なモンタナ級戦列艦5隻。
強力な地上攻撃兵器を装備した戦列艦は、先の渋谷砲撃をやり損ねた腹いせを狙っていた。
その艦隊の周辺にはニミッツ級の後継となる新鋭のエンタープライズ級宇宙空母が2隻含まれていて、宇宙と地上を往復できる全域戦闘攻撃機が続々と戦闘発進を続けている。
それはまさに、火星の地上へ向けた総攻撃がいよいよ始まるのだ……と。
地球側シリウス側の双方に対し、雄弁に物語っていた。
作戦ファイル99030ー13ー01
Opelation:Silver Burette
作戦名『銀の弾丸』
――――火星周回軌道上 高度300キロ
火星標準時間 3月13日 0700
「では、もう一度手順を確認する。絶対に忘れてはいけない」
ハンフリーのハンガーデッキ。
エディ少将は戦闘服に身を包み、作戦手順を説明していた。
その姿はまさに、一緒に降下する気満々と言った様子だ。
「エリシウム島のシリウス秘密基地は地下にある。ここは艦砲射撃で焼き払う予定は無い。活火山ゆえに下手な事をすると火星規模でえらい事になる」
Aチーム40名。Bチーム12名。
合計52名のサイボーグが作戦に動員されている。
さらには海兵隊第一遠征師団の二つの大隊が降下準備を整えつつあった。
「面倒だが人海戦術だ。Aチームは港湾施設。Bチームは地下基地の制圧が任務だ。両施設とも規模としてはごくごく小さなものだ。制限時間は3時間。それで全てを終わらせる」
説明を続けるエディ少将の隣。
マーク大佐とアレクセイ大佐のふたりも地上へ降りる準備を整えていた。
その姿はまさにやる気満々と言った風で、自信を漲らせていた。
「両施設から逃げ出した連中は周辺に降下したODSTの火線で始末する。全員くれぐれもぬかるんじゃ無い。最も優先するべき事はタイムスケジュールだ」
モニターの表示が変わり、バードの初陣だったタイレル社の工場が表示された。
今更再確認する必要性すら無く、バードには工場内部が手に取るようにわかる。
「第2段階としてタイレルの本社工場を焼き払う。これで太陽系におけるレプリカント生産工場はなくなる筈だ」
「何で工場を焼き払うんですか?」
バードはいきなり手を上げ質問した。
エディがニヤリと笑ったのだが、それに応えたのはアリョーシャだった。
「何処かはわからないが、大規模にレプリを密造している可能性があるんだ」
「密造……ですか?」
「そうだ。先の中国での戦闘で君が処分した大量のレプリ兵士だが、後から調べたら火星工場製では無い事がわかった。そして、どうも中国が怪しい」
バードの中にイメージとして浮かび上がっていた物の点と線が繋がる。
つまり、今次作戦における最大のテーマは……
「説明する前にバードが質問してしまったから手間が省けたが、今度は私に言わせろ。良いな?」
「申し訳ありません」
エディの苦笑いにバードが肩をすぼめて申し訳なさそうにしていた。
それを見ていた生身の士官達がクスクスと笑った。
「まぁいい。話を続ける。とにかくここで重要な事は、火星に居座るシリウス派を一掃することだ。おそらくブルースターが相当深いところで関わっている。ここを吹っ飛ばし、残っているデータを根こそぎ破壊して後顧の憂いを絶つ。責任は重大だ。民間人が多数居るだろうが、残念ながら逮捕で済まない。確実に仕留めろ」
民間人を殺せと言うオーダーにODST士官達の表情が硬くなった。
もちろん、バードもだが……
「時間が無いからとにかく仕事を先に進めてくれ。遅れは絶対に許されないが、早い分には一向に構わない。最短で五時間後に艦砲射撃が開始される。現在は戦列艦への弾薬補給が行われている状態だ。いくら我々が優秀で強力でも、大気圏外から降り注ぐ主砲弾の直撃には耐えられない。これに耐えうる装甲は地球人類には存在しない。小規模隕石と同じ威力だからな。故に、目標は2時間だ。相当忙しいが、何より自分の命が掛かっている。気を引き締めて事に掛かってくれ。以上だ」
バードはなんとなくチームメイトを見回した。
民間人を手に掛ける前提の戦闘降下前だと言うのだが、Bチームは相変わらず緩い空気だ。しかし、Bチームの隣に陣取るAチームは、Bチーム以上に緩い空気を醸し出している。
サイボーグ達が漏らす緩い空気には、面倒はチャッチャと終わらせようと言う変なベクトルのやる気が漲っているのだった。
「で、俺たち何するんだ?」
マガジンに銃弾を装填しつつ、ペイトンは抜けた声でジャクソンに声を掛けた。
そのジャクソンは、愛用するLー47のスコープに浮かび上がるレクティルの調整を続けている。
「要するに七面鳥撃ちに行くんだろ?」
「ただよぉ、フィールドインフォを見る限り、なんだか過去最低にしょぼいぜ。地上4階地下2階のビルだ。制圧に必要な時間は多分30分だろ」
ジャクソンの声を聞いてやる気無さそうに答えたのはスミスだ。だが、彼はMGー5の銃身をいくつも並べ、スペアが全部規格に納まるか確認を続けていた。
熱により銃身交換が必要になった場合、現場で装着不能な事態ともなれば死に直結する。それ故、仕事がショボイと愚痴った筈だが表情は真剣だ。
そして、ちょっと呆れ気味なスミスの声を受けて応えたリーナーも『今回ばかりは面倒だ』と言わんばかりに乗り気ではないようだ。爆発物の設置や処理を行う七つ道具を確かめながら、ブツブツと呟いている。
「どっちかって言うと、ここを艦砲射撃したほうが早いんじゃないか?」
「でも、それやると火山に火が付いてえらい事だぜ?」
Cー26のバッテリーを確かめたライアンはチラリとロックを見た。
相変わらずソードの手入れを怠らないロックは真剣な表情だった。
「俺とかスミスじゃなくて、ロックとペイトンが大活躍だな」
「なんで?」
振り返って話を聞くバード。いつも愛用する自動拳銃のドラムマガジンに弾薬を積め、今回は4つ持って降りる準備をしていた。渋谷では2個で足りなかったので4個にするのだから、つくづくと心配性だと皆が見ていた。
「だって、エリシウム島だって活火山だ。派手にどんぱちやって向こうがヤケになったらマズイだろ。ならロックとペイトンに行ってもらって、片っ端から切り刻んでもらう方が良いだろ」
ヘラヘラと笑っているライアンだが、ペイトンとロックは顔を見合わせて笑っている。その笑みには凶悪なまでの殺気があった。
「俺は一向に構わねぇけど、ペイトンは嫌なんじゃねぇ?」
「あっ ロック! てめぇ 俺のこと信用してねぇな?」
「俺は別に100人でも200人でも切り刻んでやるけどよ」
クックックとかみ殺した含み笑いでロックとペイトンは顔を見合わせた。
「まぁ、レプリはバーディーに任せるし、逃げ出す奴らはジャクソンの範疇だし」
「建物の中でCQBやるなら俺とロックだわな」
なんとも楽しそうに支度する姿は、まるで遊びに行く前の小学生だ。
「とりあえずこれはステップ1だ。マズる事は考え難いが、今次作戦の先鞭は俺たちがつける事になる。全員抜からないでくれ」
ドリーの言葉で場が絞まり、全員がハンガーデッキに並んだ。
渋谷作戦の時の重装備と比べれば、街角のコンビニへ買い物に行くような気楽な装備だった。バードはライフルすら装備せず、拳銃だけで降りる腹積もりだ。
「バーディーはライフル無しかよ」
「場所が狭いからこっちの方が取り廻しし易いでしょ」
「打撃力足らなくね? パンツァーファウストくらい持っていけよ」
「ロックも持って無いじゃん。ソード主力装備の人に言われたくないなぁ」
「俺は前衛、バーディーは後衛。カバーしてくれれば良い」
「だけど、間違って当たるかもよ?」
「バーディーに撃たれて死ぬなら本望だぜ。ちゃんと看取ってくれよ?」
ロックとバードの掛け合いを皆がニヤニヤしながら聞いている。
「つぅかお前ら」
ジョンソンが極めつけの苦笑いを浮かべていた。
同じようにライアンもぼやく。
「そこらのカフェでくだらねー話してるAirHeadみてぇだ」
そんな言葉にBチームが大爆笑した。
「おぃライアン。こんな時に妬いてんじゃねーよ」
すかさず冷やかすビルの言葉にライアンが『やられた』という表情を浮かべる。
そんなライアンを見ながらバードが笑っている。今日も桜色のルージュを塗ったバードの唇に、ロックは思わず口内の洗浄液を飲み込んだ。まるで生唾を飲むような振る舞いをした自分自身を自嘲しながら。
「まぁいいさ。それより、そろそろ出番だ。行くぞ。気合入れて行け」
最後まで黙って聞いていたテッド隊長が場を絞め直し、Bチームの各員は降下艇へと乗り込んでいく。内太陽系からシリウス派を一掃する巨大作戦。ピンボールプランが始まろうとしていた。
「余り再確認するような事じゃ無いけど」
バードの声が沈んでいる。
「とにかく全滅させるのね?」
「あぁ、そうだ。情報をよそに漏らさない事が大事なんだ」
アリョーシャは逡巡なく答えた。
バードの表情に困惑の色が浮かぶ。
「渋谷でアレだけの事をやったし、今更カマトトぶった事は言わないけど……」
「俺たちゃ極めつけに損な役回りさ。怨まれ役の汚れ仕事は大好物ってな」
皮肉な物言いで場を笑わせるシニカルなジョンソンの存在は、こんな時には実に役立つのだとバードも思う。だがそれは、損な役回りを甘んじて受ける慰めにはならない。間違い無くシリウス側から一番怨まれ憎まれ、復讐を誓われる存在だ。
「下手に生き残り作ると返って面倒だ。後腐れ無いようにしっかりやろうぜ」
ビルの言葉に頷いてから、バードはハンドグレネードの安全ピンをもう一度確かめた。理由など無かったのだが、不意に気になったのだった。
「どうした?」
バードの仕草にドリーが怪訝な顔だ。
そして、ドリーの言葉でバードを見たBチームの面々。
バードは自分のハンドグレネードを確かめてから言った。
「みんな、もう一度ハンドグレネードの安全ピン確かめて」
何故?と聞く前にBチーム全員がハンドグレネードを確かめた。
今さらその理由を確かめる者など居なかった。
「あぶねぇ!」
突然ダニーが声を上げた。
作動雷管の安全レバーを握り締め、一度安全ピンを引き抜いてから慎重に差し込みなおした。三段階ある安全ピンの引き抜け防止スナップが最終段まで進んでいたのだった。
降下艇の中においてあった非常防爆箱の蓋を開け、リーナーが爆発物処理を待機している隣。引きつった表情のダニーは安全ピンを確かめてからリーナーにサムアップを送る。
「バーディーのおかげで死なずに済んだぜ」
苦笑いを浮かべたダニーは思わず座り込んで、今度はバードにサムアップを送る。他の面々も引きつった笑いを浮かべている。様子を見に来たAチームのディージョ隊長も驚いた表情だった。
「しかし、バーディーの勘はすげーな」
「全くだ。しかし、何で安全ピンが気になったんだ?」
ペイトンとビルが顔を見合わせた。
降下艇は既に火星大気圏へ進入していて、機体が上下に揺れ始めていた。
「うーん。なんとなくかな。だけど、なんか視界に入ったら気になったのよ」
「虫の知らせって奴だろ。とんだ厄落としだぜ。まぁこれで今回は大丈夫だな」
首をかしげたバードだが、ロックはどこか抜けた調子だった。
メンバー全員が改めて安全装備を再確認する中、ドリーはバードを指さした。
「現時点でMVP最有力候補だからな」
「……え? 喜ぶ……べき?」
「当たり前だ」
「ジョークならジョークで終わって欲しいけど」
一瞬渋い顔をしたバードを皆が見た。
肩を窄めて困った表情のバード。
「大体ジョークじゃなくなるんだよなぁ……」
そんなバードを指さしてライアンが渋い表情を浮かべた。
「やめろよバーディー」
「そうだ。バーディーが言うと本当にジョークがジョークじゃ済まないから」
ペイトンまで妙な顔をしている。
だが、それでもヘラヘラと笑えるのがBチーム。
いつの間にか降下艇は一気に高度を下ろし、火星の上空20キロを飛んでいる。
それほど大きくない窓の外に火星の青い空が見えた。
「さて、じゃぁこっちはそろそろ行くぞ?」
「あぁ。地上で合流しよう」
ディージョ隊長が手を上げテッド隊長がそれに応えた。
鈍い音を立てて降下艇の後方ハッチが開き、Aチームは次々と火星の空へ飛び出していく。
最後尾に近い所で振り返ったホーリーは、バードに向かって手をヒラヒラと振って空へと躍り出る。バードも手を振ってホーリーを送った。抱えていたLー47狙撃ライフルの銃身はジャクソンの仕様よりも若干短いように見えた。
「ねぇジャクソン」
「あぁ、言いたい事は解る。彼女のヨンナナはミドルバレルだ」
「当たるの?」
「腕が良けりゃな」
ジャクソンは自分の腕をポンポンと叩いてバードに見せた。
自信の表れでもあり、また、スナイパーの現実でもある。
「2000メーターとかロングレンジでなけりゃ問題ねぇよ。当てる自信が無ければ当てられると確信する所まで前進すれば良いし、前進出来なきゃ的がこっちに来るのを待ってれば良い」
「そうだね」
小さな窓から下界を眺めるバードは火星の空に花が咲くのを見た。
Aチームの黒いパラシュートが次々と火星の空に開いていた。
自分のパラシュートを再確認して、それから、ロックの背中を確かめる。
「俺たちも飛ぶぞ。一気にケリを付ける。1時間で終わらそう」
皆が一斉に降下ヘルメットを被った。完全防弾のヘルメットなので、バードの視界がヘルメットの全周カメラに切り替わる。
『全員準備良いな?』
会話が無線に切り替わり、メンバーが準備良しを返答する。
テッド隊長はいつものように『では、神のご加護を』と呟いて、最初に火星の空へ飛び出した。その後ろをメンバーが続々と飛び立ち、バードはしんがりを飛んでいた。
エリシウム島の浮かぶヘラス海は青々と輝いている。初陣以来なんどか火星の空を飛んでいるが、なんとなく戦闘降下はこれが最後だとバードは直感した。そして突然、脳裏へ父母の顔が浮かんだ。優しげな笑顔を浮かべている。
――――こんな時に…… なんで……
理由を考えるのだがどうしても思い当たるふしは無い。考えるのを止めて地上へ意識を集中したバードの耳へディージョ隊長の声が流れた。
『こちらAチーム。所定位置についた』
『Bチーム了解』
テッド隊長の声が聞こえ、いくつかデータが更新される。
視界の中にAチーム各員の配置がオーバーレイされた。
港湾地区へ降下していったAチームは散開陣形を取ったようだ。
『ところで地上拠点ってどこだ?』
『全然見えねぇな』
『小さすぎんだろ』
ジャクソンのぼやきにスミスとペイトンが反応した。
それに続きジョンソンが呟く。
『シリウスの連中は勤勉で生真面目だからな。精一杯偽装してんだろうさ』
皮肉混じりなぼやきにメンバーがひとしきり笑う。
そんな中、バードは表現できない違和感を感じ、それを振り払えずに苦しんだ。
――――なんか変だ なんだろう これ
視界に浮かぶ高度情報はあっという間に1万メートルと切った。
続々と数字が減っていき、対置距離が迫ってくる。
『高度8000』
冷静に数字を読み上げた筈のバードだが、不思議な焦燥感に腰が浮いているようだ。落ち着かない感覚を表現する言葉が思い浮かばず、自分自身でこれでは危ないと思っているのだが。
『MANPADS!』
突然ジャクソンの金切り声が響いた。
バードの視界にミサイルがハイライト表示され、ターゲットと推定されるメンバーの名前がミサイル部分にオーバーレイされている。
六発か七発程が空へと駆け上ってくるのだが、バードはこの時点で主兵装が拳銃であることを悔やんだ。
『全員散開しろ! 勝手に死ぬなよ! まだまだ先は長いぞ!』
テッド隊長の怒声と共に風を受けてバードは西側へ流れた。
幸いにして自分へ向かってくるミサイルは無いが、仲間が危ない。
降下中に拳銃射撃した事は無いが、撃たないと言う選択肢は考えられなかった。
空気抵抗を受け腕がぶれるも、有効打撃距離を逆算して有効打撃散布範囲へ制圧射撃を試みる。11ミリの銃弾だが、何かしら効果を期待するしかない。
『バーディー! 撃つな!』
突然耳に響くジャクソンの声。
あと僅かまで引いていた引き金を戻したバードの眼がジャクソンを見る。
『どうするの!』
『これで叩き落す!』
ジャクソンは空中でLー47を構えた。
鋭い射撃音が空中に鳴り響き、次々とミサイルが撃墜されていく。
――――すごい!
バードはあっけに取られて見ていた。
だが、バードの脳内には速度警告が鳴り響いた。
対地距離3000を切ったにも係わらず、降下速度を殺しきれていないのだ。 早い段階からパラシュートの展開を求められると、空中で良い的になる時間が長くなる。つまり、それだけ死ぬ危険が増す。
慌てて風を受ける面積を最大にして速度を殺すべく努力するのだが、速度が乗りすぎていてあまり効果を期待できない。ほとんど速度を落とす事が出来ず、バードは瞬間的にパニックに陥った。今度は脳裏に兄、太一の笑顔が浮かんだ。
必死に頭を振って邪念を振り払ったバードだが、精神状態は既にまともじゃ無い所まで混乱を極めている。
『バーディー! 小型パラを予備展開しろ!』
ドリーの声で我に返ったバードはサブパラシュートを展開した。
グッと速度が落ちて安全速度をやや下回った所で予備パラシュートを収納し、改めて地上配置を確かめる。
『落ち着けバーディー。緊張するにはまだ早い』
無線の中にビルの声が流れ、バードは少し救われたような気がしている。
だが、戦闘は待ってくれないのだという事を直後に痛感した。
『マジかよ!』
ジャクソンの絶叫が無線に流れた。
同時に全員の視界に地上で銃を構えるシリウススナイパーの姿が映った。
民生向けの精密射撃ライフルにスコープを乗せたモノが空に向けられていた。
『SHIT!』
再びジャクソンが狙撃ライフルを構えた。
地上まで二千メートルを切っているのだが、反撃しないと言う選択肢は無い。
パラシュートを広げた瞬間撃たれるのは目に見えている。
しかし、もうパラシュート展開しないと危ない。
減速しきらず地上に激突死だ。
ジャクソンは地上を狙って数度の射撃を行うも、距離がありすぎる。
尚且つ降下中という事もあり有効打撃にはならない。
『ジャック! 先にパラだ!』
テッド隊長の声に煽られジャクソンがパラシュートを広げた。
ガクッと降下速度が落ち、安定を増す。
だが、これで完全に七面鳥撃ちになってしまった。
『野郎ども! ジャックを援護しろ!』
テッド隊長の声に拭いきれない焦りの声が混じった。




