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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第1話 オペレーション・ブラックライトニング
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任務・義務・責務

~承前




 バードの目の前にはレプリの成れの果てが転がっている。一面に白い血を撒き散らし、肉塊レベルにまで破壊されつくしている。それは文字通りのひき肉だった。


 だが、僅かに残る小馬鹿にした笑みがバードは腹立たしかった。生身ならばきっと目が血走る程に見開き睨みつけていただろう。だが、ハッと我に返って、自分がしでかした事に慄く。


「……申し訳ありません。隊長」

「バード」


 ゾクリとするような寒気を感じたバード。

 ふと顔を上げた時、そこに居たテッド隊長は、眼に映らぬ黒い炎を纏っていた


「これは絶対に忘れるな。何があっても忘れるな。いいか?」


 バードはテッド隊長の目を見て僅かに頷く。


「バケモノを撃ち倒すのはいつだって人間だ。人だけが義務を理解出来るからだ」


「義務……」


「そうだ。バケモノは人間に打ち倒される。何故だか分かるか」


「いえ」


「戦いの歓びなどではない。殺しの快感でもない。達成感ですらない!」


 隊長の手が、右手の人差し指が、バードの胸に突き立てられた。

 装甲服を貫き心臓に突き刺されるかのように突き立てられた。


「己の成すべき義務だと! 己の背負った責務だと! 決して逃げられないものだと、そう理解出来るのは人間だけだからだ」


 テッド隊長の指が再びバードの胸を指した。

 力強く突き刺すように。


「だからもう一度言う。絶対に忘れるな。自分の心に! 脳に擦り込んでおけ!」


 もう一度。突き立たれた指が装甲服を貫き通すくらいに強く押された。


「義務()果たせ! 義務()()果たせ! それを踏み越えるな!」


 ……あ!


 バードはハッとして顔を上げた。

 オーバーキルは懲罰対象だったと気が付いた。

 

「これは……懲罰ですね」


 地面へ目を落としたバードはガックリと肩を落とした。だが仕方がない。自分でやったことだ。仕方ない。仕方ない仕方ない。落ち込んだ表情を浮かべるバード。海兵隊員も掛ける言葉が無かった。


 だが……


「大丈夫だよバード 俺たちが黙ってりゃ分かりっこねーって」


 バードの視界の中に、ニッと笑ったペイトンが現れた。

 ウィンクしながら言うその声は、どこかスケベ親父を思い起こさせる。


「だって、今の隊長、全員見たろ?」


 その場にいたドリーとロックと、そしてビルも頷いている。

 視界に現れたスミスやライアンまでもがニヤニヤしつつウンウンと頷いている。


「隊長 ちょー役得っすよ」


 何処かで撤収準備中のジャクソンは、お調子者特有のニターっとした笑顔だ。そんなメンバーの雰囲気に隊長だけが不思議そうだ。両手を後頭部へ当ててそっぽを向きながら、ビルがボソッと呟いた。


「役職的にはありえないが、おーれも心置きなくツンツンしてぇなぁ……」


 工兵担当のリーナーがバードの視界へ現れた。

 空中で手をモミモミさせながら下卑た笑いを浮かべている。


「爆破担当としては硬度を確かめておきたい。装甲服だけ爆破して、こう……」


 両手を空中でモミモミ……モミモミ……


 その姿があまりに厭らしくて卑猥で。

 そして、なんだかこう言葉に出来ない……


「……あっ! あぁぁぁ!!!!」


 バードは自分の胸を両手で押さえて、ちょっと驚きながら一歩バック。


「ちっ!違う!違う違う!!違う違う違う!!! 悪気は無い! 下心も無い!」


 テッド隊長が気が付いたようだ。


「たーいちょー セクハラっすねぇ~」


「つうか パワハラっぽっすねぇ~」


「ズルイッすねぇ~」


「や~ 隊長って肩書きはぁ~」


「抵抗できないっすもんねぇ」


 バードとテッドを除いたBチーム全員がニヤニヤしてる。


「あー 戦闘規範細則にありましたねー 無抵抗の者を辱める事を禁ずるって」


 宣撫工作担当で心理学者ビルの、その見事な棒読みがメンバーの笑いを誘った。


「わかったわかった! 全員に一杯おごるから黙ってろ」


 イヤァァァァァ!と歓声が揚がる。やっぱりこのノリがBチームだよなぁとバードはちょっと感極まった。何かを言おうとしたんだけど、何故か声が出なかった。


 サイボーグなのに声が出ない事なんてあるんだと初めて知った。嬉しい時にも泣けるものなんだと。人間って不思議だと知った。


『ありがとう…… みんなありがとう』


 声が出ないなら無線がある。ニコッと笑いながらメンバーを見た。

 沢山のサムアップが返って来た。


「さて。んじゃ撤収するか!」


 建屋から出てきたドリーが辺りを見回して言った。アチコチに展開していたBチームのサイボーグが結集を始めていた。だが、ドリーに続いて建屋から出てきたダニーが渋い表情を浮かべていた。なんとなく、悪い予感をバードは覚えた。


 ダニーは直接テッド隊長へ報告しに向かう。なんとなく気になって士官達が集合するのだが、こんな時、下士官や兵卒は黙って距離を取るのがマナーだ。


「人質数人に尋問したんですが全部ゲロしました。あいつら全部工場のエンジニアです。本社の指示で何らかの実験生産したようですね。そんで、国連にバレて査察の予定だった所にシリウスサイドが横槍を入れて来たようです。レプリの改良型と言うよりクローン人間の能力を大幅強化した戦闘人種という感じです」


 空中で待機していた降下艇が続々と着地を始めた。

 砂塵が舞い上がる中、ダニーは淡々と報告を続ける。


「ただ、オリジナルが無いんですよ。ランダムに組み合わされる量産型のレプリをベースに、若干の遺伝子操作を含めて能力向上型を目指していると言う感じです。極論すれば、量産型に紛れ込ませてカスタムを生産してもばれないような仕組みですね。なんとなくだけど、会社側は全部承知でやってたフシがあります。少なくとも、現場の人間の思いつきでやった悪戯では無い。多分、タイレル内部の相当上が決めた事業計画の一環だろうと」


 テッド隊長は顎をさすりながら何かを考えている。

 その横顔をバードはジッと見ていた。


「って事は、工場の中に居るその実験体を纏めて持って帰りたかったって所か。バードが見たエアドーリーの中の未起動レプリはその実験体の可能性が高いな。連中はどこへ運ぶつもりだったんだ?」


 考え込んでいるテッド隊長が、顎をさする手を止めて振り返った。

 何かに気が付いたようだ……と、バードは思うのだが。


「ジョン! ハンフリー経由でキャンプを呼び出せ」


「へい。相手は?」


「向こうの通信主が出たら俺が直接話をする」


 ジョンソンは頷きながら通信用のケーブルを延ばしてテッド隊長へ手渡した。そのケーブルのジャックを頚椎バスへ直接繋いでオンライン通話モードになった。


「今たぶん隊長は本部と相談中だ」


 ロックは小声でバードにそう告げた。


「なんで?」


「アリョーシャとかエディとかに相談してるのさ。どうしたら良いか?ってね」


「……まずって責任取らされるのが困るわけね」


「そう言う事。お偉方は責任取るためにいるのさ」


「じゃ、私達は?」


「現場でバンバン撃たれるのが仕事」


「嫌な仕事ね」


 ロックがニヤッと笑った。

 テッド隊長は再び顎をさすりながら難しい顔をしている。


「だけど必要な事だ。誰かがやらなきゃいけない」


「そうだね」


 バードはCー26ライフルの主電源を落とし加速器の駆動を止め背中に担いだ。無意識のうちにこの動きが出来るようになって一人前だ。場の流れをジッと観察しながら待つ。そんな中。ふと、テッド隊長の顎をさする手が止まった。


「おっ! 動くぞ」


 ロックが身構える。


「よし、仕事は終わりだ。ここの後始末はマット大佐に任せる」

「んじゃ、撤収ですね」


 気の抜けた声でドリーがそう言うと、皆が一斉に銃を背中に担いだ。もう撃つ事は無いだろうと片付けモードに入ったと言うところか。一足早く銃を担いでいたバードは失敗に気が付いた。チラリとドリーを見たら、ニヤニヤと笑ってバードを見ていた。


「ちょっと早かったなバード」


「……まずった」


「次はもうちょい観察しよーぜ」


「イエッサー」


 苦笑いを浮かべていたバードが誤魔化すようにふと振り返る。するとどうだ。驚く事に、工場の側からマット大佐がやってきた。一緒に降下した士官が何人も見えた。


「テッド少佐」


 歩きながら笑みを浮かべたジョン・ティアマット大佐が握手を求めていた。


「やったなジョニー。五百回おめでとう」


「あなたのお蔭です」


「そんな事は無いさ。勤勉で勇敢な男の証だ」


 テッド少佐が装甲服の下から何かを取り出した。


「いずれペンタゴンから来るだろうが、それまでこれを貸しておくよ」


 テッド少佐がティアマット大佐の胸に勲章を付けた。ファイブ・ミリオン(五百回)・オフィス(降下)記念勲章。五百回の降下は五百万日の事務所勤務に等しいと言う意味だ。


「俺のお古だが」


「とんでもない! 貰っていいのですか?」


 テッド少佐の拳がティアマット大佐の胸を小突いた。


「大佐殿! 小官の中古でありますが、どうか受け取ってください」


 背筋を伸ばし敬礼したテッド少佐。

 ティアマット大佐は緊張した面持ちで敬礼を返した。


「五千回降下の英雄からいただいた勲章。大切にさせていただきます」


「長い間、ご苦労でした。これからは退屈な勤務だが……現場を忘れないでくれ」


 テッド少佐の言葉にティアマット大佐が涙ぐんでいる。


「心に刻んでおきます。有り難うございました」


 テッド少佐がティアマット大佐を抱きしめた。

 まるで可愛い息子を抱きしめるように。


「ジョニー。生身の身体で五百回はなかなか出来る事じゃ無い」


 ティアマット大佐が涙を流している。その姿を眺めていたBチームの面々。

 不思議そうにしているバードの隣にジョンソンが立っていた。


「ホンの10年位前まで、海兵隊は生身に混じって普通にサイボーグが配置されてたんだそうだ。隊長がまだ普通に生身と混じって戦闘してる頃、ティアマット大佐が新任少尉で配属されて、一から鍛え上げて育て上げてここまでにしたって訳だ。つまりマット大佐にとって少佐は親父みたいなもんだ」


 説明しているジョンソンを見ていたバードが再びテッド少佐を見た。


「でも、なんでテッド隊長は少佐より昇進しないの?」


「あの人は昇進試験の回答を毎回白紙で出すからな。経年昇進は拒否するし、野戦昇進が内示されると、ワザと問題行動を起こして昇進を拒否してる」


「なんで??」


「少佐は現場にいる事を望んでいるんだ。銃弾が飛び交う現場で闘いたいんだよ」


 不思議そうに眺めるバードの視線が中を泳ぐ。


「生身の兵士は五百回降下でアガリだ。余程の事が無い限り、戦闘降下はもうやらない事になっている。生理限界に達するからな。低高度からの通常降下は戦地着任でやる事もあるが、HALOで戦闘降下はもう無い。ティアマット大佐もホタル暮らし確定だ」


 バードの眼がもう一度ジョンソンを見た。


「ホタル?」


「そう。デスクワーク続きで制服のケツが光るのさ」


 ハハハと笑いながら降下艇へ歩み去るジョンソン。

 Bチームの面々が降下艇へ引き上げて行く。


「じゃぁ大佐。後は、よろしく」


「はい。ご苦労でした」


 テッド少佐が降下艇へ乗り込んでハッチが閉まった。ゆっくりと上昇して行く降下艇の窓から地上が見える。窓の外の砂塵が収まり火星の青い空が見えた頃、バードはヘナヘナと床へ座り込んだ。


「どうしたバード! だらしないぞ」


 それを見ていたテッド隊長が咎める。

 チームメイトも笑っている。


「すいません、でも」


 立ち上がろうとしたんだけど、なぜか脚に上手く力が入らない。サイボーグでもこんな事があるのかとバードは驚く。この場に居るのがサイボーグの士官ばかりで良かったと痛感するのだけど。


「今更怖くなったか?」

「うん」


 涼やかに笑いながらスミスが手を差し出した。

 その手に捕まってバードは立ち上がったのだけど、でも、僅かに震えている。


「サイボーグだって怖いときは怖いし、震えるときは震えるもんだ」


 スミスがサムアップしながら笑った。

 その向こうにいるジョンソンも笑いながら言う。


「まぁ、震えてるうちは生きてるって事だ。バードも大したもんだぜ。なんせバッテリー無駄にする余裕があるんだしな」


 相変わらず皮肉を言う人だとバードは思う。

 しかし、その皮肉が毎度毎度核心を突く物だから反論も出来ない。


「次は、もっと上手くやります」


 精一杯の強がりで笑顔になったバード。

 それを見たチームメイトが同じ様に笑っていた。


「今回もご苦労だった。色々有ったが、グッジョブ(良い仕事)だった」


 テッド隊長の総括が始まった。


「初陣のバードが予想以上に良い働きだった。これは嬉しい誤算だな。ライアンが初降下したときなんか、最後までお荷物だったが」


 テッド隊長の言葉に皆が大爆笑している。

 ライアンも恥ずかしそうに笑っている。


「まぁ、あまりグダグダやっても仕方が無い。とりあえずは降下手順の再確認を近いうちに行う。今回はドリーとバードより高い位置で残りが降下してる。こんな手順ミスは避けないと危険だ。地上から撃たれそうだしな。それと、バードの脚がとにかく速いからカバー範囲を見直す。シミュレーターのパラメータを再設定して行う。で、バード。お前は次回から我を忘れてぶち切れないようにな。もっと自分をコントロールしろ。いいな」

 

 バードが頷くとテッド隊長も満足そうに頷いた。


「誰か、何か言っておく事はあるか?」


 テッド隊長が全員に意見を求め、きっとこれもBチームの重要な儀式なんだとバードは思った。ややあって隊長がドリーを見て何かを合図し、『お前が言え』と目が語りかけた。目で合図しているのはなんだろう?と訝しがるバードだが。


「そんな訳で、今回のMVPは文句なしにバードだろう。異議がある者は?」


 ドリーの眼がチームの中を一週してからバードを見て、そしてメンバー全員の視線がバードに集まる。明らかに何かを企んでいる目だとわかるのだが。 


「MVPってなに??」


 なんか嫌な予感がしてチームのメンバーを見回したバード。だが、その背中をニコニコとしているジャクソンがぽんと叩いて言った。皆を代表するようにして。


キャンプ(基地)へ帰れば解るさ」


 ちょっと不安そうにしてジャクソンを見つめるバード。気がつけば降下艇はハンフリーに収容され、気密ハッチが接続された。一瞬、艇内の気圧が変わり、艦内への通路が開いたのがわかる。


「だんだん覚えていけば良いさ。慣れれば楽園だぜ」


 ジャクソンはサムアップしながらメンテナンスルームへ消えていった。次々とハンフリーの艦内へ出て行くメンバーたち。ふとバードは気が付く。こんな時はやはり階級順に出て行くのがマナーだ。


「バード! 先にメンテに行って来い。ハンドグレネード(手榴弾)の直撃喰らってるんだ。多分フレームに歪みが出てるぞ」


 メディコ(衛生兵)のダニーがそう促がす。席次を飛ばし先に行けと譲ってくれた優しさをありがたく思うのだが、やはり初陣と言う事でバードは様子も空気も掴めないでいる。同じ少尉の場合は勤続日数で明確に上下が区分される。


 それが軍隊の真実だ。


「ゴメン。ありがとう」


「良いってことよ」


 ダニーやロックに見送られ、バードはハンフリーのメンテルームを目指した。決して広くない艦内を移動しサイボーグ向けのハンガーへと向かうのだが、無重力空間では空中を泳ぐと言った方が正確だろう。


 アクロバティックな動きで遊泳しメンテナンスルームへと入ったバード。ここにはサイボーグ専用のメンテベッドが設置されている。専用ベッドに横たわり、整備班から各部の作動チェックを受けて作戦は終了だ。


 整備ベッドに磁力吸着でロックされ、身動きが出来なくなるのだが。


「お疲れ様でした。バード少尉」


 メンテナンス担当が首裏の頚椎バスへジャックを差し込む。

 バードの視界にシステムチェックの表示が浮かんだ。


「戦闘中に身体の異常を感じませんでしたか?」


「特に無かったけど、一回、目の前で手榴弾が爆発して最大効率はギリギリで回避したわ。その後もちゃんと動いてたし、最後まで戦闘を継続出来たから問題は無いと思うんだけど……」


 少し不安げなバードの言葉が漏れた。

 整備担当が女性と言う事もあり、割と本音で話をしているつもりだったが。


「そうですか。では、作動ログを念入りにチェックしましょう」


 チラリと見た整備班の女性下士官は マスターガニー(上級曹長)だった。

 その横には心臓のシルエットの中にスパークの飛ぶ歯車のマークが付いている。


 このマークはサイボーグ専門の整備班というのがすぐにわかる。

 バードの横たわる整備テーブルの周囲は女性ばかりが並んでいた。


「名前は?」


「セイラー上級曹長であります、少尉殿。専門は電子装備と機械工学です」


「じゃぁ委託?」


「いえ。海兵隊へ志願で入隊しここへ配属されました。サイボーグの整備と維持管理を学んだのですが、サイボーグ関係企業じゃなくて軍に来たかったんです」


「そうなんだ」


 端末を弄りながらログを吸い出しているセイラーは、真剣な表情でモニターを見つめていた。その横顔はまるで戦闘中のようであり、流れていく文字を目で追いながらキーボードを叩いていた。


「セイラー。本音で言ってくれる?」


「なんでしょうか?」


「機械でも女は女だって思う?」


「もちろんですよ。現場で男に負けない強い女です。正直、憧れます」



 ――――フフフ……



 バードから僅かに笑みがこぼれた。


「御世辞だと思って聞いておくわ」


「本音です。少尉殿が来てくれて感謝してるんです」


Why(なんで)?」


 はにかむ様に笑ったセイラー。

 その笑みの意味をバードは真剣に考えたのだが。


「男性ばかりだったんで私がメンテに触れる機会が少なかったんです。もっとサイボーグに触りたかったんですが、やんわりと拒否されるか、もしくは明確に拒否されました。やっぱり……」


「……あー。うん。解った」


「男性って女より余程シャイなんですよ。私に触られるの嫌がりましたから」


 セイラーの弄っていた端末にバードのデータが全てアップロードされ、バードにも見える形で身体の状況が表示され始める。


 各部の基準精度が出て無い場合、動作時における姿勢制御の補正値が異常な数値になる。つまり、作動ログを解析すれば姿勢制御の補正値が追跡できるので各部の湾曲が解るのだ。


 バードがジッと待っている間、セイラー上級曹長が端末をアレコレ叩いている。モニターに表示される数字を見ながら、バードは強い眠気に襲われた。なんとなく、機械的な睡眠欲求にも思えた。


「少尉殿。今チェックしましたが、各アクチュエーターに異常はありません。有機転換リアクターも正常です。戦闘データバンクなども異常なし。生体部品とのブリッジに異常なし。体内気密に異常なし。さすがG21です。凄い作動制度と耐久性です。作りこみが異常なレベルで驚きますね。一番高価な機体ですから……」


 純粋にエンジニアとしての言葉を言っているだけなんだろう。だが、その言葉もバードは少し悲しかった。不可抗力で自分が機械扱いされていると感じたのだ。


 自分は人間だと思っていても、この身体は機械なんだと。

 そう突きつけられているような気がして、気が滅入った。


「……ありがとう。やっぱり御世辞だと思って聞いておくわ」


「少尉殿。どれ程望んでも、この機体を使えるのは一握りのエリートだけです」


 バードの身体を起こし、頚椎バスからケーブルを抜いたセイラーが笑う。


「自信を持ってください。最高のエリートなんですから」


 セイラーがバード握手を求めた。

 その手を握りつぶさないようにバードが握り返した。


「今夜はメスホールでパーティーですね」


「そうなの? 私は初陣だから何も知らないんだけど」


「無事に帰れたっていうパーティーですよ。テッド少佐のチームですからね。これから大変でしょうけど」


 セイラーがニコリと笑う。


「少尉殿の身体の事は私に任せてください。よろしくお願いします」


 士官と違いどこかだらしない敬礼だった。ただ、ここでそれを指摘するのもマナー違反。バードは笑顔を添えた敬礼で答えた。こういう部分も士官の義務だと教育されている。だから無意識に出てしまうのだった。


 ハンフリーが月面基地への軌道に入っている。ここから徐々に減速していくのだが、そのマイナスGを感じる事は滅多に無い。窓の外に見える月面の景色を見ながら、バードは軍隊の現実をまた一つ思い知らされたと思った。

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