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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
62/358

医務室(前編)

 ――――地球周回軌道 高度35万キロ上空

      強襲降下揚陸艦 ハンフリー艦内





「バーディー 判っていると思うが……」

「申し訳ありません。軽はずみでした」


 警察官を収容したハンフリー医務室の隣、医療機器準備室の中でエディとバードが話し込んでいた。刺さるような視線でバードを見ているエディだが、この程度のモノはもはやバードにとって怖くはない。これ位は戦闘中なら幾らでも経験しているし、断末魔の悲鳴を上げて死に行く者の眼差しに比べれば優しい雨のようなモノだと思えるレベルだ。

 いまバードは自分のしでかした、余りにも軽率なこの行為の結末に慄いている。ただただ怖れている。目を閉じ、うな垂れるしかないのだ。でももう、どうしようもない。自らにとって最良の選択も、組織にとって最善の結末に至るとは限らない。エディ少将にとっては、過去最大級のビッグトラブルかもしれない。

 上層部の出す結論は判り切っているし、それを理解出来ないほど、バードも楽観主義者ではない。軍隊の現実は、嫌と言うほど経験しているのだから。


「……責任は自分でとります。仕方がありません」


 顔を上げて真っ直ぐにエディを見たバード。

 何故かは判らないが、バードは少しだけ笑顔だった。


「この手で」


 黙って拳銃を抜いた。


「……バード マガジンを抜け」

「ミッションに100パーセントはありえません」

「君が。君のサブコンが的を外す訳が無い」


 バードの表情から寂しい笑顔が消えた。

 真顔になったのを、バードは自分で気が付いた。


「信用を失いましたね。私は……」

「それは違う。違うよ。断じて違う」

「でも……」


 エディの手がバードの肩に触れた。信頼を表すように、ポンと軽く叩いて、そこにグッと力が入る。まるで岩でも叩くように、ドンドンと音を立てて肩を叩く。


「至近距離ならサイボーグだって死に切れる」

「私が自決すると?」

「バード」

「はい」


 エディはふと足元を見てから、今度はパッと天井を見上げた。目を閉じて何か言葉を選んでいるのだと、バードはそう思った。そして、エディが何を話すのか、次の言葉をじっと待った。


「バーディー。いや、バード。君は、君の責任感はチームの中でも指折りだ。そして責任感だけでなく、決断力、信念を貫く力、守る力、何より優しさがある。チームのキャプテンになれる資質がある。重大な局面を迎えた時、全てを背負って決断する能力だ。その背負った責任を果たす為の覚悟すら持っている」


 そっと目を開いて真っ直ぐにバードを見つめるエディ。その眼差しを受け止めたバードは、エディの人工眼球のその奥にある高性能イメージセンサーまで見えた様な気がした。


「幾らなんでも褒めすぎです。ただ、私は自分の失敗の責任を……」

「それを出来ない奴が多いから君を褒めているんだ」

「でも……」

「いや、褒めてるんじゃない。正当な評価だ」

「……それは―――


 それはいくら何でも、買かぶり過ぎです……と、バードがそう言おうとした時だ。チーム内無線でロックから呼び出された。


『エディ お客さんが目を覚ました バーディーも来るかい?』


 どうしましょうか?

 バードがそんな感じでエディを見たら、間髪入れずに言葉が帰ってきた。


「バーディー。まずは待機だ」

「でも……」

「その時が着たら、君を呼ぶ事にする。ただ……」


 もう一度、エディの手がバードの肩をポンと叩いた。


「私も君の味方だ。多分、ダッドもな。いや、ダッドだけじゃ無く、上層部は全て君の味方だ。結して悪いようにはしない。だから、自棄になるな。諦めるな。軽はずみな事もするな。いいな」

「はい」

「君と同じ立場だったら、きっと私も同じ事をした。気持ちはよくわかる」


 もう一度ポンポンと叩いて、それからエディはバードの背中を押した


「ガンルームへ行ってろ。仲間が待ってる。身軽な格好になって一息つけ」

「アィサー」


 笑みを浮かべてエディは部屋を出た。艦内の通路を歩いて向かった先は医務室。全身血塗れだった警察の特殊部隊員が手当てを受けて目を覚ました所だ。エディが気を使ってくれている。バードはそれが嬉しかった。

 艦内通路を歩いて行ってBチームのガンルームへとやって来たバード。チーム全員の顔に『大丈夫か?』と書いてあった。


「私は平気よ。それより」


 モニターの電源を入れて医務室の中継を見ている。ちょうどエディが医務室へ入ったところだった。降下装備を取らないまま、ロックが医務室の中に座っていた。

警察官の寝転がっていたベッドのすぐ脇。小さな椅子の上で、腕を組んで。

 警察官は盛んにロックと話をしていたらしいが、当のロックは『いまお偉方が来るから、細かい事はそっちと』と言ってまともに取り合っていなかった。ただ、ハンフリーの艦内で有る事と、Bチームが屋上から突入した事などの状況説明をし、警察官はそのロックの手を借りて、ベッドの上に上半身を起こしたところだった。


「Are you feeling OK?」(ちょうしはどうだい?)


 短く刈り込まれた黒髪。真っ黒に日焼けした精悍な顔。鍛え上げられて余計な肉の無い締まった上半身。誰が見たって警察の特殊部隊と言う空気じゃ無い。


Yes(はい) Thank you(ありがとうございます) Sir. Major(少将閣下)General」

「日本語で良いよ」


 隣でロックが口を挟んだ。


「But…………」

「お客さんに気を使わせるのは悪いと言う事だ。君に合わせよう」


 エディの声が優しげだ。こんな声も出せるのかと皆が驚く。エディは静かに椅子を引いて少し離れた場所へ腰を下ろした。警察官が上半身を起こし座っているベッドの足下側。人が通れる程度の間を開けてだ。


「こう見えても日本語も得意だ」


 エディの言葉にロックが目を丸くした。


『いや驚いたな。エディの発音はネイティブだよ』


 チーム内無線にロックの内緒話が流れる。


『ロック 仕事に集中しろ』

『イェッサー』


 テッド隊長が咎めた。


「あ、あの。私はどうしてここに」

「記憶の混乱かね? それとも気を失っていた?」

「…………」


 ざわつくガンルームの中、バードだけが沈黙していた。口に手を当てて言葉を漏らさないようにしている。


「多少混乱があるようだが、まず我々の質問に答えてもらいたい」

「はい。なんでも」

「出来れば正直に答えてもらいたい。君は日本の警察官かね?」

「いえ、自分は日本政府所轄の国防軍に所属します、特殊空挺作戦群の隊員です」


 ビルの同時通訳を聞いていた皆が「へぇ」と、短く驚いた。「通りで動きが違うわけだぜ」とジャクソンが驚く。


「しかし、我々が知る限り、指揮していたのは警察ではなかったか?」

「はい。ですが、軍を派遣すると拙いと言う政治判断で……」

「なるほど。良くある話だな」

「臨時に警察機関へ出向扱いとなりました」

「ではつまり、現場の人間より政治家と官僚のメンツでそうなったと?」


 空挺隊員は少し考えるそぶりを見せた。どう答えるかを思案しているのだと皆が思っていた。


「どちらかと言うとマスコミなど世論誘導機関対策と思われます」

「君の国もいろいろと面倒なようだな」

「国家機関の暴力装置ならば世界中一緒かと存じます」

「そうだな」


 ウンウンと頷くエディ。


「君の名前は?」

「小鳥遊太一と言います。国際慣例では…………」

「あぁ、それで良い」


 手を上げて言葉を制したエディ。


「ミスタ小鳥遊。立場は違うがあの地獄を見た仲間だ。ご苦労だった」

「有り難うございます」

「ところでミスタ小鳥遊。単刀直入に聞くが」


 そろそろ難しい質問に入る頃だ。

 ビルは慎重に言葉を選んで通訳しているとバードは気が付いている。


「君らは我々の突入計画を知っていたか?」

「信じてもらえるかどうか不安ですが、我々は全く知りませんでした」

「知らなかったと?」

「はい。目を覚ました時に宇宙船の中に居る事すら、最初は信じられませんでした」


 おそらくウソは言ってない。なんとなくそんな直感を皆が持っている。だけど、万が一このタカナシと名乗った男が……

 あのテンナインの屋上でネクサスを一瞬で切り刻んだ男と同じであったら。ハンフリーの艦内が血に染まる事になる。慎重には慎重を期すべきだ。それはエディも共通の認識として持っている。


「実は我々は君らの無線を傍受していたんだが」

「はい」

「君らのデジタル暗号通信中に国連軍の話題が合った。どう言う事かね?」

「……質問の意味がわかりかねます」

「国連軍が来た場合は皆殺しになると危惧していなかったかね?」

「当初のブリーフィングでは国連軍は艦砲射撃を行うと通告してきていたので」


 あ! とエディの表情に驚きが出た。そうだ、そもそも艦砲射撃だったんだと気が付く。高級将校にあるまじき失態だが、逆に言えばそれだけ怒りを抱えていた事になるのだ。


「しかし、艦砲射撃前提なら、なぜ君らは強行突入など行った?」

「はい。日本政府は退避完了の連絡を意図的に遅らせる算段に成ってました」

「なるほど。全部繋がった。人質解放の為に君らが突入する事になったのか」

「私が知る限りでは、そうなります。なにせ、皇居の目と鼻の先ですから」

「そうか。で、君らの目標は?」


 エディの尋問が生中継されているガンルーム。

 そこへアリョーシャとブルがやってきた。


「ビル。君の意見を聞きたい」


 話を切り出したのはアリョーシャだった。


「この男性はウソをついていると思うか?」

「そうですね。先ほどから見ていましたが、視線の安定度や眼差しの強さから見て」


 ビルはもう一度案件を整理した。


「ウソをついている可能性は非常に低いと思われます」

「そうか」

「ただ、名乗った名前が偽名の可能性は否定できません」


 ビルの言葉にブルがチラリとバードを見た。

 そんな視線に気付かず、バードはモニターに釘付けになっていた。


「偽名については心配ないと思う」

「なぜ?」

「……まぁ、それについては後だ。あと……」


 何かを言おうとした時、モニターの中に動きがあった。エディが尋問している最中だったのだけど、ロックが装甲服を脱ぎ始めた。

 装甲服を全部脱いで、身体にピッタリとフィットしている下着姿のロック。その上半分を脱ぐと、小鳥遊の身体に大きく見劣りする細い身体が出てきた。全く日焼けしていない白い身体だ。


「……日焼けしてませんね」

「俺達は焼けないからさ」

「え?」


 上半身裸のロックが壁際からケーブルを持ってきた。何をするんだろうと不思議がっている小鳥遊の視線を、ロックは面白そうに眺めている。


「これが俺達の飯だよ」


 キョトンとした顔で見ている小鳥遊。ロックは気にせず脇のハッチを開けてケーブルを繋いだ。


「電源の残りが8パーセントしかなかったからやばかった」

「あっ! あの…… あなたは!」

「そう。サイボーグだ」

「ODSTのサイボーグ!」


 脇に置いてあった装甲服のポーチから小さなアンプルを取り出したロックは、そのまま頭を取って一気に飲み込んだ。ゴクリと喉を通る音がして、小鳥遊は驚きの表情で見ていた。


「これはソイレントって呼んでる俺達向けのパワードリンクだ。飲んでみる?」

「普通の人間でも飲めるんですか?」


 小鳥遊が発した何気ない一言。だけど、その直後に小鳥遊は『しまった!』と言う顔をした。


「失言でした。大変申し訳ありません」

「あぁ、良いって良いって。慣れっこだから。俺達は機械だからさ」


 ヘヘヘと笑うロック。だけど目が寂しそうだ。

 アンプルを飲みきってから、指先で頭を指差す。


「でもさ、ここには脳みそが入ってて、で、そこはカロリーを必要とするんだ」

「そうですよね。実際、脳はカロリーを必要としますから」

「身体は電気で動くけど脳は違うんだ。毎日最低でも千二百キロカロリー必要だ」


 すっかり空になったアンプルをゴミ箱へ捨てて、上半身裸のまま小鳥遊を見ている。


「ところでミスタータカナシ。さっきの話だが」

「はい」


 エディが話を元に戻した。


「突入目標はテロリストの殲滅と人質の解放との事だが、なぜ爆薬を仕掛けた?」

「それについてはまぁ、絵空事ですが…………」


 一瞬言い澱んだ小鳥遊はしばしの沈黙を挟んだ。それは心の整理をつけているのだろうとビルもアリョーシャもエディも、そして皆が同じように思っていた。少しだけ目を瞑っていた小鳥遊は、そっと目を開き、静かに話し始める。


「土台、我々だけで方が付くとは思っていませんでした。ただ、多少は人質の解放ができるだろうと言う部分で、テロリスト側を上の階へ押し込み、出来る限り人質を脱出させて、最後はビルもろともテロリストを処分する算段となっていました。我々は決死隊として編成され、犠牲より実績を求める作戦でした。万が一にも国連軍の艦砲射撃が外れ皇居に着弾した場合の責任問題になりますから。しかし、いざ突入してみたら……」


 何を言いたいのかはエディにだって良くわかる。まさか、あそこまで高性能なレプリが沢山居るとは思わなかったのだろう。それだけでなく、最初からビルの関係者にテロリストがまぎれ込んでいたなど。全くの慮外であった可能性が高い。


「最初に突入したチームは?」

「あれは本物の警察官でした。機動隊の特殊戦術チームです」

「全く歯が立たなかったな」

「えぇ。最初は軍向けの自動小銃を持つはずだったようですが…………」

「あぁ、なるほど。警察と軍隊は世界中どこへ行っても仲が悪いな」

「全くです。あのメンバーの中に自分の友人も多数いたのですが」


 小鳥遊が首を振って嘆いていた。

 少しだけ沈痛な空気になった。


「警察関係者のメンツで死ぬ目にあった……」


 エディは目を閉じて上を向いた。


「いやはや、殉職した君の友人にお見舞い申し上げる」

「有り難うございます」

「現場に出ない人間は気楽な物だよな」

「全くです」

「実は我々も上の人間の都合でこっそり降下する破目になったんだよ」

「そうだったんですか。自分が言うのもなんですが、大変でしたね」

「あぁ。お互い大変な目にあったな。現場の人間はいつも損する役回りだな」

「同感です。無線で聞いていたのですが、下にいた仲間は全滅でしょう」

「あぁ、それなんだが…………ちょっと待ってくれ」


『テッド ビルとジャクソンを連れてちょっと来てくれ ロックと交代だ』

『イエッサー』


 エディらの使う将校専用の無線は、Bチーム内でもテッド隊長しか聞けない。

 将校向けの内緒話担保システムは、ある意味で重要な意味を持っている。


『エディ。俺も行こうか』


 アリョーシャが聞いている。情報将校としては直接確かめたい案件が多数有るのだろう。だが――


『謀られる可能性がある。バードに確かめさせよう』

『あとで面倒になりませんかね?』

『どうだろうな。まぁ、まずはやってみよう。話はそれからだ。責任は俺が取る』


 エディがそんな内緒話をしていたら、部屋の入り口へテッド隊長がやって来た。

 ビルが一緒にやって来て、尋問を代わる算段だ。


「ミスタ小鳥遊。そちらの隊員が作戦後のメンテナンスを受けてないので交代する」

「どうぞお構いなく。自分の為に手を患わせ申し訳ありません」


 ロックが椅子から立ち上がった時、小鳥遊もベッドから立ち上がろうとした。しかし、肋骨を複数骨折してる上に腰椎へもダメージを受けているのだ。その痛みに顔を顰め、小鳥遊は立ち上がる事が出来なかった。


「良いって良いって。生身は寝てりゃ治るんだから。大人しくしてなよ」

「申し訳ありません」

「俺達は部品交換すりゃオッケーなんだよ。完治っつうより修理完了」


 じゃっ!と手を上げてロックが出て行った。充電途中だった筈のケーブルが所在無げに床に転がっていた。入れ代わりで入ってきたのはテッド隊長とビル。そしてジャクソン。


「Mr.Takanashi」


 テッド隊長が手を差し出し握手を求めた。


「I'm a Captain of B-team. A name in TED 」


 小鳥遊がその手を取ってしっかりと握手をする。

 だが、まるでゴムを握っている様な感覚に小鳥遊の表情が変わった。

 そんな様子を見ながら、テッドはニヤリと笑った。


「ワタシノ ニホンゴハ チョットヨワイ リカイデキナイトキハ」


 エディを指差し苦笑いのテッド隊長


「Sorry Captain TED」

「No ニホンゴデ イイ イミハワカル No Problem」


 テッド隊長の言葉にエディが笑みを浮かべる。


「国連軍だと普通は最低三ヶ国語を使えないと拙いんだが」


 エディの笑みにテッド隊長が苦笑を浮かべる。


「テッド少佐は英語の他にラテン語とロシア語なんだ。日本語はさっきまでここに居たロックともう一人の日本語ネイティブスピーカーと練習している状態でな」

「ダイジョウブ About ダケド イミハリカイシテイル」


 テッド隊長の日本語にガンルームの中でロックとバードが苦笑を浮かべる。


「もうちょっと練習しておいて貰うべきだったな」

「そうねぇ。でも、まぁ、問題ないレベルかも」

「だな」


 チームの中でもう一人、自在に日本語を使えるレベルのビルが出てきた。


「ミスター小鳥遊 初めまして。私はビル。Bチームのメンバーです」


 同じ様に手を出して握手を求めたビル。

 小鳥遊は同じ様に手を握ってみたが、やはりゴムのような感触だった。


「そして、こちらはジャクソン。こっちは日本語が全くダメなんだ」

「Mr.Takanashi ハジメマシテ! My name is jackson. I'm sniper」

「とりあえず笑って誤魔化す系だけど、まぁ、気にしないでくれ」


 同じ様にジャクソンが握手した。

 テッド隊長やビルとは違う感触に小鳥遊が不思議がる。


『手の感触が違うって思ってるぜ。きっと』


 無線の中でジャクソンが笑う。


『ジャクソンの手はスナイパー仕様だからな』


 ロックも無線の中で笑った。


『ジャクソンの手はヤラシイからなぁ』


 バードの声が無線の中に流れた瞬間、一斉に大笑いが始まる。


『とりあえずお前ら仕事に集中しろ。あと、ジャクソンは俺が締め上げる』


 テッド隊長が話を切るのだが…………


『マジかよ』


 と、ジャクソンがこぼした。

 まぁ、こればかりは普段の行いなのだから、仕方が無いのだろうけど。


『テッド。私が同時通訳する。遠慮なく英語でやれ』

『すまない』


 無線の中でエディとテッド隊長が示し合わせた。


「あの。すいません。少しだけ質問させてください」


「あぁ、そうだろうね。だからこの三人を呼んだんだ」

「こちらのかたですか?」

「そう。実際に突入したBチームのメンバーだ」


 ニコリと笑って椅子に腰を下ろしたテッド隊長たち。


「何から話せば良いかわかりませんので質問に答える形にしましょう。遠慮なく聞いてください」


 ビルが最初に口を開く。

 

「私はどうしてここに居るのでしょう?」

「最後に覚えているのは、何処ですか?」

「えぇ……地上六十階で非常ベルが鳴って駆けつけたのですが……」


 小鳥遊は頭をかきながら思い出している。


「ドアにトラップが仕掛けられていて、隣にいた仲間が即死しまして」


 一瞬ビルがテッド隊長を見た。


『黙っとけ』

『了解』


「自分はその陰にいたんですが、右側にいた仲間は一瞬で全滅したようです」

「そうですか。あなたの仲間の遺体は先ほどのロックが隅へ動かしたようです」

「有り難うございます。仲間に代わってお礼を申し上げます」

「いえいえ、それには及びません」

「で、自分は脳震盪を起こし気を失いましたが、激しい銃声で我に返りまして」

「そうですか。良かったですね。そのまま気を失っていたら今頃は」

「今頃は?」


 ビルは医務室にあったモニターの電源を入れた。いくつかチャンネルを変えると、地上で放送中の番組が映る。渋谷テンナインの成れの果てと言える瓦礫の山が映った。


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