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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
61/358

正体不明との遭遇

 ――――シブヤシティ タワー109 60階

      日本標準時間 2200







 ――――いや、ですから、いったん部屋に戻っていただいて


    ――――嘘だ!俺たちは殺されるんだ!


 ――――そんな事はありませんから


    ――――さっきの爆発は何だ!どっかに爆薬が仕掛けてあるんだろ!


 複数の男性が大声で口論している。

 階段を駆け上がりながら、そんな声が聞こえてきた。


    ――――だいたいおまえらの救出が遅いんだよ!こっちは納税者だぞ!


 ――――はいはい


    ――――なんだその態度は! まずは謝罪だろ! 謝れ!


 理解しがたい言葉が聞こえた。

 一瞬だが、ヘルメット越しにロックとバードは顔を見合わせた。


「はぁ?」


 素っ頓狂な声を出して呆れるバード。


「事故扱いにして……やっちまうか」


 ロックの声が明らかに不機嫌だ。階段を駆け上がって60階の踊り場に出たバードは完全に伸びている警察官を見た。5名ほどフロアに横たわっていて外傷こそ無いモノの、強い衝撃を受け内蔵をやられたのだろう。たぶん即死だとバードは思う。

 ロックが一度手を合わせてから、その死体を隅に集めている。何となくそれを見るのが嫌だったバードは横目を向いて通り過ぎ、廊下に出てみたのだが、手前にはスミスが立っていた。その向こうにはビル。同士進行でビルが通訳している様だ。


「ビルに通訳してもらってるが……普通あんな対応するか?」

「なにあれ?」

「とにかく謝罪しろ賠償しろって面倒な限りだ。何様のつもりだ? あいつら」

「なんか……頭おかしい系だね?」


 警察の突入チームに喰って掛かっている男が3人か4人か。一様に顔を真っ赤にして、唾を飛ばして文句を言っている。警察側が宥め様としているのだが。


「どうしたんだ?」


 かなり不機嫌そうな声でブルがやってきた。階段を駆け上がってきた様だが汗ひとつかいていない。サイボーグが汗をかく訳が無いのだから、それは当然なのだが。


「面倒無いように撤収しろ。下の人質は、あと10分で撤収を完了する」

「爆破は?」

「15分後だ。先に行くぞ。巻き込まれんなよ」

「Sir」


 一歩踏み出したブルが急に足を止めて振り返った。


「スペアのマガジンが二つある。45発入りだ」


 踊り場付近にはバードとロックのコンビ以外だとジョンソンにスミスにビル。皆が一瞬顔を見合わせ、バードとジョンソンがひとつずつ受け取った。それぞれがSー16に装填する。


「……面倒を残すな 良いな」


 ロックが僅かに頷く。それを見届けてブルたちは階段を駆け上がっていった。


「今すぐここから出せって騒いでるんだ。警察に殺されるってよ」


 人だかりまでの距離は約30メートル

 幾人も集まっているのだが。


「面倒だな マジで」


 ロックが半分切れ掛かっている。バードはちょっとだけロックを見てから、もう一度視線を人だかりに持っていった。その時、一瞬だけ視界に真っ赤な警告が浮かびかけた。

 

「え?」

「どうした?」

「やっぱそうか?」


 バードの驚きにスミスとロックの声が一気に緊張した。だけど、バードは視界の中の一部分をクロップ拡大して確かめている。


「距離がありすぎて分からないけど、一番後ろで様子を見ているの以外は……」


 口々に抗議をしている男たち全員に[?]マークが浮かんでいる。このマークが浮かぶ時は認識できないパターンか、さもなくば……


「全部ネクサスⅩⅢかも。ただ、ネクサスの反応も出てない」

「どう言う事だ?」

「全部アンノウンになってる。人間では無い事だけは確か。一番後ろ以外はね」


 ジッと見ている先、推定レプリが今にも掴みかからんと喚いている。


「だから! 今すぐこっから出せ!」

「ですから、順番なんですよ」

「そんな悠長な事してる間に爆発するんだよ! ここが!」


 顔まで真っ赤にした四角い顔の男達が廊下中に響き渡る大声で叫んでいる。しばらく話を聞いていたビルは、やおらヘルメットを取って振り返った。


「みんな先に行ってくれ。ジョンソンも」

「どうすんだ?」

「カマ掛けてみる」


 何度か頷いたジョンソンは持っていた銃をビルに手渡した。しかし、ビルはその銃をバードへと手渡し、丸腰を選ぶ。


「バードも行くんだ」

「ダメよ。私とロックは日本語がネイティブだから、何かあったら出番よ」

「……そうだな。その通りだ。じゃぁ、ここで待機で」

「うん」


 ヘルメットを取ったビルは営業スマイルで接近していく。素顔を見せて良いのかな?とバードは訝しがった。だが、レプリにしろテロリストにしろ、最後は処分だ。面倒を残すなと言ったブルの言葉は、きっと言う言う意味だ。

 ゆっくりと接近するビルの背中に、バードは極限の緊張を見た。階段を駆け上ってきたリーナーとスミスはジョンソンに促され動き出した。ビルを見ているのはロックとバードだけになった。


「皆さんお疲れ様です。ちょっと落ち着いて」

「それが落ち着いていられるか! 爆弾があるんだよ?」

「どこにですか?」


 ちょっと戯けた様な表情のビルが手を広げた。やれやれと言わんばかりの仕草に警察官が苦笑いを浮かべる。


「この下にあるんだよ! さっき聞いたんだ!」

「誰にですか?」

「テロリストだよ! テロリスト! ここで話していたんだ」

「そうですか。で、そのテロリストはどこに?」

「お前らが殺したんだろうが! そっちに転がってるよ!」


 ビルが一瞬だけ間をおいた。この辺りの対応は流石だとバードは思った。今さっき階段を降りてる途中に殺したビルスタッフのユニフォームを着た男。その死体がエレベーター前に転がっていた。


「確かに我々は突入しましたが、この辺りでは戦闘をしていません」

「え?」

「それとも、警察の皆さんですか? 殺害したのは」

「いや、我々もやっていません」

「では……」


 ビルはもう一度喚いていた男たちを見た。


「誰が殺害したんですか?」

「知るか! そんなの!」

「しかも、この人はビルスタッフのユニフォームですね」


 ビルが指差した先には、死体があるのだが。


「なんでこの方がテロリストってわかるんですか?」

「そんなのどうでも良いだろ! まずは謝れ!」

「それに、我々は下まで降りたんですが、途中に爆発物はありませんでしたよ?」

「だからなんだって言うんだ! 今すぐここから出せ! ウスノロども!」


 ビルがすばやく一歩下がってヘルメットを被り、ナイフに手を掛けた。激昂している瞬間に咄嗟の行動を取ると、どれ程上手く演じる人間でも素が出る。ギャンギャンと犬の様に吠えて抗議していた男たちは、それに釣られてしまった。

 素早く落とした腰の辺りからナイフが出てきて戦闘体制になったのだ。一瞬だけその男の目がバードの視線と交差した。バードの視界に浮かぶインジケーターが赤に代わる。


「ビル! 伏せて!」


 バードは考えるより前に銃を構えた。ナイフを抜いていた者からヘッドショットし、次々と頭蓋が炸裂して白い血が飛び散る。抗議を聴いていた警察官三人とビル以外の者を全部射殺したバード。一瞬の出来事だった。警察の突入チームは青い顔で眺めていた。


「やれやれ、こっちの方が早かったな」

 

 ビルの目が、残り一人を捉えた。成り行きを見守っていたホテルの宿泊者とおぼしき最後の一人は、懐からショートソードを取り出した。年の頃なら四十代前半といったところか。だが、その物腰はまるで壮年に達した男のようだ。


「……これで全部殺しても良いんだな」


 薄く開いた口元に傲岸な笑みを浮かべ、漂わす気配には殺気ひとつ無い。だが、刃渡り50センチ程度の、よく手入れされた白銀に輝く刃が見える。


「……良いのか? 逃げなくても」

「え?」


 一瞬の虚を突かれ刃物がギラリと翻った。次の瞬間、警察官3人の首が飛んだ。ビルはナイフで応戦するのだが、刃物戦闘の技量は向こうの方が遙かに上だった。そして、その太刀さばきは恐ろしく速く正確で迷いが無い。


「ビル! 代われ!」


 ロックは愛刀を抜いて飛び掛った。瞬時に激しい斬り合いモードになる。そこへビルが刃物で援護するのだけど、技量的には向こうの方が遥かに上。しかもその速度はサイボーグに互角とも言えた。


「強い!」


 そうロックが叫び、そして斬られるのを覚悟の上で踏み込む。狭い場所で激しくぶつかり合えば、どちらかが偶然の重症を受ける。しかし、間を取っての斬り合いでは打ち負ける。残念だが、技量は相手のほうが遥かに上だ。リスクを犯して攻めねば勝てない。ロックはグッと歯を食いしばって斬り込んだ。

 刃渡りの短い刃で斬り合うには接近するしかない。だが、手が届く距離で斬り合うというのは、極限の集中力を要する。そして、それ以上に胆力が要る。絶対に負けないと言う強う気持ちで挑まねば、恐怖に身が堅くなる。それは言うまでも無く負けへの最短手だ。

 本気で踏み込みつつ、最短経路でショートソードを打ち込むロック。相手はその打ちこみを受け流しつつ、カウンターで斬りつけてくる。なんとかそれをいなしつつ、再び最短経路で打ち込むロック。そんな命がけのラリーが何度か続き、一瞬だけ間を取った二人。

 サイボーグなのだから肩で息をするような事は無い。だが、不思議と相手もそんな素振りがなかった。


「やるな!」


 どこか楽しげな声を発して再び打ち込むロック。同じタイミングで向こうも刃を振り込んできた。ロックの左腕を切り落とす勢いで打ち込まれた。



      ガチッ!



「残念だったな。俺はサイボーグだ」

「どうりで」


 ロックの左腕の手首から肘までの間には、ソートブレイカーを仕込んである。その谷へ刃を受けて捻れば、相手は手を離すしか無い。身を翻して相手の手をねじったロックは、右手一本で斬りかかった。

 目を見張るような速度で剣を振るロックだか、その全てを相手は交わしている。おそらくバードでは避けきれない打ち込みだ。バードだけで無いだろう。Bチームの誰を相手にしても問題ないCQBスペシャリストの太刀さばきである。

 一歩ずつ後退するその男は、だがしかし、どこか笑っているようにも見えた。そしてその直後、予想だにしなかった動きをその男は見せた。バードは思わず息を呑んだ。それしか出来なかったのだ。


「……惜しい」


 真剣白刃取り。武芸の極みに達した者だけが出来る奥義中の奥義。サイボーグの身体から繰り出される、尋常ならぬ打ちこみが止められた。

 

「お前もネクサスか!」

「いや、レプリじゃ無い」

「普通の人間にこんな芸が出来るか!」


 白刃取り状態の男をロックが蹴り飛ばした。刃を掴んでいた関係で一切受身を取れなかったその男は、転がるようにしてロックと距離をとった。両手から銀に輝く液体が流れていた……


「レプリじゃ……ないのか?」


 ロックの声が震える。


「レプリでは無いと言ってるだろう?」


 その男の口元に、再び薄笑いが浮かび上がった。まるで、事態を飲み込めないロック達をあざ笑うかのような笑みだった。


「ネクサス反応が出ない! 流れた血のスペクトル反応は血液よ! 酸素反応がある!」


 バードの視界に浮かぶインジケーターには人間の表示だ。この男は確実に『自分はレプリではない』と言い切った。だけど、生身でサイボーグと斬り合うなど出来る訳がない。そして、流した液体は血液だと思って良いだろう。まるで水銀の様な液体だ。体液として水銀を使うレプリなど、試作型としても聞いたことが無い。


「ロック! ビル! バーディー! 発火まで10分だ 急げ!」


 無線の中にアリョーシャの声が響く。


「ケリを付けたい所だが時間切れか!」


 ロックが背中の銃に手を掛けようとした瞬間。その男は近くのドアを開いて部屋へと飛び込んだ。中から鍵を閉める音がする。


「ロック! 走って!」


 廊下の隅でバードは銃を構えた。飛び出してきたら一撃で射殺出来る。


「チッ!」


 短く舌打ちしたロックは廊下を走って階段を駆け上がり始めた。ビルがその後に続いた。残り電源が寒い状況だけど、でも上までは持ちそうだ。動きを止めて音を殺し様子を伺うが、ドアの開きそうな様子は無い。バードは背中のマウントに銃を収めて振り返った。踊り場辺りに寝転がっていた警察官の死体へ手を合わせた。


 ――― ごめんなさい 回収できないの


 そう、心の中で呟いて駆け出そうとした瞬間、僅かに死体が動いた。


「え?」


 走り寄ってみると、僅かに動いている。心臓がまだ動いているし、自立呼吸もしている。どう言う事だ?とパニックに陥りかける。

 本当にゾンビか? それともリバイバー(活動死体)か?と驚く。脳が死んだ後でも戦闘薬の過剰投与により脊髄反射だけで活動する死体を何度か見たバードは、歩み寄って確かめる。もし本当にリバイバーなら、トドメを入れてあげるのが優しさなのだけど……


「…………!」


 言葉に成らない声をバード漏らした。いや、言葉にならない声で叫んでいた。後先の事は一切考えず、無我夢中で担ぎ上げて走った。


「バーディー! 残り7分! 急げ!」


 アリョーシャの絶叫が無線に響いた。指令の内容が頭を過ぎったのだけど、そんな事は後で考えようと思った。まだ間に合う筈だと。それだけを信じて走った。残り電源が15パーセントを切っていた。

 無我夢中で階段を駆け上がってる時、階下から階段を駆け上がる足音が聞こえた。音に驚いて足を止め、バード階段から下を見る。10フロア程度下の階段をネクサスⅩⅠが駆け上がってきていた。一瞬チラリと見えた時に目が合ったから解った。

 ネクサスⅩⅠが5匹くらい居る上に、アンノウンが2匹か3匹。間違いなくネクサスⅩⅢだろう。


「あと4分! どこだ!」

「現在105階! もう少し!」


 背中に冷たいものを感じて再び走り始めたバード。追いつかれるのは時間の問題だ。だが、宇宙軍最高性能の機体は伊達じゃ無い。最後の階段を駆け上がってドアをけり破るようにしつつ屋上へ出た。肩に担いだ警察突入チームの生き残りを見て、皆が一斉に声をあげた。


「バカ! バーディー! 何やってんだ!」


 ペイトンが大声で叫んだ。


「……ごめん! でも! まだ生きてる!」


 屋上ヘリポートに着陸している降下艇へ走り込み、警察官を床へ下ろした。幸いにして頭蓋周辺に外傷はない。上部胸腔にも深刻な外傷は認められない。ただ、不可抗力で腹部へ継続的に打撃を加え続けていた。肩に担いで階段を駆け上がるのだから、仕方が無いのだけど。


「ダニー! ごめん! お願い!」

「……わかったわかった」


 警察官をダニーに預けたバードは、予備のパンツァーファウストを持ち出した。降下艇を飛び出し、非常階段出入り口へ走る。


「バーディー! 良いから離れろ!」


 降下艇の中から全員が叫んだ。だけど、バードは再び非常階段部分へと走り込む。階段の下の方から激しい足音が聞こえてくる。一瞬だけチラリと見えた人影。まだ20発くらい残っていたYeckをありったけバラ撒いた。跳弾が弾け廻り、人影が頭を抱えて一瞬うずくまってから階段を見上げた。バードと一瞬だけ目が合う。それで十分だ。バードの視界にインジケーターが浮かぶ。


「しつこい男は嫌われるのよ! 諦めなさい!」


 右手一本で階下の踊り場目がけパンツァーファウストを発射。大音響を立てて階段が大きく崩れた。その崩れる階段を蹴って跳ね上がってくるネクサスⅩⅢ。このしつこさは蛇並みだと思いつつ、上からSー16をバリバリと撃ち込む。

 

「バード! 時間切れだ! 来い!」


 振り返るとアリョーシャがオーバーアクションで手招きしている。バードは最後の手榴弾を取り出すと、ピンを抜いて踊り場にそっと下ろし走った。降下艇は浮かび上がり、ビルのヘリポートから外れて空中を漂っている。ハンガーデッキでテッド隊長が投げ縄の予備動作を始めているのが見える。撃ち尽くしたSー16やパンツァーファウストの発射筒を捨てて軽量化する。

 あっという間に20か25キロは軽量化し、全速力で走っていって空中へ飛び出したバード。エアウォークするバード目掛け、テッド隊長がロープリングを投げてきた。肩が通った所でロープが引かれ、バードは降下艇へと収容された。

 ふと振り返ったとき、屋上へと出てきたネクサスⅩⅢが呆然と降下艇を見ていた。その直後、階段付近で手榴弾が爆発。1匹が即死し、残りが降下艇を見ていた。


「ジャクソン! ()れ! Oгонb(アゴン)!」


 アリョーシャが無意識にロシア語で叫んでいた。ちょっとウクライナ訛りだったのだが、それを理解できたのは同じロシア系のリーナーだけだ。

 ジャクソンが愛用するL-47のトリガーを引き絞った直後、呆然と眺めていたネクサスⅩⅢの頭がはじけ飛んだ。そのネクサスの後ろに、ロックと斬り合ったあの男が立っていた。ソードを構えて一瞬でネクサスⅩⅠを全て斬り捨てた。驚いたネクサスⅩⅢが回避行動を取ろうとしたのだけど、難なく補足され惨殺された。

 おそらく3秒ほどでバードを追いかけてきたネクサスが全滅した。宇宙軍最高性能を誇るサイボーグの機体を使いこなす隊員と互角以上の存在。接近戦で手こずったネクサスⅩⅢを一瞬で切り捨てる理解しがたい戦闘力だ。


「あいつ 俺よりつえーな」


 ロックの呟きは降下艇のエンジン音にかき消されて誰も聞き取れなかった。ほぼ同じタイミングでテンナイン各部からものすごい爆発音が響いた。中層階と地下階の両方から爆発のがれきが飛散する。ややあって、中層階から上が音を立てて崩れ始めた。あの中、ホテルの個室エリアにはテロリスト側の科学者や研究者が沢山居たはずだ。


「まさかこんな事になるとは思っても無かったろうな」


 リーナーがぼそりとこぼした。崩れ落ちるビルの瓦礫にチラホラと赤い点がバードにも見えた。きっと押しつぶされたり、或いは、ねじ切られた死体の流した血だと思った。

 フワリとバランスを崩し落ちていく屋上部分。あの男が手を振っていた。楽しく遊んだ友達に手を振る様な気安さだ。そのままガレキの巻き上げる煙に巻き込まれ姿が見えなくなった。バードは赤外で探したのだけど反応が出なかった。


「何者だったんだろう?」


 バードが漏らした言葉には驚きが込められていた。その言葉にビルが答える。


「メードインジャパンの死神じゃないか」


 不思議そうにしていたロックは、ビルの言葉に怒るでも無く、ただただ素直に、普通に言った。


「そうだな。あのまま斬り合ったら負けてた」

「あぁ。間違いなくロックより強かった」


 ロックの言葉にビルはそう答えた。何も言わずロックは崩れ落ちるテンナインを見ていた。


 その時――


「バーディー!」


 ちょっとだけ現実から逃避していたバードをダニーが呼んでいた。少しだけ心の準備をしてからバードはそこへ行ったのだけど。


「ダニー どう?」


 寝転がった警察官の身体を確かめて居たダニー。胸のあたりを指さしながら説明を始める。


「肋骨の9番から11番までが内側へ折れ曲がってる。何やった?」

「意識を失っていたから肩に担いで階段駆け上がってきた」

「だろうな。それと脊椎のL6辺りがけっこうやばい。ただ、折れてはいない」


 ダニーの診察が続いている。

 口を手で押さえながらバードは見ていた。


「おそらく内蔵系にダメージはない。心臓など循環器系も問題ない。自発呼吸が取れていてオキシジェンセンサーがちゃんと反応するからガス交換も大丈夫だろう」


 ダニーの簡易レントゲンはほんとに便利だと眺めているバード。そこへブルとアリョーシャがやって来た。ダニーの説明を一緒に眺める。瞬間的に極限まで緊張して、バードは一瞬意識が遠くなった。ブルは大きな目玉でジロリと睨み付けただけだった。そして、何も言わずダニーの隣に膝を付いて状態を確かめている。

 ブルの手が横たわっている警察官の胸を確かめた。ネームプレートを読んだのだろうと皆が思った。ややあって頭を抱えたまま立ち上がり振り返った。


「ダニー。こっちは命に別状無いんだな?」

「えぇ。それは大丈夫でしょう」

「気を失った理由は?」

「おそらく脳震盪では? 脳の機能検査を勧めたい所です」


 僅かに頷いたブルはチラリとアリョーシャを見た。おそらく何らかの会話があった。高級将校向けの無線で打ち合わせをしたはずだ。

 バードが殴られる。瞬間的に皆がそう思った。ブルの鉄拳制裁はサイボーグチームの日常と言って良い。ジャクソンとロックがそれとなくバードとブルの間に入る。ブルを止めようとしているのがバードにも判った。

 例えサイボーグでも女性なんだと。チームの意識は共通している。ただ、とんでもない事をしてしまったと、バードはうな垂れるよりなかったのだけど。

 だけど、ブルの手はポンとジャクソンとロックの肩を叩いて道を空けさせた。無駄だと諦めたのか、ジャクソンもロックも道を空けた。その先にバードが立っている。バードは覚悟を決め、奥歯を噛んだ。


「しょうが無いやつだ」


 ブルの言葉に艇内が一瞬凍りついた。


「でも。悪いようにはしない。安心しろ」


 全く意味がわからなかったメンバーが一斉にバードを見た。誰も何も言わなかった。言う事が出来なかった。事情を飲み込み切れていない。


「……申し訳ありません」


 どこか思い詰めたようにジッと見ているバード。チームのメンバーがみんな驚くなか、アリョーシャはその警察官を眺めていた。だんだんと高度を取って上昇していく降下艇は、既に完全気密モードに入っていた。


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