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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
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秘密裏の激闘

 ――――シブヤシティ タワー109 25階

    日本標準時間 午後8時半






 順調に階を降っていったBチームだが、26階までは全く人の気配が無かった。警視正の残した血痕が階段部分の道案内で、なんとも嫌な案内だが贅沢は言ってられない。

 25階の出入り口前でBチームは小休止を入れた。それぞれにエナジードリンクを補給し、電源の回復に勤める。生身と違ってサイボーグは肉体的に疲労や痛みを感じない。だがそれは時として、機能不全の予兆を自らに感じ得ないと言う困った事態を招く。生身であれば事前に『痛み』というシグナルで把握出来る部分だ。

 だからこそ、時にはこんな小休止を入れセルフチェックを行う必要があるのだ。各関節など可動部の状況把握に努め、不具合が出そうであれば早めに手当てする。機械的な故障は性能の低下を招き、それはつまり生存率の低下に繋がる。もっと言えば、作戦の成功を阻害しかねない自体になる。

 それ故にこんな時はBチームと言えど慎重かつ丁寧な自己診断を行う。普段の『緩さ』や『自由』を感じさせる雰囲気も、この時だけは一切無い。


「ジョンソンとバーディーは念入りにチェックしろ」

「ウィッス」


 ……相変わらず返事は緩い様だが。

 それでも、ジャクソンやバードは可動部の誤差チェックに余念が無い。それに併せ、メンバーは中途半端に残ったマガジンを整理する。残弾が少なくなれば、撃ちきる前にマガジンを交換する。その残った弾を一つにまとめるのも重要な作業だった。

 途中で補給が効きそうに無い。ならば手持ちの弾を上手に使うしかない。かなりの数を持って降りたはずなのだが、そろそろ心許ない空気が漂う。


「さて。そろそろ地獄巡り再開と行くか」


 テッド隊長の一言で全員が動き出す。ヘルメット内部で小さく息を吐いたバードは、改めて仲間達を見回した。誰もが気負った様子など無く、淡々と何時のも任務をこなしている空気だった。


 ――――よし もうひとがんばり!


 改めて気を入れ直して銃をチェック。銃身に異常が無いのを確認し、サムアップで行動開始に支障無しを示す。全員のサムアップを確認したテッド隊長のハンドサインが出た。


 25階へ突入せよ。


 リーナーがゆっくりと25階のドアを開ける。完全に明かりの消えた大きなフロアデッキに出た。巨大な吹き抜けのあるインナーデッキの付いたショッピングゾーンだった。


「こりゃスゲ―な」


 ペイトンがボソリと呟く。様々なテナントの入った商業向けの雑居ビル状態。流行の服が並び、おしゃれな靴が陳列されている。


「一つくらい貰って帰っても解らないかな?」


 この類いの物に縁の無かったバード。

 嫌でも目を輝かせるのだけれども。


「バーディーに着させてファッションショーやろうぜ!」


 ジャクソンが軽口を飛ばしている。一息入れた影響だろうか。チームの中の緊張感も、そろそろ欠けて緩んできている。

 吹き抜けの中央には本物っぽい樹木が植えられている。高さ20メートルはある大きな樹だ。青々と茂るその大きな樹は、20階部分から25階の天井付近までそびえていた。


「あれなに?」


 ちょっと素っ頓狂な声で驚いたバード。なんだか変な飾り付けがしてあると気がついて最大ズーム。そしてその直後。全員が息を呑んだ。突入班の沢山の死体がぶら下げられていた。足の側にロープを巻かれ木からぶら下げられている者。つるし首になって事切れている者。様々だ。

 死体をぶら下げれば舌は飛び出さないはずだ。つまり、生きたまま吊るされた者がいる。死者も生者も併せて吊されたのだろう。


「極めつけの悪趣味具合だな」

「最初に考えた奴は脳みそ煮えてんじゃねーのか」


 殊更に不機嫌そうな声のジョンソンとジャクソン。その会話は無線経由だから音を発しないはず。だがBチームの存在に気が付いた者が居るらしい。階下から叫び声が聞こえた。


「あいつら何者だ!」


 吹き抜けの下から誰かがBチームを見つけたらしい。同時に幾つもの銃弾が降り注ぐように飛んできた。本能的にテイクバックして銃弾を交わしながら場所を移動するバード。メンバーは無意識に散開陣形となり散発的にデッキから下を確認する。身長5メートルはあるジャイアントが何体かウロウロしていた。


「片っ端から始末しろ! 生かしておくな!」


 隊長の怒声が飛んだ。あんな物を見れば、やっぱり隊長だって不機嫌なんだとバードも思う。その声に促されもう一度デッキから下を覗くと、縦列を重ねたレプリが見えた。同時に、何体かのジャイアントがデッキに足を掛け壁を登ってくるのが見える。


「馬鹿ね! 良い的だよ! エアヘッド!」


 右手のグローブを外して腕を向けたバードの口から罵声が飛んだ。手首の球体関節にあるロックを外せば、中から弾体加速装置の銃口が姿を表す。左手を右ひじに添えて狙いを定め射撃ソフトを立ち上げたバード。残弾数は十二発。外す距離じゃ無い。バードはレールガンの発射電圧まで一気に加圧した。


「レールガンを使うから注意して!」


 レールガンは瞬間的に大電流を高電圧で使う関係で電磁ノイズが出やすい。他のメンバーが各々持つ特殊装備に影響を出さないようマナー良く。ついでに言うと、女性らしくお淑やかに振舞わないと……


「バーディー! あのデカ物のケツに特大の奴をぶち込んでやれ!」


 ……などとジョンソンが吼えている。


 こんな時は女扱いしてくれないんだなと悲しくなりつつ、敵に集中した。油断すると痛い目にあうのは何度も経験しているのだから。バカ正直に距離を詰めてくるジャイアントは5体。一発ずつ頭部にお見舞いしてやるのだが、一撃で胸部上半分ごと吹き飛んだ。見事に貫通し、その向こうの建物躯体の柱などを盛大に破壊してしまう。

 ちょっと威力を上げ過ぎたと後悔したバードだが、残り二体の動きが止まった。あまりの威力に恐れをなしたのだろうと思った。ただ、遠慮なく最大電圧を掛けて次を射出する。音速の10倍近くまで加速された超鋼鉄の弾丸がジャイアントを貫通した。着弾してから周囲の筋肉を引き裂き全てをねじ切る様にして穴が開く。

 最後の一匹は登りかけた壁から飛び降りて逃げようとしている。だけど、その判断があまりに遅きに失した事をジャイアントは気付いていない。背中目掛けて発射された5発目は、ジャイアントの胸部全てを吹き飛ばした。


「全ジャイアントを処理!」

「よし! 残敵を掃討しろ!」

 

 隊長が叫ぶ。左右を確認したら狭い通路を一直線に走ってくるネクサスが見えた。多分ⅥとⅧだ。こちらもまた馬鹿正直に一列になって走ってくる。真正面から一発射出してやると、纏めて貫通して、そのまま外壁に大穴をあけた。


「よしっ!」


 右手首の銃身を収納しグローブを再装着。それを支援するようにメンバーがあちこちで派手に射撃を始めていた。もう一度フロアに目をやった時、背後から銃弾が幾つも飛んできた。無我夢中で回避行動をとって壁に隠れ、Sー16を構えて射撃を開始。向こうは小口径の高速弾だから、壁一枚あればこっちにダメージは無い。

 だけど、こっちの打撃力は大口径高速弾だ。うすっぺらい壁くらい簡単に貫通してしまう。壁越しに幾つも真っ赤な華が咲いている。手やら足やら首やらが胴体がらちぎれ飛んでいる。一瞬だけ、その光景を綺麗だとバードは思った。25階のフロアデッキを確実に掃討したのだが、そろそろ手持ち弾丸が心細くなり始めた。


「誰か弾に余裕無い?」


 バードが叫んだら、最初にジャクソンが答えた。


「俺も欲しいくらいだ」


 続いてスミスが叫ぶ。


「気前よくやったからなぁ」

 

 これだけ盛大なドンパチをやると、さすがに残りが心許ない。中途半端に残った弾を集めてマガジンをリロードしてみたら、残35発しかない。降下の段階では三百発近く持っていた筈なのだが。


「とにかくこのフロアを何とかするぞ! ぬかるな! 弾が無ければ格闘しろ!」


 そう叫んだテッド隊長はエスカレーターへ取り付いた。25階から24階へ降りる物だ。デッキフロアなので逆サイドから丸見え。遮蔽物の無い所へ進んだテッド隊長に向かって銃弾が降り注ぐ。その遠慮ない攻撃に、バードの頭の中で何かが弾けとんだ。


「調子乗ってるわね!」


 腰にぶら下げたパンツァーファウストは残り四発。まず一本目を構えて、テロリストの射点が集まっている壁に向かってぶっ放した。飛翔距離60メートルで着弾すると、防火扉ごと大穴が開いた。おそらく五人か六人が挽肉に変わった。

 そのやや東より。見るからに丈夫そうな構造物の壁から射撃していた連中にもう一発。盛大な爆発音が響き、同じ様に数名が吹っ飛んだ。


「バーディー!あんまり気前良く構造体ぶっ壊すと!」

「ビルが崩れッかもな!」

「どっちみち壊すんだ! 構うことねーって!」


 声の主はビルとダニーとリーナー。だけど、誰が誰だか。一瞬バードは聞き分けられなかった。ただ、そんな事をあれこれ考える前に、ロックの金切り声が響く。


「バード! 下だ!」


 意味がわからず混乱していたら、離れた所にいるビルの視界が飛び込んできた。バードの死角と言うべき20階から飛び上がってくるネクサスが見えている。この跳躍力。誰がどう見てもネクサスⅩⅢだと直感する。理屈や識別インジケーター云々ではなく、今までのネクサスではこんな事は出来なかったからだ。それは常識はずれな能力だった。

 ただ、空中へ飛んでしまえば左右へは動けないのだから動きは単調になる。バードは死角から飛び出るタイミングを狙って三発目を発射。ドンピシャで空中に飛び上がっていたネクサスⅩⅢの腹部に命中した。

 一緒に飛んでいた左右のネクサスが巻き添えになって20階フロアへ落ちていった。そこ目掛けてロックが飛び降りた。着地の衝撃でネクサスⅩⅢの頭部を粉砕。動きの弱っていたもう一匹の首を撥ねた。やはり至近距離で戦うなら銃より刃物のほうが強い。駆けつけ襲い掛かるネクサスⅥを何匹が瞬時に血祭りにし、その白い返り血を浴びて立っているロック。

 何をしているのか? と仲間達が訝しがったその直後、ロックの居た場所に猛烈な銃弾が降り注ぐ。動きを見極めていたのかと思ったバード。生き残りテロリストは、もはや二十名足らずのようだ。しかし、収束射撃はそれなりに凶悪であり、直撃を受ければそれなりに痛いはず。バードは一人でも多そうな塊りに向かって、最後の一発を叩き込む。


「ロック! いける?」


 小火器で撃たれつつも立ったままのロック。

 降り注ぐ銃弾を全く気にしていないその姿には不自然な緊張感が有った。


「ロック! 交わして!」

「へーきだ! 邪魔すんなよ!」

「え?」


 火点が片っ端から射撃を受け沈黙した20階のフロア中央部。巨大な人工樹の足元辺りでロックは愛刀を構えた。愛刀を逆手に持ち、右足を半歩を引いてハスに構える。


「なにやってんの!」


 バードの怒声にもロックは一切動じていない。降り注ぐ銃弾の雨を一切気にせず、動きを止めたロック。その視線の先には、先ほど突入チームの無線に映っていたソードを構えるネクサス。


「イッツ! ショーターイム!」


 ロック目がけて射撃しているテロリストは、他のメンバーが射殺している。しかし、ロックと正対しているネクサスは絶妙の角度で死角に立っていた。感情の無いレプリカントな筈なのだが、そのネクサスは笑っていた。誰かが撃った銃弾を太刀の鞘で払って直撃を防ぐ。あんな芸当が出来るのはⅩⅢだけだとバードは直感する。


「お前は何者だ?」

「お前ら人形を叩き殺す為に造られた人工の死神さ」

「なるほど。その首、貰い受ける」

「おもしれぇ やってみな 木偶人形」


 ネクサスもまた半身を引いて上段に構えた。

 刃渡り一メートルを超えそうな長太刀が涼やかに光った。


「死神 名乗れ」

「死人に名乗る名前など無い」

「ほざけ」


 ネクサスの踏み込みは常軌を逸した速度だった。まるで示現流の様な、初太刀に全てを込めるかのような打ちこみだった。

 それを止めるには勇気を持って踏み込んで太刀そのものを止めるしかない。ロックもあわせて踏み込んだ。高性能動態センサーに切り替わった筈なのに、バードにはロックの残像が見えた。

 ヘルメットのカメラは案外チョロィんだと気がつきつつも、目の前の事態にうろたえる。ロックはギリギリの所で踏み込みを止め下がったのだった。刃の切っ先が恐ろしい音を立てて空を切った。ロックの踏み込みがあと10センチ前だったら、間違いなく死んでいた。

 

「今のは隠し芸か何かか?」


 表情の見えないロックだけど、声は妙に楽しそうだった。だがその次の瞬間、Bチーム全員が声を上げた。ロックの被っていたヘルメットが縦に割れたのだった。

 そして、恐ろしいほどに凶悪な笑みを浮かべたロックの素顔が、敵にも味方にも露わになった。


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