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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
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ネクサス13との遭遇

 転がっている死体の検分を始めたバードは妙な事に気が付いた。転がっている死体たちは銃こそ持っているが、アーマー類は一切無い。こんな貧弱な装備で屋内戦闘しようとしてたのかと驚くほどだった。


「まさか、俺たちみたいなのが殴り込んでくるとは思ってなかったようだな」


 ジャクソンが死体を調べながら呟く。どの死体も驚いたと言う表情で事切れている。ドアが開いた瞬間に収束射撃するつもりだったんだろうと思われた。だが、それ以前の問題だったようだ。まさか壁越しにX線で見てるとは思わなかったんだろう。


「フロアを掃討しろ。どこかに生き残りが居ると面倒だ」


 隊長の指示に沿ってフロア内を探索したBチームの面々。しかし、何処にも隠れている様子が無い。ここもやはりビジネスゾーンのようで、各小部屋にはさっきまで仕事してたと言う痕跡だけが残っていた。


「問題無さそうですね」


 ひとしきりチェックしてきたペイトンがつぶやく。通路の左右を確認したのだけど、人が隠れるような場所は無かった。チームのメンバーもあちこち確認して戻ってきた。殿になったジャクソンが振り返って言う。


隊長(オヤジ)ここは消毒済みっすね」

「そうだな 下へ行くぞ」


 ゆっくりと階段を降りていくと三十三階入り口のドアが開いていた。

 ここは風の流れが無い。つまり、ここは横方向へ随分と広い。



 ―――33階―――



「誘ってやがるな」

「上等だぜ。返り討ちにしてやる」

「クソッ!MGー5を持って降りるべきだった」


 スミスはSー16に新しいマガジンを押し込んだ。やっぱりスミスにはMGー5がよく似合うとバードは思う。スリーメンズウェポンと言う位の重量なMGー5だが、スミスはそれを片手で軽々と構えてバリバリ撃つ。


「ライアン ペイトン スミス 右へ行け」「Sir!」

「リーナー ジョンソン ビル 左だ」「Sir!」

「ロック バーディー ジャクソン 前方通路へ」「Sir!」

「残りは俺と裏手へ回る 抜かるな!」


 ロックが先頭に立った。左手のソードは逆手に持っている。最後尾のジャクソンがSー16を構える前で、バードはYeckを構えた。慎重に前進しながら左右の部屋を確認していく三人。左右に一つずつある部屋を確認し、最奥の小部屋へとたどり着いた時だった。


『ギャー!』


 小部屋の中から断末魔の悲鳴が聞こえた。


「三つ数えて飛び込もう!」


 ロックが刃物を両方とも逆手に持った。接近戦で切り刻む体制だ。バードはYeckをフルオートにして、ドラムマガジンの中身を確認する。まだ百発以上撃てるから、問題無さそうだ。ジャクソンはSー16のマガジンを確かめて残弾を確認している。


「いいか? 3! 2! 1! GO!」


 ドアを蹴り破ってバードが小部屋に飛び込むと、その中央には両手を天井へ吊された警察突入チームの生き残りが居た。その周囲には8人のテロリスト。うち、3人が人間で残りはレプリだ。バードは至近距離からフルオートで弾丸を浴びせかける。たが、向こうの反応が一瞬早く、死んだのは生身だけ。5匹のレプリは恐るべき反応速度で弾丸を交わして逃げた。

 まずい! と思う前にレプリが一匹やってきた。鋭く足を振り上げ拳銃を落としに掛かってくる。クロックアップした思考で戦闘手順を組み上げ、おとなしくその足を左手に受けた。握力を緩めておいたから手からYeckが一丁落ちる。レプリはバカ正直にそれを拾いに行ったので、すかさず迷うこと無く、そして一切遠慮無く、無防備の後頭部を銃撃し即死させる。

 その後に一瞬だけ右を向くと、ロックがレプリを2匹切り刻んでいた。そのロックへ襲いかかろうとしたレプリはジャクソンが撃ち殺した。残る一匹は一瞬状況判断に迷いが出たのだとバードは思った。たぶんコンマ3秒か4秒の遅れだろう。しかし、サイボーグと闘うならその時間は命取りだ。迷うこと無く眉間へ数発撃ち込んだ。直後にロックが両腕を切り落とし、返す刀で首を狩る。ジャクソンが側頭部へ撃ち込んで、スイカのように頭蓋がはじけた。

 部屋の床が白と赤の夥しい血で埋め尽くされ、あっという間に戦闘が終わった。そんな床へ天井から伸びるロープを切って警察官を下ろした。半分以上死んでると思われるが……


「手遅れだな」


 口をパクパクと痙攣させている警察官。『なんだろう?』と聞き耳を立てたバードだが、その警察官は左目をえぐり出され、右手の指は全部ねじりきられている。凄惨な拷問の現場へ来てしまったようだ。


「なんだ? 何が言いたい?」


 外部スピーカーで語りかけるロック。ジャクソンは手持ちのモルヒネを数本撃ち込んだ。ヘルメットを取ったロックがのぞき込むと、警察官は少し笑みを浮かべた。小声で何かを伝えて事切れ、ジャクソンは残っていた右目の瞼をそっと閉じた。


「まだ生き残りが居るとさ 頼むってよ」

「手遅れだと思うけど、まぁ、仕方ねぇ。引き受けてやるか」

「信じたかったんでしょ。きっと」


 部屋の真ん中へ横たえたロック。その後、三人は背筋を伸ばし敬礼を送った。任務ご苦労様でしたと、バードは心の中で念じた。


「各員状況を送れ」


 テッド隊長の声が無線に響き、バードは意識を現実へと戻す。

 部屋の中には噎せ返るような血の臭いがしているはずだった。


「中央部小部屋で警察突入班の生き残りを発見。ですが今、死にました」


 ロックが先に口を開いた。


「同じ部屋でテロリスト8体を射殺。うち5匹はレプリ。タイプⅩⅢでは有りません」


 そう報告を上げたバードだが、拭いがたい違和感はむしろ増大していた。


 ――――ネクサスⅩⅢはどこに居るんだろう?


 そんなことを考えながらもう一度エリアを探索しつつ移動。スタートポイント前へ戻ると隊長達が戻っていた。


「ライアン ペイトン スミス そっちはどうだ」

「何も無いですね」

「リーナー ジョンソン ビル そっちは」

「こっちも外れです」


 ややあって全員戻ってきた。返り血を浴びる戦闘をしたのはバードたちだけ。

 

「下へ降りるぞ」


 テッド隊長の一言でさらに階をくだっていく。だけど、ここから下はまったくテロリストの姿が無い。全部殺したのかな?と思って突入後の殺害数を数えたバード。まだまだ居るはずだと思うのだが。段々と緊張が高まっていく。あっという間に30階まで降りた。



 ―――30階―――



「なんだかそろそろ来そうだな」


 ライアンがボソッと呟いた。その言葉に一瞬だけバードは身を固くする。だけど、余分な緊張は失敗の元。視界に浮かぶ電源残量とか酸素の消費状況とか、生体パラメータを確認して気分転換を計ったバード。階段のドア部分に張り付いたダニーがX線サーチを始めているのだけど。


「ここも誰も居ないな。トラップすら無い」


 ジョンソンが再びドアを開けた。真っ暗闇だから何も見えないのだけど、赤外で見ているバードたちには問題ない。壁の辺りに若干の温度分布がある。サーモグラフィにすると温度のグラデーションが見えた。


「なんだろう?」


 バードはヘルメットのライトを点灯させた。眩い灯りで照らしだされた壁一面が鮮血で真っ赤だった。慣れている筈なんだけど、少しだけ悲鳴を上げかけてバードは飲み込む。


「今のバーディーの反応は可愛かったな」

「悲鳴上げながら抱きついてくれると役得なんだけどな」

「まるで女の子みたいだった」


 ジャクソンとライアンが好き勝手な事を言う。


「あのー 一応女の子のつもりですがぁー」


 棒読み状態で呆れつつバードは通路に出た。不用意に。何の警戒も無く。無造作に……だ。バカな言葉に気を取られて注意を怠ったバード。それが戦場では命取りになるのを一切忘れていた。刹那、視界の左端に何かが光った。サブコンがクロックアップして、無意識に回避行動を取る。限界まで足の関節を捻って身体を反転させ、通路から非常階段側へ身体を逃がした。

 

   ―――ガキンッ!!


 何かが何かにぶつかった。音だけの情報だけど、それはわかった。バードの視界に左手構造体のホログラムが浮かぶ。肘から先の関節部に動作不良の文字が表示されていた。転げ落ちるように踊り場へ逃げ込んだ直後。バードの身体があった辺りを、幾つもの銃弾が通過していった。


「バーディー!」


 テッド隊長の声が通路に響く。一瞬何が起きたのかをバードは理解できなかった。体勢を立て直して左手を見たら、掌を中途半端に広げた状態でロックが掛かっていた。握っていたはずのYeckが見当たらない。肘関節は曲がるけど、手首から先が完全に固定状態だ。曲がっている指を右手で一本ずつまっすぐに伸ばし、手首関節を前後に曲げてみる。歯車がかみ合ってモーターが回る振動は伝わるのだけど、でも。


「すいません 迂闊でした」

「損傷は?」

「左手首から先が機能不全。動作リセット掛けてみます」


 制御ソフトのプロパティから手首の作動部分を探し出して再起動を掛けてみる。ゼロ点位置を失っただけならこれで動くはずだと祈る。


「あー ドラム部分に少口径弾が当たってるんだな」


 一瞬の映像を見ていたライアンが分析している。左目に映像が入ってきた。不用意に一歩踏み出した時、左手側のドラムマガジンへ数発の命中弾だ。マガジンがグリップ部分から弾け飛び、衝撃でスライドが飛んでしまった。

 あまりに短時間の衝撃な為に、左手のグリップから握力が抜け切らなかった。サイボーグの握力は手首細いくせに軽く100キロ以上有るのだから、こんな時は瞬時に力が抜けきらず打撃をまともに受ける事に成る。


「あ、動いた」


 ゼロ点補正して修正再起動を掛けたバードだが、それによって左手が動くようになった。ただ、なんとなく動作に誤差が多い気がするのは気のせいでは無かった。使っていくうちに自然修正されるだろうが、射撃時の命中誤差はどうしても出てしまう。


「問題ありません。戦闘続行出来ます」

「次は気を付けろ。ブレードランナーはお前だけだ」

「はい。申し訳ありません」


 テッド隊長は通路の向こう側を探ろうと鏡を取り出して様子を伺いはじめた。しかし、その直後にその鏡へ向かって銃弾が飛んできた。鉄板を磨きだして鏡にしてある物だ。ガラスが割れる事は無いが、銃弾が命中し火花が飛んで弾かれると、一瞬手がバカになる。


「一瞬だが見えた。五人か六人はいるぞ」


 通路に出たらアウト。

 ここに居てもアウト。

 どうする?


「通路に出たら撃たれるんだろ? じゃぁ通路こっちに作ろうぜ」


 リーナーがとんでもない事を言い出した。腰からチューブに入ったゲル状の物を取り出す。アレはなんだっけ?と記憶を辿るバード。唐突に思い出したのは、ODSTスクールの爆破技術レクチャーだった。二種類の薬剤を混ぜて発火させる混合発火爆薬は便利な代物。ヘルメットの内側でバードはニヤリと笑う。『このテロリストども! 倍返しにしてやる!』と、邪悪な笑みを浮かべる。

 リーナーは通路出口とは違う壁へ、爆薬を帯状に塗っていく。速乾性のリキッドを塗りたくってから、今度はスプレーの薬品を塗り重ねる。するとどうだ。先に塗ったリキッドと反応して、モワモワと泡状の物が出来上がった。

 

「爆破します」

「よし、派手にやろう」


 数歩下がってからリーナーは拳銃弾を一発打ち込む。すると化学反応で発火し、かなりの音を立てて爆発したのだった。ただ、泡の内側方向、壁に向かって爆発の打撃が伝わり、碌に破片も飛んでこない。壁を粉砕し大穴が開いたところへテッド隊長がパンツァーファウストを撃ちこんだ。奥の壁に着弾し、そこにも大穴があいた。『新しい通路を作るってそう言う事ね!』とバードは気がつく。

 皆が手持ちを1発ずつ撃ち込んで行くので、気が付けば壁は見事に外壁付近まで繋がった。


「行くぞ! 突入!」


 一丁失った拳銃の代わりにS-16を構えて突入する事にしたバード。まだ見ぬネクサスⅩⅢだと拳銃弾では止められないと思ったのだ。壁の穴を潜りながら奥へ突入していくと、6枚目右側辺りに人『だった』者が居た。

 パンツァーファウストの衝撃で吹っ飛んだのだろうか。反対側の壁にはベッタリと血糊が着いていて、そこには赤い血に混じって白い血も飛び散っている。

 どれだろう?と延びている連中を見ていたバード。その隙を突いたのか、一番遠くに寝転がっていたのが飛び起きた。真っ直ぐに襲い掛かってくるのだけど、足元が悪いせいか速度が乗ってない。

 難なく至近距離から大口径弾をお見舞いして、真っ二つに割ってやる。ついでに、下で伸びている連中にもマガジン一本分ほどおすそ分けをバードは行った。間違いなく全滅だ。これで生きてる方がおかしい。


「おいおい。うちのおひぃさまはご機嫌斜めだぜ」


 ヘラヘラと笑っているチーム員を他所に、死体を確かめていく。そこに寝転がっていたのは11人。うちレプリは7匹。最後に襲い掛かって来たのはネクサスⅩⅢだったと思われる。


「ネクサスⅩⅢの実物は始めて見た。こんなパターン見た事ない」


 虹彩部分にあるバイナリーの解読を試みたバードだが、ネクサスⅩⅢのデータが無いから照合不可能だ。インジケーターもアンノウン表示になる。

 現物サンプルとしてバイナリー登録を試みたバード。だが、何度やってもエラー表示が出て登録できない。


「おかしいな」

「どうした?」


 ネクサスの顔をジッと見ていたバードの呟きにライアンが反応した。


「虹彩のバイナリーを読み込んだんだけど、登録できない」

「ちょっと送ってみ?」

「うん」


 画像データをシュトラウスにしてライアンへと転送したバード。

 だが、これも途中でエラーになった。


「なんでだろう? エラーになる」

「ちょっと見せてみろよ」


 ライアンと一緒にペイトンもやって来た。

 虹彩部のバイナリーデーターをスキャンしたライアンが『うーん』と唸る。


「これ、あれじゃないか? プロテクト掛けるトラップ付き」

「そうらしいな。俺の持ってる解析アプリでも数値変換できない」


 電子戦担当が二人で考え込むのだから、なんか特殊なプロテクトだと言う事だ。バードだけでなくドリーやジョンソンまで参加しての解析。だが、テッド隊長はそれを止めた。


「面倒は終ってからにしろ。どっちにしろ全部処分すれば良い話だ」


 そうだ。その通りだ。このビル内にいる奴は全部処分するのだから関係ない。そう気が付いたバードを含めBチームの面々隊列を組み、フロア捜索を始めようとしたその時だった。あちこち調べていたら、通路の奥の方で何かが動く音がした。

 メンバーが一斉に戦闘モードへ切り替わって銃を向ける。何かがズリズリと這いずる音だ。

 赤外モードに切り替えて暗闇を覗き込むと、床の上を何かが這いずって来る。シルエットからして人間なのは間違いない。通路の床には点々と赤い点が残る。血を流しているのだろうと気が付いて、最初にダニーが動いた。さすが衛生兵。腰から緊急救命キットを取り出して駆け寄る。


「大丈夫か!」


 自然な日本語がダニーの口から出てくるのに驚く。

 だけど、サイボーグの高機能さを思えば、驚くほどでもない。


「おれは……  警視庁所属…… たっ!


 ゲハッと吐血して痙攣してる。ダニーが麻酔と強心剤を投与する。

 リーナーが手持ちのライトで天井を照らし始めた。満遍なく灯りが回って姿が見える。両足の膝から下を失い、血を流しながらやってきたようだ。バードは考える前に駆け寄って背中を抱き上げた。せめてヘルメットを取ってやるべきかと一瞬考えたのだが、でも、最悪の場合は自爆テロの危険性があるのだから。


「大丈夫? 私は日本語がわかるから」

「この下にじっ………十五名の………生き………残りがい……る……たのむ」


 ダニーが電撃ショッカーを準備していたのだけど、その前に事切れた。胸のネームタグも半分欠けていた。階級は警視正。上から四番目の高級官職に驚く。

 体のどこにも銃撃痕が無いのだけど、全身血塗れだ。間違いなく拷問の痕だと思う。部下の為にここまで頑張ってきたんだろうと思った。テッド隊長がバードの隣へやってきた。


「わかった。心配するな。任せておけ」


 隊長の手が警視正の瞼を下ろした。

 チームが並んで敬礼している。


「よし。警察官諸君を救出しよう。いくぞ! 気合入ってるか!」

「「「Sir!」」」


 再び階段を降り始めた。

 血痕の道案内を辿りながら。


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