義務を果たす道程
――――シブヤシティ タワー109 48階
日本標準時間 午後7時半
50階から上はあまり高級ではないホテルゾーンのようだった。安っぽいドアで隔てられた各部屋とも人の気配がしていて、Bチームのメンバーは気配を悟られないよう慎重に行動していた。地上側の工作により電源が死んだ為か、館内は一切エアコンが使えない状況で、やや温度が高い。冬場でなければ熱中症で死んでいたかもしれないとバードも考えているくらいだ。
この辺りのフロアはテロリスト側も人手不足なのか、見張りすらろくに居ない状態だった。時々、エレベーターに近い所や階段付近に待ち構えてるのを誰かしらがナイフで処理する程度で、ちょっと拍子抜けに思いつつ48階まで降りてきた。ここは高層機器室のようだ。ホテル向けのエアコンや上下水道関係の設備が集中している場所だった。
「エリア内をチェック 機器に損傷を与えるな」
隊長の指示でチームが散開しフロア探検を始めた。配管類や電源ケーブルが集中するビル中央部の機器室を囲むように廊下が伸びる。
その廊下の外側。ビルの外壁辺りまで機器室がびっしり並んでいた。狭いところが多いが、全ての部屋の配電盤裏側までチェック。どこにも怪しい所がないので元の場所へと戻ってきた。
「何も無いッすね」
抜けた声でジョンソンが最初に報告を入れてきた。どこかめんどくさそうに感じたのは気のせいだろうと思って注意深く各所を観察したバード。だが、やはり何も発見できない。
「トイレや水周り設備まで全部見たんですが異常ないです」
そう、バードも報告を入れた。その後もチームのメンバーが次々と以上無しの報告を入れてきて、テッド隊長は首を傾げた。余りに無用心で抜けている状態だ。こんな時は理屈ではなく罠を警戒する必要がある。人間の心理的死角にこそ罠が有効なのだから。
「奴らどこに結集してるんだ?」
テッド隊長は慎重に思考を進めていた。隊員を預かる隊長と言う肩書きは常にプレッシャーに晒される。全員が生きて無事帰還するまでが任務なのだ。油断や慢心する事無く考え込んでいる、その時だった。
「爆発物を発見! 能力的に上層階を全部吹き飛ばす量です!」
いつの間にか追いついていたリーナーが大声で報告してきた。チーム全員が慌てて現場を見に行くと、ビルの重量を支える太い柱に恐ろしい量の爆薬が張り付いている。リーナーはじっくりと爆発物の配線を調べている。
「構造的には無線発破の一斉点火。モンロー効果を利用して柱を貫通させるんだろうな。これだけC4を貼って置けば、この柱だってポキッといくぜ」
尚もあちこち調べていくと、電線の繋がった爆破制御装置を見つけた。小型ペットボトルほどの大きさだ。無線を使って一斉発火が出来る優れもののようだ。
「解体できるか?」
テッド隊長も流石に心配そうだ。
「やってみます。ただ、間違ってドン!といったら」
流石のリーナーもちょっと躊躇してる。
「心配すんな ドンといったら死ぬだけだ」
「そうだな。このメンツは一回死んでる様なもんだから」
ドリーとビルの気楽な言葉に言葉に皆が笑う。心の荷物を下ろしたらしいリーナーが腰から工兵の七つ道具を取り出した。テスターとX線透視を駆使して構造マップを頭に書いていく。
「ライアン このプログラムコード解析できるか?」
「ちょっと見せてくれ やってみる」
ライアンも腰から接続ケーブルやらタブレットPCを取り出して解析を始めた。
「二人とも頼むぞ スミス ペイトン 見張りに立て 残りは下へ降りる」
隊長が先頭に立って階段を降り始めた。なぜかふたつ分フロアを降りて46階の扉に張り付く。ダニーは慎重に扉の向こうを探っている。
「人の気配がないな」
トラップが無さそうなのを確かめて、そっと扉を開く。ドアの向こうにはちょっと大きなホールがあり、受付のカウンターとクロークの窓口があった。
「なんかの式場か?」
「パーティー会場っぽいぜ」
無線の中でいぶかしがる声を聞きながら壁際を進んだバード。ロックが何かを見つけライトで照らした。
【渋谷ソシアルホール】
「どうやら多目的ホールだな」
「久しぶりに漢字を見たけど読み方忘れてなかった」
「俺たちは母国語の筈なんだけどな」
無線の中でロックとバードは笑い合う。
「俺も母国語を時々忘れるよ」
ダニーが笑っている。 彼の母国語はタガログ語の筈だ。
受付の中を通過しすすむと、スタッフオンリーと書かれた扉があった。慎重にドアを開け尚も前進すると、どうやら放送などの機器室と思われる部屋に出た。音楽スタジオの様に音量を調整する巨大なパネル機器が並んでいる部屋だ。そして、そのまま進めば小窓が開いていて、驚くほど巨大な空洞を見下ろす所に出た。巨大な柱が並ぶ大空間だ。ビルの真ん中にこんな大空洞があるとは俄に信じがたい。幾つも中階層デッキが並んでいるそれは、巨大な演劇向けの観客席だった。
その観客席に何かある。薄暗闇の中をジッと観察していたロックは、観客席に疲れ切った人々を見つけた。
「大量の人質を発見! ホールに軟禁されている模様!」
ロックの声が無線に流れ、同時に視界が共有された。ホールの中をじっくりと眺めるロック。尚もスタジオ内部を探索していたバードは別の小窓を見つける。角度違いで別の観客席が見える。ここにも大量の人々が座っていた。生気の抜けた表情を浮かべているのが見えた。そのシーンを見てダニーが呟く。
「拘禁されてる経過時間が相当あるな。若干脱水症状の気がある」
医者的な見地からダニーが見立てている。慎重にスタジオ内部を進んで構造を確かめるバードは、小さな出口を見つけた。ドアスコープの付いた鉄製の扉だった。スタジオの外を確かめると無人らしい事が解る。
「スタジオから外部へ通じる扉を発見!」
「よし! フロアチェック開始! 気取られるな!」
隊長が指示を飛ばし、全員が散開してフロアを見回る。
そんなタイミングで、再び警察突入チームの無線映像が入ってきた。
『ユニット03より本部 01の全滅を確認 フロア20の制圧に失敗』
『本部よりユニット03 戦闘を継続できるか?』
『ユニット03より本部 現状戦闘継続可能人数は17名 04とは通信できません 暫時戦闘を継続します』
『了解 ユニット09、10、11の各班はフロア20へ急行せよ』
どうやら下にいる警察チームの戦闘も佳境の様だ。無線の中に激しい銃撃戦の音が続いていて、その中には小規模な爆発音も混じっていた。時々は断末魔の声が響き、後を託すrと呟いて自爆する音が混じっていた。
「すごいね……」
「……あぁ」
46階の機器室で劇場の観客席を見ているロックとバード。年齢が多種多様な男性に混じり、女の子と老婆が見える。若い女性は全部ビルの上層部に集められているようだ。
「もしかしてさ」
「あぁ。間違いねぇ。こっちは殺す予定のほうだ」
「消耗品扱いって事ね」
「ひでぇ奴らだぜ」
無線の中で話しこんでいたロックとバード。そのふたりの所へテッド隊長がやってきた。チラリと観客席を見てから振り返る。
「シリウスへの長旅だ。荷物は少ない方が良いからな」
「上は荷物でしょうけど、こっちはお荷物ですね」
隊長の姿を見たロックとバードは呆れたように呟いた。
「まぁ、そう言うことだ。長旅には必要ないものだ――
もう一度観客席を覗き込み、テッド隊長は何かを思案していた。
何かを思い出すように、ボソボソと呟いていた。
――長旅に必要なモノは、心を支えてくれる歌……か」
「……なんすかソレ」
思わず素の言葉が出たロック。そのわき腹をバードが小突いた。
「昔な、エディが教えてくれたんだよ。どんなに辛くても、心を支えるモノがあれば人は戦えるってな」
いつも厳格で四面四角なテッド隊長の不思議な一面をバードは初めて見た。そして確信する。テッド隊長にとってエディは『肉親』なのだと。
「さて、ボケッとしている暇は無い。観客席の出口を探せ。見張りがいる筈だ。手段は問わない。締め上げて吐かせろ」
イエッサー!と答えロックとバードが走り出した。見下ろすのだから、反対側へ行けばと思っていたのだけど、案の定だった。
観客席の出口に当たるドアをバリケードで塞いで見張りが立っている。暢気にコーヒーなんか飲んでいたのだけど、さすがにロックとバードに気が付いたらしい。ただ、二人は構わず一気に急加速して接近し、かなりの力を入れて腹部へ一撃を入れた。血を吐きながら見張りが吹っ飛んだので、バードはすばやく銃を取り上げて眉間へと突きつける。
「こんばんは。死神よ。死ぬには良い夜ね」
「今夜の演目はなんだ? 素直に教えてくれたら良い事あるぞ? きっとな」
劇場係員の派手な制服を着た男だった。
「ちっ! 違います! 違います!」
突然否定から入ったから、怪しさ満点と言ったところだろうか。
「ロック! バーディー! ここは人質らしいぞ。こっちで吐かせた」
無線にドリーの声が入った。
「ここには何人くらい人質が居るんだ?」
「知りません!」
間髪居れず否定したので、バードは男の右足首を捩り折った。恐ろしく嫌な感触だとバードは思った。足を折るのが嫌なのではない。男の脚に付いていたネチャッとする皮脂の感触が最悪で、それが嫌だった。後で手を洗おうと、そんな事を思ったのだが。
「ウグゥァアア!!」
「まだ足は一本あるわよね? それとも素直に言う?」
男は恐ろしい程に血走った目で睨みつけてくる。
だけど、ロックはその右目へ刃を突き立てる。
「目玉ももう一つあるな。まぁ、問題ネーだろ」
呻き声をあげて痛みに震えるのだけど。
「おいおいロック 一人で楽しんでんなよ」
ペイトンの声が聞こえた。
「人質は1200人だそうだ。今ここに居る奴に聞いた。あ、ちがう、居た奴だ」
笑い声と一緒に聞こえたのはビルの声。
居た奴って事は、既に死んだとバードは思う。
「ここの人質は1200人で間違いないか?」
「しっ しらねーよ!」
バードの右手が男の耳たぶを掴んで引きちぎった。
あちこちから血を流している。赤い血だった。
「そうか。まぁ……とりあえず。死んどけ」
「さようなら」
ロックの刃が顎の下から頭蓋骨を貫通する勢いで突き刺さった。僅かに痙攣しているのだが、すぐに動かなくなった。念のためバードも頚椎部分へナイフを突き刺して神経を切断。
「各出口はそのままにしておけ。後で地上ルートを確保して回収する」
テッド隊長の指示が飛ぶ。地上46階から44階までは巨大な劇場のようだった。ライアンが通気口のシャッターを開け、新鮮な空気を入れている。
「火災対策で絶対あるはずだと思ったんだよ」
言われてみればその通りだとバードはヘルメットの中で苦笑いした。自分の気が付かない事に気が付くと言うのは凄い。どこか尊敬の眼差しで見たバードだが、ヘルメット越しでは伝わらない。
隊長が前進を促し、階段をズルズルと降りて行くBチーム。劇場関連の企業が使っているいくつかのビジネスフロアを通り過ぎたようだ。気が付けば地上40階のフロアへ出た。ビルの中を風が通り抜けていく……
―――40階―――
この辺りから吸着振動地雷でガラスが殆んど割れているらしい。とにかく風通しが良い状態になっていた。
「風が強いな」
テッド隊長が呟く。だけど呟いたその真意はわかっている。銃弾が風に押されて軌道が狂うから面倒なのだ。つまりターゲットに命中しない事になる。
一瞬、なにか凄く嫌な予感が頭を過ぎって身を硬くしたバード。その理由をジャクソンが先に言葉にした。
「隊長 防護措置取らないと俺たちが撃たれるかも」
地上40階では左右から撃たれる危険性が増す。さっきは地上38階で何者かが射殺されている。どうしたものか……
側面から見れば段階的に凸型になったテンナイン。その40階は最上階から見れば床面積で9倍にもなっている。広大と言った表現がピッタリなこのエリアは、巨大なビジネスゾーンだった。
「とりあえず外部から見える所へ姿を出すな。幾ら俺たちでもLー47を喰らうと」
「即死級のダメージは免れないですね」
自分の道具なだけにジャクソンは威力を熟知している。メンバーはガラスの無くなった外壁沿いではなく、壁伝いに前へ進んだ。40階の中を一回りする。全く人気が無い。完全にビジネスフロアのようで、最初から頑丈な壁で仕切りが出来ている。複数の企業がが入居しているようだけど。
「人の気配が無いな」
「緊急避難と言う混乱の跡も無い」
左右を確認しながら皆が話し込む。何というか、さっきまで仕事をしていたサラリーマンが整然と帰宅した後のようだ。
「かなり整然と人が移動している」
カーペットに残る足跡を確かめながら、ビルはそう分析している。
「テロリストに銃で追い立てられてって状況では無さそうだ」
ドリーの分析が終わったらしい。慎重に偵察してから階段部分へ戻ってきた。ほぼ同じタイミングで爆発物を処理していた筈のリーナーたちが合流した。
「爆発物は発火し無いように全部処置してある。問題ない」
「遠隔発火の受信アプリを書き換えた。発火指令でスプリンクラーが動く」
その報告を満足そうに聞いた隊長が更に降下の指示を出す。38階まで降りた。2時間ほど前にスナイパーが射殺したフロアだ。慎重にドアへ取り付いて外の様子を探る。
―――38階―――
ドアの向こうには足音も気配も無い。テッド隊長の手が『開けろ』とサインを送ったのでジョンソンは音を殺しそっとドアを開けた。内側へ開くドアが数センチ開き、その隙間から中が見えた瞬間だった。
「閉めろ!」
突然スミスが叫び、間髪入れずジョンソンがドアを閉めた。バードは直感でトラップだと思い、慌てて階段を踊り場まで駆け上がってから影に伏せた。次の瞬間『ドン!』と衝撃が走って一瞬視界にノイズが浮いた。
「全員無事か!」
テッド隊長が無線で叫んだ。
「ドリー問題なし!」「ジャクソン問題なし!」「スミス問題なし!」「ダニー問題なし!」「ライアン問題なし!」「ビル問題なし!」「ペイトン問題なし!」「リーナー問題なし!」「ロック問題なし!」「バード問題なし!」
最後に報告したバードが気が付く。ジョンソンの声がない。濛々と舞い上がった砂埃が風に流されて視界が回復する。
「ジョンソン! ジョンソン! どうした!」
隊長が呼びかけたのだけど返事が無い。やっぱりドアにトラップが仕掛けられていたんだと気が付いたバード。慎重にドア部分へ接近したら、崩れたガレキの下でジョンソンが気を失っていた。壁に巨大な穴が開いている。たぶん対人地雷級の爆発物だ。
「全員ここから自由発砲を許可する ダニー! ジョンソンを診ろ! 警戒を怠るな!」
ダニーはジョンソンの頚椎バスへケーブルを差込みシステムチェックを始めた。衝撃で失った意識を強制覚醒させるコマンドを叩くその脇で、ハリネズミのように銃を構えるメンバーたち。爆発のあった通路は左右に延びていて、リーナーとドリーが崩れたガレキを起こしバリケードにした。
「お客様のご到着だぜ!」
ドリーの声が弾んでいる。通路の向こうからワラワラと銃を持った集団がやってきた。いよいよ本格的な銃撃戦だとバードは息を呑む。
「先制発砲はするな! まず撃たせろ! 勝手に死ぬなよ!」
隊長の金切り声が飛ぶ。
「おまえら何処から来た!」
「何者だ!」
居丈高に誰何してるけど、銃の構え方から身のこなしから全部素人だ。ここまで真剣に油断なく降りてきたバードだが、急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
「もうちょっと使えそうなの居なかったのかな…… 全部素人だよアレ」
「完全に素人だ。これじゃぁ……」
ロックが心底呆れていた。
「おいおい お客さんにはお茶の一杯も出すもんだろ? 礼儀がなってねーなぁ」
呆れた調子でロックが立ち上がった。外部スピーカーから声が漏れている。銃を向けられてる筈なんだけど、全く恐怖感を感じていないようだ。
バードも呆れて眺めていたら、いきなり向こうが発砲してきた。音からして小口径の高速弾だと思った。まぁ、あの位なら外部アーマーで止まるから問題ないのだろうけど。
「おまえら下手くそだなぁ まともに練習してねぇだろ? 戦場じゃ命取りだぜ?」
呆れたようにおちょくったロック。だが、その後は一気に加速して襲いかかった。最初の三歩でトップスピードに乗れる身のこなし。一瞬の出来事に対処出来ない。20数名やってきたはずの列を縫って通り過ぎた直後、居並ぶテロリスト達が一斉に血を流し倒れた。
「連続24人斬り! 決まった!」
ロックはヘンな決めポーズをとっているのだが、一瞬の間があって『あっ!』と叫んだ瞬間に前のめりで倒れた。
「いってぇ!」
「ロック! 伏せてろ!」
ジャクソンがSー16を構えて射撃を始めた。チームメンバーが収束射撃を始める。狭い所で大口径ライフルを使った分隊規模の収束射撃は凶悪な破壊力だ。テッド隊長が射撃停止を指示したあと、バードは拳銃を二丁構えて慎重に接近する。至近距離で直撃を喰らったらしく、身体を真っ二つにした死体が幾つもあった。その中に白い血を流しながら上半身だけで銃を構えてるレプリの姿。視界の中に[+]マークが浮かぶ。ネクサスⅧが二匹混じっていた。
「本業スタートね」
バードは遠慮なく脳幹目がけ、セミオートで射撃した。11ミリもある実包をバリバリと撃ち込んだら、レプリは頭蓋を炸裂させ白い血を撒き散らして機能停止した。拳銃弾とは言え至近距離なら威力は絶大だ。
「ロック? 大丈夫?」
ヘンな決めポーズをしたロックの背中に炸裂弾頭系の爆発痕があった。起き上がるのに難儀してそうだったので、バードはハイッと手を貸す。重量的にロックの方が重いのだから、グッと踏ん張って引き起こすのだけど。
「セルフチェックしたけど駆動系に異常は無い。ただ、SAN値が随分削られたな」
「バカな事してるからよ」
起き上がりつつ蹈鞴を踏んだフリでバードへ抱きつくロック。胸の膨らみを確かめる作戦なんだろうけど、ロックの胸には固い感触。。
「そこにはスペアのマガジンたっぷり詰め込んでますから~」
「……ちっ!」
ちょっと悔しそうなロックの声色に、バードはムフフとほくそ笑む。だけど、本業は疎かにはしない。射殺したレプリの死体をチェックし始めた。
二匹だけだと思ったレプリは十匹以上居たようだ。先頭に居た数名だけが生身のテロリストらしい。隊長達が調べている最初に撃ってきた連中は生身だった。そして、着ている服はビルの警備員だ。
「もしかして誤射しちゃった?」
「いや、そうでもねぇな。見てみろこいつら。レシーバー装備してやがる」
ビルと一緒に死体を調べるバード。警備員と言うにはあまりに重装備が過ぎる者ばかりだ。どう見たって正規戦とは言えない、まともじゃ無い戦闘装備。これはテロリスト一味だと断定して間違いないだろう。
「ところでジョンソンは? 大丈夫かな?」
階段部分を振り返ったバード。ジョンソンは上半身を起こされ機能チェックを受けている。ダニーは端末をいじりながら問診を繰り返していた。至近距離で爆風の直撃を受けて、脳震盪を起こしたようだ。脳殻内で脳挫傷をやるとサイボーグは即死だから、ダニーは慎重に見極めている。
「作戦が終わったら脳殻を開けて検査しよう」
「随分大袈裟だな」
「たぶん大丈夫だと思うが3G以上の加速はしないように」
「わかった。出来る限りそうする」
ダニーがサムアップした。
手荒い洗礼は終わったようだ。
「ジョン。問題ないか?」
「はい。自己診断は正常です。戦闘継続可能です」
テッド隊長が最終確認した。ヘルメットを取っていたジョンソンは自信に溢れた笑みを浮かべる。こんな時に平然・悠然と振舞って、どれ程辛くても余裕風を吹かせるのが本当のブリテン紳士だ。
「よし、行くぞ。下へ降りる」
再び階段を降下していくのだが、ここから先は奇襲が効きそうに無い。壁際を一列縦隊で進み、発見即射殺モードで銃を構える。サーチアンドデストロイでの前進はグリップを握る手に力が入る。ビックリして握り潰さない様にしないと……
そんな事を考えていたバードだが、35階の出入り口付近で皆が足を止めた。扉の向こうから肌が粟立つほどの殺気を感じて、背筋がビリビリと痺れるようだった。
―――35階―――
ダニーの持つ簡易レントゲンを使った透視装置で出入り口の向こうチェックする。扉の向こうでハリネズミは勘弁してもらいたいが……
「扉の向こうに30人近く居ます。全員銃を構えてます」
ダニーは全員に視覚情報を送った。三段構えでしっかりと狙われていた。
これでは扉を開けた瞬間に蜂の巣確定だ。こんな時は先制攻撃に限る。バードは何も言わず、背中にしょったパンツァーファウストを構える。バードの隣にいたスミスとペイトンがバードの意図を理解し同じように構えると、テッド隊もその意図を理解したようだった。
「着弾したらフルオートで掃討しろ! 良いか!」
ちょっと距離を取って構えた。
「レディ! ファイヤ!」
スミスとペイトンが発射し、大音響と共にドアが壁ごと吹っ飛んだ。瞬時にサブコンがクロックアップしたバードには全てがスローモーションに見える。
一瞬の間を置いてバードが発射。ドアの向こうの壁に当たって大爆発を起こした。悲鳴と絶叫が響いたのだが、ジャクソンはそこへ目掛けて遠慮なく手榴弾を放り込んだ。壮絶な炸裂音が響き、その音の後にはうめき声すら無かった。
「ナイス判断だバーディー」
煙が収まってから前進して見たら、バラバラになった死体が幾つも転がっていた。




