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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
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プロフェッショナル達

 階段を下りてひとつ下へと降りたのだが、ここも同じ様な構造だった。ただ、テナントには飲食店が目立つ。オフィス街の提携食堂にも思えるのだが、実際のところは全く見当がつかない。


「チェック完了。問題ありません」


 フロアを一回りしたジャクソン達が戻ってきた。テッド隊長はしきりに人質の少なさを気にしている。トータルで3000人近くいる筈の人質だ。それが何処へ消えたのかはかなり気になる事ではあるのだが……


「人質が居ないな」

「下じゃねーっすか?」


 これと言って根拠は無いが、ペイトンはそう思っているらしい。


「奴らは人質を全部連れてく作戦の筈だ。シップに載せるんだから上に固めるだろ」

「それもそうっすね」


 ペイトンも首を傾げている。


「まぁいい。行くぞ」


 隊長が再び階段を降りる。

 気がつけば70階まで降りてきていた。



 ―――70階―――



 ここはイベント向けのホールや、その機器室と控え室のようだ。ダニーが振動センサーで調べたら、全く反応が無かった。ガランとした会議室などが寂しげな部屋ばかり。 高層機器室を通過しそのまま階段へ戻ってくる。

 バードの不安と言うか警戒感がそろそろマックスだ。テッド隊長のハンドサインが降下を指示したのでそろりそろりと階段を降りたら、どうやた高層ホテルエリアに到達したらしい。いくつもの部屋に別れていて、廊下ですら豪華なしつらえだった。

 非常階段の出口ドアから廊下の様子を伺うと赤外線センサーの熱源探知に何かが引っかかった。どう見ても歩いている人間だ。体格からして男性四人。ちょっと体温が高いようで、バードは慎重に聞き耳を立てる。


 ―――ビールと一緒だ。最初の一口目が一番美味い

 ―――おれは最後だったからな。もう何がなんだか

 ―――完全に正体抜けてたな。あれじゃマグロと一緒だぜ

 ―――だけどヤるにはヤッたんだろ?じゃぁ良いじゃネーか

 ―――チゲぇねぇ!


 ワハハハハハと遠慮の無い笑い声が廊下に響き、一瞬、バードの頭の中で何かがスパークした。あの男たちは、何処かで人質の女をレイプしたのだと気が付いた。


「バーディー 銃は使うな 位置がばれる」

「アィサー」


 通り過ぎたのを見計らって静かにドアを開けたバード。足首半分ほどまで沈む豪華な絨毯の廊下だ。全く足音がしない中を一息で加速しナイフを抜き、四人並んで歩く後方から静かに接近する。

 男たちが全く気がつかず油断しきっているなか、バードまず中央二人と後方からフルパワーで殴った。その一檄で中央右側の男は頭蓋を陥没させ即死し、左側の男は前へと倒れこみ痙攣している。

 右手奥の男が異変に気が付いたので、首へ向かってナイフを走らせ完全に切り落とす深さで切り裂いたバード。鮮血を撒き散らしながら首が落ちた。返す刀でそのまま左手奥の男の口を押さえて心臓へナイフを突き立てた。同時に首の骨をねじってへし折り、絶命を確認する。

 最初に殴った二人のうち片方が死に切ってなかったので、力一杯に踏みつける。バードの足が頚椎を完全破断し絶命を確認した。この四人は完全に丸腰だった。そして、普通の背広だ。


「エネミークリア」

「各部屋をチェック」


 メンバーが散開する。部屋は全部で11だ。フロアを丸々使ったエクセレントスィート(最高級室)のようだった。


「主寝室異常なし」「クローゼット異常なし」「バスルーム使用後痕跡あり敵影なし」

「副寝室異常なし」「エントランス異常なし」「リビング 昏倒状態の女性を発見」


 女性を見つけたのはロックのようだ。報告の後で遠くからドアの閉まる音。直後、ロックが帰って来た。


「どうだ?」

「悪夢を終わらせてきました。今は良い夢見てますよ。きっとね」

「……そうか。下へ行くぞ」


 ロックの処置にバードは震えた。 何をしたのか、解らない訳じゃ無い。ただ、それ以上になにかこうバードは釈然としないモノを感じる。何の違和感だろう? あれこれ考えるのだが、とにかく何かが足りないと言う違和感だ。階段を降りながらあれこれ考え続ける。護るべき人質をロックが手に掛けた事は、完全に頭から抜けていた。


「だれか上のトイレ見た?」


 消去法的に考えていって出た結論がそれ。

 バードの言葉に全員が足を止める。


「ジャクソン ペイトン チェックしろ」


 テッド隊長が素早く指示を出した。銃を置いてナイフを抜いた二人が階段を上がって消えていく。ややあって女性の悲鳴が聞こえた。


「状況を送れ!」


 テッド隊長の声が無線に響く。


「トイレ内部で恐慌状態の女性を保護!」

「まだお手つき前ですね」


 ペイトンの緊張した声。だが、ジャクソンの軽口はいつも通りだ。


「C-41麻酔を打って置いとけ 後で回収する」


 数分後、ペイトンとジャクソンが帰ってきた。二人ともヘルメットにルージュのキスマークが付いていた。


「なんだ 役得じゃ無いか」


 軽い口調でテッド隊長が冷やかす。内容的にはともかく、隊長の軽口って慣れないなぁとはバードの胸のうち。


「後で拾いに来るから寝てろって言ったらこれですよ」


 ヘルメットのおかげで顔は見えないはずなんだが、ペイトンは確実に笑っている。同じ様にヘルメット姿のジャクソンもおどけて言う。


「しかしC-41麻酔の効きが早かったな。酒でも飲んでたかな?」


 だが、ふて腐ったようなロックの声が漏れた。不機嫌極まりない声だった。


「俺は返り血でおまえらキスマークかよ 世の中不公平だ!」


 その言葉に笑い声が流れた。バードも釣られて笑った。


「文句は神様に言うと良いさ」

「サイボーグになった時点で手遅れだ」

「だよねぇ」


 皆が一斉に囃す。

 しかし。


「下へ降りるぞ」


 テッド隊長の声で雑談がパッとやむ。本当に良いチームだ。みんな愛してるよとバードは思う。

 でも、そんな事を思いながら階段を降りてる途中「お!出来た!」と、ペイトンが無線の中で叫んだ。


『ユニット04 20階へ到達 吹き抜けの中央にテロリストを視認』

『ユニット03 21階デッキ付近 レプリカントと遭遇!』

『ユニット02 21階デッキ逆サイド 支援射撃始めます』

『ユニット01 現在24階 残存4名 穿孔戦術に入ります 後に続いてくれ!』


 視界には24階の表示を見ている映像が入る。チラリと振り返った突入チームの視界には、血だらけになった兵士。残り4名と聞いたユニット01のようだ。

 カメラが突入班の前方に立っている何かを捉えた。バードの視界にレプリインジケーターのマークが浮かび上がる。


「チェキオン オールレプリ」


 誰かが「チッ!」と舌打ちした。突入チームが固まって収束射撃を始めようとした瞬間だった。その弾道線を全てかわしてレプリが迫ってくる。不意に視野が天井へ向いた。転んだのだと気がつく。


『ユニット01 高性能レプリカントと遭遇!』


 視界がまるで跳ね上がったようにして動いた。飛び起きたのだと思った。再びカメラの視野にマンシルエットが浮かび上がる。


「ネクサスⅩⅠですね。あれならあの距離でも銃弾をかわすでしょうし」


 自分のレプリインジケーターが反応するのだからⅩⅢでは無い。バードはそんな結論を出した。ネクサスⅩⅠはみつけた。ネクサスⅩⅢはどこにいるんだろうか?


「ネクサスも二桁クラスとなると、回避限界距離が異常に短いな」

「ちょっと距離があると弾道計算してかわすから厄介だな」


 ジャクソンとビルがそんな事を言っている。視野の中に居るネクサスⅩⅠが恐ろしい速度で突っ込んできた。バードは視界に浮かぶ[+]を無意識に数える。


「ネクサスⅩⅠは七匹 無理です 勝ち目はありません」


 視野一杯に何かが迫ってきた。その直後にノイズが混じり視界が縦方向へグルグルと回っている。刹那、壁のようなものが迫ってきて、それが床だと気がつく。そして、固い床の上でバウンドする。その目の前に倒れた首の無い身体。一瞬にして突入チームのユニット01は首を撥ねられた様だ。


「ほぉ……」


 ロックの声がちょっとおかしい。笑いをかみ殺したような声だ。


「おもしれーな やり合ってみてぇ」

「どうして?」


 バードの問いに対しロックは沈黙している。ただ、僅かに聞える声は、クックックと噛み殺した笑い声だった。


「下へ行こう。一気に掃討する。いくぞ!」


 隊長の声に怒気が含まれていた。相当機嫌悪そうだ。でも、あんなシーンを見せられればあたりまえだ。

 階段をゆっくりと降りてドアを開ける。ここには全く人気がない。スィートほどでは無いが広くて豪華な部屋が並んでいる。更に降りて行くのだが、ここも同じ構造。やはり人が居ない。疑心暗鬼になりつつ65階へ来たけど、やはり無人。そろそろ警戒感も疲労し始める。だが、60階の踊り場へ到達した時、異変が起きた。

 ドアの向こうに人の気配がする事にダニーが気がついた。振動センサーを使って慎重に気配を探るのだが、伝わってくるのは話し声だった。


 ―――おい、下はどうなってるんだ?

 ―――わかんねーよ。警察が突入してるらしい

 ―――ここは大丈夫だろうな?

 ―――俺たちには関係ない。迎えを待つだけだ

 ―――とりあえず部屋に戻ってろ。何かあったら知らせる

 ―――わかった


 声の主は最低でも三人。絨毯の上を歩く足音は二人。ドアの開閉音も二つだ。踊り場から出た通路には気配が一人分。





「どう言う事だ? 部屋に立て篭もってるのか?」

「ここの辺りはテロリストが回収予定の人質を収容してあるのかも知れません」


 テッド隊長の言葉にドリーが答える。ジッと考える沈黙の時間。だが、痺れを切らしたロックは刃物を一本しまって一振りだけ構えた。


「バーディー デートに誘ってくれ」

「……OK」


 チームが扉から影の側に移った。ロックも物陰に身を隠す。

 テッド隊長が銃を構えてからハンドサイン[やれ!]と指示を出した。


    コンコン

         「たっ! 助けて!」


 ヘルメットを取ったバードは、出来る限り柔らかい声で言った。迫真の演技はアカデミー賞級だと自画自賛だ。


 ―――だれだ?


 ドアの向こうから声が聞こえる。


「上から逃げて来たの! 怖い! 助けて!」


   ガチャッ!


「どうした?」


 ドアを開けて入ってきたのは、手にサブマシンガンを持ったホテルの従業員だった。アッ!騙された!と、驚いた表情が顔に出ている。慌てて逃げようとした様だが、数段速く反応したロックが銃ごと右腕を切り落とす。そのまま首筋に刃物を当て、階段の側へ引き込む。バードはすばやくドアを閉めヘルメットを被った。それと入れ代わりにロックがゆっくりとヘルメットを脱ぐ。


「こんばんは、死神です。もう手遅れだ。ガタガタ騒ぐな」


 のど笛に食い込むほど刃が当たっている。僅かに動かせば血飛沫を撒き散らして即死確実だ。


「お前はホテルの従業員か?」

「そっ そうです!」

「なぜ銃を持ってる?」

「ひっ 拾いました!」

「どこで?」

「……ここで!」

「名前は?」


 震える声で答えた男。だが、間髪いれずにライアンの声がロックに届いた。


「おかしいな。従業員リストに載ってねぇ。お前、テロ屋だろ?」

「そんなバカな!自分は!」

「ヒソヒソ話で隠れてるヤツは何もんだ?宿泊客か?」

「そうです!泊まってる方です」

「ふーん まぁ良い しかし随分とどうに入った銃の構え方だったな」


 バードは落としたサブマシンガンのマガジンを抜いて中身を確かめる。銃弾の刻印にシリウスのマークを見つけ、バードはロックの側を向いてサムダウンのサインを送る。フルフェイスヘルメットには外光の入る部分が一切無い。鏡面仕上げになったバードのヘルメットにホテル従業員の驚く顔が映る。


「あなたたち、宇宙軍ですか?」

「良く知ってるな」

「ファンなんですよ! あ! あは! あはは!」

「じゃぁ、これからもファンで居てください」

「え?」

「さようなら」


 一瞬でロックが首を切り落とした。返り血をタップリと浴びて恐ろしい姿だ。バードはもう一度、そっと扉を開けた。通路に人の気配は無い。音を立てないように廊下を歩くと、全ての部屋から人の気配がする。エレベーター前にもう一人立っていた。出会い頭だった。


「だ!」


 何かを言おうとした瞬間、バードは射殺していた。眉間に開いた大きな穴。すばやく死体を確かめたら、小さなトランシーバーを持っている。階段部分まで死体を引っぱって行ってダニーに見せるのだが。


「問答無用で射殺しちゃった」

「いや、正解だな。ここに新しい予防接種痕がある」


 男の左上腕部にワクチン接種の痕跡があった。木星系より外部の人類生存惑星で使われる、七種抗体ワクチンの痕。これは地球人には無いし、つい最近打たれたもののようだ。ダニーは銃弾の貫通した穴から血液を取って反応試薬を試している。


「宇宙旅行前に予防接種したんでしょうね。おそらく一週間前後だと思います」

「間違いないな。このフロアはテロリスト派の待合室だ」


 テッド隊長はそう断定した。


「リーナー ドアにトラップを仕掛けろ」

「ヤー!」

「開かない様に溶接して、無理にあけたらドン!だ」

「了解! 三分掛かかるから先に行ってくれ」


 テッド隊長が頷いた。


「こりゃシリウス派の連中もグルになった出来レースですね」


 呆れるような声のビル。

 テッド隊長も不機嫌な声になっていた。


「下へ行くぞ。余り時間が無い。一気に行こう」


 ここから先はチーム連携で怒涛の降階が始まった。



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