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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
53/358

ピンポイント降下突入

 ――――地球周回軌道上 高度700キロ付近

     大気圏降下突入艇内 日本標準時間 1800過ぎ






「もしかしてあの連中。馬鹿正直に一階から突入するつもりじゃ無いだろうな」


 一番先に装備を整えていたスミスは、仁王立ちでモニターを喰い入る様に見ていた。通常であれば生身のODST隊員が整列している筈のハンガーデッキは広く大きい。今回はBチーム貸し切りなので、各々が装備していく武装を全部並べて店開き中だ。その前に200型の大型モニターを置いて、地上からの生中継を見ている。

 すっかり陽が落ちて暗くなった渋谷。周辺のビルは全ての明かりが消されている。航空警戒灯の赤い光りすら無い異様な状況だが、テンナインだけは煌々と灯りが燈る関係で眩しい。

 テンナインから陰になる雑居ビルの裏手に警察の装甲バスがやって来ていた。どうやらアレが前線本部らしい。周辺では武装警官が物々しい検問を敷いている。その近くにはマスコミ関係が結集中のようだが、至近距離には報道用のカメラが一台も入ってないと見える。ためしに民間放送のチャンネルをサーチしたけど、ビル前付近からの生中継は一件もなかった。

 

「あいつらは捨て駒か……?」


 それなりに訓練されているらしい黒装束な警察の特殊部隊がビルの陰に見える。手にはサブマシンガンを装備し、フェイスガードと装甲服で身を包んでいる。だが、怖い顔で腕を組み、ジッと見ているテッド隊長は眉間に皺を寄せていた。

 どう見たってテロリストやレプリ達の持つ軍用の自動小銃には対応できない。Bチームにしてみれば、素人に毛が生えた程度にしか見えない連中だ。警察権力と軍隊のそれとは、中身が大きく違うのだが。


「死ぬのを前提に突入とか冗談だろ?」


 スペアのS-16を二丁背負ったドリーがウンザリとした口調でつぶやいた。そんなドリーのつぶやきを聞いてか、ダニーも沈痛なつぶやきで応えた。


「中途半端にやられると辛そうだな。一思いに死んだほうが楽そうだ」


 腰周りの装備マウントには小さな髑髏マークの付いた箱が幾つもある。きっと全部毒物だとバードは思った。あの箱ひとつで、どれくらい殺せるんだろう……

 人の命を救う仕事のダニーだから、この装備は辛いだろうと。まるで自分の事のように、悲痛な思いを感じていた。


「もっと距離をとれ。遠距離精密射撃だ。ヘッドショットでぶっ殺せ」


 モニター前の特等席に座ったまま、ジャクソンは延々とブツブツ言い続けている。この日、ジャクソンはS-16のショートバレルを装備していた。余り見覚えの無い姿だとバードは苦笑する。

 L-47と同じ弾丸を使用する関係で、スペアにと普段から持っている物だ。レーザーブラスターを一切信用しないジャクソンらしい装備とも言える。愛用する狙撃ライフルは出番が無さそうだと降下艇でお留守番。長距離狙撃ライフルは銃身が長い関係で全長も嫌と言うほど長い。狭いビルの中で振り回すには、ちょっと大きすぎる。

 ペイトンは片隅の椅子へ座って新しい暗号のチェックに余念が無い。つい先ほどまで、バードの拳銃を眉間で受けながら、目を閉じて解析していた。


「問題無さそうだな」


 しばらくしてそんな事をつぶやいた後、今度はもう一人の電子戦担当なライアンを呼び寄せ、ジョンソンらと一緒になって、暗号通信の試験を繰り返していた。


「だめだ。全くわからねぇ。解析の糸口すら見えねぇ」


 ジョンソンが通信中の新しい暗号を解析している。その言葉にペイトンとライアンが頷く。何処か嬉しそうな表情だ。


「この暗号凄いぞ。軽いのに恐ろしく複雑だ」

「変換キーが複数連動で入れ替わる上に通信自体を乱数化してある」

「多段乱数変換のクセに再変換キーの複合循環化までしてあるぜ」


 皆がそれぞれに時間を潰している。不思議と気負いは無い。変に気負っているのは、どうやらバードだけのようだった。


「バーディー いつも通りだ いつも通り」

「うん」


 チームの中でイマイチ影の薄いビルが、ふらりとバードのところへやって来た。情報戦などで活躍をするのだけど、派手なドンパチの影に隠れていつも影が薄い。結構損なポジションな筈なのだが、あまり表に出ないようにしている。


「変に気負うとプレッシャーでやられるからな」

「そうだね」

「リラックスしていこう。いつも通り、ちょっと落っこちるだけさ」


 情報戦だけじゃなく、宣撫や宣伝といった心理戦も扱うビルは精神科医なだけでなく、心理学の修士課程を終えている関係で、マインドコントロールのテクニックもある。いつもこうやってふらっと現れては、メンバーの心の荷物を下ろしている。


「始まった!」


 ロックが控えめに叫んだ。画面の中では暗がりに待機していた警察の特殊部隊が動き始めた。影から影へすばやく移動しながらタワーの正面入り口を目指している。10人ずつ程度の集団が5個か6個か。その後ろには別の集団がもう一グループ見える。


「日本の警察は犯人を殺せないからな」

「あぁ。生け捕りを厳命されてるだろうな」

「これだけカメラが入れば丸見えだろう」


 皆が口々に言いたい事を言ってる。


「なんで電気の供給切らないんだろう? 灯り消して真っ暗なら多少は」


 バードはふと思った事を口にした。

 だけどドリーがバードを見て自嘲気味に言う。


「真っ暗闇でも目が見えるのは俺たちだけさ。連中にゃ無理だ」

「あ、そっか。でもノクトビジョンで見るとか」

「金があればな」


 その通り。

 結局は予算の問題だ。

 

「真っ暗でも向こうはこっちが見えると踏んでるんだろうな」


 ロックが画面を見ながらつぶやいた。真っ暗にするとこっちが不利になるのなら、最初から消さない方が良い。視覚情報に大きく依存する有視界戦闘だから、見えないとなればそれは死に直結する。

 だけど、その直後にモニターの画面がブラックアウトした。中継を遮断されたのか?と皆が思った。全く疑ってなかった。だが、テロリスト側によって全ての灯りが消されたらしく、映像がノクトビジョンに切り替わった。アレだけ眩く輝いていたテンナインも漆黒の闇に包まれた。

 一斉に無線回線が開かれて様々な情報が飛び交っている。明らかにパニックを起こしている。


「一旦撤退しろ! 状況を立て直せ! 何やってんだ! そんなに死にたいか!」


 テッド隊長の怒号が響く。内側からバリケードで塞がれているメインエントランスで小規模な爆発が発生した。眩いほどの光りにモニターが眩く輝く。その光りに照らされ、黒装束の人間が少数で突入した。


「スタングレネードを使ってるな?」


 リーナーは冷静に分析する。


「あの程度じゃレプリには意味無いと思う」


 搾り出すようにつぶやいたバードの言葉に、ダニーが黙って頷いた。直後。入り口に向かって警察車両が一斉に投光し始めた。


「あいつら馬鹿か! 味方が丸見えだ!」

「早く逃げろ! 後退しろ!」

 

 スミスとライアンが叫ぶ。

 

「前線指揮官は相当無能な様だ。突入班には同情するな」


 テッド隊長は吐き捨てるように言った。


    ―― 降下突入点まで10分!


 艦内アナウンスが響いた。とっくに重装甲服を着てヘルメットを用意してるのだから、準備の時間は必要ない。ジッと見つめる画面の向こうにパッパッ!と赤い光りが映る。その度に確実に突入班が死んでいるはずだ。地上から伝わってくる無線が悲痛だ。

 だけど、ビルの中の状況を知るにはこれしかない。突入班の視覚を共有できないのだから仕方が無い。


『D4より本部 先行三班の全滅を確認 D4現在三名損耗』

『こちら本部 D4とD5前進 D6は側方展開』

『こちらD5 正体不明の敵と遭遇 なんだこい……ザー

『突入班!突入班! 誰でも良い! 返事をしろ!』


 ホワイトノイズが少しだけ流れて、その直後にサブマシンガンの乾いた連射音。


『助けてくれぇぇぇ!!』

『ウワーッ!!』


 断末魔の絶叫。

 そして爆発音。


「この音はなんだ? グレネード系かな?」

「音からしたら反応速度の遅い爆発物だろうけど」


 ガンナーのスミスと工兵のリーナーが音を解析している。反応速度が速ければ鋭く、遅ければ重く聞こえる。バードにはそこまで音を聞き分けられない。

 無線上も画面も、一切の動きが止まった。誰が見ても状況は悪い。攻めあぐねている。


『本部よりE班各員に告ぐ Dチームの造った血路を拡大せよ』

『E1了解!』

『E2了解!』

『E3了解!』


 画面に全然違う装備の連中が出てきた。


「へぇ。選手交代か?」


 どこか面白そうな風にドリーが言った。

 確実に人が死んでる筈なんだけど、全く実感が湧かない。


「さっきまでのは前座か?」

「相手の実力を確かめようってんなら随分と余裕じゃ無いか」


 ドリーとジョンソンは完全に他人事モードに入ってる。自分たちがあそこへ突入するって部分が頭から完全に抜け落ちてる。ただ、Bチームの思惑など関係なく地上では再突入が始まった。閃光が続き、サイクルの早い射撃音が轟く。サブマシンガンの軽快な射撃音と一緒に、ショットガン系の発射音。


「そんな銃で死ぬかよなぁ……」


 ボソリとスミスがこぼした。


「アレで死んでくれるくらい親切だと、私達も助かるのにね」


 バードの言葉もきつくなってきた。呆れている。とにかく呆れている。メンツや主導権争いで現場を振り回すバカどもに呆れている。

 

 人が死ぬんだよ?と。くだらない主導権争いをしている連中一人一人に言ってやりたい。一人数発ずつ、心からの怒りを込めた鉛弾を叩き込みながら。だが、程なくして静かになった。ビルの内部へ突入したようだが。


『E3より…… 本部…… 現在一階中央広場…… 全滅しまし…… ザー』


 画面の前に座っていたロックは、黙って手を合わせた。テッド隊長も胸の前で十字を切った。生身の連中で戦えるのは生身のテロリストだけだ。おそらく、突入口付近にはネクサスⅩⅠやⅩⅢが待ち構えていたのだろう。警察関係のライトが差し込むメインエントランスの当たりに、数人のテロリストが姿を現した。


『我々の要求を無視し日本のローカル政府と国連機関の司令部諸君』


 画面から恐ろしい声が響き渡った。メンバーの目が画面に釘付けになった。血塗れになった突入班の遺体が画面に大きく写っていた。ざっと数えて50体は有る。皆、刃物で斬られるか、さもなくば殴られて殺されている。


『無駄な努力は止めたまえ。このように無駄な死を招く事になる。死を前提に突入した警察官諸君らに、手厚い恩賞と名誉を与えたまえ』


 ふと気がつくと、地上側の報道各社が生中継を開始した。

 

『メンツと主導権争いで隊員を無駄死にさせる無能な政府を選んだ日本国民諸賢は、これに満足かね? この、物言わぬ死体となった隊員の家族は、突入を命じた警察官僚と政治家を許せるのかね? これだけ無駄な事をしているにも拘らず、当の本人達は全く危険の無い所で声を荒げている事だろう。曰く、使えない連中だとか、または、役立たずだったとか。我々はまだ人質を一人も殺していない。だが、この警察官達は死んだ。なぜだと思うか?それはつまり、彼ら政治家が無能だからだ。官僚が無責任だからだ。このような連中を国民が許す事も同じ事だ。決して許してはならぬ! 善良な市民の手に政治を取り戻すのだ! 無辜の国民を突入させた愚かな連中に裁きの鉄槌を……


 プツンと音を立ててモニターが消えた。眺めていたメンバーの視線が一斉にリモコンを持っていた男性に集まった。 もの凄い険しい表情でエディ少将が立っていた。テッド隊長はモニターから振り返って号令を発した。


「ブラックバーンズ! 集合!」


 事態を察していたのだろうか。

 メンバーがすばやく集合し並んだ。


「テッド少佐以下 Bチーム全員 装備を調え準備を完了しました」

 

 ハンフリーのハンガーデッキに並んだBチームの面々。皆、過去に記憶が無いほど重装備で並んでいた。ヘヴィガンナーのスミスも、今回はマシンガンではなく自動小銃だ。工兵のリーナーは背中に爆発物を納めたコンテナを背負っている。ダニーは毒物を腰に下げて、自動小銃を持っている。

 みなスペアの銃を持ってるし、それぞれの得意な兵科アイテムを装備している。狙撃専門のジャクソンまで自動小銃を装備している。腰周りに幾つもパンツァーファウストを下げ、手榴弾を幾つもポーチに入れてある。

 だが、機動力が武器のバードは今回も荷物は最小限。もっとも。乱戦混戦が予想されているから用心はしていた。いつも使っているC-26ブラスターでは無くS-16を背中に装備。腰にはパンツァーファウストを左右三本ずつ、合計六本ぶら下げた。自動拳銃はドラムマガジンを装備させて二丁もって降りる作戦。

 力尽くで殴り込むのだから、火力は有れば有るだけ心強い。チーム総火力で言うなら、ちょっとした歩兵戦車なみだとバードは思った。武装ヘリの集団とだってやり合えると思う。勝てなくとも決して負けない装備。

 エディ少将はチームを見回してからひとつ息を吐き出した。少将閣下もサイボーグの筈だと思ったけど………


「諸君……状況はレッド。これ以上悪くなる事は無いから安心して良い。最悪の状況だ。地上の警察班は全滅したと見て間違いない。立場は違うが、同じ正義を掲げた仲間だ。まずは冥福を祈りたい」


 少将閣下が目を閉じた。バードも心の中で祈る。

 そして誓った。必ず仇は取ってみせる。


「だが諸君、これにひるむ事は無い。必要も無い。諸君らが海兵隊最強の牙であることを。諸君らの持てる技術も戦術も地球最強であることを。それだけじゃ無い。情熱や資質や、それらの全てが最高である事を私は知っている。誇りに思っている」


 エディ少将の熱い言葉が脈々と続いている。

 バードの胸に火が付いたようだ。


「さぁ始めよう。紳士淑女の諸君。我らの掲げる正義に恥じぬ戦いを。敵を懲らしめ、同胞を救うのだ」


 そうだ!

 救うんだ!

 助けるんだ!


 バードはグッと手を握り締めた。

 目を見開き、決意を固めた。


「地球人類から選び抜かれた、たった12名の最高の兵士で。人類に徒なす邪な逆徒達に後悔の涙を流させよう。やるべき事は一つだ。諸君らなら出来ると確信している。人類最高の暴力装置で、全ての不義に鉄槌をくだせ! プロフェッショナルの仕事を見せてやるんだ!」


 メンバーの顔つきがガラッと変わった。

 戦う男達の顔に自信と気迫が漲る。


「諸君! 度胸は十分か!」


 エディ少将の握り締められた右手が力強く掲げられた。その姿に思わず『Sir!!!』と返事をした。みなが同じ反応だった。


「いくぞ! ミッションを開始する!」


 メンバーが一斉に新型ヘルメットを被った。一瞬の暗闇だが、直後に船内の様子を裸眼で見るような状態に変った。予備弾薬を持てるだけ持ったバードの全装備重量が200キロを超えている。ここへ更にパラシュートを装備すると、装備重量は軽く400キロに達する。


 高度40キロメートルから急降下する特別装備。サイボーグで無いとこれは出来ない。正直、この高度からの降下は初めてだからバードは不安で一杯だ。生身なら歩く事すら出来ない装備のまま降下艇へ乗り込む。天井に伸びるハンガーレールへ装備を固定し出発を待つ。


『いいか。地上到達までオープン無線は使うな。完全封鎖する』


 ブルが叫んだ。ヘルメットを被っているから直接会話は出来ない。だけど。


    ―― カタパルト ホールドォン スタンバイ!


 バードらの都合など関係なく、ハンフリーのゲートが開いた。ハッチ一杯に蒼い惑星が見える。まだ昼の側を飛んでいる。渋谷から見れば裏側を飛行中だ。


    ―― ミッションスタート!


 強烈な加速Gを感じ、バードは身体の向きを僅かに変えた。グッと力を入れて踏ん張る間、世界が一瞬暗くなる。脳殻内の血液が偏るからブラックアウトするのだと教育されている。正直、あまり気持ちの良い物じゃ無い。だけど、高度700キロの宇宙空間から見る世界はとても綺麗だ。嫌でも窓の外へ釘付けになる。


『今最終チェックを終えた、このファイルは安全だ。俺が保証する。チームのサーバーに置いてあるから』


 ペイトンが艇内無線で呼びかけてきた。何だろうとチームサーバーを見たら[New!]と言うマークの付いたファイルが見える。

 

『新型の暗号だ。これ凄いぞ!』

 

 艇内専用の閉鎖無線を使ってダウンロードし展開した。僅か数秒で取り込まれた新しい暗号化ソフトは驚くほど小さなファイルだった。


『これは無線じゃ転送しない。自分の頭で覚えてくれ。共通のキーだ』


 ペイトンがハンドサインで示した8桁の16進数コード。四文字ずつ記憶して展開すると、驚異的に動作の軽い暗号ソフトが出来上がった。


『ペイトン これは凄いな』


 テッド隊長ですらも驚きを隠しきれていない。これはきっと役に立つと思いつつ、バードはあちこちパラメーターをいじくってみる。全く動作が遅くならない事に驚きつつ、暗号化序列の一番に据えた。


『トラップじゃ無いと良いね』


 バードは何気なくそう言った。しかし、その言葉にペイトンは声音を変えて応えてきた。


『もしバードの勘がそう言ってるなら、俺達は過去最大級のトラブルに直面するな』


 何気ない軽口をバードは後悔した。だけどもう遅い。口から出てしまった言葉はもう飲み込めない。


『ごめん。悪気が合っていった言葉じゃ無いよ』

『そりゃ解ってるさ。それに、俺が言いたいのはそーじゃない』


 ペイトンに続いて通信関係に強いジョンソンが口を開く。いつもの様におどけた調子だが、その声音には緊張が漂っていた。


『俺と違ってバーディーの皮肉は、いつも後から警告だったって気が付くだろ……』


 何か言葉を飲み込んだ。それが何であるか説明するまでも無い。純粋な信頼。無垢な依存。まだそれほど修羅場を潜ってるとは言いがたいバードだけど。


『レプリと命がけで鬼ごっこするバーディーの言葉は特別なんだよ』


 ロックが言葉を続けた。その通りだとバードは自分で思った。理屈じゃ無く"やばい!"とか、根拠も無く"罠だ!"と思う時はそれ以上歩かない。バナザードに教えられた、ブレードランナーが生き残る三箇条の第一はそれだ。


『バーディー どう思う? 罠だと思うか?』


 テッド隊長までもが、バードに意見を聞いてきた。バードは『私に判断させて良いの?』と、かなり不安になった。


『……正直に言うと不安です。でも、踏み越えていかないと』

『わかった。ブレードランナーがそう言ってるんだ。間違いない』

『隊長。私を信じて良いんですか?』

『バード お前自身が自分を一番解ってないようだ。カナダの件を忘れたか?』


 テッドがバードの肩をポンと叩いた。その僅かな衝撃が、バードの心のわだかまりを解いた。


『みんな聞いてくれ。無線アプリのプロパティに聴覚変換ってチェックがあるはずだ』


 ペイトンが操作を促す。


『そこにチェックを入れると、口と耳の動作をソフトが代理でやってくれる。メット越しに会話できる筈だ』


 言われた通りにチェックを入れてソフトを再起動。その間に降下艇が一気に速度を殺し始めた。たぶん遷音速程度くらいまで減速してくれるとバードは感じた。いつの間にか夜のエリアに入りつつある。窓の外には美しい夕焼けが燃えていた。


「どうだ?聞こえる?」


 まるで耳で聞いているように言葉が聞こえた。

 バードはサムアップで答えた。


「よしよし。じゃぁ、これで行こう」


 ペイトンもダムルサムアップだ。降下の準備が全部整った。あとは空中へ放り出されるだけ。心の何処かの歯車がカキンと音を立てて一つ進んだ。だけど……


「隊長 降下前に一つだけ質問が」


 バードはどうしても一つ確かめたい事があった。


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