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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第6話 オペレーション・トールハンマー
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戦乙女の帰還

・ここから起承転結の承になります。


「ふぅ……」


 目覚ましを使わなくても目を覚ます朝。基地標準時間で午前6時に必ず目を覚ますのは、サイボーグになったのとは関係ない。バードが3年を過ごした高度医療センターは、毎朝必ず午前6時に検温していた。その関係で、いつでもどこでも、タイムスケジュール的に朝6時には自然に目を覚ます事が多く、サイボーグになった今も変わらないクセのようなモノだった。





 ――――宇宙軍海兵隊 月面基地 キャンプアームストロング

     士官向け私室エリア 地球標準時間 3月2日 午前6時





 サンクレメンテ島でのODSTトレーニングから早くも一週間が経過した。約四ヶ月ほど使っていたサイボーグの身体を、バードは綺麗サッパリ失った。まさかあそこでレプリが自爆を選択するとは思っていなかった。PTSD一歩前と言うか、慮外の行動が怖いという部分で思慮の甘さを痛感する。


 だが、逆に言うとだ。


 あそこまでされても死ななかったというのは、バードにとっては自信になった。手榴弾だって人を殺すには全く不足無い威力なのに、目の前でクレイモアを受けた。生身の身体なら何ら疑う余地もなく、100パーセント即死となった筈のダメージだ。

 バード自身、慣れてきたと思っている部分も有るが、それ以上に思う事がある。機械の身体と言う物は、これはこれで便利だと言うことだ。


 ネットワークにはそのまま繋がる。

 腹話術的な身内の内緒話も出来る。

 筋肉痛とか腹痛とか、肉体的苦痛と無縁だ。

 あと、生身の女性が口をそろえる生理の苦痛も無い。

 それに伴う頭痛や不快感と言った女性特有の悩みも無い。


 もっと言うなら、仮に生き残ったとしても、良くて全身麻痺だったあの損傷だ。最低限な生命維持機能ですら失って、死へのロスタイム状態だった。だが、サイボーグセンターでまっさら新品ボディに乗り換え三日目で帰還出来た。

 後から聞いたら、通常はこんな対応はありえないらしい。出来る限り残存部品を再利用するのがセオリーで、高度に規格化された予備部品を使って組み立て直すのが普通なのだと聞いていた。

 しかしながら、あの状態は修理などという範疇を軽く飛び越えるほど壊れていたのだ。それだけじゃ無く、バード自身の『慣れ』による反応速度の向上も大きい。より速く、より強く、より強靱な機体への転換という意味で良い機会だった。

 そして四日目。まだ地上で訓練中の仲間が居るにも拘わらず、月面基地の民間エリアで脚を伸ばし、ホーリーとケーキの食べ歩きをやっていた。


「どんなに食べても太らないって役得よね~♪」


 ホーリーが幸せそうにケーキを食べるのを見て、バードも笑った。勿論これはバードが遊んでいたという訳ではない。まっさら新品を宛がってもらって、良い事ずくめと言う訳でも無いのだ。

 細かく見れば文句を付けたくなる箇所も幾つもある。反応が良すぎる上に、動きがピーキーで硬いのだ。まっさら新品の部品が多い関係で機械的に『あたり』がついてないのがその理由。いわゆる『慣らし運転』を行い、当たりを付けてやる事が必要だ。


「今のうちに動いておけ」


 そんなエディの言葉で、バードはやむを得ず行った事だ。ケーキの食べ歩きはその副産物にすぎず、民間ゾーンのパトロールが主任務なのだ。決してケーキが食べたかった訳じゃない。決して、決してだ。

 報告書にスパークリングムースケーキの番付が書かれていたらしいが、なぜか基地司令の指定で機密文書扱いになっているらしいのだが……


 軍隊という所は個人の自由時間など余りない組織だ。朝食前の僅かな時間などが数少ない『自分の時間』と言える。だから、こんな時には時間を無駄なく使う事が要求される。まだまだあたりが付いてない部分を動かして、機械的に安定させなきゃいけない。生身で言うならリハビリの時間であり、士官ともなればその時間を上手に使う事が暗に求められている。


 ――――いま出来る事をしておこう


 そんな事を思ったバードはベッドの上でウーンと寝起きの背伸びをする。機械的な部分は使っていないと不具合の元だ。体内にあるはずの油圧シリンダを一杯まで延ばしつつ、部屋をぐるっと見回す。だがその時、右目と左目に映る映像がズレるタイムラグをバードは感じた。新しく付けた視覚センサーは性能が良くなってるはずなのに……だ。

 

 ―――― ……あ  あれ?  あっ  ……そうか!


 ウフフと笑って独り言。


「可動範囲一杯までシリンダ伸ばしたりギアを回しておかないとねぇ」


 バードの独り言も最近は板についてきた。

 なんだか変だなぁと思いつつ、突っ込みが勝手に来るのを待つ。


『おいバーディー 誰と喋ってんだよ』


 案の定、さっそくロックが無線を入れてきた。


『うら若き戦乙女の寝起きをこっそり覗き込んでる人とよ』


 手慣れた調子で軽いジャブを入れる。


『おっといけねぇ! トラップだった! 退散!退散!』


 フッと無線が軽くなる。


 ―――― あ! みんな見てたな?


 もう一度ウフフと笑ってちょっといたずら。

 着てるものを全部脱いで鏡の前でストレッチ。


『なんか最近ピーピングトムが多いわねぇ』


 続けていないと途端に身体が硬くなる生身と違って、サイボーグはそれが無い。だが可動範囲一杯まで常に動かしていないと、戦闘中ギリギリの所で故障の原因だ。

 多分この身体を組み上げた時は、基本設計段階とは違う部品を多用してる筈だから、基本的な作動バランスが悪くなってるのを考慮して、早く慣れておかないと危ない。最終的に痛い思いをするのは自分自身だし、それでチームが窮地に陥るかも知れない。

 ならば、早めに機械的な安定を出すのが上策なのは説明されるまでも無い事だ。ODSTスクールで候補生相手に散々と『仲間の為に』を説いたバードなのだが、気が付けば自分自身がその言葉に染まっていた。


 ただ。鏡の前で遠慮なくそれをやると…… あーんな所やこーんな所まで丸見えになるわけで。


『見て見てぇ~ ほーら! 観音様ご開帳モード! えい!』


 だが、この時は視覚的誤差が全く出ていない。


 ―――― え? どういう事?


 あれこれ考えても理由がわからない。


 ――――あれ? 誰も見て無いのかな?


 間違いなく自分の視界に誰か乗っているはずだとバードは確信している。だが、枝が付いてデータ転送が遅れている筈なのに視界にタイムラグが出ていない。自分自身が高性能になったんだと言う部分を考慮していないバード。


 ――――うふふ みんな見たいよねぇ~


 人間の。いや。もっと言うなら男の性。女の裸は男にとって生理現象に直結した本能的反応を引き起こす。


 ――――あんまり見てエクスタシー(性的興奮)が過ぎるとねぇ~


『あんまり刺激すると脳下垂体肥大で脳幹機能が停止しちゃうよぉ~』


 性腺刺激ホルモンの過剰分泌は脳下垂体の肥大を招く。だけど、脳殻内のブリッジチップ接続点は、その周辺に集中してる。肥大し過ぎればサイボーグはブリッジチップの機能不全を招いて頓死一直線……


『命懸けで見に来てぇ~♪』


 うーんと伸びをして、それから背中側を鏡に映して。開脚で股関節可動域を全開にする。バードの視界に相乗りしてるなら、鏡に写る『女の子』の部分も丸見えになる。


『朝から良いもん見たなぁ~』

『次の定期健診いつだっけ?』

『男の子が元気にならない!』

『やっぱ男は損だ間違いなく』


 声にトランスを掛けて誰の発言か聞き取りにくくしているのが居る。どうせペイトンかライアンだ。咄嗟にそんな事を思いつくのは。だけど……


 ――――うふふ ギャラリー多いと楽しいね♪


 妙にチーム内無線が賑やかな朝。


『しかし、バーディーも慣れてきたな』


 ボソッとビルの声が聞こえた。


『え? まだこれ使い始めて五日目だよ?』

『そりゃ間違いないけど、そーじゃねーよ』


 ジャクソンの突っ込みが入った。無線の中で皆が笑う。こんな朝もたまには良いなとバードは思う。いつもいつも、見ているモノが酷すぎる。仲間達と屈託無く笑い合える朝は貴重だ。

 ただ、新しくしてもらった身体には、実はもう一つ難点があった。時間が無かった関係で、ありあわせの部品を使って完成を急いだのだ。身長が81ミリ伸びて1705ミリになった。

 戦闘装備重量はバルク(はだか)で5キロちょっと増えて110キロちょうど。いざ動いてみたら頭をぶつけてみたり、振り返りざまに手足をぶつけてみたりで忙しい。オマケに重量バランスが変わって、ジャンプでは狙った所にすんなり収まらない事が多い。寸法が増えた分だけ勘が狂ってしまい、まだ、微妙な部分で誤差が出ている。

 もしこのまま戦闘になったら、ナイフで変な所を切るかも知れないし、銃の照準が若干狂うかも知れない。見越し射撃で打ち合う時などは、それこそ命に関わる危険性がある。その為にも早く慣れないといけないのだけど、悪い事ばかりじゃ無い部分もある。

 実を言うと『女の見栄』が図らずも改善された。不可抗力でだ。部品の関係か、それとも配置の関係か。バストサイズがちょっと大きくなったのだ。ホーリーやレイチェルから散々『ずるい!』と指摘され笑うしかなかった。下垂の心配が無いからブラはしないけど、Tシャツではしっかり膨らみが分かる。そのくせウェストは可動範囲拡大を求めてしっかり絞って有る。

 手首足首も可動域の拡大を求めて細く柔軟な上に、職能装備の関係で手足が長い。自慢じゃ無いけど重量以外はトップモデル体型になったバード。


「全くモンゴロイド(東洋人)的体型じゃないわね シルエットだけならニグロイド(黒色人種)


 そんな言葉をルーシーから頂戴し、バードも『スイマセン』と恐縮する。こんなに風当たり強いなら、もうちょっと美人にして欲しかった! と、全く違う文句も出ようというもの。まぁ。サイボーグチームの場合は、いつもいつも酷い物ばかり見てるから……


『こんな顔でもチヤホヤされてて女冥利に尽きてますよぉ~♪』


 そんな感じで朗らかに過ごせるというのは、精神的に余裕が出来て良い事だ。だけど、そんな麗しい朝のひとときは、唐突に途切れてしまった。海兵隊ならば、これはもう仕方が無い事なのだが……


『こら! お前ら! 朝っぱらからなにやってる! オナニー止め! ズボン上げ!』


 ―――― あ テッド隊長だ!


 バードは思わず胸の内で声を上げる。


『バーディーも公開ストリップ終わり! なにやってんだ! まったく!』


 ――――うーん……

 ――――隊長も見てたよね きっと


 相手に伝わらないように独り言を言うのも、実はなかなか大変だ。


『朝から血の巡りが良くなった所でガンルーム集合だ! 10分後に緊急ミーティング』

『了解!』


 テッド隊長の声は戦闘中じゃ無いのに随分緊張してる金切り声だ。そんな声を聞けば、ただ事じゃ無いと言うのは嫌でもすぐにわかろうというもの。遅れると大目玉確定だろうから、バードもすぐさま飛び起きて着替えを始めるのだった。





 作戦ファイル 990302-01

 Opelation:Torr Hammer

 作戦名『雷神の戦鎚』






 いそいそと服を着替えてお出掛け準備。人前に出るなら軽くメイクしておくのは乙女の嗜み。前日から髪を洗って無いけど、時間が無いから梳いて束ねるに留め部屋を出た。まだ戦闘して無いから汚れても無いはずだ。ただ、臭いは気になるから気をつけないといけない。臭い女と評判が付いてしまうのは、女性にとってこれ以上ない屈辱だ。

 10分を僅かに回ってからガンルームへ到着したバード。だが、扉を開けた瞬間に硬直した。なぜかフレディ司令が部屋で待っていた。なんだか猛烈に嫌な予感が……


「こら! バーディー! 若い娘がなにやってるんだ!」

「え? ダッドも見てたんですか?」

「見て無い!見て無い! テッドから聞いただけだ! まったく朝からなんて事を」

「じゃぁ今度こっそりダッドにも回線開けておきましょうか?」


 ――――あ…… フレディ司令が黙った!

 

 もしかして地雷だったかな?と、ちょっとはにかんだ笑みで上目遣いにして。出来る限り可愛い系を意識してフレディ司令を見たバード。


「嫁入り前の女の子がそう言う事をするんじゃないと言ってるんだ」

「えー でもサイボーグな殺人マシーンを嫁に貰ってくれそうな人なんて居ませんし」

「出会いはいつも突然だ。神様がそうしてくださる。グズグズ言わない!」

「はい。すいませんでした」


 遠い昔、父親から正座させられてお説教されたのをバードは思い出した。素直にゴメンナサイしておいた方が良いだろうと思った。自暴自棄なサイボーグの仲間入りし、刹那的な快楽に溺れたら後戻りできない。胸の内側の、どこか良くわからない所がほんのりと温かくなったように思った。


「さて、ダッドのお説教が終わった所で仕事の話だ。朝飯前にこんな画像を見せる事になってスマンが」


 情報担当のアリョーシャはいくつかのQRコードをチームメンバーへ見せた。それぞれが視界の中のコードを展開すると、画像が幾つも浮かんでくる。



 ―――― ……ウソでしょ?



 胸のうちとは言え、バードは言葉を飲み込んだ。日本語の看板や通勤用列車が走っている渋谷の街並み。そこに日本の警察が非常線を張って通行人を遮断している一角が現れる。


「トウキョウの中心部にあるツインタワー。テンナインが二時間前に占拠された」


 ビルの前は一面の血の海。所々に原形を留めてない圧壊死体が転がっている。至近距離から強烈な衝撃派を受けて吹き飛ぶ前に叩き潰された死体。グロい死体と言うなら上位三傑の一つ。


「ロックやバーディーは分かるだろうけど、トウキョウ中心部シブヤシティ。地上109階地下4階の超高層ビルだ。タワー先端部のアンテナを含めれば地上600メートル近くある、超高層建築だ」


 次のQRコードが出てきた。今度は人物の人相帖らしい。主力はタイレル社のネクサスシリーズ。最新型のⅩⅢ(13)が混じっているらしい。バードはⅩⅢとはまだ直接やり合った事は無い。だが、現状のデータを総合すると過去最強の戦闘タイプなのは間違いない。

 リンクを辿って行くと、監視カメラの動画が出て来たので確認する。従来型のネクサス一桁にこんな芸当はできないはずだ。垂直飛びで10メートルを跳ね上がり、窓をけり破って侵入している。そして、建屋に入ってからは、それこそサイボーグ兵士級の戦闘能力だ。一瞬にして警備員18人を殺傷した。

 至近距離からナイフでサックリ斬られたり、或いはフルパワーで殴られてみたり。壁に向かって突き飛ばすようにショルダータックルを受けた警備員は、頭蓋骨が弾け飛んで、脳漿を撒き散らして即死している。

 ちょっとグロ過ぎだ。目を背けたいのだけど、意識の中に直接来るんだから目も瞑れない。こんな時は自分の身の上を呪いたくもなろうかと言うもの。そんなレプリカントがビルの中に20匹は最低でも存在しているとか。冗談も程々にして欲しいと胸のうちでつぶやく。

 ライブで監視しているカメラの画像が続々と機能をロストしている。カメラを見つけ出して、虱潰しにしているからだろう。


「……凄い。ネクサスの見本市。タイレルのショールームね」


 バードのつぶやきに皆が身を堅くする。どうやら侵入したのはタイプⅩⅠ(11)ⅩⅢ(13)だけじゃないようだ。タイプⅥとかベストセラーなタイプⅧもかなりの数で見える。困った事にネクサスⅩⅡまではインジケーターが反応するが、ⅩⅢはまだ未対応だ。ばったり出会った時に生身のテロリストかⅩⅢかを判断する材料が無い。


「45分前にテロ組織から犯行声明があった。テンナインを完全に占拠し、人質としてホテルの宿泊225名とショッピングセンターの客およそ2800人。さらに、ビルのスタッフ800人以上を囲っているそうだ。日本のローカルガバメントが警察の特殊部隊を突入させると通告して来たのだが、どれ程鍛えていても生身で敵う相手じゃ無い」


 画像を見る間でもなくそれは間違いないと確信する。そもそも、ネクサスⅩⅠどころかネクサスⅧですら生身の兵士には手強い。遠距離で撃ちあうならともかく、接近戦でやりあうにはリスクが高い相手だ。

 事実、警備員が三八口径を発砲しているのだけど、それを全て回避している。そしてそのまま、笑いながら警備員を殴打殺傷。レプリカントと言うよりサイボーグの戦闘の様にも見えるバードは、自分が何者かを一瞬忘れて、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「とにかく戦闘能力が半端じゃ無い。集めた画像データを解析したが、タイプⅩⅢの推定キルレシオは生身と比べると135:1になる。単純に言えば生身の兵士135人の犠牲で奴らを1匹処理する勘定になる。はっきり言うと一般型サイボーグ以上の戦闘力だ。そして困った事に、やつらは目的の為なら手段を選ばない。自爆すら躊躇無く行う。困った事態だ」

 

 テロリストの突入動画が流れ始めた。見るからに一糸乱れぬ統制の取れた戦闘だ。至近距離から軽歩兵の支援射撃を集めつつ、少人数が敵密集地へ飛び込んでいる。刃ものを使って一気に斬り刻んで手早く済ませる手際の良さ。面攻撃に対し点突破を図って裏を取り挟撃など、相当に訓練されてないと出来ない。モヤモヤとしていたバードの疑念は、否が応にも確信に変わった。


 つまり。バードの様なブレードランナーでも見抜けないレプリカントがいて、それは、火星の施設の様に、国連の管理下にある工場で合法的に生産され、相当数が国連宇宙軍の練兵施設で訓練を積んで、そしてテロリストに加わっている。フロリダでODSTの訓練に紛れ込んでいたレプリは氷山の一角だ。間違いない。


「アリョーシャ。まさかとは思うけど、でも、疑念が晴れないの。もしかして……」

「あぁ。バーディーと同じ意見だ。間違いなく宇宙軍内部に裏切り者がいる」


 アリョーシャは忌々しげに首を振って溜息を一つ吐き出した。でも、現実にそれが起きている以上は間違いなく事実だ。国連機関のかなり深い所に内通者が居て、もぐりのレプリ生産に手を貸している。

 それだけじゃなく、適当に戸籍を偽造し『シミの無い履歴』を捏造して国連軍に入隊させ二十四週間の基礎トレーニングに送り込み、その中で適性があると判断させ専門機関で教育を受けさせている。つまり、国連軍は自分の手で、手の内を全部知ってる連中を量産してる事になる。


「で、アリョーシャ。俺達はどうすれば良いんだ?」


 テッド隊長がいつもとは違う声音だった。緊張してるんだと皆はすぐに気がついた。ふと目を走らせれば、チームの面々がみんな表情を失っているのが分かった。


「推定2時間後に警察の特殊部隊が突入する。だけど、それでどうにかなるもんじゃ無い。おそらく25分ほどで全滅する。運が良ければ1分か2分は伸びるだろう。テロリストの要求はビルへ突入したレプリカントとテロリストの安全な脱出だ。ただし、人質全員も連れて行く事を要求している。合計で4000人近いから、大型船を2隻は使わねばならない。そして彼らはその大型船がシリウス星系まで三ヶ月で到着する事も一緒に付け加えている。つまり宇宙軍のフリゲート艦か高速巡洋艦でなければ不可能だ。要するに彼らは、宇宙での戦闘艦艇を要求しているといって良い。その為に3000人近い人質を集めたのだろう。時間的猶予は24時間だ」


 アリョーシャは忌々しげに髪を掻き揚げた。これだけ苦労していれば、そろそろ禿げて来ても良い頃だとバードがふと思う。


「で、そうなると?」


 話の続きを急かすテッド隊長。その顔は戦闘中のように強張っている。アリョーシャの目がジッとテッド隊長を見た。その後、Bチーム全体を見回す。


「全員心の準備をしてから聞いてくれ。いいか?」


 バードは目を閉じて一つ息を吐いた。

 そして、心を一旦落ち着けてから、もう一度アリョーシャを見た。


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