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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第1話 オペレーション・ブラックライトニング
4/351

処女戦闘


 ――――――火星中央大陸 タルチス州 

         オリンポスグラード北西部

         火星標準時刻 1125





 火星とは赤い惑星だ……

 予備知識としてバードが持っていたそんな情報は全くの思い込みだった。

 まだまだ赤い砂漠の惑星だと思っていたのだが、実際は緑豊かな大地なのだ。


 ただ、初の降下上陸に成功して、その景色を眼に焼き付けている暇は無い。

 すぐにバード自身が使っていたパラシュートが降ってくる。

 頭から被ったら視界が無くなって一貫の終わりだ。


 すばやく地上をダッシュし、降下艇の着地点確保戦闘を始める。

 現時点で降下を完了したODST隊員はBチームのサイボーグだけだ。

 テッド隊長が地上へ降り立って戦闘座標中心のゼロポストを地上に打ち込んだ。

 

『ポイント0ー0ー0 タイムラインスタート! バード! エリアサーチ!』

『アィサー! 1ー0ー1より9ー0ー9! チェキオン! データ転送!』


 バードに宛がわれた仕事はチームの眼だ。

 戦域全てを確認する冷静で冷徹な眼差し。

 それは女性型サイボーグ故に小柄軽量で高速移動が可能だからこそ出来る事。


 トップスピードで戦場を走って、仲間に目標の座標を教える。

 或いは、危険を察知して早めにフォローに回る。

 生身の海兵隊がやってくるその前に、敵側の攻撃拠点を全て確認しておく。

 そして出来れば潰しておきたいのだから、あまり時間が無い。


『着陸ポイント確保!』


 ペイトンとダニーがターゲットマーカーを設置した。

 これで後から降下してくる生身の兵士は、問題なく地上へ誘導されて正確に着上陸する事が可能となる。あとは降下地点周辺の敵を探すだけだ。


 スミスたちが降下地点の防御陣地を作っている間、バードは周辺を走り回った。

 左側から散発的に撃ってくるテロリストが居るらしいが、全く姿が見えない。

 ただ、銃弾だけは飛んできていた。言うまでも無く当たれば痛い。


 バードは戦闘危険範囲(バトルフィールド)を全速力で走りながら、最初は地形把握に努める。エリアマップをデータとして受け取っていて、その情報は視界の中にオーバーレイさせているのだから、死角にあたる部分にも線画情報で把握は出来ている。

 ただ、自分の目で見て足で走って頭で理解するのとしないのでは、天と地ほどに差があるのだ。各所から散発的な射撃を受けているが、これと言って影響は出ていない。ごく稀に直撃弾を受けるが、装甲服に弾かれて被害は無い。


 ただ、生身にとっては手痛い打撃になるのだがら、遠め遠めにスタンスとってジリジリ距離を削り接近を試みる。とりあえず直撃弾を貰わなければ、どうと言う事は無い。


「あっ!」


 声を出すのが憚られる筈なのに、バードは思わず叫んでしまった。

 進行方向150メートル前方辺りの建物からテロリストが飛び出してきた。

 シルエットでしか見えないが四人くらい居るのが見える。


 トップスピードを緩めるのが勿体無い。

 バードはそのまま速度を落とさず、遠慮する事無く接近していく。

 ただ、どうやらテロリスト側もバードに気が付いたらしい。

 銃を抱えて遠慮なく射撃を始めた。

 

 シュンシュンと音を立ててバードの左右を銃弾が通過していく。

 ブラスターだと思ったら火薬発射の実包小銃だった。

 バードの視界に対象がレプリカントで有る事を示す[+]マークが浮かぶ。


『バード!』

『大丈夫か!』

『動けるか!』

『問題ないか!』

『援護してやる!』


 Bチームのメンバーが一斉にバードへ声を掛けてきた。

 バードはそれがちょっと嬉しい。


『初めて撃たれた! 今日は初めて尽くし!』


 無我夢中で叫びながら、バードは距離を詰めた。

 視界の中に赤外線レーザーポインターのターゲットマーカーが走る。

 ジャクソンの構えたLー47狙撃ライフルから放たれるマーカーだ。


 援護が来ていると思えば、それだけで心強いとバードは思う。

 あのマーカーはバード達サイボーグなら見える波長だが、生身には見えない。

 バードに向かって銃口を向けるレプリの兵士は三人。一人は何故か丸腰だ。


 宇宙(そら)から持ってきたCー26ブラスターライフルは発射音が大きい。

 通過直後にワラワラと敵が出て来るのは勘弁願いたい。

 後ろから撃たれ打撃に弾かれるのは不愉快極まる事だ。


 急所に一撃をくらって動けなくなる悪夢に、バードは一瞬ゾクリと震える。

 実弾で撃たれ装甲服に当ると打撃が残り、ベクトル方向へ僅かに跳ね飛ばされる。その分を軌道修正しながら遠慮なく接近するバードは、接敵距離五十メートルを切った辺りで素早くナイフを抜いた。

 火星に降り注ぐ太陽の光を浴びたナイフの刀身は鈍く輝く。

 30センチほどのナイフが翻り、一瞬の間にレプリ4匹を斬り捨てた。

 

 初めて生身の存在を手に掛けた。

 

 命を奪ったのだけど、不思議とバードの心は平静だった。

 訓練中に散々とダミーを斬ってきた経験が感覚を麻痺させていた。

 それを本人が気付かない程に……


『エリア1ー0ー3 エネミー! イレース!』(敵を消しました)


 一言だけ叫んで、バードは次のポイントへ急行する。

 まだ未見なエリア2-0-1の辺りには死角になる場所が多いから、テロリスト連中は絶対に潜んでいる筈だとバードは考えた。遮蔽物の配置状況を考え、『ここに居たら嫌だな』と思う場所を確認しながら必死で走る。


 訓練中に散々と怒鳴られ続けた『展開が遅い』『移動が遅い』『必要な時に必ずワンテンポ遅れる』と言う悪い癖を出さない様にするので精一杯も精一杯だ。足を引っ張らないようにしようと無我夢中になってる部分もあるのだが。

 だが、次のポイント報告をしようとした直前、無線から一斉に歓声が上がった。


『やったぜバード!』『クールだ!』『グッジョブ!』

『まるでバレリーナのようだ!』『小鳥ッつうよりハヤブサだな!』

『猛禽類だ!』『よっしゃ!よっしゃ!』『バードは生き残れるな』


 ヘルメットの中でバードは笑った。

 一斉に声を掛けられて悪い気はしない。

 なんだかやっと、仲間として認められたような気がした。


 ――だけどね……


 と、心の中で一息置いて。


『エリア2ー0ー1 エリアサーチ!』


 報告が先だ。なんせ戦闘中なんだからとバードは思った。

 目視状況を画像では無くグラフ化してチーム内のデータサーバーへ転送する。

 こうしておけば、仲間内のデータ共有で敵の位置が全部わかるという寸法だ。


 2ー0ー1へ入ると、そこは輸送船に積む国際規格コンテナが積み上げられたエリアだった。このエリアは死角が多い上にコンテナが複雑に積み上げられ行き止まりが多い。

 その中をトップスピードで駆け抜けるバードだが、各所から散発的な銃撃を受けた。少しだけイラッとしつつ、背中にマウントしてあったライフルを取り出し一体ずつ射殺していく。白い血を撒き散らしてレプリの兵士が死んでいく。

 

 バード自身、その事に全く罪の意識がなくなっている。

 高速移動してるとバッテリーの減りが早いなと感じる余裕すらある。


 この速度で走っているのだ。

 バッテリーは既に10パーセントを消耗しているのも事実。

 そろそろカタを付けて生身の兵士に登場してもらいたいと思っていた。


「エリア2ー0ー1より2ー0ー3 エネミークリア! レプリ35 リーファー(生身)20 オールクリア!」


 推定で55体は射殺しているが、尚もバードは後方から執拗に撃たれている。

 その射点に向かってBチームの仲間達がバリバリと制圧射撃を始めた。

 物凄い音が響き、コンテナが見る見るうちにガラクタ以下へと変わっていく。


「バード! デートのお誘いだ! エリア5ー0ー8 急行しろ!」


 突如無線にテッド隊長の金切り声が響いた。

『何でそんな所に?』と思うのだけど切羽詰ってる状況にも感じたバードは、『遅い!』と怒鳴られる前に最大速度で移動して、指示ポイントに到着した。

 エアドーリーに載せられた未起動のレプリが入ったカプセルが山積みだった。


 その前でコンテナに積載を続けるテロリストが何人も見える。

 バードはあまり深く考えず、真っ直ぐ突入する事を選択した。

 あまり遠いとレプリかどうかを判定できない。


 レプリかどうかを判別し、確実に刈り取るのがブレードランナーの任務。

 『対象が遠くて識別できませんでした……』などと言うわけにはいかない。


 遠めにチラリと見える建屋は事務所らしい。

 幾人もの警備兵が立っている。

 視界に浮かぶインジケーターはレプリ判定だ。


 歩哨に立ってるのは十二匹。

 まったく遠慮する事ないと思ったバードは、ヘルメットの中でニヤリと笑う。


 速度を若干落として銃を構えた。

 肩に鈍い衝撃を感じつつ、コンテナに近い所から順に撃って全部クリア。

 数体のレプリが白い血を撒き散らしてビクビクと痙攣している。


 弾けとんだレプリの死体を踏みつけ一気に急減速して停止し辺りをうかがう。

 目の前にはカバーの掛かった、まるで棺桶のようなレプリのカプセルがある。


 その上には真っ白な百合を持った黒い女性のシルエット。

 そしてその近くにはラッパを持ったピエロの絵が描かれている。


 コンテナにそっと手を伸ばしハードカバーを持ち上げると、強化ガラスのインナーカバーが現れた。そしてその中には、スラブ系がモチーフと思われる女性型レプリが全裸で入っていた。




 ―― すごく……

 ―― 綺麗な人……




 一瞬、バードは我を忘れてレプリに見とれていた。

 レプリの筈なのだが、バードはそれが『人』だと直感した。

 辺りにあるカプセルカバーは、一つずつ違うイラストが描き込まれている。


 白百合の向こうは赤い薔薇とリボルバー拳銃のマーク。

 その隣には交差した二つの剣が描かれた楯。

 なみなみと注がれたワイングラス。

 ハイヒールとルージュ。

 向かいにはヴァイオリンと音符。ピアノと音符。フルートと音符。

 羽ばたく青い鳥。

 長い尾を引く流れ星。

 煌びやかな王冠。

 そして、鳴り響く鈴。



 ―― これ……

 ―― なんだろう?



 事態を飲み込めずバードは息を呑んだ。

 全て異なる仕上がりの女性型レプリだ。

 様々な民族的特徴を有している。そして、その全てが美しい。

 同じ女性としてどこか嫉妬に似た感情を覚える程に。


 一瞬戦闘を忘れ、バードは考え込んでしまった。

 だが、背筋にゾクリと悪寒を感じ、ハッと気が付いて後方へ一気に飛んだ。

 バードが立っていた場所へ、どこからかいっせいに十字砲火が降り注いだ。

 生身なら間違いなく蜂の巣だったろう。


 しかし、サイボーグのジャンプ力は軽く三十メートルは飛び越せる上に、装甲服を着てるのだ。ダメージは計上するほどではない。戦闘中にあるまじき失態をバードは恥じ入るしかなかった。


『ターゲットエリア到着! 小隊規模の面射撃を受けています!』

『本店も大盛況だ! ウェイターをそっちへ送るまで時間を稼げ! 客は待たせろ! 店を壊すなよ!』


 テッド隊長の声が無線に響いた。

 客を待たせておけって無茶言うなと思いつつも、任務は任務だ。

 バードは激しい銃撃を受けながらコンテナの陰を走った。


 銃弾の弾道を眼で追いながら射撃点を探す。

 おそらくここだろうと言う場所に向かって反撃射撃。

 何処か遠くで誰かが倒れる音が聞こえた。


「バード! ご機嫌か!」


 アチコチを制圧射撃しながらやって来たスミスが建物の陰で待っていた。


「なんだか良くわからない! パニック(混乱)も一ダースくらい!」

「上出来だ! 俺なんか最初の戦闘の時はいきなり撃たれて動けなかった」

「それで?」

「気がついたら医療コンテナの中で呻いてたよ!」


 アッハッハ!と笑うスミスはMGー5に新しい弾薬ベルトを通した。

 9ヤード分の銃弾がスタンバイし、銃口は哀れな犠牲者を探し始める。


「バード! あっちの陰へ走れ! 射点を見つけて俺が挽肉にする」

「OK! でも、痛いのヤだから全速力だよ!」

「ノープロブレム! ご機嫌だぜ!」


 バードはサムアップして建物の陰を飛び出した。

 一斉に銃弾が襲い掛かってくる物の、バードの速度が早すぎて当たらない。

 陰から見ていたスミスは射点を確認し猛然と撃ち掛けた。


 コンクリートや鉄板やあらゆる障害物を粉砕して13ミリの銃弾が襲い掛かる。

 瞬間。絶望の表情を浮かべた者達が、次々と物言わぬ挽肉になった。


「ヨッシャ! バード! そっちはどうだ!」

「なんかマズッたみたい!」


 建物の陰に飛び込んでいるバードの左右へ銃弾が降り注ぐ。

 一番不味い所に飛び込み、進退窮まっている状態だ。

 細いアンテナの上に軽機関銃が据えられているらしいのだが。


「どんな状況だ?」

「前は軽機、後ろはライフルで撃たれてる」


 切羽詰っているバードの声が無線に響く。

 アンテナの上から射撃する者の他に、事務所の窓から撃ってくる者が見えた。

 だが、同じ様な声が無線に流れる。


『バード! あと五分で海兵隊が降下を開始する! 自力でなんとかしろ! 次の一手を考えてから逃げ込め!』


 無線から流れるテッド隊長の冷たい言葉にバードは一瞬だけ憮然とする。

 だが、怒っていても事態は解決しないのは言うまでもない。


 撃たれてどっちが痛いかを考えれば、なんとか成りそうなのはライフルだ。

 手榴弾のピンを抜いて事務所の窓辺りへ力一杯投げ込み爆発を待つ。

 数秒後に鋭い爆発音が響き、それを合図に陰を飛び出す。

 

 スミスの場所へ飛び込むと射撃の邪魔になると思い、別の陰を探した。

 軽機関銃で撃たれずに済む場所だ。消去法的には余り無い。

 

 だけど、その前に……


「よくもやってくれたわね!」


 走りながらパンツァーファウストを構えて狙いを定めた。

 ライフル組みが身を隠す事務所の壁辺りへ一撃。

 とんでもない爆発が発生し一瞬驚くも、慌てず騒がず走り抜ける。


 視野に浮かぶインジケーターには、生命反応なしの表示。

 アンテナ辺りに陣取る奴の銃弾だけが降り注いでいるのだが。


『おいおい! うちのお姫様をあんまりイジメんなや! 死ぬぜ?』


 無線の中にジャクソンの声が流れる。

 次の瞬間。狙撃ライフルの鋭い発射音。

 アンテナの上から生ゴミとなった何かが落ちる。


『えっへっへ! チョロイぜ!』


 地上へ叩き付けられた生ゴミが血と肉片とをまき散らして動かなくなった。

 ジャクソンの笑い声が無線に流れる中、そこへ執拗に銃弾が降り注ぐ。


 並みの人間より遙かに頑丈で撃たれ強いレプリ対策だ。

 念入りにとどめを刺しておかないと、後で痛い目にあうかもしれない。


『そろそろ騎兵隊のご到着だ!』


 ドリーのご機嫌な声。

 ハッと空を見上げたバード。

 

 火星の青い空に白い大きな花が幾つも咲いていた。

 海兵隊の空挺降下が始まっていた。

 直後、地上側から散発的に対空射撃が始まる。


『お空に向かってぶっ放す能天気さんを血祭りだ! ヒー! ハー!』


 イカレた笑い声のスミスが走りながらバリバリと射撃を始めた。

 同時にアチコチから爆発が起きている。


『工場本屋西側の戦闘車両は全て爆破した。南側出口は開かない様にしてある』


 工兵のリーナーがアチコチで地味に活躍中のようだ。

 戦闘情報のマップを呼び出して視界にオーバーレイし現状を確認。

 工場周辺の征圧完了エリアがグリーンで表示されている。


 そんな中、工場北側には未制圧な赤いエリアがあった。

 簡易陣地から対空射撃が行われているらしい。


 対空砲の中でも深刻な威力なのは五十口径機関砲だ。

 だから、これを最初に黙らせるのが一番重要と言える。


『工場東側の抵抗拠点を黙らせた! 工場内部に逃げ込んだらしい!』

『屋根越しにぶっ放すバカはイネーだろ!』


 ペイトンとジャクソンの声が流れる。


『お客様のご到着には最適だ』


 いつも皮肉を忘れないブリテン紳士のジョンソンまでもがイカレている。

 

『全員北側に集合! ここの抵抗拠点を潰すぞ! 騎兵隊のお膳立てだ!』


 テッド隊長が集合命令を出した。Bチームが一斉に走りだす。

 視界の隅に浮かぶマップを見ながらバードも走った。


 残り電源は七十パーセント少々。まだまだ問題無さそうだと思った。

 風を切って走りながら、ふと視界の隅に何かが横切った。

 

 ―――― ……っえ?


 そこに居たのは、身の丈3メートル近くもあるパワーローダーだ。

 オペレーターが胴体部分の操縦席にいる、大型の作業機械だった。

 両手両足が油圧で動き、機敏で力強く作業を行うタイプだ。


「ポイント4ー0ー6! パワーローダー!」


 そのオペレーターは手近に有った自動車やドラム缶を投げてきた。

 当たる訳が無い攻撃ではあるが、鬱陶しいのには変わり無い。


 バードは進路を変えて銃を構えた。

 放って置けば仲間が被害に合うと思ったのだけど。


『バード! それはこっちに任せろ! お前は走れ!』


 パワーローダーの足元を駆け抜けたライアンは、膝関節の隙間へ手榴弾をねじ込んだ。通り過ぎるホンの一瞬の間だったのだけど、見事なまでの早業だ。


 直後に爆発を起こし、両足の膝関節が崩れ落ちて止まった。

 油圧が抜けて行動不能に陥ったらしい。

 オペレーターは操縦席から飛び降り逃走を図った。


『オペレーターが逃げる!』


 バードの視界には、慌てて逃げるオペレーターの姿が映った。

 速度を緩めて銃を構え脚を狙ったのだけど。


『問題ねぇ! 任せとけ!』


 無線に響くロックの声。

 それはまるで楽しそうにおもちゃで遊ぶ子供の声だった。


 オペレーターの真後ろから走ってきたロックは、迷わず袈裟懸けに斬った。

 血しぶきが舞い、オペレーターの身体が真っ二つに斬れて崩れる。

 恐るべき戦闘力だと、バードは改めて驚く。


『地上に抵抗戦力は無し。テロ屋は工場内部へ逃げ込んでやがる』


 無線にジョンソンの声が流れ、仲間に追いつくべくバードは走る。

 Bチームは工場北口面の辺りに集合しつつあった。

 壁際に並び、角の向こうの様子を仲間が伺う。

 どうやら強硬に抵抗する拠点があるらしい。


『バード! そのまま飛び出せ! 速度を落とすな!』


 無茶苦茶な指示がテッド隊長から下された。


『イエッサー!』


 速度を落とす必要もなくなったので、バードは更に加速した。

 銃弾を避け切るにはトップスピードが必要だと思ったから。


『射線がバードを追ったら援護射撃に飛び出すぞ! 気合入れろ!』


 テッド隊長の声に仲間達が叫んだ。


 『これなら飛び出せる!』


 バードは意を決して建屋の角から飛び出していった。

 恐ろしい勢いで銃弾が通過して行く。

 視界の全てがスローモーションに見える。

 サブ電脳が再びクロックアップしていると気がつく。


 ――怖くない!

 ――怖くない!

 ――怖くない!


 自分にそう言い聞かせ、バードは走り続けた。

 背後で激しい爆発が起きて、一瞬バランスを崩した。

 そのままスライディングで搬送コンテナの陰に隠れた時だった。


 見上げた上空にODSTのパラシュートが浮いていた。

 彼らは統制の取れた大隊規模の空中射撃を始めていたのだった。

 抵抗拠点が見る見る削られ、気がついたときには一人残さず挽肉だった。

 纏めて降下してくるODSTの戦闘力をバードは始めて知った……


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