表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
316/358

地上の惨劇を横目に【21/7/4若干改稿】

~承前






「イッツ! ショーターイム!」


 ジャクソンの声が聞こえた後、視界がパッと開けてシリウスの青い空が見えた。バードは意識はケンプファーの中へ遷移し、聴覚信号も切り替わったらしい。今はニューホライズンの重力を感じていて、周囲の状況が把握出来た。


 ――――綺麗な空……


 コンテナが開いた一瞬だけそんな事を考えたバードだが、その直後に地上の整備担当が大声で報告を寄こした。どんな時でも全力で事に当たる海兵隊の精神はこんな場所でも有効だった。


『中尉! エンジン! アビオニクス! ウェポン! オールグリーン! いつでも行けますぜ! ガッチリでさぁ!』


 思わず『I'm afraid not!』とバードは叫んでいた。汗を流してくれた整備兵達の努力を踏みにじる事は出来ないが、少なくとも歓迎はしかねると言う意味で丁寧な表現だった。


 妙な所で日本人的な発想から軍隊らしからぬ丁寧な言葉を返したバード。

 本来ならば士官は貴族なので、平民相手に謙る必用もないのだが……


 ――――バード中尉

 ――――コマンドポストから発進許可が出ました

 ――――離床してください!


 ラジオの中に発進管制の下士官からテイクオフ許可が流れた。感度は驚く程良好でノイズが一切混じっていなかった。それに気をよくしたのか、間髪いれずにバードは叫んでいた。


『ヤー!』


 グッと力を入れたときブースターエンジンが点火し、同時にコンテナに収まっていたケンプファーは油圧と板バネを使ったカタパルトで上空に投げ飛ばされた。その時点でエンジン推力がピークとなり、ケンプファーは一気に加速しはじめた。


 ――――あはっ!


 思わず笑みを浮かべたバードは小さく笑った。大気圏内でシェルを飛ばしてから随分と経つが、あの時の経験はすぐに思いだされた。そして、あの時以上に機体が軽く感じ、不思議な全能感に酔った。


『Bチーム全員集合!』


 ドリーの声がラジオに流れ、『イエッサー』を返しながらバードは自分の装備を再確認した。本気の喧嘩装備で飛び出たケンプファーは驚くような重装備だ。両手には一基ずつ88ミリ電磁バズーカを持っている。


 装弾数は15発ずつなので、合計30発の強力な一撃を叩き込める。背中辺りの武装マウントには25ミリ機関砲と50口径機関砲が1丁ずつ装備されていた。対人で25ミリはエグい喧嘩道具だが、装甲を持っていたなら心強い。


 更には腰の左右2発ずつの大型パンツァーファウストがある。主力戦車どころか至近距離ならシェルの装甲すら撃ち抜くだろう代物だ。なんでこんなに重武装なのか?とも思うのだが、冷静に考えれば答えはすぐに導き出される。


 ――――叩き込む相手がいるのよね……

 ――――つまりG35じゃ無理ってこと……


 その余りの重武装ぶりに、バードは内心でほくそ笑んだ。ケンプファーのコアユニットになっている身体が笑えるかどうかは知らないが、どうせカーボンむき出しのひどい姿だろう。


 ほんの僅か前までは宇宙に居たのを忘れて、今は凄まじい速度で視界を過ぎる地上の森を見ていた。高度15メートル程の所を一気に突進しているケンプファーの対地速度はマッハ2近くあった。


 ――――乙女が人前に出る姿じゃないわよね……


 それは乙女どころが地獄の獄卒もかくやと言う恐ろしい姿だ。一気に速度に乗ったケンプファーはブースターユニットを地上へ投棄し、自前のエンジンへ着火して一直線に突き進んだ。


 発進から30秒ほどで森が切れ、見渡す限りの草原となったのだが、ドリーはまるで地面に突っ込むように高度を落とし、地上3メートルほどの所を一気に突進していた。


 ――――地表効果!


 同じように高度を落としたバード。ふと左右を見ればロックとライアンが編隊を作ってくれていた。視界に浮かぶ速度計が800ノットを表示していて、マッハを越える速度に精神が麻痺し始めた。


『レィディース! エーンド! ジェントルメーン! 見えてきたぜ!』


 ジャクソンの声がラジオに流れ、バードは無意識に視界へレーダー情報を展開した。アクティブでは無くパッシブレーダーを受診しているその表示には、あと3000メートル程で対空レーダーが存在する事を示していた。


『レーダー! 潰す?』


 考えているほどの余裕は無い。数秒後にはドリーが88ミリバズーカを撃ち込みレーダーサイトが爆散した。その破片が大量に巻き上がる中を突っ切り、セントゼロ市街地の上空へと躍り出た。


『どうやらアレだぜ』


 ロックの渋い声がラジオに漏れ、少しだけドキリと胸の高鳴りを覚えたバード。だが、胸が高鳴った理由はすぐに違う物だとわかった。Bチーム編隊が上空へと到達した時、連邦軍とオーグの最終抵抗集団が激しい銃撃戦を展開していた。


 あり合わせの雑多な火器を総動員し銃撃を続けるオーグ関係者の陣地には、投棄された火器の類いが山のように積まれている。銃弾砲弾が尽きれば射撃も砲撃も出来ないのだから、遠慮せず捨てるだけだ。


 ただ……


 ――――まぁ……

 ――――そうなるよね……


 バードの視界に入ったそれは、オーグ陣地へ斬り込んでいる連邦軍との間に発生している凄惨な戦闘だ。弾の無くなった銃に使い道が無いなんていつから錯覚していたんだ?と、自分を叱りつけたい気分にもなるという物。


 彼らは弾の無くなった銃を棍棒の代わりにし、それが無い者は鉄パイプの様な物を振り回し、とにかく遮二無二戦闘を繰り広げていた。ただ、その後方に見えたのは……


『ここでもやったんだな…… あれ……』


 ライアンがボソリと呟いたのは、かつて何度かテッド大佐から聞いていたシリウスの恥ずべき真実だった。首からぶら下げられたボードには『敗北主義者』だとか『裏切り者』と言った文字が躍っている。


 そんな者達は街灯や街路樹のなれの果てなどに吊され、何かで徹底的に打ちのめされたのか血塗れのまま息絶えていた。凄惨な粛正による引き締め。或いは共犯意識の共有による離脱しがたい空気。


 それらにより結びつけられたオーグの団結力は、不幸なまでに強力だった……


『まぁなんだ。地上は連中に任せよう。俺達は突入点を目指す』


 ドリーの言葉と共に視界がパッと切り替わった。世界がワイヤーフレームに切り替わり、彼方に見える大きなタワーの足下付近に小さく赤く表示されている通気口のような穴が見えていた。


『ドリー! 嘘だよな! あれじゃ入れる訳がねぇ!』


 ペイトンが悲鳴染みた声を上げたが、間髪入れずにジャクソンが口を挟んだ。


『当たりめぇだぜブラザー! 穴は広げてやるんだよ!』


 ジャクソンの口を突いてブラザーの言葉が出て、ライアンとロックが我慢しきれぬように『プッ!』と吹き出した。勿論バードもクスクスと笑ったのだが、ヴァシリは笑わずに『撃ち込んで良いんですか?』と聞いてきた。


『いや、あの通気口の蓋は取り外せるようになってる。なんでシェルじゃ無くてケンプファーを送り込んだかって理由だ』


 ドリーはそんな回答を吐き、バードは思わず『また出来レースだ』と漏らしていた。少なくとも出撃前にドリーはそれを知っていたことになる。知っていて知らないフリをしていた。いや、情報管制を行っていた。そう言う事だ。


『まぁ、Bチームは公式には宇宙に居ることに成っているからな』


 ジャクソンがボソッとそう呟き、バードはここで改めてその違和感に気付いた。このケンプファーのどこにも所属部隊のマークが入って無いし、サイボーグ部隊であるマークも無い。


 つまり、傍目に見れば中に中身の人間が入っているパワードスーツに見えるだろう。現在は殆ど使われなくなった古いタイプの兵器だが、細々と研究が続けられてるのは周知の事実。そんな実験部隊だと解釈をさせる偽装工作。


 仮に何らかの事情でサイボーグ部隊だとばれたとしても、501大隊と関連づけられる危険性は少ない。エディ将軍の直卒となる子飼いの部隊をこっそり運用しているのだから、つまりは足の着かない手段と言う事だった。


『さて、見えてきたな』


 派手な乱戦を飛び越えたチームは巨大なタワーの足下までやって来た。視界に浮かぶ対地速度表示の数字がスッと落ち、バードはHALOをキメた時の様にふんわりと着地した。


 ――――足裏の感覚まである……


 遙か彼方にある筈の遠隔作動兵器だが、その機体が感じている各種情報はリアルタイムに送られてくる。そしてそれは、感覚的には裸足か靴下一枚程度で歩いている状態に近かった。


 硬いコンクリートの上に転がる小石まで正確に伝わってくるのだが、痛いかと言えばそうでも無い。ただ、時々起きるごく僅かな感覚的タイムラグの方が余程違和感を感じさせるものといえる。


 ――――まぁ遠隔操作だからね……


 そんな達観をしつつバードが辺りを警戒すると、自動的に視界の中で周辺センサーが起動していた。微かな空気の振動や音をサンプリングし、AIが自動で危険性判定をしてくれる代物だ。


 ただ、AIを信用しすぎると痛い目に遭うのだから、ここはひとつ慎重にと改めて周囲を見回す。まるで宇宙船が地面に突き刺さったかのような姿のタワーには、ビッシリと人の名前が書き記されたプレートがはめ込まれているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ