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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
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最後の胚 或いは希望の種

~承前






 宇宙へ行け……


 そんな指令から3日目の朝。バード達はニューホライズンをグルグルと周回する強襲降下揚陸艦ハンフリーの艦内に居た。地上からの連絡機に揺られ久しぶりに無重力環境へとやって来た一行は、子供のようにはしゃいでいた。


「0Gって久しぶりだと楽しいな」


 ロックの明るい声にバードも楽しげな笑みを浮かべる。ハンフリーのガンルームに集合したBチームの面々は、これから始まるシェルトレーニングの打ち合わせ待ちだった。


 まだドリーとジャクソンの二人が来ていないので雑談に興じている面々は、これから何が起きるのかについてワクワク顔で上機嫌にしている。しかし、まだまだ新入り状態なヴァシリとアーネストはどうも勝手が違うようだ。


「実は……宇宙酔いが酷い方だったんで……まだなんかこう……」


 少し緊張気味になっているヴァシリだが、機械になってなお緊張出来ると言う部分をどうも見落としているらしい。


「俺もです。やっぱなんか身構えるんですよね」


 アーネストも不安を吐露した。

 だが、そんな二人の背中をポンと叩いてアナが言った。


「で、今は宇宙酔いしてるの?」


 サイボーグで宇宙酔いしたという話をバードは一度も聞いたことがない。何気なく目をやったダニーも、静かに首を振って否定の意を示した。宇宙は確かに酷い環境だが、少なくともサイボーグには苦にはならない。


「いや……」「平気だけどさ……」


 同じ少尉であるアナに言われたのだが、まだどこか下士官気質の抜けていない二人は遠慮気味に言った。そんな姿にロックはにやりと笑うのだが、何かを言うのはやめておいた。


 こればかりは自分で成長しなければダメなことだし、その中で学びを得る部分でもあるのだから。


「まぁいい。それより今日はまじめに飛ぶぞ。給料分働こう」


 スミスがその場を締めるように一言いうと、ライアンが『そうだな』と賛意を示し、同じくペイトンが『効率よく教え込まねぇとな』と続けた。501大隊の中でもかなりの腕利きな集まりであるBチームなのだから、遠慮する必要はない。


 だが、ライアンとペイトンが顔を見合わせ手ニヤニヤしてるのを見れば、何かを隠してると気が付くのは当然の成り行きだった。


「で、あの、そろそろ舞台裏……教えてくれませんか?」


 ダブが痺れを切らしたようにそう言うと、古株の面々がプッと吹き出してからケラケラと笑い出した。


「実はね、私が配属されてから……まぁざっくり2ヶ月後だったかしら」


 バードが切り出した言葉にロック達がニヤニヤと笑っている。

 その様子を見れば、絶対に碌な事じゃ無いと確信出来るのだが……


「何かが起きたのですか?」


 ヴァシリがそう尋ねた時、バードもニヤリと笑って首を振った。


「起きたんじゃなくて、起こされたって所かしらね」


 アハハと軽快に笑ったバードをアナも不思議そうに見ている。ただ、そこから切り出したバードの話は、アナ達を含めた新入り少尉達にも溜飲を下げさせるものだった。


「まぁ掻い摘んで言うとね、ちょっとした……どうでも良い作戦で降下して下らない内容の任務を果たして返ってきて、で、部屋で寝てたら叩き起こされてね――」


 海兵隊の水にも慣れてきた面々故に、そこでどんな事があったのかは容易に想像が付いた。月面基地のあれやこれやは理解出来ないが、それでも何となくは解ると言う物だ。


 作戦後の打ち上げで酔っ払った状態を叩き起こされたのだろう。それはもう、嫌でも不機嫌になるし、何が起きたのかを理解出来なくばふて腐れているのは間違い無い。


「――で、いきなりシェルで出撃!って話に成って月面から直接ね、ブースター背負って飛び出したんだけど、ちょっと行ったらハンフリーが待ってて、それで」


 ニヤッと笑ったバードが間を置いて話を仕切り直しにしようとしたとき、ガンルームの扉がスッと開いてジャクソンとドリーが入って来た。ふたりとも両手に大量の資料を持っているが、要するに持ち出し禁止のアイズオンリーものだ。


「さて、トップガンの教官役をする事になった。生身の連中も秒速25キロまで飛ばせるミドルモデルに乗る事になるが、最終的には俺達と同じ35キロオーバーのトップモデルが与えられるらしい。まぁ、モンキーモデルじゃつまらねぇってな」


 ジャクソンが全員に配った資料は、現状におけるシリウスの地上の戦力分析だった。ヴァシリとアーネストが顔を見合わせるなか、『やっぱりなぁ』とライアンがぼやいた。


「その資料はアイズオンリーだ。データライブラリーにでも保存しといてくれ」


 ドリーもニヤニヤ笑いを噛み殺し、これから先の大まかな流れを暗に説明した。

 シリウスの地上では三方向からセントゼロに向かって進軍が続いている。

 だが、その戦力もセントゼロの手前20キロ地点で進軍を停止した。


「現段階におけるトップガンの受講生は24名だ。あちこちのキャリア(空母)やらクルーザー(巡洋艦)やらから集められた腕に覚えがある連中だが、所詮は戦闘機レベルの事しか出来ねえと来たモンだ。だからまずは、俺達レベルの超高速戦闘を嫌と言う程体験させる事から始める」


 ジャクソンの言葉が続くが、実際にやっているのは資料の7ページ目を見ろと言うジェスチャーだった。セントゼロ中央部にある古代遺跡は、どうやら数万~数十万年前の古代文明の痕跡らしい。


 かつてそこを調査した考古学研究チームによれば、地下に巨大な構造物が存在していて、それを彼らは地下宮殿と呼んだ。だが、地震波などによる計測に寄れば、その更に下には巨大空洞があるらしい。


 故に彼らはそれを陥没城と呼称したそうだ。かつて地上にあった巨大な城が地下の広大な鍾乳洞状の空洞にスポッと落ちてしまったと言う事だ。その内部の調査を完了したわけでは無いが、規模としては相当な物があるという。


「……マジかよ」


 ボソリと零したペイトンの一言にドリーが眉根を寄せて渋い顔をした。迂闊に言葉を発するなと言う姿で、そんな僅かな所作にも拘わらず、ペイトンはドリーが言いたい事を正確に理解して『素人の調教は骨が折れそうだぜ』と合わせた。


「要するに敵は速度だ。やる事は変わらない。俺達の得意なスタイルでやれば良いって事だ。まぁ、この戦争で誰が一番働いて来たのかってのを理解させてやろう」


 ドリーはあくまでトップガントレーニングの話をしている風に振る舞った。しかし、その言葉も眺める資料を見ればまったく異なる風に解釈出来るのだ。


 地上の軍団は地下戦闘に備え再編と装備の改変を進めている。何処かから地下に突入し、人海戦術でシラミ潰しに当たる作戦らしい。ただ、なんでそんなの地下に拘るのかをバードは理解出来なかった。


 オーグと呼ばれる最終的に抵抗をし続ける事を選択した集団は、その大半が地上にいるはずだ。その連中を対峙すれば良いだけな筈なのに、なんで地下へ突入しようとしているのか……


「……これ、なんで――」


 地下に行こうとしてるんですか?と言いかけて、ヴァシリはグッと言葉を飲み込んだ。チーム全員の鋭い目が一斉に降り注いだからだ。


 ……それ以上は言うんじゃねぇ


 それをビンビンに感じさせるような、強い眼差しが降り注いでいた。


「まぁ、疑問に思うわな。確かに何で今さら俺達に出番が来るのかって奴だ」


 ドリーは()()()にもとれる言い回してヴァシリを肯定した。ただ、それに続く言葉は……


「資料の12ページを見てくれ。先の戦闘におけるスコアなんだが、生身のパイロットの被弾率を見ると、動きの良い連中とやり合った時には途端に犠牲が増えてるってのが良く解るだろ。つまり、連中の実力をここで底上げしておかねぇと、この先の戦闘やら訓練やらで色々困るってこった」


 ジャクソンは一気呵成にそう説明した。ただ、その12ページにはそんな文言など一言も書いてないしグラフも無い。そこに書いてあるのは、巨大な地下空洞の構造図と、そしてターゲットと書かれた点だった。


 ――――これ……

 ――――もしかして……


 不意にバードはロックを見た。そのロックも何かを察してバードと視線を合わせた。その眼がチカチカと光り、赤外が来てるのが解った。


【これ、何だと思う? 俺の勘じゃ……】


 ロックの言葉がやって来て、バードは一瞬ニヤリと笑った。


【エディの最後の胚だったりして】


 惚れた男が同じ事を思っていた。

 それだけで女は嬉しくなるものだが……


【……同感だ】


 あくまでクールを装うロック。そして顔を上げた先のドリーがウィンクした。


【ここに有るのはシリウス王の最後の胚だ。つまり、エディは俺達に取ってこいと言ってるんだよ。シェルで飛び出て何処かで地上に降りて、で、地下に突入する。ヘカトンケイルの手によって隠されたんだ。オーグの連中は何故かそれを知っていたって事だ】


 全てが一本の線に繋がった。バードはここまでの全てが繋がった事に感動を覚えた。そして、エディが書いた画の周到さや抜け目の無さ。全てを手の上で転がすエディの深謀遠慮にもだ。


「やりがいありそうだね」


 ウフフと笑いながら、バードはそんな言葉を漏らした。


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