超高速の一撃
~承前
――――――――場面は少々遡る
「アレなんだ?」
素っ頓狂な声で言ったライアン。
彼方に見える巨大な構造物は、青く塗られた人型兵器だ。
「アレだろ。オヤジ達が携帯兵器でやり合ったって言うシリウスの人型ロボット」
ペイトンの言葉に全員が脳内でデータをサーチした。俗称としてシリウスロボと呼ばれる大型戦闘兵器で、地上作業用の人型重機とシェルの間をつなぐミッシングリングの一つだ。
「重装甲で重武装って聞いてますけど……どうでしょうかね」
アナの言葉に怪訝な色が混じるが、それもそうだろう。ロボは地上に展開しているODSTに向かって砲撃を繰り返していた。激しい砲煙と破片が飛び散り、各所で爆発が連続しているのが見えた。
敏捷性は無い代わりに撃たれ強く、手強く、そして火力に余裕がある。地上戦に於いて空対地支援が望めない環境では、MBTの連係射撃を持ってしても手強いと思われた。
「なーんか嫌な感じだな」
ボソッと零したダニーは、送られてくる視野情報を無意識にクローズアップして確かめた。こんな機能も付いているのかと驚くのだが、それ以上に問題だったのは地上で掃討されている側だった。
「……102の連中だな」
視界に浮かぶ部隊情報を確認したペイトンが呟く。
その言葉にバードが反応した。
「酷い事になってなきゃ良いけど……」
半ば無意識に呟いた言葉なのだから、完全に素の言葉と言って良いのだろう。
だが、それを聞いていたブラックバーンズの古株は違う印象を持った。
「バーディーに心配されるなら上等だな」
「そうだぜ。迷わずヴァルバラへ行けば良い」
ジャクソンとペイトンがそんな会話をしている。バードが心配した時点でそれは確定事項だ。もはや地上には挽肉か挽肉になり損ねた物体か、若しくはこれから挽肉になるであろうモノしか残ってない。
「とりあえず一発かますか」
ロックが攻撃軸線上に左腕を伸ばした。その瞬間リフティングボディのバランスが変わり、姿勢制御でフォローできる限界を越えると機体がスッと沈んでいく。『ワッ!』と叫んだロックは瞬間的に姿勢を変えて上昇傾向に持っていった。
こんな部分での機転の良さは、結局のところシェル戦闘をどれ位こなしたかに因るのだろうし、シェルで地球の重力圏を飛んだ経験が役に立ってくる。そしてそれは、ロックだけで無く、同じような姿勢を試したメンバー全てに共通した。
「おぉっ!」「あぶねっ!」「やべぇ!」
アチコチから一斉に声が上がり、リフティングボディにも限界があるのだと嫌でも痛感している。機体その物が揚力を生み出す形状の場合は、飛行姿勢が重要なのだった。
「ちょいと上昇姿勢になってから構えないと危ないな」
ドリーは今さら冷静な言葉を吐いた。
飛行を続けているブラックバーンズの先頭にはいるが、戦闘態勢になってない。
「攻撃するにも手順を考え無きゃ駄目だな」
「あぁ。迂闊に武器を向けるとストール一直線だぜ」
ライアンとペイトンの言葉をチーム全員が飲み込んだ。何事も経験と言うが、本来これは実戦テストなのだからやってみないと解らない事だった。
「まぁいい。やるぜ」
僅かに上昇姿勢になったロックが左腕に装備されている50口径を放った。
12.7ミリの巨大な弾丸は、そもそもの発射速度に加えてケンプファーの速度をプラスしたとんでも無い速度で飛んでいった。
「アーマーピアシング弾だけど、どうだろうな?」
ビルの言葉が終わる頃、シリウスロボにキャリバー50の弾丸が命中した。窒化チタンでジャケットされた重元素の一つ、オスミウムを弾芯に使っている特製の弾丸がシリウスロボの装甲を叩いた。
装甲を撃ち抜くことのみに特化したとんでも無い代物の弾丸だが、その弾丸が常識外れの速度で命中すればどうなるかは……やってみたいとわからない部分でもあった。
「おほっ!」
ダブが妙な声を漏らす。シリウスロボは破片を撒き散らして左腕を完全に破壊した状態になった。
「関節を撃ち抜いたようだな」
「あんなんなるのか」
ビッキーの分析にダブが感心したような言葉を漏らす。ただ、間髪入れず『バンバン撃ちましょう!』とヴァシリが叫び、チームは自然と散開陣形となった。
「よしっ! ぶちかませ!」
ジャクソンの言葉が口切りとなり、一斉に砲撃が始まった。目立つサイズのシリウスロボ故に、各方面からガンガンと攻撃を受けている。重装甲でなるシリウスロボだが、さすがにマッハ5を軽く越える大口径弾での攻撃は想定外らしい。
だが……
「えっ?」
バードが無意識に漏らした言葉。
それは、視界に写った想定外のモノだった。
「マジかよ! シェルだぜ!」
ロックの言葉と同時、シェルの頭部ユニットがこっちを向いた。あのシリウス上空でウルフライダーとやり合った時に見た、赤い薔薇とブラックウィドウのマークが付いた機体だ。
「アイツを叩き潰せ! 飛び上がられると厄介だ!」
ドリーの言葉に緊張が混じった。だがそれも無理は無いとチームの誰もが思う。大気圏内で運用する兵器では無いが、運用したなら通常の兵器では対処が不可能なのは言うまでも無い。
普段から大気圏外でそれを使っている面々だけに、その能力と威力は説明されるまでもないのだ。
「アイツ離陸するぜ!」
「飛ばすな!」
ペイトンとジャクソンが吼える。それと同時、チーム全機のキャリバー50が一斉に吼え立てた。考えられる限りの全方向から一斉に砲弾が降り注ぐが、その前にシェルが飛び上がった。
「地上にODST!」
悲鳴に近い声でアナが叫んだ。
全員の視界に地上を逃げ回るODSTが表示された。
「なんてこった!」
アーネストの機体が捉えた映像には、シェルのメインエンジン排気炎に焼かれる地上が映っていた。そこに居た夥しい人々が一瞬にして蒸発するように燃え上がっていた。
『こちら501大隊Bチーム。ブラックバーンズだ。現在アケト市街上空でシリウスのシェルとやり合っている。地上展開中の各地上部隊は安全な所に非難して欲しい。これから派手にやり合うので、衝撃波が発生すると思われる』
ドリーは広域戦闘無線を使って冷静な声で呼びかけた。
ここで慌てた声を出すと地上に悪影響が出るのは経験済みだ。
――さすが……
バードもそう思わざるを得ないドリーの落ち着きぶり。
だがそれは、膨大な経験に裏打ちされた隊長の能力の一つだった。
『こちら地域作戦本部。Bチーム各機は地上戦力に注意されたい。被害甚大な模様なので通信が出来ない可能性がある。詳細はドリー少佐の裁量に任せます』
機械音声染みた声が無線に流れ全員がハッとした表情になった。
――この声……
――ミシュリーヌ大佐かも……
そんな事をバードは思ったのだが、今はシェルが優先だ。
「包囲して街の外におびき出せ!」
ドリーの指示が飛び、誰が~と言う前にライアンとロックが先行突撃体制に入った。そしてその直後にチームの面々が続き、結果的に二つのパンツァーカイル陣形を作っていた。
「シェルの装甲を撃ち抜くのは手間だぜ」
「まとまってぶちかますしかねぇ!」
右手から回り込んだライアン。ロックは左手に回り込み突進した。基本的に余り高度を持って戦う兵器では無いので、上昇力に速度を振り向けると航続距離が続かなくなる恐れがあった。
『ドリー。ケンプファーは足が短い。短時間で決着させろ』
唐突に無線から流れたテッド大佐の言葉。その言葉を聞いたチームの全員がほぼ同時に『イエッサー!』を返答していた。
「コイツ確か、レールガン持ってるな!」
ロックはふと、出撃前に呼んだスペックシートを思いだした。ケンプファーの左腕には加速距離1メートル少々のレールガンが装備されているのだ。
「チャージしてから発射まで時間があるよ!」
バードは自身の身体に付いているレールガンを思いだしてそう声を掛けた。
実際、コンデンサーに充電してから一気に解放するまで若干のタイムラグがある代物だ。その意味では使いにくい兵器だが、当たれば威力は大きい。
「よっしゃ! ライアン! 陽動してくれ!」
「オッケー! 任せろ!」
ライアンは大きくRを描いてシェルに接近した。
こんな時は気合と根性でやるしか無いのだ。
「うはっ! 撃って来やがった!」
ダブが悲鳴染みた声を上げた。シェルは猛烈な勢いで射撃を開始した。恐らく40ミリ程度のチェーンガンだろうと思われる代物だ。ただ、超高速徹甲弾はシェルの速度と相まって凄まじい威力を持っている。
「当たるなよ! 当たったら一発でおしゃかだぜ!」
ロックの声が無線に響く。地上で運用される兵器ならそれほど怖くないが、シェルがそれを使うと凄まじい武器に変貌する。ただ、ケンプファーの場合は……
「まぁ、これの場合、即死はねぇけどな!」
へラッとした声でライアンが応えた。
良いコンビだなと思ったバードだが、胸の奥の何かがジンワリと痛みを訴えた。
その正体が何であるかは知っているが、少なくとも今は考えないことにした。
「喰らえ!」
シェルの背後を取ったロックが必殺の一撃を放った。
眩く輝く光の尾を引いてレールガンの弾丸がシェルへと伸びていった。
従来の火薬加速型兵器では実現し得ない凄まじい速度での一撃だ。
その光の弾はシェルの背後に当たったらしい。
幾多のパーツをバラ撒きながら姿勢を崩してシェルは地上に激突した。
「やった? やったのか??」
脳内に直接響くロックの声は歓喜に溢れていた。強襲型兵器であるケンプファーの装備は、正直似言うとオーバーキルだとバードは思っていたのだ。だが、こんな場面ではこの兵器が実に役に立つ。
地上に転がったシェルのエンジンは失火しておらず、まだ全力燃焼を続けているのがバードにも見えた。そして次の瞬間、そのエンジンがもの凄い威力で大爆発した。
――私もああだったのか……
中国戦線での墜落経験を思いだしたバード。だがその前にヒャッハー!と奇声を上げながらジャクソンが喚く。
「どうやらやったらしいな! 今回のMVPはロックだぜ!」
久しぶりにMVPなんて聞いたなとバードが苦笑いする。
そんなバードを余所にヴァシリがぼやいた。
「しかし、レールガンの威力ってスゲェな」
地上戦で散々やり合ったODSTであるヴァシリだ。その言葉には心底的なうらやましさが混じっていた。そして、同じ立場だったアーネストが応えた。
「あぁ。これ、自分の身体にも標準装備して欲しいぜ」
歩兵はいつの時代でも強力な携帯兵器を求めるモノだ。対戦車戦闘兵器であるパンツァーファウストが登場し、バズーカが実用化され、時には小銃とグレネード砲が一体化した失敗作の権化のような携帯小火器も登場した。
どんな敵でも粉砕できる武器が欲しい。それは、全ての歩兵の魂の叫び。心からの声だった。ただ、……
「ブレードランナーはみんな持ってるけど、案外使いどころ無いよ。威力がありすぎて相手選ぶし」
そんな会話を聞いていたバードは、そこにスッと割り込んだ。G35系列の機体になっても、相変わらずレールガンは健在だ。しかもその威力は着々と増しているのだ。
「しかし、シェルが一発とはなぁ……」
ビルがそうぼやくのも仕方が無い。実際の話として威力がありすぎるのだ。牽制や陽動にに使うには威力がありすぎるし、フィニッシュブロー的な使い方をするには発射ラグがありすぎる。
連発できない兵器なので良く狙ってぶちかますしか無い。だが、発射までに凡そ0.7秒のタイムラグがある。足を止めて止まったモノに当てるならそれでも良いだろう。しかし、飛翔体同士の戦闘では、どれ程威力があっても使いにくいのだ。
「まぁ使い方はこれから研究しよう。それより地上がなんか変だな」
ドリーの言葉が無線に流れ、全員が改めて地上を見た。
そこに見えていたのは下半身を失った兵士の姿だ。
「ありゃ……やばいな……」
そう漏らしたダニーの言葉に全員が押し黙った。急速冷凍パックに押し込まれる兵士の行き先は、サイボーグには説明不要なのだった……




