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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
304/358

人にはそれぞれ事情がある

~承前






 猛烈な砲火が降り注ぐ中、リッジ達はジリジリと前進していた。

 彼らが進行中のアケト市街は、この先に幾つかある抵抗側の拠点だ。


 ――相当手こずったらしいが……


 そんな事を思うほどにロボの砲火は凄まじい。全くもって偶然に見つかったらしいが、こうなれば戦う以外に選択肢はなく、問題はシンプルに片付けられると安堵する。


 ――パープルハート(戦傷勲章)の積み増しを進言しておくか……


 そんな事を思ったリッジ。

 だが、周囲のODSTは違う印象だった。


「キャプテン! あれなんすか!」


 まだ若い兵士とならば知らないのも道理だろう。

 実際の話としてリッジだって資料で読んだのが唯一の接点と言うほどの代物だ。


「シリウスロボって呼んでる代物だ。おおかたセントゼロ辺りの博物館辺りから持ち込んだんだろう。しかし、まだ動く機体があったとは驚きだ」


 塹壕代わりの用水路に飛び込み、そこに伏せたリッジが大声で説明する。用水路には臭い水が流れていて、下水が合流しているらしい。


 だが、ODSTの面々はこんなシーンを楽しむ事すら出来るスリルジャンキー揃いなのも事実であり、彼らは手近な瓦礫を集めて抵抗拠点化しつつあった。そして、散開し前進して来たODST102の面々が瓦礫を積上げた抵抗線を構築して息を潜めている。


 そんななか、バーンズは手近な瓦礫の山に取り付いて登り始めた。アケト市街は各所で激しい戦闘を経験したのか、鉄筋コンクリート作りのビルですらも半ば崩れたような状態だった。


 その崩れた瓦礫は市街地の中で小山を作っていて、平面的な視界の多い中で貴重な俯瞰的視野を作り出している。バーンズはそんな瓦礫の山に登り、小型の双眼鏡を使い様子を見ていた。


「手こずりそうですね」


 その言葉とは裏腹に、バーンズの表情は明るい。正直言って敵に歯ごたえがなさ過ぎて肩すかしも良い所だったのだ。


「アイツの主兵装は105ミリ砲だが連発できるって代物だ。20ミリくらいの豆鉄砲とは訳が違うぞ。おまけの、あの機体の装甲は前も後ろも主力戦車並の重装甲と来たモンだ――」


 ジリジリと瓦礫の山を前進してきたリッジはバーンズの隣に陣取った。装甲服が無ければ全身がズタボロになるようなコンディションだ。誰だって好き好んでオロシ金の上を前進したくは無いだろう。


 だが、匍匐前進以外の手段での前進は死を意味する。あのロボのライフル砲は折り紙付きの威力で、地球側の装甲車両がどれ程スクラップにされたのかは見当も付かない。だが……


「――弱点は両脚の間にある股関節部のマウントだ。その昔、ブラックバーンズのテッド大佐が相棒のヴァルター大佐と偶然発見して、ぶっ壊しまくったそうだ」


 ニヤリと笑いながらそれを言うリッジ。それを聞くODSTの面々はオモチャを前にした子供の表情だ。正直、リッジだって内心では揉み手をしながら喜ぶような敵なのだ。


 降下前の敵戦力教育を思い出し、その全体像に思いを馳せる。簡単な作業機械に装甲を施して戦線に投入したシェルの原形は、一方で宇宙空間を自在に飛ぶ高速戦闘兵器となり、もう一つは地上において従来戦力を駆逐しかねない汎用兵器に進化した。


 そんな兵器のひとつ。シリウス軍が一から開発した地上戦向けの汎用戦闘兵器は、瞬く間に地上戦力最強の存在たる戦車を過去の物にしてしまった。


 重装甲と機動力。そして柔軟な武器選択能力。それら全てを兼ね備えた存在は、一言で言えば巨大な歩兵だった。


「ぶっ壊し甲斐のある敵の登場だ。喜んで良いぞ軍曹」


 それが強がりの言葉であることなど誰だって分かっている。しかし、リッジの抱える厄介な願望をかなえるには、それこそ千載一遇のチャンスである事も理解している。


 ――――キャプテンやる気だぜ……


 アチコチからそんなヒソヒソ声が聞こえ、リッジは辺りへ視線を配った後でボソッと言った。


「正式な型番は大型汎用戦闘兵器MP-1って言うんだが……」


 そう呟いたリッジは懐から戦闘支援PDAを取り出すと、隊の残存兵器を確かめた。幸いにしてパンツァーファウストはいくつか残っていて、手榴弾の残数も余裕があるのを確認した。


 同時にバーンズが「MP-1」と復唱したのを聞き、リッジは水路への後退を指示した。アケト市街を東西に横切る比較的大きな川の畔で、あのシリウスロボは砲撃を繰り返しつつ整備を受けていた。


 本来なら博物館辺りに飾られてるような代物だ。少なくとも実戦で使おうなどとは思わないかも知れない。だが、碌な対抗兵器も持たない歩兵相手では、WWⅡ当時の戦車ですら手こずるもの。


「フレディ。この水路はあの川に注いでいるな?」


 確認の声を発したリッジに対し、フレディは戦闘支援タブレットを確認してサムアップした。それを見ていたODSTの面々は、ふっと顔付きが変わっていた。


 分かっている。今さら言われなくても分かっている。ここでそれを始めるのなら、間違い無くこのキャプテンが『オレがやる』と言い出すと確信している。テッド大佐と同じ事をやって気を引きたい。そんな男の無駄なやる気は、時に部下を振り回す。


 だが、ことODSTに関して言えば困った問題が発生するのだ。そもそもODSTは好戦的でやる気と負けん気に溢れた者が揃っている。そんな隊の中で大尉がそれを始めれば、オレもオレも!と参加者が殺到する事が予想された。


「で、誰が?」


 バーンズは薄笑いでそれを問うた。

 そんなバーンズを見たリッジも、『やる気だな軍曹』と言わんばかりの顔で薄笑いを浮かべていて、もう一度シリウスロボを眺めてから振り返り、全員後退を指示する手を振った。


「あれを破壊するには手間が掛かる。一旦後退して武装を再整理。一気に肉薄してぶっ叩く。やる事はシンプルで単純だが危険は大きい。私が率先してそれをやるのは当然だが――


 慎重に瓦礫の山を降りたバーンズとリッジは、味方の待つODST102大隊へと戻ろうとした。だが、偶然にもバーンズの蹴った石が残っていたビルの残骸にぶつかった。


「あっ!」


 誰がそれを叫んだのかはわからない。だが、次の瞬間にはその瓦礫同然だった廃墟のビルが崩れ始めた。本当に些細なバランスで持っていたらしいビルは、濛々たる砂塵を上げて崩れ始めた。


「退避!」


 リッジの声が響き、ODST102が一斉に後退し散開する。その動きはあのシリウスロボのモーションセンサーに捉えられかねない。見つかれば撃たれるし、執拗に追い掛け回されるのが宿命だ。


 正直、あのサイズの戦闘兵器に追い掛け回されるのは、悪夢を通り越した事態だし、戦闘支援のアークエンジェル(ヒーローチーム)を望みたくもなる。だが、そもそも最初から撃たれているのだから、ピンチなのは間違い無い。


 ――…………あっ!


 この時、リッジの脳裏に何かが浮かび上がった。まだ確定したフォルムを持たないそれは、彼にとっては望ましい展開へと繋がる代物だ。ピンチになって華を持たせるミッションを提供し活躍させてポイントを稼ぐ。


 そんな願望を持ったのだが、その前に生き残る事が重要だった。崩れてくるビルの瓦礫は下手な榴弾なみに危険で、リッジを含めた全員が下水紛いの用水路を目指して一目散に走った。


「冗談じゃねぇ!」


 フレディもそんな事を呟き用水路へと飛び込んだ。いくつか水しぶきを上げて瓦礫が着水し、泥水を被った者が続出した。だが、結果としてそれが良かったのかも知れない。


「攻撃してきませんね」


 バーンズが首をかしげる中、リッジは戦闘支援PDAに大気圏外にいる地上観測衛星の情報を呼び出した。モニターに映るのは、5分ほど前に撮影されたらしい地上の様子だ。


「連中……まだ補給中か?」


 モニターに表示されたのは、三機のシリウスロボ。その周辺には様々な車輌が居並んでいて、おそらくは出撃のための準備中だと思われた。


「もしかして……動けないのかも」


 訝しがるような笑みを浮かべ、フレディはそんな事を言った。

 そこへ幾人かの者が集りだし、ODST102の臨時作戦会議状態となった。


「じゃぁやる事は簡単だぜ。肉薄して偵察してみりゃ良い。俺が行きますよ」


 偵察を提案した102大隊第3中隊のブライアン少尉は、腰周りの戦闘装備を外して身軽な格好になった。アーマーベストとヘルメット。そして小銃だけもって一気に接近し目視確認する。


 ドローンなどの自動飛行兵器を使えば、それが発する視野映像を元にどこに居るのかがすぐに割り出され撃退されるだろうし、コントロールするドローンパイロットの位置もすぐにばれてしまう。


「……いや、ドローンを使おう。GPSで位置指定してスタンドアロンで飛ばすんだ。幾つか飛ばして異なるルートで飛行させ、アドホックして……」


 危険は踏み越えて行くものであり、必要な勇気と度胸だ。だが、彼女はそこに繊細かつ細心の注意を払い大胆な行動をとるもの。それを知っているリッジだからこそ、同じような手順を勘案した。


「しかし、本当に攻撃が止まりましたね」


 リッジの言葉を遮るようにバーンズがそう言った。

 先程までの激しい攻撃を思えば、薙ぎの海の様に静かだ。


「……こっちが全滅したと思ってるんだよ。どうせ」


 ブライアンの言葉に全員が微妙な表情となった。

 勝手に殺すなよ……と、全員が憮然とした表情だ。


「じゃぁ今度は幽霊になって襲ってやるか」


 リッジがそんな言葉を吐き、ブライアンは『オレが行きます!』と最初に動き出した。その直後に幾人かの軍曹が続き、リッジが軽く舌打ちして悔しがった。


「サニー(小僧)にやらせましょうよキャプテン。良い経験になりますって」


 リッジの背中をポンと叩き、バーンズが武装を整えて前進の仕度をした。それを見ていた第1第2中隊が一斉に動き出し、リッジは苦笑いを浮かべて支持した。


「散開陣形だ。絶対に固まるな。街の中に大きな網を張るイメージだ。各通路ごとに前進して接近しろ。最初に一撃を入れた奴にはオレが一杯奢るからな」


 リッジの軽口に全員が笑顔になる。状況が状況だけに歓声が上がるような事は無いが、それでも全員がやる気を漲らせていた。


 ただ、それから15分も経過する頃だろうか。最初に接近していたブライアン少尉は、引き連れていた5人ほどの部下と共に進退窮まった状態になっていた。


「こんな筈じゃ無かったんですがね! 少尉!」


 黒い肌のジャネット伍長はニヤニヤ笑いながら、大きな胸を地面に擦りつけ匍匐前進でブライアンに接近した。

 樹脂コンクリートと有機モルタルで作られた大きな野外演舞場でシリウスロボは整備を受けている状態のようだ。ただ、問題はそのシリウスロボでは無い事をブライアンの班が見つけていた。


「まったく持ってその通りだよ伍長。どうにかして後退したいんだがな!」


 彼らが見つけたのは予想外のものだった。シリウスロボが担っている任務は、要するに砲台であって戦闘では無いらしい。ブライアンはその姿を捉えるべく、樹脂コンクリートの隙間にペリスコープを突っ込み、割れ目から敵の全体像を探った。


「まさかここに居るとは思わなかったですよね」


 ジャネットの隣に居て周囲を警戒しているフリードマン軍曹は、ため息混じりでぼやくように言った。このまま3ヶ月無事に過ごせば名誉除隊の確定している軍曹は、最後に従軍年金の積み増しを狙ってこれに参加していた。


 だが、その最後の戦闘で遭遇したモノが問題だった。少なくともそれは、歩兵の相手に出来る存在では無い事が明白だった。


「地上でシェルを見るとはな」


 ブライアンと共に来た従軍医師のネリス准尉が呟く。彼は宇宙軍の船医だったのだが、2年以上連続しての艦内生活に飽き飽きとしてしまい、地上への異動を願い出たのだった。


 その際、危険な箇所だけでなく激戦地ですらも『歓迎します』の所に○を入れていたのだった。その結果、ネリスは人の手に余る代物と対峙していた。少なくともそれは、かつて宇宙で見た機械仕掛けの死神そのものだった。


「伍長! リンク出来る端末をくれ」


 ブライアンはペリスコープの画像をライナリッジ大尉に送るべく、画像電送の手配を始めた。高度な戦闘支援通信により、その情報は全員に配信されるはずだ。結果、ブライアンは1級戦功の表彰を受ける事になるだろう。


 だが、ジャネット伍長が腰のポケットから端末を取りだした時、猛烈な速度で何かがやって来てジャネット伍長の上半身を完全に蒸発させるレベルで吹き飛ばしていた。


 樹脂コンクリートを軽く貫通してきたそれは、火薬発射では無く電磁カタパルトで押し出されるレールガン状の高速徹甲弾だった。宇宙空間で冗談染みた速度での戦闘を行うシェルの場合は、この速度と威力が必要なのだった。


「伍長!」


 ヒッと叫びそうになったブライアンは、それを誤魔化す為に思わず声を出していた。だが、そんな生理的な反応は更なる窮地を招くだけだと気付く。そして、その事態の悪化は己の身に降り掛かる事になる。


「おいおいおいおい!!」


 辺り一面に高速徹甲弾が降り注ぎ、ジャネット以外の5人は硬質コンクリートで出来た影に逃げ込む。しかし、徹甲弾の威力は凄まじく、コンクリートがガリガリと削られているのだった。


「勝手に死ぬなよ! 散開しろ! 固まってると狙われる!」


 ブライアンは囮になるべく携帯SAMの作動スイッチを入れ、近接作動モードにして狙いを定めた。当たらずともマジックヒューズで炸裂するそれは、強力な榴弾状の兵器だ。


「走れ!」


 全員に指示を出すと同時、ブライアンは立ち上がってSAMの発射スイッチを押した。短い発射筒の中からSAMが飛び出ると同時、ブライアンに高速徹甲弾が降り注いだ。

 そしてそれは、ブラアインの放ったSAMの弾頭ごと、ブライアンを蒸発させるのだった。


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