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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
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新兵器

~承前






「なるほどなぁ……」

「こうなりゃやっと意味も解るってモンだ」


 ボソリと漏らしたライアンの言葉にダブがそう応えた。

 2人が持っているのは、全く新型の荷電粒子系小銃だ。


 従来のC-26ブラスターライフルを全面改良した新型の小銃。

 C-31の仮称名称が与えられたこれは、加速器の耐久性が別次元らしい。


「これで戦闘中に加速器を交換しなくても良いわけですね」


 アナは嬉しそうにそう漏らした。

 ただ、実際の話としてそれは全員が感じている事だ。


「肝心な時に寿命だったからね」


 バードもそうこぼすブラスターライフル最大の欠点。

 それは、大出力粒子加速器を小型化出来ないジレンマだ。


 荷電粒子砲を小型化しただけのブラスターライフルは、小規模な粒子加速器でしかないので寿命がある。

 高電圧高電流で一気に強い磁場環境を作り、そこで電荷させた粒子を一塊にして放出するだけの兵器だ。


 強い磁場を完全に封じ込めるだけでも、加速器は構造体の消耗を避けられない。

 だが、加速器はそんな純粋な力に耐えて、さらには粒子を放出するのだ。


「あんまり連射してると、時々しゃっくりみたいな現象出るよな」


 ダニーの言ったそれは、C-26の持病と呼ばれた現象だ。

 強い地場の中でグルグルと粒子を弄ぶ構造故に、時々は放出した粒子が逆流する事がある。それをしゃっくりに例えてそう表現するのだった。


「結局、鉛玉飛ばす方が確実だぜってスミスは言うと思うけどな」


 ペイトンはここに居ないスミスの意見を代弁した。

 ただ、代弁も何も本人が間違い無くそう言うと皆が確信している内容だ。


 なんだかんだ言って粒子加速系兵器は嵩張る上に精密品で手荒に扱えない。

 サイボーグなら熱くなった重心を直接手で掴んで振り回し、鈍器代わりにして敵を撲殺するくらい朝飯前なのだが……


「これ、どれ位撃てるんだ?」


 ジャクソンはC-31を弄りながらアチコチ確認している。マガジン状になった燃料電池の構造は基本的に変わらないが、容量を増やしてあるらしい。


「データシートに寄れば……えっと、なんだ」


 書類を読み込むライアンは、羅列してある数字を追っている。

 細かい文字でビッシリと書き込まれたそれは、C-31の進化具合を雄弁に語るものだった。


「最大出力で35連射まで。最小出力では事実上無限に射撃可能。加速器の駆動限界寿命は計算値で……マガジン270本分だってよ」


 驚く様な声でそう言ったライアンは、データシートの二枚目を読んだ。

 そこに書かれている内容は、さらに驚くものだった。


「マガジンの容量は最大出力で125発分らしい。最小出力なら2500発ないし3500発を撃てるって話だな。最小出力でも300メーター着弾で半径2センチは対消滅出来るから、撃たれた方はたまったもんじゃねぇぜ」


 ヘヘヘと笑ったライアンは、ブルバップになったC-31を構えてみせた。

 大柄な体躯のサイボーグであれば、身体の影にすっぽりと覆い隠される大きさと言える。これは狭い場所や建物の中など取り回しやすさに繋がると感じられる部分だった。

 また、ジャングルや森林地域、ブッシュなどでも有利だと思われる。ただし、ブラスターライフルでブッシュの中の戦闘は向かない条件だ。なぜなら、荷電粒子の塊が何かに当たれば、その時点で塊が崩壊してしまうから。


 基本的に言えば、ブラスターライフルは大型サイクロトロンが発展した武器でしか無い。電子を猛烈な速度で加速させ、対象物に衝突させて分子構造を破壊し、対消滅させる武器。

 ガン治療に使われた重粒子線照射と同じで、ほぼ光速まで加速した電子を群れとして制御し、目標物に衝突させて当たった物体の分子構造を破壊する。


 これにより爆発物が無くとも当たった物体が文字通り消え去ってしまうのだ。


 生身の身体に当たれば火傷なんてものじゃ済まなくなる。当たった部分の肉も骨も全て綺麗さっぱり消えて無くなるのだ。また、少々の金属装甲など無いに等しいレベルで簡単に消え去ってしまう。

 鉛や水銀と言った比重の重い金属を使わないと、簡単に対消滅して大穴が空いてしまう。それ故にシェルの装甲服は流体金属で造られているのだが……


「つまり、これで撃たれたら装甲服も役に多々ねぇって事だな」


 ヴァシリがボソリとグチをこぼす。

 戦場を縦横無尽に駆け巡る下士官からサイボーグになったヴァシリは、この銃火器の普及で戦死者が一桁以上増えると感じていた。

 それこそ、最大出力にすれば戦車とでもやり合える個人携帯火器なのだ。シンクの様な装甲を持つAI戦車もこの銃なら破壊できるだろう。


 つまり、また戦術や戦略が進化する事になる。

 武器と頭数とで戦術を変えるのは常識だが、根本的に少々の防御力では役に立たない事が目に見えているのだ。


「……敵側に渡らない事を祈るしか無いな」


 アーネストもまたそれを呟いた。

 戦況をひっくり返すため、士官は『軍曹! 全員突撃だ!』と命じる。

 それを聞いた軍曹は『全員俺のケツに付いてこい!』を叫んで走る事になる。


 だが、敵側の防御陣地にこの銃があった場合、光速でやって来る荷電粒子に焼かれて文字通りおだぶつになる可能性が跳ね上がるのだった。


「おっかねぇよなぁ……」


 ダブはC-31のストラップにベルトを通し肩に掛けた。

 総重量5kg近くあるそれは、サイボーグの膂力前提の兵器だった。


「シリウス側にサイボーグが居ない事を神に祈るしか無いね」


 ダブの言葉に応えるようにビッキーもそう言った。

 そして、その言葉を聞いたアナスタシアがポツリと漏らす。


「人が人を殺す道具は心血を注いで造り出すって言いますけど……本当に人類って救えないンですね。最後の1人になるまで戦い続けそう……」


 今さら何を言ってるんだ?とバードは生暖かい目でアナを見た。

 そにアナは、少し恥ずかしそうにしながら、C-31を肩に掛けた。

 長身痩躯のスラブ系なアナが持つと実にサマになっているとバードは思う。


 人種間の違いによる似合う似合わないの差は、結構大きいモンだと改めて気が付くのだが……


「さて、新しい遊び道具の話は良いとしてだ」


 順調に降下を続けるジーナの艇内でドリーがきりだした。

 今回は完全極秘降下な筈だが、その割にオレンジ色のプラズマ炎を纏って降下艇が大気圏へと降りていく。


 ――ばれないの?


 バードは普通にそう思うのだが、実際には地球軍側の定期便に紛れての大気圏突入だ。余程目敏くもなければ見破れないだろうが……


「で、そろそろ全体像教えてくれても良いんじゃねーか?」


 ニヤリと笑いながらロックは言った。

 それを聞いたドリーも薄笑いで切り出す。


「そうだな。じゃぁまずは……」


 ドリーの目がチカチカと光った。赤外通信で送られてきたのは4名ほどのマグショットだ。そのどれもがなかなか捻くれた顔をしているように見える。

 これはきっと筋金入りで面倒な案件だとバードは直感した。そしてそれは過去の例を思い出すまでも無く、だいたいが真実だった。


「現状のオーグをコントロールしている4名だ。組織の幹部だがシリウス全体を蝕むガンだと思えば、幹部というより患部だな」


 ドリーの笑えないジョークに全員が失笑し、してやったりの表情でドリーの言葉は続いた。ただ、その言葉は正直笑えないを通り越していて、率直に言えばあり得ないと思った。


「今回わざわざ俺たちが出張った理由は簡単だ。地球側有力代議士が捕まってると聞いたと思うが――」


 再び画像が送られてきて、バードは思わず頭を抱えそうになった。


「――捕まっているのは皆もよく知ってるこの人物。ソーガー県議会元議長、ギャビードーミンその人だ」


 反地球活動の急先鋒にいて、常に民衆を煽り武力闘争を推進してきた筈の存在が捕まっている。それは間違いなく二重スパイ疑惑だとバードは直感した。

 少なくともインテリジェンスコントロールの授業で覚えた知識によれば、そうならざるをえない。


 ドーミン議長は地球側の協力者から情報を得て、シリウス人民の武装闘争を指揮してきた筈。だが、逆に言えば最初にケツをまくれるポジションだ。

 つまり、最後の大攻勢が来る情報をいち早く掴める。そして、その情報を元にさっさと逃げ出せるのだ。


「なぁドリー。つまり何か?俺たちは二重スパイの引き上げってことか?」


 何かに気がついたビルが確認するように言う。

 そのわずかな言葉にバードも『あ……』と気が付いた。


 情報源を吐かれると困るから口封じに行く。

 戦闘中に『あっ!』で済ませば良いのだ。


 サイボーグは見ている世界を100%記録出来るし、場合によってはリアルタイムで転送し、沢山の人間が見る事も出来る。

 この場合、見た人間の数だけ目撃者が出るだけで無く、証拠画像としてしっかり記録される寸法だった。


「まさかとは思うが……口封じじゃないよな?」


 念を押すように言ったビルは明らかに警戒していた。

 土台、話がおかしいのだから何処かで確実な話を聞きたくなるものだ。


 宣撫工作などを本業とする特殊部隊の引上げ支援など、取って付けた言い逃れに過ぎない。ようするに、任務の本質を聞きたいのだ。


「任務の内容に些かのブレもない。こっそり降下して邪魔する奴を皆殺しにし、ドーミン議長とサジタリウスの面々を救出する。それ以外は全く無い。心配しなくて良い」


 ドリーは笑顔でそう言った。

 ただ、その笑顔が不自然に引きつってるようにも見える。


 不気味の谷を飛び越えられる位に造形の良くなったサイボーグの表情だが、こんな時にはただの制御上の不備だと信じたくもなるものだ。


「さて、じゃぁそろそろ支度しよう。なに、面倒は無いよ」


 なんとなく引っかかるものを感じながらバードは装備を整えた。

 今回は新型のブラスターライフルをテストするだけ。そう割り切って装備を調えるのだが、どうにも心の座りが悪いのだ。


 ――なんだろう……

 ――この感じは何処かで一度……


 バード自身も思い出せないが、この感触は覚えがある。

 謀られているのでは無く、根本的なトラブルに直面する予感だ。


 ――乗り越えていくしか無いんだよな……


 自分に言い聞かせるようにして、バードはヘルメットを腰に下げた。

 スペアのパンツァーファウスト弾頭と一緒にガチャガチャと賑やかだ。


 そんな音を聞きながら窓の外を見た時、遠くに一際眩く輝くものが見えた。

 星都セントゼロの開拓記念塔がシリウスの夕日を浴びて、輝いていたのだった。

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