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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
284/358

ブーステッドの正体

~承前






 ――あれ?


 バードはここで初めて違和感に気が付いた。

 シリウス軍がビーム兵器を使っているのを初めて見たのだ。


 どういう訳かシリウス軍の内部では火薬式銃火器が主力だった。

 過去の戦闘でも、思い付く限りに大規模な使用は思い出せない。

 シェルや戦闘艦艇を見れば、ビーム兵器技術が無い訳ではないのに……


 そんな事を思っているうち、裏門側に大隊規模の着上陸が始まった。

 次々とパラシュートが着地し、オーグ側を掃討している。


 ――本当に味方かな……


 何となくそんな事を考えたバード。

 だが、その視界に現れた人物を見てホッとしていた。


 野戦服に身を包んでいるのはサンドラとリディアだ。

 そして、その向こうには、直接面識のない女性が何人かいる。

 いや、直接知っているのはバーニー以外だとサンドラとリディアだけ。

 

 シリウスの利害調整で走り回るエディの傍らにいたのはバーニーだ。

 そして、そのサポート訳でワルキューレが入れ替わり任務に付いていた。


 そんな彼女たちだが、消去法的に見たことのある人物を除外していくバード。

 こんな時にはブレードランナーの持つ人相チェック機能が便利だ。

 で、最終的に1人の人物がノーマークで残った。


 ――アレが……


 あれこそがテッド大佐の姉かも知れない。

 ここには12名の女性士官がいて、全員がオオカミのワッペンを付けている。


 ウルフライダー


 最初に地球側がそう呼び始めた通称は、ワルキューレの別名になっていた。

 話に聞いた特殊な状態だという大佐の姉もサイボーグ化したのかも知れない。

 そうでなければ、指揮官役として12名が勢ぞろいする筈がない。


『おいおい…… なんでここへ来た?』


 呆れるように言ったのはエディだった。

 増援に文句を言うのは筋違いだとバードは思うのだが……


 ――――なに言ってるのよ


 年増な女の迫力ある声が無線に響く。

 それは、かつて何度も聞いたワルキューレのリーダーの声だ。

 バーニーと呼ばれるその女性は、ビギンズの妻の筈だった。


『シリウス軍を使わないつもりだったんだがなぁ』


 ――――惚れた男に尽くすいい女じゃん

 ――――そうよ。遠距離恋愛でも諦めなかったいい女なんだからさぁ

 ――――男だって少しは感謝しないとダメなんじゃないですか?

 ――――甲斐性無しって言われるのも辛いですよ?


 異なる声音で次々と容赦の無い言葉が浴びせられる。

 戦闘中の筈なのだが、何処か抜けた様な有様だった。


 ――――あんた達!

 ――――仕事の時間だよ!


 バーニーが唸り付けるように言った。

 間髪入れずに『へいっ! ねーさん!』と返答があった。

 どこのヤクザだ?と訝しがるような調子だが、シリウス軍の威力は猛烈だ。


 あっという間に裏門側のオーグを掃討しきり、最後の一兵まで確実に仕留めた。

 そしてそのまま、黒宮殿の周囲を迂回し、正門側へと回り込んだ。

 強く、早く、確実な戦闘だ。


 ――ワルキューレそのものだ……


「アナ! 正門側へ行こう!」

「でも、コッチに」

「大丈夫よ。手抜かり無さそうだし。それよりダニーをフォローしよう」


 実際、大破したメンバーは大変な事態のはずだ。

 その救護をしているはずのダニーは、猫の手も借りたい状態だろう。


 アナを引き連れバードは正門側へと急いだ。階段を駆け上がり通路を走る。

 硬い石の床を踏み付ける音が響き、正門への最短距離を駆け抜けた。

 そして、到着した跳ね橋の内側では、大破したスミスが寝転がっていた。


 顔面のパーツは大半が粉砕されている。

 各所に至近距離から銃弾が撃ち込まれたようだが……


「脳殻ユニットの最終装甲で銃弾は止まっているが、生命維持装置がまともに動いてない。今はコレで脳殻に酸素を供給しているが……」


 ダニーは自分の身体に装備している緊急維持装置を接続している状態だった。

 頭部の構造体をはぎ取り、脳殻にケーブルやパイプ類を直付けしている。


「反応無いの?」

「眠っている状態であれば良いが……限りなく脳波はフラットだ」


 ダニーのいう言葉をそのまま受け取れば、それは文字通りの死を意味する。

 脳波がフラットで反応がないのなら、自立反応を期待するでもない。


「スミスを早くハンフリーへ連れて行きたい」


 ダニーが気を揉む中、正門側でも戦闘が一段落したようだ。

 森や草原の全てが焼き払われ、その中に大量の黒焦げ死体があった。

 肉の焼ける臭いと骨の焦げる臭いに、生身の者が胸を悪くする。


『戦闘終了だ。はやいとこ収容して欲しいが……』


 エディは軽い調子でそんな事をいうが、現状ではどうしようもない。

 その傍にいるタルタロスは、痛みに呻く事も無く静かな様子だった。


「エディ。ヘカトンケイルを黒宮殿へ収容しよう」

「……そうだな。生命維持装置もあるはずだし」


 テッドの言葉に促され、エディはタルタロスの移送を決めた。

 大破しているサイボーグを横目に、即席の担架が用意されだ。


「……我らが吾子よ。スマヌ」

「良いんですよ。これが目標でしたからな」


 エディはまるで勝者の様にバルケッタを出た。

 ロックはその露払いに立ち、周囲の警戒をしていた。


「満足に動けるのはダニーとロック、そしてバード。それに、アナにダブにビッキー。それとジャクソンか……被害甚大だな」


 叱責するようなエディの言葉だが、その声音は優しかった。

 良くやったと敢闘を讃えるような言葉だと誰もが思った。

 ただ、それに続く言葉は誰もが耳を疑った。


「まぁ、タルタロスは問題ないが……」


 ――え?


 バードも凍りついたように固まっていた。

 エディが何を思ってその言葉を吐いたのかが知りたくなった。


『ウェイド。そっちはどうだ』


 ――――エディ?

 ――――あぁそうだな


 一瞬の間が空き、ウェイド大佐は報告を上げた。


 ――――地上に活動反応は無い

 ――――恐らく全て焼き払った

 ――――多少は生き残りがいるかもしれないけど

 ――――それは彼女たちに任せるよ


『そうだな。良い判断だ』


 実際の話として地上戦向けのシェルで兵士1人を追い掛け回すのは非効率だ。

 ここはひとつ、新生シリウス軍に任せるのが良いだろう。

 黒宮殿に入ったエディは、大破しているBチームに声を掛けて回った。


「酷いなりだなドリー」

「面目ないです」

「いや、良い働きだった。ビルもライアンもペイトンも良くやった」


 壁際に背中を預け、バードにより応急処置を受けている。

 機体の破断部から零れ落ちるリキッド類の漏洩防止処理を受けているのだ。


 全員が面目ないと言う顔だったが、それでも充実していた。

 バードに手当てしてもらえるだけでご褒美状態ともいえるからだ。

 なにより、サイボーグの義務を果たした満足感がそこにあったのだ。


「ヴァシリは災難だったな。ただ、次はまず自分の身を護れ」

「サー!イエッサー!」

「もう下士官じゃない。士官なんだ。その義務を忘れるな」


 士官という言葉に重みを持たせたエディはスミスへと歩み寄った。

 完全に沈黙しているスミスだが、その脳殻ユニットに手を触れた。


「……心配ない。まだ生きている。ただ、早く収容しないと危ないな」


 その言葉を聞いた直後、ダニーが『あっ!』と漏らす。


「脳波が出た! 少し動いたな!」

「良かった!」


 その言葉にバードが誰よりも早く反応し、その眼差しがエディを捉えた。

 エディはまた、あの奇跡の技を見せたのだと思ったのだ。


「アーネスト。無茶をしたな」

「前は行けたんですけどねぇ……」


 クククと笑いを噛み殺したアーネストは、引きちぎれた自分の足を持っていた。

 生身であれば死ぬの待ちの状態だが、サイボーグは修理待ちの状態なのだ。


「死にきらなくてサイボーグになったら運を使い果たしたようですね」

「それが解っただけ収穫だな。まぁ、次は気をつけろ。無茶をせず確実にな」

「サー!イエッサー!」


 まだ下士官の気分が抜けてないアーネストは、歯切れ良く返答した。

 そんな姿に苦笑いのエディは、辺りを見回しニヤリと笑った。


「お前たち、最強のライバルが来るぞ。もう少し気合の入った顔をしろ」


 ちょっと何を言ってるのか解らない。

 そんな顔でエディを見る面々は、不思議そうな表情だ。


「貴重な存在を収容し、戦術目標は達成した。あとは帰るだけだ」


 目の前に重傷のタルタロスがいるにも関わらず、エディは本当に軽い調子だ。

 いったいどんな根拠で余裕を見せているのか、バードはそれが謎だった。


「あの、エディ。ヘカトンケイルは重傷では?」


 控えめな声でそう言ったバード。

 エディは笑いながら言った。


「ブーステッドはレプリカントそのものだ。バーディーなら良く解るだろ? レプリがこれくらいで死ぬと思うか?」


 え?と、驚いた表情のバードだが、仔犬のように首を振って否定した。

 そもそもに撃たれ強くしぶといレプリカントならば、まだ戦えるだろう。


「ブーステッドはレプリカントの技術のフィードバックだったのだよ」

「それ故に、地球ではブーステッドの育成が禁止されることになった」


 タルタロスとニュクスはバードにそう説明した。

 その説明でバードはブーステッドが何故現在いないのかを理解した。

 ブーステッドはレプリ管理法で定められたレプリの要件に抵触するはずだ。


 そして同時に、死ぬのが前提の無茶な作戦に投入された意味を知った。

 ブーステッドは存在してはいけなかったのだ。

 だからこそヘカトンケイルとエディは、何があっても彼等を収容したかった。


 生き残っていれは、適当な理由で消去されてしまうだろう。

 エディはきっと、個人的にもそれを防ぎたかったのだろう。

 戦闘中に見せてくれた、あの無茶な出撃をしたブーステッドの中尉の為に。


 ――エディの贖罪なんだ……


 何の根拠もないが、それでもバードはそう確信した。

 その向こうに見えたのは、エディの感謝だった。


 きっとこの黒宮殿にいる誰がが、エディの、ビギンズの実の親なのだろう。

 そして、何としてもその存在を護りたかったのだろう。

 エディの手から抜け落ちてしまえば、処分されるのが目に見えていた。


 ――凄いな……


 その深謀遠慮の深さと細密さに、改めて舌を巻いてた。

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