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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
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増援到来

~承前






 ジャクソンが見ている光景をバードは見ていた。

 それは、およそ戦闘とは呼べないものだった。


 なんら望まぬ事ではあったが、サイボーグになってバードはずいぶん経つ。

 その間には様々な戦闘を経験し、酷いモノも沢山見てきたつもりだ。


 超高々度からのダイレクト降下を経験したし、シェルの超高速戦闘もやった。

 地上を這った事だってあるし、宇宙を漂流する仲間も助けた。

 恐らく、多くの地球人が死ぬまで経験し得ない事を幾つも経験した。


 そんなバードをして、これは戦闘ですらないものだと直感した。

 一言で言うならマサカー(虐殺)だ。それも、殊更に酷いものだ。


  ――――なんて出力……


 バードが言葉を失ったそれは、シェルの持つ火焔放射器の威力だ。

 地上戦向けのシェルはオージンなど大気圏外向けよりもはるかに大きい。


 無駄なサイズだと思っていたバードだが、その機体の意味を初めて知った。

 猛烈な勢いで吹き出される火炎は、軽く500メートルを飛んでいた。


『なんて威力だ!』


 弾んだ声でダブが叫ぶ。

 地上に展開していたオーグ兵士の頭上へ、まるで水でも撒くようにしている。


 だが、それは水でもガスでもない、プラズマ状態になった超高温のガスだった、

 そのガスに触れた物は、全てが一瞬にして灰に変わり崩れていった。

 何もかもを焼き払うその威力は、常識の範疇を軽く飛び越えていた。


  ――――約7000℃……


 バードの視界に浮かぶデータはそう示している。

 熱赤外線を計測するサーモグラフは危険だと警告していた。


『……蒸発してるぜ』


 ジャクソンは熱に巻かれながそう呟いた。

 Dチームの地上戦向けシェルは、猛烈な勢いで地上を掃討している。


 火焔放射器の威力は凄まじく、レプリもそれ以外も等しく蒸発していた。

 何より、点では無く面で狙う兵器なのだから、一度狙われたら逃れられない。


『中心温度は10000度オーバーだぜ』


 ダニーの呟きが轟音に掻き消される。

 それは、いかなる暴力をも全て蒸発させるものだった。


『少しばかり威力がありすぎたな』


 呑気な声でエディが言った。

 それを受け、テッドも軽い調子で言った。


『まぁ、使える武器になりそうだな』


  ――――知ってたんだ……


 二人の会話にバードは真相を直感した。

 エディとテッドのふたりは、恐らくこれの開発に携わったのだ。

 だとするならば……


  ――――デモンストレーション!


 そうだ。

 そうなのだ。


 これは。この戦闘は、全部解っていて行われたデモなのだ。

 こちらにはこれだけの兵器があると見せつける為のものだ。


  ――――でも……

  ――――誰に??


 オーグとの闘争は終わりを迎えつつある。

 現有戦力で勝ちきれるのは間違いない。


 ただ、将来への禍根を遺さず事を終えるには、相手の戦意を折らねばならない。

 バードも教育された事だが、最後は容赦無く相手を根絶やしにするしかない。


 中途半端な慈悲や哀れみは、結局次の戦のタネにしかならない。

 人道的だの博愛的だのと言った妥協など何の意味もないのだ。


『悪ぃなダブ』


 唐突に聞こえたのはライアンの声だ。

 全員の耳目が地上戦向けシェルに集まっている時だった。


『大丈夫っすか?』

『平気さ。サイボーグはなかなか死ねねぇんだよ』


 そう言えばそうだった……と、バードは思い出した。

 正門前では大破したメンバーが居たんだっけと、今さら気が付いたのだ。


 ダブはせっせとそんなメンバーを回収している。

 そして、ダブにより回収された面々はダニーが診ていた。


 医療担当なダニーは最後まで危険な勝負に出ないポジションだ。

 ダニーが負傷したら、誰も助けられないのだから。だが……


『スミスがやべぇ!』


 その声は半ば悲鳴だった。

 サイボーグが簡単死ぬかよと笑ったライアンのすぐ後だというのに……


『相当まずいか?』


 エディの声も微妙だった。


『結論から言いますと、現状既に死んでいると言った方が正解ですね』

『……死んでる……だと?』

『えぇ。ブリッジチップの反応がありません。脳波は限りなくフラットです』


 それが意味する所は3種類ある。

 まず、ブリッジチップの機能不全の場合は、脳だけが生きている可能性がある。

 次に、脳が停止している場合、サブコンが脳を生かそうと最善の努力をする。

 最悪の場合、サブコンが脳は死亡したと結論付け、ブリッジチップを止める。


 いずれにせよ、スミスの魂は天に召される事になる。

 本人が望もうと望むまいと、そうなるのだ。


『至近距離からバンバン撃たれていますが、脳殻は無事です。ただ、そうは言っても脳殻に弾丸が突き刺さってますので、何らかの異常は出ているでしょう』


 ダニーの下した結論は簡単だった。


『基地へ連れ帰ってバラしてみないと解りません。ここでは機材的に限られすぎてますので、どうしようも無いです』


 ――早く戻らないと……


 ダニーの話を聞いていたバードもそんな事を思った。

 正門側はオーグ兵士が次々とバーベキューになっている状態だ。

 裏門側は跳ね橋を上げたので、どう立っても突入できないだろう。


『……え? うそっ!』


 自分の内側の思考に落ちていたバード。

 だが、その意識をアナが強引に連れ戻した。


『なに?』

『あれっ!』


 裏門側の銃眼から外を指さしたアナ。

 その指の先にはオーグのレプリ兵士がいた。

 彼等はロックが切り刻んだジャイアントの死体を運んでいるのだ。


『小川に落とす気ですよ! あれ!』


 アナは悲痛な叫びを上げると同意に射撃を再開した。

 問答無用でレプリの首を打ち続けていた。

 ジャイアントの重量を支えきれなくなるよう、容赦無い攻撃だ。


 ややあってレプリ達がぐしゃりと崩れ落ちた。

 ただ、後から後から現れるレプリ達は、次々とジャイアントの死体に取り付く。

 そして再び、それを担ぎ上げようとしていた。


『……最悪』


 バードは自分の視界をチームの中に共有させた。

 そのおぞましい光景は、言葉で表現するのが躊躇われたのだ。


『バーディー! そっちは任せるぞ!』

『オーケー! でも、どうしようか?』


 ジャクソンの声にそう返答したバード。実際、取れる選択肢は少ない。

 地道に射撃を続けたとしても、斃せる数はたかが知れているのだ。      


『諦める前に手を動かせって』


 ロックは宥めるような声でそう言った。

 その声を聞いたバードはハッと気が付いた。


『……来なくて良いからね?』

『いかねーよ!』

『なら良いけど』


 精一杯の強がりでそう言ったはずなのだが、本音を言えば今すぐに来て欲しい。

 たった二人で対処するには敵が多すぎるのだった。

 だが……


『ん? なんだこれ』


 最初にそれを言ったのはロックだった。

 まだ戦闘中な全員の視界に赤い点が写った。

 それは戦闘支援情報タブに灯っているものだ。


 バードも注意してそのドットを選択した。

 視線入力では無く、意識をそっちへ持っていく操作方法だ。


『なんだろう?』


 戦闘支援情報タブを広げると、視界の中に地形情報がオーバーレイされる。

 地形状況を把握し、気象情報や風の流れも絶えず収集表示されるものだ。

 最近ではこの手の情報が手元にないと恐ろしいとすら感じるようになった。


 そんな戦闘支援情報に出たのは、増援という文字だった。

 現在降下中の表示になっているそれば、軽く5000人単位の集団だった。


『なんか大隊規模の増援だぜ?』


 ジャクソンも訝しがるようにそう言った。

 だが、それが増援である以上は味方の筈だ。

 何でも良いから早く来てくれとバードは願った。


 ――――戦闘中のBチーム各位

 ――――我々は新生シリウス連邦軍だ

 ――――貴官らの戦闘に介入し支援する


 ……女性の声だ


 それだけが印象的だったバード。

 ややあって上空から猛烈な制圧射撃が降り注ぎ始めた。

 レーザーブラスターによる圧倒的なその射撃は凄まじい物があった。


 ジャイアントの死体は完全に削り取られ、レプリの死体が増え始めた。

 やはり、戦いは数であり、勝つ為には頭数が重要だ。


『戦闘支援に感謝する。貴官らの所属を回答願いたい』


 Bチームを預かるドリーは、ダブに回収された状態でそれを行った。

 間髪入れずに回答が返ってきたのだが、それは驚愕の一言だった。


 ――――シリウス連邦軍

 ――――地上戦闘セクション

 ――――ヘカトンケイル親衛隊だ


 それ以上は言わないのかな?

 若しくは言えないように指導されているのかな?

 色々と考えたバードだが、その直後に正解を呟いた人が居た。


 それは、他でも無い、レッドの声だった。


『まさかとは思うが、姉貴じゃ無いだろうな』


 ――――正体がばれたので帰りたいところだけど

 ――――パラシュート降下ではそれも出来ないな


 恥ずかしそうな声でそう返答してきたのはワルキューレだった。

 そして、そろそろ身体の方が寿命を迎えるはずの彼女らも人生の終点の筈だ。


『こんな所で何をやっているんだ?』

『そうね。アリバイ稼ぎかしらね』


 女の声がフフフと鈴を転がすように笑っていた。

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