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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
279/358

絶体絶命<後編>

~承前






 スミスの支援射撃が始まって数分。

 オーグ側の兵士は大幅な後退を余儀なくされていた。

 余りに強力なM2の威力に、レプリの兵士ですらも前進を躊躇っていた。


『エディ! チャンスだ!』


 ドリーの叫びに呼応するように、エディはクレーターから立ち上がった。

 目指す跳ね橋までは100メートルと無い距離だ。


 ――――撤収する!


 エディはパイロットに肩を貸しながら、クレーターを出て跳ね橋へと走る。

 だが、その姿を見たオーグ側の兵士は猛烈に射撃を開始した。

 火薬発射式の実弾がシュンシュンと飛び交いはじめる。


『エディ! いま行く!』


 テッドは今にも壁から飛び降りそうな体勢になった。

 そんな姿を見たペイトンとライアンは、飛びつくようにしてテッドを止めた。


『隊長! 無理ッスよ! 無理!』

『いくらサイボーグでもこの高さじゃ!』


 ライアンとペイトンがそう叫び、テッドは僅かに冷静さを取り戻した。

 壁から川面までは20メートル近い落差があるのだ。


『くそっ!』


 普段のテッドを知っている者ならば信じられないような狼狽ぶりだ。

 だが、その狼狽がテッドだけでは無いのだから始末に悪い。


『コッチから行きましょう! ダブ! 跳ね橋を降ろせ!』


 正門の跳ね橋辺りに陣取ったドリーが叫ぶ。

 その声に導かれるようにテッドも走った。


『一気に降ろして飛び出し、エディを回収して撤収。30秒でしょう』


 ドリーはC-26の加速器を新品に変えてスタンバイした。

 いつでも飛び出せる体勢になった時、テッドがそこへ到着した。

 まだ新しいC-26の加速器を取り付け、テッドも突撃体勢だ。


『ヨシッ! 良いぞ!』


 テッドの気合は十分だ。

 ダブは跳ね橋を降ろす大きなハンドルに取り付いてグルグルと回し始める。

 鋼鉄のロープが跳ね橋を降ろし始め、もう少しで全開になる所まで来た。


 既にテッドとドリーは跳ね橋を登り始め、飛び降りて行きそうな勢いだ。

 ただ、そんな2人の足を止めるシーンが目の前で展開された。

 テッドもドリーも『あっ……』と呟いて黙った。


『なんてこった!』


 スミスが叫び、その視界を全員が共有した。

 エディが肩を貸していたパイロットは、胸に大穴を開けて即死した。


 完全なラッキーヒットだが、即死は免れない一撃だ。

 そして、その穴のサイズを思えば、大口径な機関砲だった。


『クソッ! 25ミリだぜ!』


 一番高い所に居るジャクソンがその正体を見つけた。

 オーグ兵士の最後尾辺りにいた25ミリモーターカノンが火を噴いたのだ。


 それは、砲の前に居て邪魔だったレプリの兵士ごと撃ち殺す一撃。

 無慈悲なその攻撃は、サイボーグだって当たれば即死だった。


『冗談じゃねぇ!』


 スミスは山なりの弾道でM2を撃ちかけるのだが、とても届かない距離だ。

 同じようにジャクソンもL-47をぶっ放すも、有効打にはなり得ていない。


 25ミリ砲の防循に弾は当たるのだが、まるで石でも当たったかのようだ。

 カーン!と鈍い音を立てて終わってしまうので、正直どうしようも無い。


『ダメだ! エディ! 戻るべきだ!』

『そうです! バルケッタの中なら安全だ!』


 ジャクソンとスミスが叫んでいる。

 気が付けば無事だった筈の者まで弾け飛んで死んでいた。


 バルケッタの航空機関士は上半身が消し飛んだ。

 航法士と通信士の2人もただの挽肉に変わった。

 パイロットは言うまでも無い状態だ。


 本来なら身軽になったのだからエディは逃げ込むのが最善なのだろう。

 だが、その正門跳ね橋辺りには、25ミリ砲の砲弾が次々と襲い掛かっていた。


『やつら跳ね橋のロープを切る腹だ!』


 ビルはそれを見抜き、叫んでいた。

 つまりそれは、今すぐ跳ね橋をあげるべきと言う叫びだった。


 跳ね橋さえ上げてしまえば敵は入って来れない。

 逆に言えば、跳ね橋さえ降りていれば犠牲を顧みずに前進すれば良い。


 ゾクリと震えたドリーは黒宮殿の奥へテッドを引っ張り込んだ。

 岩で出来た外壁に25ミリ砲弾があたり、削られ始めた。

 その内、数発に一発がロープを掠めていた。


 ――――くそっ!

 ――――なんて事だ!


 エディは直撃を受けた死体をクレーターに戻して両手を組ませた。

 死者に対する尊厳の守り方は、いつの時代も共通なことだ。


 その状態を見届けたエディは、一気にバルケッタへと走った。

 大気圏外から降下し戦闘を行う降下艇なのだ。

 その機体は主力戦車に比肩するレベルで強靱無比の一言だった。


『奴らブレねぇなぁ』


 忌々しげにジャクソンが叫ぶ。

 オーグ側の兵士は今にも飛びかかりそうな程の迫力だ。


 スミスの制圧射撃が行われていない間に、バルケッタまで前進してきている。

 エディはそのバルケッタへと逃げ込み、ハッチを閉めてロックを掛けた。

 こうなれば戦車の主砲クラスでも無い限り破壊は出来ない。


『突っ込んでくるぞ!』


 オーグ側の兵士に動きがあった。きっとまた自爆兵だと誰もが思った。

 その直後、予想通りにオーグの中から幾人かの兵士が飛び出た。

 予想通りな全身爆薬姿の兵士だった。


『ファッキン! アスホール!』


 ジャクソンの罵倒語が飛び出し、同時に自爆兵が大爆発した。

 正確無比な狙撃によって爆発したのだが、それは1人だけだった。


 オーグ側を飛び出した自爆兵は全部で7人。

 ジャクソンは次々と射殺していくのだが……


『ダブ! 早く上げろ! 早く! 早く早く!!』


 ライアンに煽られダブはハンドルをグルグルと回し続けた。

 跳ね橋が上がり初め、普通の方法では手が届かない場所まで上がった。


 ――――諦めたか?


 バルケッタの中でエディはそう尋ねた。

 希望的観測でしか無いが、オーグ側が諦めるのを期待するしか無い。


 バルケッタを追い越したオーグの兵士は、黒宮殿前の小川に殺到しつつある。

 川縁は黒山の人集りで、足の踏み場も無い程だった。


 ――――コッチから撃つぞ!


 エディは攻撃を宣言し、生き残っていたバルケッタのチェーンガンを放った。

 7連装砲身がグルグルと回る20ミリガトリング砲だった。

 左右に5度ずつしか動かない砲身だが、現状はそれで十分だ。


 後方から猛烈な一撃を喰らい、レプリの兵士がミンチになった。

 20ミリ砲弾の威力は常識外れも良い所だ。


 ただ、逆に言えばそれがどれ程高出力で高威力でも、多勢に無勢なのだ。

 数千人単位で押し寄せてくる津波のような攻撃に言葉が無い。

 エディはそんな状況下で必死に抵抗射撃を繰り返すのだが……


 ――――何とも絶望的なものだな


 自嘲気味にそう言って笑ったエディは、根気よく射撃し続けていた。

 抵抗し、抵抗し、抵抗せよ。勝ち目など無くとも抵抗せよ。


 結局はコレしか無い。


『ドリー! 私とアナもそっちに行こうか?』


 バードは我慢ならずそう提案した。

 一門でも多くの攻撃手段があった方が良い。


 それは説明されるまでも無い事であり、いつの世でも戦争の真実だ。

 集中して投入してこそ戦力は威力を増し、敵を鏖殺しきることが重用だ。


 それは、理屈や理念では無く、純粋な現実としての前提。

 つまり単純に言うなら、死体は反撃してこないのだ。


『そうです隊長! 正面側の戦力を厚くしましょう!』


 アナスタシアも大きな声でそれを提案した。

 バードとアナの二人が正門へ来れば、裏門はロック一人で守る事になる。


 正直C-26一丁でどうにか成るモノでも無い。

 だが、現状最大のピンチは正門側だ。


『…………いや』


 一瞬だけ口籠もったドリーは即答できなかった。

 現段階においては戦略的な対応など意味がない。


 まずは敵を何とかしたい。その上でエディを助けたい。

 ドリーの頭の中にあるモノはそれだけだった。

 ただ、それ故にリスクの分散が求められているのだ。


 エディ収容の段階になって裏門が突破されました!では困るのだ。


『バードとアナは裏門に居てくれ』

『でもそれじゃ!』


 ドリーの言葉にバードは抗議染みた声を上げた。

 自分だって今すぐにでもエディの救出戦闘に参戦したいのだ。


『裏門を突破されると困る』


 ドリーは率直な言葉を吐いた。

 猪突猛進なバードを止めるには、真っ直ぐな言葉が一番だ。


『そもそもの戦術的目標を忘れないでくれ』


 ドリーの吐いた真っ直ぐな言葉に、バードは小さく『でも……』と漏らす。

 そもそも、ヘカトンケイル救出が目標だったのは解る。


 だが、それと同じかそれ以上にエディ救助が重要な筈だ。

 どちらが重用かという意味では無く、両方達成できて当たり前だ。

 そして、両方達成できねば意味がないのだ。


『場合によっては裏門側から脱出する。そっちサイドを頼むぞ』


 それは、ドリーではなくテッド大佐の声だった。

 バードは二の句を付けなくなり、押し黙るしか無かった。


 テッド大佐が何故そんなに慌てたのか。

 無様と呼ばれる程に狼狽したのか。

 その意味を理解したのだ。


 戦術的な目標の達成にBチームは全力投球するべきなのだ。

 そして、エディは俺が何とかするから!と、そう意気込んでいたのだ。


 ――まだまだ勉強だ……


 バードは己の浅はかさを呪った。

 視野広く事に対処するには、まだまだ経験が足りなかった。


『ロック! 銃をそこにおいて正門側へ来てくれ』

『俺がか?』


 ドリーの声に驚きの声を返したロック。

 ただ、そんな反応にドリーは冷静な言葉を返した。

 静かに燃え上がるロックの闘争心を激しい火炎に変える熱い言葉だった。


『連中が飛び込んできたらロックのショータイムだ。接近戦ならお前が最強だ』

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