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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
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絶体絶命<前編>

~承前






『バルケッタ被弾! 繰り返す! バルケッタ被弾! 不時着した!』


 テッド大佐は自分の肩書きも忘れて無線の中に喚いた。

 悲鳴と絶叫の中間で、やや絶叫よりだとバードは思った。


 だが、そんな下らない印象など実際はどうでも良い。

 問題はその不時着したバルケッタの中にエディが居ることだ。


 エディ=ビギンズなのは言うまでも無い。

 絶対に殺してはいけない存在だ。

 それは、言葉にするまでも無く全員が理解していた。


『とにかくバルケッタに近づけるな! 総力射撃! 距離を取らせろ!』


 ドリーも負けず劣らずで叫んでいた。

 エディがそこにいると言う事をチーム全員が把握し焦っていた。


 裏門に陣取るバードですらも焦燥感を覚える。

 だが、迂闊にポジションを離れないのも重要な事だ。


 ――考えて行動しなきゃ……


 対空陣地戦闘ではアンドロイド扱いにまでなった。

 ここまで散々とチームの仲間に迷惑を掛けている。

 冷静に、慎重に、思慮深く振る舞わねばならない。


 成長したとエディやテッドに言わせる為にも……


 ――だめだめ!


 今にも駆け出したいに焦る心をバードは強引に押さえつけた。

 もはやどうにもならないくらい、焦っているのだが。


『ドリー! そっちへ行く! 場所を空けてくれ!』


 衝動を抑え込んだバードだが、そんなものを無視するようにスミスは言った。

 自前の結果道具をたたみ、正門側へと移動する腹づもりのようだ。


 その思惑はバードにだってよくわかっている。

 もはや裏門がどうのと言っている場合では無い。


『ロック! バード! アナ! そっちを頼む!』


 裏門の守備から50口径が無くなった。それだけで随分と攻撃力が落ちる。

 ただ、逆に言えばたった1人だが正門側はグッと戦力的な厚みが増す。


 既に200年以上使われているビッグママ(M-2)の威力は言うまでも無い。

 おっかない母親に叱られる子供の如く、その場に釘付けになって動けなくなる。

 その威力を良く解っているだけに、バード達はスミスを黙って送り出した。


 エディの窮地に絶対必要な戦力だと理解していた。


『コッチは何とかするからそっちを頼む』


 ロックは冷静な声でそう返した。

 チームの中で誰よりも熱い男がいつもにも増して冷静だ。

 だがそれは、冷めているとか気にしていないと言う事ではない。


 ――――最善を希求する為に最善の選択をしただけ……


 その事実を全員が我が事のように理解した。

 何があってもエディを殺さすに済ますこと。

 どんな手を使っても生かして帰すこと。


 突き詰めればそれだけが大事だった。


『クソ! バルケッタ自体が邪魔だぜ!』


 ジャクソンは撃ちきったマガジンを抜くと、新しいマガジンを叩き込んだ。

 巨大なボルトレバーを引き、チャンバーに初弾を送り込む。

 火薬発射に電磁アシストのつくL-47も、残弾は少ない。


 だが、距離2000で確実に敵を屠れる以上、使わない手は無い。

 いざとなったらスミスの弾をバラせば良いのだ。

 弾薬のやり取りに柔軟性を持たせる事が役に立つ。


 だが……


 ――――全員射撃をちょっと待ってくれ!


 唐突にエディの声が響いた。

 そして、バルケッタのハッチが開きエディが姿を現した。


 肩を貸しているのはパイロットだろうか。

 全身を血塗れにし、かなりグッタリしている。


 ――――跳ね橋を降ろしてくれ!

 ――――面倒な事になったな!


 その声音をバードは楽しそうだと感じた。

 しかし、それがエディ流の余裕の見せ方だとも知っている。

 常々感じている、エディという存在の根幹に係わる部分だ。


 つまり、エディ=ビギンズはシリウス人でもあり英国人でもある。

 あのジョンソンがそうだったように、追い詰められても余裕を見せるのだ。

 例えそれが、絶体絶命の窮地であったとしても……だ。


 ――――負傷者を運び込む!

 ――――収容体勢になってくれ!


 ……負傷者なんかほっとけよ


 口にこそしないモノの、誰もが同じ事を思った。

 最初からそれをやったなら、きっと非難轟々だっただろう。

 そして、エディは絶対そんな事をしないと知ってるからこそ……


『エディ! まずは逃げるべきだ!』

『そうです! 負傷者はこちらで収容します!』


 テッド大佐の声がますます悲鳴っぽくなり始めた。

 負けず劣らずドリーの声にも悲壮感が混じり始めた。


 そんな声に弾かれたのか、ダブは跳ね橋を降ろし始める。

 手動で上げ下げする仕組みだが、サイボーグに疲労の文字は無い。


 一気呵成に超特大のハンドルを回し、跳ね橋が降り始めた。

 だが、その踏み板が45度の角度に達する直前、ジャクソンの声が響いた。


『待てダブ! ちょっと待て! ストップだ!』


 中途半端に降りている跳ね橋がだらしないと皆が思う。

 そして、ジャクソンが待てと叫んだ理由を知りたがった。


 悲鳴とも絶叫ともつかない声だ。

 どうせ碌な事じゃ無いのは解ってるのだが……


『どうした!』


 苛立たしげなテッドの声が響く。

 明らかに怒っているとバードは思う。

 ただ、それとは異なる次元でジャクソンが言った。


 慌てた様子を噛み殺し、出来る限り冷静な声になろうと努力していた。

 ただ、それがもうどうしようも無い状態だと言う事は、良く解っているのだが。


『奴さん達、エディをほっといてコッチになだれ込む腹だ!』


 その声と同時、ジャクソンの視界が転送された。

 バルケッタを挟むようにして待機しているオーグの兵士が見える。


 レプリカントの兵士達は、跳ね橋が降りた瞬間になだれ込むつもりなのだろう。

 バルケッタから離れるエディに目もくれず、影に隠れた状態だった。


 不時着したのは第1歩塁と第2歩塁の中間辺り。

 跳ね橋の先端から、いいとこ300メートル程だ。


『チキショウ!』


 テッドは苛立たしげの壁を殴った。岩を積み上げた壁が鈍い音を立てる。

 幾らサイボーグの拳が強靱でも、岩の壁を殴れば拳を壊しかねない。

 だが、そんな冷静さなど欠片も残っていなかった。


 落ちつこうと努力しているのは手に取るように解る。

 だが、少々の努力で解決できるような状態では無い。

 明らかに舞い上がっている状態のテッドは、ハッと何かに気が付いた。


『エディ! クレーターだ!』


 そう。クレーターだ。

 ダブとヴァシリとアーネストがたっぷりと爆薬を仕込んだ第2歩塁の跡だ。

 ガッツリとえぐれたそのクレーターは、1メートル程のすり鉢状だった。


 だが、人間が身体を隠すには申し分ない状態だった。

 なにより、強力な爆薬でグッと掘り返されているのだから、使い勝手が良い。


 ――――あぁ!

 ――――見えてるさ!


 どうやらエディも同じ事を考えたらしい。

 肩を貸しているパイロットを気遣いながら、エディはそのクレーターを目指す。

 大した距離では無いのだが、半死半生の人間を抱えていると大変だ。


 ジャクソンの視界越しに見ているロックやバードは切歯扼腕するしか無い。

 モタモタするな!とイライラしつつ、それでも見守るしか無い。


 ――今すぐ行きたい!


 そんな衝動に駆られているが、動いてはダメなのだ。

 いま居るポジションでベストを尽くすこと。

 それもまた、大切な事なのだ。


『そこへ入ってくれ! 支援に行く!』


 テッドはもはや居ても立っても居られないらしい。

 普段なら想像も使い無い程の狼狽ぶりだ。

 ただ、その実はバードだって良く解っている。


 他でも無いエディなのだ。

 テッドにとっては実の父以上の存在なのだ。


 ――――そこに居ろテッド!

 ――――ここでまずは努力しよう!


 エディは宥めるようにそう言うのだが……


『バカを言わないでくれ!』


 テッドは砦最上部の石に手を掛け、その上に乗り上げた。

 グッと広がった視界の中には、ズリズリと移動するエディが見える。


 半ば死んでるパイロットを抱え、エディはクレーターへと入った。

 常に余裕ある姿を見せるジョンブルの真骨頂だった。


 ――――クレーターへと収まった


『よし! 頭を上げねぇでくれ! 支援射撃する!』


 それを待っていたかのようにスミスが言った。

 同時に猛烈な音を立てて50口径が火を吹き始めた。

 巨大な薬莢がガンガンと音を立ててバラ撒かれる。


『ダニー! 裏門へ行ってアモケースを持ってきてくれ!』

『おいてきたのかよ!』


 流石のスミスも慌てたらしい。

 予備の弾薬箱を裏門に置いてきたようだ。

 慌ててそれを取りに行くダニーだが、アナがそれを持って正門側に現れた。


『大尉!』

『アナ! 裏門を離れるな!』

『すぐに戻ります!』


 アナが抱えてきたアモケースは残り2つ。

 9ヤード分の弾を二列撃ちきったら、それでM2は巨大な鈍器だ。


 ――やばいかも……


 何となく不安の虫に駆られたバード。

 だが、それを口に出すのは憚られる。


 状況はどんなに控え目に見積もっても極上の絶体絶命だ。

 エディの救出には、ここから打って出るしか無い。


 ――地域非常呼集……


 バードの脳裏にそんな単語が浮かんだ。

 オーダー77と呼ばれるそれは、ある意味最後の手段だ。

 当該地域50マイル以内の全戦力に集合命令が出る。

 100マイル以内では、とにかく集合する努力が求められる。


 戦力は集中して投入するべきであり、一体運用して事に当たるべきだ。

 その思想が生み出した最終手段は、こんな時に使うべきものだった。

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