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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
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悪い予感

~承前






『どれ位経った?』

『凡そ1時間ですね』


 バードとアナの会話に少しずつ余裕が生まれ始めた。

 相変わらずロックはジャイアント相手に遊んでいる。

 その隙間を突破しようとする者はスミスの餌食になり、裏門は安定していた。


『こうなると正門が問題ね』

『ほんとです』


 総じて裏門側は敵戦力が弱い。

 正門側に大軍を投入し、裏門にはジャイアント投入の作戦だったのだろう。

 一点豪華主義の戦力は、それを無効化された場合に大幅な戦力低下を招く。


 この場合、ロックによるジャイアントの封じ込めが効を奏していた。

 オーグの戦力は前進の手段を失い、後方の戦力は停滞している。


 ……総じて上手く行っている


 そんな油断はどうしたって生まれてしまう状況だ。

 だからこそ慎重に事にあたらねばならないのだが。


『正門側も概ね問題ないな』


 最上部で状況を観察しているジャクソンは、正門側の戦闘をそう評した。

 L-47のマガジンを変えつつ、そのスコープで戦線を眺めている。

 その視界に見えるのは、次々と斃れるレプリの兵士たちだった。


『バーディーじゃないが……少し嫌な予感がするな』


 無線の中、テッドの怪訝な声がそう漏れた。

 誰もがその言葉に微妙な気持ちとなるのだが……


『死んでも良い兵士だって割り切ってたら最悪ね』


 バードは何気なくそんな事を言った。

 アナスタシアはクスクスと笑い出した。


『死んでも良いって……』

『例えば、自爆前提の突入攻撃とか』


 バードはあくまで軽口を叩いたつもりだった。

 だが……


『……ダブ! ヴァシリ! 前堡塁を脱出して後退しろ!』


 唐突にドリーがそんな指示を出す。

 間髪居れず『マジッすか?』とヴァシリが叫んだ。

 ただ、そんな言葉は関係なく黒宮殿上部の面々が一斉に支援射撃を始めた。


『ダブ! ヴァシリ! 今すぐ後退しろ!』

『そうだ! 自爆前提の可能性がある!』


 ダニーとビルはブラスターの出力を最大に上げて射撃し始めた。

 チャージ時間が長く掛かるが、2000メートルの距離で殺傷できた。


『イッ! イエッサー!』


 チームのヴェテランが慌て始めた。

 そこに微妙な影を感じたヴァシリは、慌てて立ち上がり後退し始めた。

 ヴァシリの後方にダブが続き、前線の正面右側堡塁が空になった。


『よしっ! ビッキーとアーネストもだ!』


 正面左側の上部に陣取るライアンとペイトンが支援射撃を行う。

 その眩いブラスターが飛び交い、堡塁最前列が空になった。


 ヴァシリは後退してきたアーネストと顔を見合わせる。

 口元しか見えない新型ヘルメットだが、その口元はへの字だ。


 そして、ダブやビッキーにもその慌てぶりが理解出来ない。

 ヴェテラン衆の慌てるその実が何で有るかを考える前に、後退した面々。

 その直後、オーグの側から何者かが飛び出してきた。


 ――――え?


 ヴァシリもアーネストもそう呟いた。もちろんダブとビッキーもだ。

 飛び出して来たのは、明らかにレプリカントの兵士。

 だが、その全身に爆薬が巻かれていた。


『前線伏せろ!』


 ジャクソンが叫ぶと、堡塁にいた4人が土嚢の陰に隠れた。

 そして同時に鋭い発砲音が響き、巨大な弾丸がレプリの身体を貫く。


『なんて事を!』


 怒りに震えるようなバードの声が響いた。

 オーグの側はレプリの身体に爆薬を巻いて飛び込ませに来たのだ。


『堡塁に爆薬詰てんのばれてるぜ』


 スミスの声が無線に響く。

 ペイトンは『まぁ、定番だからな』と返答した。


 バードの言った自爆前提の攻撃が目の前で行なわれた。

 ヴァシリやアーネストはまずそれに驚いた。


 だが、ダブやビッキーも含め、本当に驚いたのはそこではない。

 バードの叫んだ言葉を警告と受け止め、後退を命じたドリーの慧眼だ。


『前の堡塁は無事だな?』

『あぁ』


 ドリーの確認にジャクソンがそう返答した。

 飛び込んできた自爆兵は、堡塁の向こうで射殺した。


『……バーディーにまた助けられたな』


 ビルがボソリと呟き、ジャクソンが『全くだ』と漏らす。

 ただ、そんな言葉を吐きつつも、全員が総力射撃を続けている。

 オーグの側はジリジリと前進を続けていて、第一堡塁が陥落するところだ。


『爆破しますか?』


 チームで工兵の役だったリーナーが異動し、そのポジションにダブが就いた。

 こんな場面では、率先して行動するのもダブの良い所だった。


『いや、連中の動きをもう少し見よう』


 ドリーがそう判断し、正門側はジリジリと食い込まれつつあった。

 それを見ながらバードとアナは少々焦り始めている。


『ロック! そろそろ後退して!』

『へーきだ!』

『そうじゃない! 同じコトされたら困るの!』


 バードのその言葉は、全員がゾクリとするような冷たさを帯びていた。

 正門だけでなく裏門側で同じ事をされた場合、ジャクソンが対応出来ない。

 それをフォローするのはスミスとバード達だが、今度はロックが邪魔になる。


『……了解だ!』


 ロックは舞うように躱しながらタメを造り、一気に剣を走らせた。

 一瞬にしてジャイアントの首が刎ねられ、そのまま後に倒れた。


『カバー頼む!』


 ロックは率直な願いを吐いて一気に走り出した。

 ジャイアントの後ろに居た歩兵達が一斉に撃ち始めた。


『やべぇやべぇ!』


 アハハハと笑いながら走るロックは、裏門の堡塁に辿り着いた。

 道の側にのみ土嚢の口が開いたCの字形状の構造だ。

 その土嚢の壁に隠れ、ロックは愛刀を背中の鞘に収めた。


 銃火器の類いは全てスミスに預けてある。

 ならば使うのはこれ一つだ。


『くたばれ!』


 ハンドグレネードの安全ピンを抜き、一瞬間を置いて堡塁から建ち上がる。

 迫ってくるオーグ側兵士に投げつける腹だったのだが……


『マジかよ!』


 ロックが目にしたモノは、全身に爆薬を巻き付けたレプリだった。

 全くの無表情で走ってくるそのレプリは、どこか夢うつつな姿だった。


 ――え?


 大量に安定剤を打ち込まれ、正体の抜けきった状態なのだろう。

 苦痛も恐怖も後悔も無く、ただ言われた事だけをする状態。


 真っ直ぐに走ってくるレプリに向かい、ロックはフルパワーで手榴弾を投げた。

 その手榴弾がレプリに当たったとき、次元発火信管が作動し爆発した。

 レプリの全身に撒いてあった爆薬が誘爆し、驚く程の大爆発になった。


『逃げて!』


 衝撃波が過ぎ去った直後、バードはそう叫んでいた。

 それに弾かれるようにしてロックは走り出し、黒宮殿の中へと逃げ込んだ。

 オーグのレプリ兵士達は次々と迫ってきていて、堡塁へと飛び込んでいる。


『残念だったな!』


 スミスは無線発火装置を作動させ、堡塁をぶっ飛ばした。

 それに誘爆し、レプリの自爆兵が次々と大爆発をし始める。

 余りにも凄惨な光景に、バードの感情が一時的に麻痺した。


 ――成仏してね……


 大量に巻き上げられた土砂や土嚢の破片が降り注ぐ。

 その間、ロックは裏門の跳ね橋を上げてしまった。

 完全に籠城体勢となった裏門側だが、それでもオーグは前進してくる。


『堀に飛び込ませるんじゃね?』


 銃眼から外を見ていたロックは、そんな事を呟いた。

 そしてどうやらそれは、真実を射貫く予言だったようだ。


 川の畔まで来たオーグのレプリ兵は、、無表情のまま川に飛び込んだ。

 次々と川に飛び込み続け、やがて川の畔に一塊もある人の群れが出来た。


『アレは……撃ちたくないですね』


 そんな事を呟いたアナだが、それでも撃たざるを得ない。

 撃たなければ殺せず、殺さなければ殺される運命だ。


『……諦めろ』


 冷たい一言を吐いたスミスは、遠慮する事無くバリバリと撃ち始めた。

 もはや指呼の間となったところ故に、至近距離で50口径を受ける事になる。


 レプリの身体に着弾した12.7ミリの弾丸は、次々と挽肉を作り始めた。

 そして気が付けば、巨大なミートチョッパーにより、ハンバーグが出来ていた。


『焼いて喰ったらきっと美味いぜ』

『冗談止めて』


 ロックの軽口にバードは呆れるしかない。

 ただ、そうは言っても、実際には食べたことだってあるのだ。


 思い出したくないだけ。

 それだけの事なのだが、バードの思考は既に次に移っている。

 至近距離なので出力を押さえ連射のサイクルを上げたブラスターが持たない。


『加速器が焼けてきた』

『早めに交換した方が良いかもな』

『そうだけど……』


 早期の交換を勧めるスミスだが、バードは機能限界まで使う事を選択した。

 補給を受けるのが期待薄ある以上は、今あるモノを有効に使うべきだ。


『加速器のスペアが少ないからね』

『それもそうだな』


 思えばC-26のバッテリーも心許なくなり始めた。

 右手首にある外部電源供給用コネクタを接続し、電源を供給してやる。

 サイボーグの腹には有機転換リアクターがあるから、電源は無尽蔵だ。


『なんか……押されてる?』


 少しばかり嫌そうな口調でバードが嘯く。

 絶対的な頭数の差として、それはやむを得ないことだった。


『増援まで踏ん張ろうぜ!』


 スミスのところへと来たロックは、C-26を使って支援射撃を始めた。

 3丁のブラスターライフルと50口径機関砲が1門。

 ある意味これだけで、十分すぎる戦力なのだ。

 弾が続けば……の話だが。

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