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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第18話 オペレーション・コロネット
272/358

迎撃戦準備

~承前






 黒宮殿最上階。

 見晴らしの良いテラスではテッド大佐とBチームが作戦を練っていた。

 何も無いテーブルを全員が眺め、真剣な顔で討議している。


 だが、彼らの視界の中にはテーブルの上に立体地図が示されていた。

 紙に起こす事無く、全員がその情報を共有し、検討しているのだ。


 上空で待機しているハンフリーは、近隣の戦略情報を送ってくる。

 それは、地形や天候と言った基礎情報だけでなく、敵の規模まで含まれた。

 地上解析から進行軍を計算した結果、その規模は驚く事に万レベルの大軍団だ。


 僅か15人しか居ない一個小隊レベルのチームでどうにかなるものでもない。

 だが……


「連中は地上から進入ですよね?」


 こんな時、ヴァシリとアーネストは俄然やる気を見せる。

 長年に渡り前線で暴れ回ってきたのだから、当然だろう。


 そもそもODSTは地上軍兵士の頂点で最大の花形だ。

 能力に優れているだけでなく資質も求められる。

 そんな現場へ志願し、幾多の試練を乗り越え、晴れてODSTとなったのだ。


 こんな場面では尻込みどころか、俄然やる気を見せるのだった。


「恐らくここへ到達するのは川ルートだろう。上空からのヘリボーンやエアボーンでは上空のハンフリーから丸見えだ」


 ドリーは事態を分析しつつ防衛戦略を考え込む。

 そもそも、テッド大佐の聞いたプランでは、凡そ8時間後にジーナが来る筈。

 地上にいる15人は、なんとしてもそれまで持ちこたえる必要があった。


「今すぐジーナに来てもらう訳にはいかねぇのかな」


 ペイトンは率直な言葉を漏らすが、現実問題としていえばその通り。

 チャッチャと迎えに来てもらってさっさと逃げ出そう。

 無駄な戦闘は避けるに限る。それが本音だ。


ガーダー(本部) ガーダー(本部) ジーナの出発は早められないか確認して欲しい。正直、たったの15人では荷が勝ちすぎている』


 勇ましい事を言ったはずのテッド大佐も、少々腰が引け気味だ。

 まさかここまでの大軍勢とは思っていなかったのだから、それもやむを得ない。


 ――――こちら戦闘支援本部

 ――――Bチーム諸君らの希望は考慮する

 ――――ジーナは現在メンテナンスデッキでエンジン調整中だ


 本部から帰ってきた言葉は、ある意味絶望的なものだ。

 ジーナは大気圏内向けエンジンが慢性的に不調を訴えていた。

 それ故に、エアボーンでの降下となったのだ。


 ――――現在バルケッタを準備中だ

 ――――2時間以内に降下出来るよう最善を尽くす

 ――――それまで何とか頑張ってくれ


 ……頑張ってくれ


 何とも他人事的な言葉が無線に流れ、全員が顔色を曇らせる。

 バードは無意識にロックを見て、渋い表情を浮かべた。


「バルケッタって確か戦闘艇よね」

「あぁ。敵が多すぎるから支援してやるってな」


 ウンザリと言わんばかりの口調で言ったバード。

 ロックもロックで呆れるように吐き捨てた。


 その戦闘艇が空中戦車なみの戦闘力でも、状況的にはどうしようも無い。

 支援砲撃を依頼しなければならないレベルだ。


「……ビデオゲームのユニットは文句を言わないってか?」

「そうだな。まぁせいぜい、本部の期待に応えますか」


 ライアンのボヤキにペイトンが皮肉を返す。

 すっかりそんなキャラが板に付いているが……


「ジャックならきっとこう言うぞ?」


 テッド大佐が軽口に参戦してきた。

 どんな言葉が飛び出すかとバードも見た。


「なんすか?」


 スパッと聞きかえしたペイトン。

 テッドはニヤッと笑って言った。


「きっと本部は新型装甲の消耗データを欲しがったんだろうな」


 テッドの言った言葉に乾いた笑いが起きる。

 だが、それもスッと納まり、全員が渋い顔になった。


 15人対1万強だ。その状況で8時間は土台無理な話。

 なんとか2時間以内に到着してくれるのを願うしか無いが……


「ハンフリーからのデータに因れば、敵の到着は1時間以内だ。編成を整える時間を作らず、到着順に戦闘に入ったとしても、最低2時間は戦闘する必要がある」


 大佐の言葉に全員が緊張のギアをひとつ上げた。

 まともな地上戦など久しぶりなのだがら、気合いを入れる必要がある。


 だが、気合や根性でどうにか成る問題でもない。

 ここで重要なのは、死なないと言う事だった。


「打って出るのは愚作だろう。幸いにしてこのトーチカは相当強靭だ。黒宮殿の入り口は正門と裏門の二箇所しかない」


 テッドは視界に浮かぶホログラム状の戦術マップを指差した。

 太古の城砦建築そのままな構造ゆえに、正門も裏門も跳ね上げ橋が掛かる。

 砦自体は川に浮いているような構造で、上流下流共に取り付く場所が無い。


 東西に長細い構造の中洲に立てられた城そのものな砦。

 周囲は大きく開けていて、ジャングル状の森までは約千メートルの距離が有る。


 その裏門側を指差したテッドは、まず最初にジャクソンを見た。


「ジャクソン。一番高い尖塔の上に陣取って射界を広く取れ」

「イエッサー!」


 テッドが指で示したのは、石積みになった尖塔のてっぺんだ。

 見張り台よろしく尖塔の上が平らになっていて、スナイパーにはうってつけだ。


「スミスはこの裏門上の銃眼に陣取って接近してきた奴らを釘付けにしろ」

「イエッサ!」


 裏門部分は跳ね上げ橋が長く、堀状の川は相当広い。

 泳いで渡るには距離があり、渡った先には岸が無く、いきなり壁になっている。


 そしてそもそも、この川の流れはかなり速い。

 機械力無しに泳ぎ切るのは土台不可能に思えた。


「守備側には最適な構造だ。重火器や野砲を使わない限り城壁は壊れない。連中はヘカトンケイルのメンバーを捕らえるのが目的なので、破れかぶれにならない限りは野砲を使わないだろう」


 言われてみればその通りだとバードは思った。

 この条件では守備側が一方的に有利だった。


「ロック」

「はい」

「お前はこの橋の内側だ。狭い場所だけにお前にはうってつけだ」


 テッドが指し示したのは、跳ね上げ橋を渡った内側だ。

 裏門から城内に入った敵は、裏門のエントランス部分で足止めされる。

 橋の真正面には壁があり、それを左右どちらかに避けねば中へと入れない。


 その壁は上部構造物の基礎も兼ねているので、しっかりとしたつくりだ。

 それこそ、個人携帯レベルの火器ではどうしうも無い丈夫さだった。


「飛び込んできた奴らを真っ二つに斬って外へ積上げろ。一切遠慮するな。むしろ、お前の無双ッぷりで敵を足止めする」

「イエッサー!」


 その言葉にロックが狂気染みた笑みを浮かべた。

 現代の人斬りが見せる狂った戦闘欲は、見る者に恐怖を与えた。


「バードとアナはそれを支援だ」

「支援ですか?」

「そうだ。遠距離はスミスが釘付けにし、それを掻い潜ってきた奴らをお前たちふたりが更に削る。やっと飛び込んだ先で待ち構えるゴールキーパーがロックだ」


 『……あぁ』と、合点のいったバードがイエッサー!を返した。

 若干遅れてアナも返答した。


「残りは正門側に陣取る」


 両方向に撃てるジャクソンはともかく、重機関砲を持ったスミスが居ない。

 だが、状況的には正門側の方が有利だろうと思われた。

 なにせ、堀は二重になっていて、跳ね上げ橋は2段構えになっている。


 その前は広く開けていて、しかも宮殿側に向かって上り坂だ。

 森までは直線距離で1200メートル程あり、遮蔽物は一切無い。


 敵はそんな状況を姿を晒して前進する必要がある。

 粒子加速器をフルチャージして撃てば、この距離なら戦車でも撃ち抜ける。


「正門の橋を渡った先に土嚢を積み、即席陣地を作る。陣地は二段構えにして、陣地の底には爆薬を敷き詰めろ」


 ――あぁ、なるほど……


 テッドの説明に全員が悪い笑みを浮かべた。

 それは本当に底意地の悪いやり方だった。


「最前列の陣地で敵の前進を遅滞させるだけ遅滞させ、暫時後退する」


 テッドの示した防衛ラインがグッと下げられた。

 ホログラム上に光って見えるメンバーの名前が後退し、最前列陣地が取られる。

 だが次の瞬間、その陣地に敷き詰められた爆薬が大爆発し、敵が吹っ飛んだ。


「これを行い、敵が怯んだ時点で堀と堀の間の小さな門まで後退する。敵側は陣地に飛び込むのを躊躇うだろう。だが、前進を命じられた敵は飛び込んでくる」


 ホログラムの上に光る赤い点は敵を示している。

 その赤い点がワーッと前進してきて陣地手前に収まった。


「ここではまだ爆破しない。総力を挙げて射撃を行い敵を釘付けにする。溜まらず陣地に飛び込む奴が出るだろうが、まだ爆破しない――」


 この時点でテッド隊長もニヤリと笑った。

 何とも陰湿な、心理的な弱さをついた鬼手だ。


「――なぜ爆発しない?と思いつつも、射撃を受ければ身を隠したくなる。敵が陣地の中にぎっしり入った時点でまとめて爆破して更に数を減らす」


 ホログラム状のBチームが更に後退し、砦の中に入った。

 この時点で敵は橋を渡り始めた。ここで橋が爆破され敵が堀へと投げ出された。


「この時点で水中爆薬を使い吹っ飛ばす。水中では爆薬の効き目が増すからな」

「……えげつねぇっすね」


 楽しそうな声でライアンが笑う。

 狂気に駆られた笑顔のロックも楽しそうだ。


「最後の橋は爆破せずに開けておく。飛び込める以上は中に入りたいだろう。接近してきた敵をここで全て撃退する死体が橋を塞げば、奴らはそれをどかそうとするだろうから、その時は遠慮無く作業させれば良い――」


 ニンマリと笑ったテッド大佐は、全員をグルリと見回した後で言った。


「――敵の作業が終わったらコッチの作業も再開だ。加速器のスペアは常に用意しておけ。ハンドグレネードは橋を壊さないように注意だ。大切なのは敵が欲しいモノを入手できると言う希望を常に持たせ続ける事だ」


 また無茶な事を言って……

 そうは思っても、気が付けばバードは笑みを浮かべていた。


 テッド大佐の作戦説明は本当に丁寧で細かい。

 だが、それ故に安心感を覚えるのだった。


「こちらを全滅させてヘカトンケイルを入手しようと頑張らせるのが大事だな」


 かつて副長だった時の様にドリーが相槌を打った。

 アナを初めとする面々は面食らうが、バードには違和感が無かった。


「ところでバーディー。降りる前に今日の星占い見たか?」


 ジャクソンの声が妙に弾んでいる。

 もちろん、それが何を意味するのかはバードも解っていた。


「弱気の虫は失敗の元だってよ?」


 遠慮無くそう言い放ったバード。

 だがその時、バードの脳裏にある言葉が浮かび上がった。

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