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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
幕間劇 その4 エディとテッド
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転生者のブルース

~承前






「遠い日、君にだけは話をしたと思うが……」


 エディは満足げに笑いながらサンドラを見つつ、そう言った。

 そして、ふと視線を手元へと落とし、ジッと手を見た。

 機械で作られたその両手だが、エディの手には苦労の色があった。


「回りくどい言い方はよそう。単刀直入に言うなら、私は転生者だ」


 転生者。

 それの意味する事象は、誰だってよくわかっている。

 死んで生まれ変わってなお、記憶を保持する者達の意味だ。


 エディは迷う事無く、自分自身が転生者であると言い切った。

 そこに、如何なる苦労や懊悩が隠されているのかは誰も解らなかった。


「別の世界か別の宇宙か、別の世界線かも知れないが……私は栄えるイヌの王国の跡継ぎとして生まれ、幾つもの試練を経てイヌの王となった。遍く地上を照らす太陽の地上代行者。太陽王の別称を持つ支配者だった」


 外連味無くスパッとそう言ったエディの姿に、皆はそれが真実だと知った。

 こんな時のエディはウソやジョークを言わないのだ。

 長い付き合いのテッドは、間違い無くそれが真実だと思っていた。


「……カリオン・エ・ディス・ノーリクル・アージン。正式名称はもっと長ったらしくめんどくさく、覚えにくいモノだった。臣下は皆、太陽王と呼び、近しいものはカリオン王と読んだ。そして、身内と特別に許した者達だけが――」


 エディは廻りをのものを見回してニヤリと笑った。


「――私の事をこう呼んだ。エディ……とね。幼名をエイダと名付けられた。故にエディと呼ばれたんだ。まぁ、今と一緒と言う事にしておこうか」


 エディの行ったカミングアウトは、テッドを黙らせるのに充分な威力だ。

 そして、テッドだけで無くバーニーやサンドラまでも押し黙らせた。

 もちろんリディアもだ。


 シリウスの人民王だとか地球軍の実質的支配者だとか、エディを彩る話は多い。

 だが、正真正銘の王だったと言う話が出た以上、それは納得するしか無い。


 ……王


 そう。エディは王なのだ。

 支配者や為政者という意味では無い。

 皆の先頭に立ち、我に続け!と号令を発する者だ。


「なんとなく話が1本に繋がったよ」


 テッドは感心する様に言った。

 思わず『何がだ?』と問い返したエディだが、テッドは笑いながら言った。


「遠い日、グレータウンからの帰り道で初めてエディに出会った時、いきなりジョニーと呼ばれたんだ。何で名前を知っているのだろう?と思ったもんだが」


 懐かしそうに目を細めて言ったテッドは、笑顔のままリディアを見た。

 あの日、彼女はグレータウンの郊外にあるボロ屋の中で帰宅を待っていたのだ。


「……そうだったな」

「あぁ。いきなりジョニーって呼ばれて、さすがに面食らったよ」

「今はリディアの大事なテッドだしな」


 フフフと笑って顔を見合わせたテッドとエディ。

 そんな姿を見ていたバーニーとリディアもまた笑っていた。


「きっとおそらく、幾度も生まれては死んで、それを繰り返して繰り返して、やがて結果を出すんだろうな。様々な世界へ送り込まれ、何かを成し遂げる為に送り込まれるんだろう」


 エディの言う内容にサンドラは『誰がですか?』と問うた。

 如何なる存在がエディを転生させ、何処かへ送り込むのか?と聞いたのだ。

 だが、エディは首を振るばかりだった。


「それは私にも解らない。ただ、きっと何か意味があるんだろう――」


 腕を組み、考え込むような素振りを見せたエディ……


「――今は理解出来なくとも、やがてはその意味を知る事になる。きっとそんなものだろうさ。だから今は……」


 再び室内の面々をグルリと見回したエディは言った。


「今はシリウスの件に全力投球する。いつか何処かで何かが繋がるだろうし、今も繋がりかけている。グリーゼの地上で見た事や、あの空域で出会ったエイリアンの存在が、それを真実だと説明してくれている。あのエイリアンは、いつかシリウスへ戻って来るはずだ。その時の為に、誠心誠意、準備しておこう」


 エディの言葉に力強さが加わった。

 それが何を意味するのか?は、考えるまでも無かった。


「星間戦争ですね」

「しかも、異なる文明での戦争」


 リディアとサンドラが順番にそう答えた。

 それを聞いたエディは、静かに首肯した。


「それがあるからこそ、地球の権力者達をねじ伏せられるんだ。シリウスが最前線になり、異なる文明圏とのバッファーゾーンになる。それを理解さえ、地球への手出しを防ぐ為の防波堤として、価値ある存在にし、場合によっては斬り捨てられる状態へと持っていく」


 どうだ?


 そう言わんばかりの表情にテッドは苦笑いだ。

 エディの描いた絵は、シリウス独立の為に紡ぎ出されたものだった。


 シリウスが地球にも価値ある形で独立し、安定する為の手段。

 地球側に必要以上の政治的介入をさせない為の手段。

 何より、この地を開拓した者達の血と汗と苦労を裏切らない為に。


「シリウスは独立を果たし、地球文明圏と共同で生存闘争を行う。シリウス単独では荷が勝ちすぎるが、地球でそれをやるには都合が悪い。だからシリウスは地球に要求するのさ。美味いものをたらふく食わせろ。そしてコッチを支えろ。蝶よ花よと大事に扱えとな。その代わり、このシリウスが最前線になるから――」


 エディは揉み手をしながら言葉を続けた。


「――このシリウスを奪回せんとするエイリアンを根絶やしにするまで、戦い続けてやるから、だからシリウスを支えろ……とな」


 エディの作戦を聞いた者達がニヤリと笑う中、昇進セレモニーの会場が沸いた。

 テッドとリディアは、会場の中継モニターを覗き込んだ。


 大ホールの中に見覚えのある人影がある。

 それは、オブザーバーとしてやって来たシリウスの管理者。

 ヘカトンケイルのメンバーだった。


「ほぉ……」


 驚いて顎をさすったエディ。

 モニターの向こうに見えるのは、フィット・ノアだった。

 そして、すぐ近くにはライカ・オデッセイアの姿があった。


「ヘッキーもお出ましか」

「いよいよだな」


 テッドとエディの会話から遠慮や容赦が抜け落ちた。

 驚くばかりの事態だが、意味するところは解っている。


 ヘカトンケイルのメンバーは、彼らなりに心を砕いているのだろう。

 地球側の兵士とシリウス人兵士とを仲良くさせる為の努力だ。

 そして、一体化し、同じ目的を持たせる事だ。


 大義名分を与え、同じ作業をし、同じ夢を見させる。

 その果てにあるものこそ、皆が望んで止まないものだった。


「とりあえずは、次のステップに移る。シリウス軍を使わず、地球軍だけで最後の抵抗勢力を消滅させる。しかる後に、最後の拠点を奪い返すことにする。孤立大陸ヲセカイの遺跡が舞台だ」


 エディはヲセカイをも征服したいらしい。

 リディアがそんな印象を持った時、バーニーは口を挟んだ。

 今まで余り喋らなかったのだが、どうしても言いたい事があるのだろう。


「その前に、あのふたりをちゃんとした夫婦にしよう。それが望ましいし、それにテッドとリディアも何とかしてやりたい。あと、私達の残り11人も未来を手に入れておきたい」


 ――そうか……


 バーニーの言葉を聞いたテッドの表情が変わった。

 ロックとバードの事なのは言うまでも無い事だが、問題はもう一つの案件だ。


 そろそろワルキューレの面々にタイムリミットが迫っている。

 サイボーグにしてしまうのか、それとも、何らかの手段でレプリのままなのか。

 地球製の高性能で快適なレプリの身体は望むべくも無いだろうが……


「その件についても善処しよう。まぁ、そっちは容易いだろうがな」


 ハハハと笑いながらモニターを覗き込んだエディ。

 会場ではヘカトンケイルのひとりであるフィット・ノアが演説中だ。


 何を言っているのか、音声までは拾えないのだが、それでも察しは付く。

 シリウスの未来の為に、どうか力を貸して欲しいと言うお願いだ。


「まぁ、とりあえず、長年隠してきた事は洗いざらい喋ったぞ?」


 エディはもう一度室内の面々のグルリと見合わした。

 シリウス方面派遣軍団の全てを預かる男は、何とも厭な笑顔だ。


「ここから先、まだ泥臭い戦闘が始まるだろうが……しっかりやってくれ」

「あぁ――」


 エディの依頼テッドが首肯を返した。

 街角へ買い物に行ってくれ……とでも言い出しそうな気安さだ。

 ただ、これからのシリウスは今まで以上に荒れる事が予測されている。


「――どって事無いさ」


 涼しげな風を吹かせテッドは精一杯に見栄を張った。

 もう後戻りが出来ないところまで来たのだ。


「近日、侵攻準備を発令する。一気にやるぞ?」


 その言葉に首肯を返したテッド。

 運命の地上戦は、間も無くその火蓋が切られる所だった。












 幕間劇 その4  エディとテッド 




  ――了――  




 第18話 オペレーション・コロネット へ続く

幕間劇はこれで終わりです。

次の『オペレーション・コロネット』で起承転結の結になります。


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