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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第3話 オペレーション・キングフィッシャー
24/358

見える敵・見えざる敵・見てはいけない敵

 ――――地球周回軌道上 高度700キロ

      強襲降下揚陸艦 ハンフリー艦内

      地球標準時間 2345





「アリョーシャ 総括してくれ 真実について」


 山荘前から回収を受けたBチームの面々は、ハンフリーの艦内でデブリーフィング(反省会)の最中だった。


 事前情報と異なる環境で未知の相手と戦闘する破目になったテッド隊長は、自分の預かるメンバー二名が大破する失態を犯している。僅かな苛立ちと後悔が心を埋め尽くし、深い溜息混じりに口を突いて出た言葉には隠し切れない怒気があった。


 全くの空振り出撃で、オマケに隊員二名は生身の人間であれば即死級のダメージを受けているのだ。少なくとも現状では、サイボーグの身体である事を神に感謝するレベルと言って良い。


「――あの…… CIAの局員は、国連軍内部に居る内通者の調査をしていたとの事だ。それ以上の詳細は機密保持の都合から情報公開されなかった。国連軍の主力はあくまで米軍だが、戦時統帥権は国連軍統合作戦本部にあり、ホワイトハウスは直接タッチできない故に、内部調査と把握が欠かせないと彼らは考えているのだろう。CIAの局員が北京の何処かへ通信したのは、現地に居る国連宇宙軍内通者へニセ情報を流して誘い出す為だったらしい。CIAにしてみたら、まさか我々がCIA関係者の内部調査員をシリウス側の工作員だと思って、長年にわたり追跡していたと思って居なかったようだ。情報局員同士の連絡会議で追跡の事実を伏せていた点については私を含めた情報局の落ち度だ。これは言い逃れ出来ない失態だ。故に、詫びざるを得ない」


 艦内へ収容されたスミスとリーナーは応急修理を受けた後で、サイド6のサイボーグセンターへ旅立った。本格的に部品換装を含めて修理するには、艦内の設備だと間に合わないという事だ。

 治療ではなく修理と表現される事に、僅かではない不快感をバードは覚えた。だが、どれ程否定しても自分や仲間の身体が機械である事実は拒否できない。


 それを受け入れるか否か。


 勇気の必要な事だとバード自身もわかっている。心の有り様が随分と変わってくるのだとわかっている。だが、機械なのは身体だけで心は人間だと。自分自身がそう強く思っていないと、きっと流されてしまう。

 アリョーシャの話を聞きながら、バードはまとまりの付かない事をグルグルと考え続けていた。


「そもそも、今回は餌をまいてシリウスの内通者を釣り上げる作戦でいた。それゆえにキングフィッシャー(かわせみ)なんて作戦名だったわけだ。川面を見下ろし枝に止まったまま獲物を待って。見つけたら一直線に襲い掛かる作戦だった。だが、どう言うわけか相手が一枚上だった。中継端末を吹っ飛ばした時点までは上手く行ってたんだが……」


 ライアンがふとバードを見た。

 ジャクソンも同じ様にバードを見た。


「上手く行ってる時ほど罠に注意……か」


 搾り出すように呟いたドリーの言葉がバードに突き刺さるようだ。

 決して責める言葉では無い。

 つまらない軽口だったはずの言葉が皆の心に影を落とす。


「私が変な事を言ったからかな……」


 俯いて唇をかみ締めるバードをテッド隊長の腕が抱き寄せた。

 優しく頭を撫で、そしてポンポンと背中を叩く。


「お前は悪くない。注意を喚起したんだ。それを聞かなかった俺が悪い」


 隊長の言葉にバードがきつく目を閉じた。

 生身の身体なら、きっと涙のひとつもこぼれる所なのだろうけど。


「おそらく向こうは。シリウス側は全部承知で今回の作戦のカウンターを取ったのだろう。我々(国連軍)の情報部とCIAとが上手く連携していないのを知っていたんだ。だから、中継端末の爆破で犠牲者を出す事を厭わず罠に引っかかったフリをし、我々にも見える形で。いや、我々が誤解するような形でCIAにNORAD内部での工作を行わせるよう仕向けた。北京の側からNORAD内部へ接触を試みる形でな」


 黙って聞いていたビルは怪訝な顔でアリョーシャを見ている。

 ジッと押し黙って目をつぶったロシア系の男を観察している。


 元はロシアの高等警察だったらしい男へ射貫く様な鋭い眼差しを浴びせながら、ビルは目を開けたアリョーシャが『最初にどこを見るのか?』に集中していた。


「我々が考えている以上に、彼らシリウスの目と手は長く大きい。地球側は未だに一枚岩では無いし、国連構成国家間で駆け引きの道具にされている。つまり、我々は付け込まれる隙が大きいと言う事だ。今回はまんまとしてやられた。これだけ見事に同士討ちをする破目になるとは思いもしなかった。地上にいたのが君等で本当に良かったよ。生身の連中だったら、あの自立思考戦車で全滅していただろう」


 その時ビルの目は捉えていた。

 アリョーシャの眼差しがバードの足元を見ているのを。

 天井からの間接照明でボンヤリとしか床に落ちていないバードの影。

 だけど、アリョーシャはその影をジッと見ていた。


 ―― ……ん?


 僅かに感じたアリョーシャへの違和感。

 ビルは姿勢を全く変化させずにジョンソンをジッと見た。


 ――こっちを見ろ! こっちを見ろ!


 その視線に気がついたのか。ジョンソンは顔を動かさず視線だけでビルを見た。

 緊張感の漂う表情を浮かべたビルは、ジョンソンに向かって左目を二回ウィンクする。その仕草にジョンソンはビルの目と姿をジッと見ていた。ビルの眼差しはアリョーシャに向けられていた。

 

 ――え?

 

 ジョンソンも何かに気が付いた。

 目を閉じうな垂れているアリョーシャは身動ぎひとつしていない。

 そんな中、ジョンソンが右目を二回ウィンクした。それを確かめたビルは右目を閉じた。ジョンソンも同じ様に右目を閉じた。ふたり同時に無線を使わない赤外通信モードを起動させ内緒話モードに入った。


【アリョーシャに枝がついて無いか?】

【まさか!】

【さっきから眼球動作がおかしい。明らかに何か隠している】

【……アリョーシャが黒幕?】

【いや、ハッキングされ筒抜けの可能性がある】

【わかった。全バンドを監視する】


 赤外通信を終えたビルはちょっと大げさに椅子を座りなおした。

 その動きを見たドリーが何かに気がついた。


 胸を張り、真っ直ぐではなくやや斜めに相手を見る。

 直感モードで判断する時のビルだとドリーは気がつく。


「なぁアリョーシャ」


 顔を上げたアリョーシャはビルの姿勢に気がつく。

 相手は心理学者のプロフェッサーだ。一瞬だけ警戒の色が浮かぶのだが。


「疑うわけじゃ無い。俺達は皆サイボーグだ。俺は仲間とかそんな陳腐なもんじゃなくて、事実上、血を分けた兄弟(ギャング)だと思っている。マフィア(ファミリー)だ。家族同士で疑心暗鬼は俺も望まない。だから、幾つか聞いておきたい事があるんだ。今後のために」


 ビルの言葉はゆっくりと穏やかに流れた。

 ただ、それは心理学における武器なんだとアリョーシャも知っている。


「そもそも、作戦が漏れている事にいつ気がついたんだ?」

「と、言うと?」

「山荘の前でシンクを三輌片付けたが、その後に来たヘリは味方だと言ったな」

「あぁ、そうだ。CIAの方から緊急連絡が有った」

「CIAはどの時点で山荘前にいるのが俺達だと気がついたんだろうな?」

「……質問の真意がわからない」


 ビルは椅子から立ち上がって部屋の中をゆっくりと歩いた。

 アリョーシャの視線を引き付ける様にして。


「話を整理しよう。まずそもそも、シリウス側が俺達の情報を掴んでいると情報部は把握していたわけだよな。だからこそカウンター作戦でシリウス側に連中の捕虜を中継拠点へ幽閉しているとニセ情報を流した。なぜか連中はホイホイと喜んでそれに釣られた。俺達は夜中の四時前に叩き起こされただけでなく、シェルで宇宙空間をぶっ飛ばしてきてハンフリーへ到着した。ハンフリーの出航時点で情報は既に向こうへ流れていた筈だよな。なんせハンフリーの就航準備には、少なくとも三時間は掛かる。偶然こんなに都合よくハンフリーは宇宙に居ない筈だろ? そしてシリウスの連中は中継拠点で爆死。連中の残りはNORADからの情報回線を確かめた」


 ビルをジッと見ているアリョーシャ。その姿をバードはなんとなく見ていた。

 ふと、赤外線のチカチカを感じて部屋の中を目だけで見回すバード。

 アリョーシャの視線と反対側でジャクソンがドリーと赤外通話しているのを見つけた。

 二人の内緒話のためにビルはアリョーシャの視線を引き剥がしたのだと気がついた。


「だが、連中はこっちの思惑には乗らず、むしろCIAとNORADを罠にかけた。カウンター狙いのカウンターを仕掛けたわけだ。ところがなぜか、CIAはムキになってNORADをハッキング。ペイトンとライアンの話じゃ並の腕じゃ無いプロフェッサー級がアンテナ拠点へ雪を突いて吹っ飛んできて、回線に直結してハッキング。オマケに衛星回線のクラスター化で大容量高速回線にして、どっかに情報を大量送信していた。それに邪魔が入ったんでシンクまで担ぎ出してきて証拠隠滅を図ったが、小遣い稼ぎの素人じゃなくて、トンでもねぇ戦闘力持った奴らがシンクを小銃と手榴弾で破壊。バルカン砲喰らっても即死せず戦闘を継続した時点でCIAは気がついた。国連軍だと。おそらくそんなシナリオだろう。だけどな」


 ビルの語気が僅かに強くなった。

 非常に気に入らないと言わんばかりに批判している。


「どう考えてもおかしいだろ? 矛盾が多すぎる。安い三文芝居を文字に起こした薄っぺらい素人小説級だ。CIAは何の為にNORADをハッキングしていた? 内通者狩り? 本当か? 引っ掛けられたと気がついたなら、CIAはNORADの中にある自分の足跡を消すのが定石だろ? あとは何を言われても知らぬ存ぜぬで逃げるもんだ」


 まるでプレゼンでもしてるかのように身振り手振りで話を進めるビル。

 その姿をジッと皆が見ている。


「CIAの工作員は国連軍側との関わりを消し去る工作してたんじゃないのか?」


 ビルの右手が指を一本だけ立てた。


「もう一つおかしい事がある。北京に居ると言う国連宇宙軍への内通者の存在を、なんで国連軍情報部が知らずCIAだけが知っていたのか?だ」


 確実に痛い点を突いていると思しきビルの言葉。

 アリョーシャの表情に若干の怪訝が混じる。

 しかし、ビルはそれを意に介していない。


「言われて見ればそうだな。情報部は知らなかったのか?」


 ビルの狙いに気がついたのか。ペイトンも話しに喰い付いてきた。

 アリョーシャはまだ何かを隠しているのだとビルが考えている。

 ペイトンはそう考えていた。


「……この件は極秘にしてもらいたい」


 アリョーシャが一度言葉を切った。

 一瞬だけビルの目がジョンソンを見た。

 ジョンソンの目が一瞬だけドリーを見てからビルへと帰った。

 ビルは一度だけ瞬きをしてから、アリョーシャを見た。


「独り言だと思って聞いてくれ。……以前からCIAとNORADの中にシリウスの工作員が居るのを掴んでいる。こいつらはNORADの中へ送り込んだ工作員と定期的に接触している。北京の中国共産党指導部が国連軍に派遣している駐在武官とも接触しているようだ。複数の国家や組織の工作担当員がそれぞれの立場を伏せて情報交換するために先入していると我々情報部は掴んでいる。中国共産党の場合は、指導部直属の第38連絡室と言う部門が国連軍内部を継続的かつ横断的に調査している。これは把握済みだ。そこの息が掛かった奴が国連宇宙軍の統合作戦本部内に隠れている。実は何人か疑惑候補が上がっている。我々は継続的に追跡しているが……」


 ふと、アリョーシャが眼差しをドリーへ向けた。


「音声解析は順調か?」

「良いから続けろよアリョーシャ」


 ドリーがニヤリと笑っている。


「捕まえるより泳がせた方が良いと判断していた。今回も実に上手く北京へ緊急連絡を入れてくれた。これで候補が確定に変わったと言う事だ。間違いなく内通者がこいつだと言うのは判明した」

「だが、内通者が一人である保障はない無い。そう言うことだよな」


 ビルの言葉に冷たい棘がある。

 皆がそう思っている。アリョーシャもそう思っている。


「その通りだ。他にも内通者が居るかもしれない。それを探していた」

「つまり」


 ビルは一瞬だけニヤリと笑った。


「失敗前提の作戦を情報部が立案し、全部承知の上で俺達は訳のわからん時間に叩き起こされ、吹雪の中だと言うのに危険な降下をし、消耗しないだろうと言う甘い読みで思考戦車と戦う羽目になったと。その結果、仲間二人が手痛いダメージを受け、それだけじゃ無く、一歩間違えばPTSD級の精神負荷状態になってブルーになってると」


 アリョーシャが言葉を失った。

 ビルの狙いに気が付いたと言うより、複数設置された心理的トラップに気が付いた。

 何処に陥っても本来隠しておかねばならない重要な情報をしゃべる羽目になる。

 百戦錬磨な筈のアリョーシャだけど、ビルもまた違う意味でプロだった。


「Bチームに限らず頭の回転が速い奴を一人は加えておくもんだが、Bチームだけは本当に特別だな。さすがテッドだ。参ったよ」


 掘られた落とし穴ギリギリで立ち止まったアリョーシャ。

 だけど、そこまで読んでいたかのように。ビルは厭らしい笑みを浮かべた。


「で、結局の所、今回の作戦は継続されるんだろ?」

「何を言わせたいのかな?」

「自分から喋るように仕向けたつもりだったが」

「操話術なら負けないぞ」


 不思議な押し問答をバードは眺めていた。

 きつい視線を闘わせるアリョーシャとビルの会話には、見えない火花が飛び散っているように見えた。

 だけど、そのアリョーシャの背後辺りに居るジョンソンとドリーは、継続的に赤外通信で内緒話をしている。何をやっているのか、皆目見当がつかないのだが。


「じゃぁ、単刀直入に聞くが……」


 一瞬だけビルの目がジョンソンを見たのがバードにもわかった。

 ドリーは相当緊張したような表情を浮かべている。

 ビルの眼差しを一瞬だけ受け止めたジョンソンが首をひねっていた。


「今回の作戦で釣り上げたかったのは内通者じゃ無いんじゃないか?」


 ビルの言葉が部屋に響いた。

 水を打ったように静まり返った室内。

 まるで鼓動の音まで響くような静寂。

 

 ただ、この部屋には鼓動を打つような『生物』は一人も居ない。


 五秒か十秒か。痛いほどの沈黙。

 だが、ジョンソンとドリーが目を合わせて頷きあった。


「アリョーシャ。俺達ではアクセスできない将官向け無線網に大量のデジタルトラフィックがあるが、どこと通信してるんだ?」


 ジョンソンの言葉を聞いたテッド隊長の顔が急に厳しくなった。

 それはまるで、戦闘中に見せる裂帛の表情だ。そして、不機嫌な表情でもある。


 だが、表情を変えたのはテッド隊長だけでなかった。

 ジャクソンやロックまで表情を変えた。今にも飛び掛っていきそうな表情だ。


 情報部が行った作戦はつまり、『自分たちを囮にした作戦』だった。


 行けと言われればどこへでも行く。

 それについて文句を言うつもりはバードにも無いし、淡々とこなすくらいの度量はあるつもりで居た。ただ、危険な作戦を内緒でやって、囮になって内通者を釣り上げる作戦を行った事に。事前にそれを知らされずに行われた事に腹を建てているのだ。


「機密保持上、それは明かせない。ただ、疑われているのは心外だからな」


 ビルが仕掛けた真の罠にアリョーシャが気がついた。

 だけど、もう遅い。すべてが遅かった。

 全てはビルが立ち上がったときに始まっていたんだと気がつく。


「我々情報部が追跡しているのは…… 民衆の代表と呼ばれる職業の人間だ。そして、それを支えて居る領土を持たない国家群だ」


 政治家と企業か……

 バードだけでなく、チーム全員がそう思った。


「それはつまり、俺達程度では絶対アンタッチャブルな存在と言う事だな?」


 テッド隊長がチームを代表して重要な問題を聞き返す。

 アンタッチャブル。触れない存在の意味するところは……


「そう解釈してもらって良い。そして、我々では。情報部とか国連軍とかそう言う枠組みと言う意味ではなく、立場としての問題として手出し出来ない。むしろ手出しすると我々国連軍全体が被害を受ける存在だ。故に、向こう側に絶対気取られないよう、慎重には慎重を期して接近する必要が有った。だが」


 あぁ、なるほど。

 この時点で世間に疎いバードでも真の敵が誰だか理解した。


「じゃぁ。あの山荘の前でハッキングに勤しんでいた女性って、ある意味じゃ味方だったって事で良いの?」


 バードの言葉にアリョーシャは首肯しかけてギリギリで止った。

 単純に下を向いただけとも取れる形になったのだが。


「それに関してはノーコメントだ。CIAは独自のアルゴリズムと戦略で動いていると言う事だろう。ただ、国連軍は要するに多国籍軍だ。複数の『国家』から人や物や金が集まってくるし、それに伴って利権や不正・腐敗と言った物の温床になりうる。故に、その実態を正確に把握したい立場の人間と、それらを利用したいだけの人間が入り乱れる。利益を上げたい企業が他社との競争を勝ち抜く為には、合法違法のギリギリで情報収集を行うからな。コロッと転ぶ事があるのさ」


 アリョーシャは『国家』と言う言葉にグッと強みを持たせた。

 それはつまり、企業もまた国家と同じように振舞っていると、暗喩して居るのだとバードは思う。だがアリョーシャはジッとバードを見て少しだけ笑った。


 その笑みは、バードを通して恵と言う人格を見つめているのだと気がつく。軍人ならざる立場から軍人へと組み込まれた存在の特殊性。ある意味で、様々なしがらみと言う部分の意識が薄いからこそ……


「バードの言葉は素直だな」


 アリョーシャの口からそんな言葉がこぼれた。


「いずれにせよ」


 場を仕切りなおすようにビルが口を開いたのだけど、その言葉をテッド隊長がさえぎった。そして、Bチームのメンバーを見回してからアリョーシャに向き直る。


「作戦はまだアクティブと言う事だな?」

「あぁ、その通りだ。我々とシリウス側との駆け引きは、まだ第3クォーターだ」

「これからのプランを示してくれないか。揺ぎ無い信頼関係のために」


 テッド隊長は静かにそういった。

 信頼関係が何を意味するのか、バードですらも理解の範疇だ。

 アリョーシャは少しだけ気まずそうに他所を向いてから目を閉じた。


「工作員をあぶり出し、繋がっている関係者を燻り出し、そして、それらを動かしている民衆の代表を合法的な手段で失脚させる。つまり、次の中間選挙までに目鼻を付けたい。それが間に合わなければ次の大統領選だ。ホワイトハウスに入り込んだ虫を速めにつぶして置かないと、この先のタイムスケジュールが厳しくなる」


 タイムスケジュールと言う意味を理解し損ねたバードだが、説明を求められたところで答えてはくれないだろう。

 ただ、ここまでODSTで活動してきてわかった事は、宇宙で活動するには惑星の配置が恐ろしく重要と言うことだ。月自体は地球の周りをグルグルと回っているから良いものの、火星や金星は地球と接近するタイミングが合って、むしろ離れている時には宇宙を長く飛ばなければならない。

 その意味でスケジュールと言うモノが事前に決められているのだろうと、そんな事を思っていたのだが。


「なるほど。で、俺達がその工作の片棒を担がされる訳だな」

「さすが参謀本部だぜ。消耗品の使いどころを良く分かってる」


 ドリーとジョンソンが皮肉たっぷりに答え、目を開いたアリョーシャは苦笑を浮かべつつも席を立った。


「今回はすまなかった。休暇を取れるよう手筈を整えておく。2~3日はゆっくりしてくれ。金星は太陽の裏側だし火星はまだ割りと近いところに居る。問題ないだろうし、問題があってもBチームじゃ配置的に間に合わない」


 そのまま部屋を出て行く背中を見つめながら、バードは軍隊と言う組織の影に有るものを始めて感じていた。


「バード」

「はい」


 言葉を失っていたバードをテッド隊長が呼んだ。

 振り返ったバードを仲間達が見ていた。


「あの時、あのハッカーの女に追い込み掛けていたお前は、立派な軍人だったぞ」


 何処か困ったように笑って、そして、顔を手で押さえてバードが恥ずかしがる。


「褒められたと思って、喜んでおきます」


 顔を抑えているバードを見ながら、仲間達は笑い続けていた。

 現場へ配属されてまだ十回程度しか戦闘参加していないバードだが、海兵隊の敵は単にシリウスだけではない事をこの日はじめて知ったのだった。






 第3話 オペレーション・キングフィッシャー ―了―





 第4話 オペレーション・ファイナルグレイブ(8月3日公開)に続く

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