表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第16話 オペレーション・オーバーロード
210/358

暫定停戦パーティーは騒乱の予兆(後)

~承前






 朝食会場へと続く廊下の向こう。鷹揚とした調子でロックが姿を現した。

 その後ろにはアナとダブの2人がいて、ロックは何ごとかを話し込んでいる。


 ――――だから、俺が思うに……」


 身振り手振りで現状認識に付いて説明しつつ、ロックは朝食会場に入った。

 事実上ジュザが独り残されていて、孤立無援の戦闘を強いられる事になる。

 リョーガーは完全に独立し、ラウは戦闘を停止していた。


「ジュザはこっからが本気を試されるってこった。ついでに言えば気合と度胸と根性と、あと、言い方は悪いが、住民の本気っぷりが問われるってこったな」

「具体的に何を注意するべきですか?」


 アナは更なる考察を求めた。共に仮想とはいえ士官学校で鍛えられた者同士。

 ただ、アナやダブには実戦経験が不足している。


「そうだな……」


 何かを考えつつ前を見たロック。その眼差しは朝食会場に注がれる。

 そしてそこには、朝メニューを用意して待っているバードが居た。

 バードは唇を尖らせ、やんわりと不快感の意思表示をしていた。


「……遅くなった。わりぃわりぃ」


 やや憮然としていた表情のバードにロックが手を上げて詫びる。

 だが、こうなってしまっては後が面倒になるのは自明の理。


 アナと話をしていた事に嫉妬する事も無いだろうとロックは考えた。

 金星でやらかしたロクサーヌとのあれやこれやを思えば軽いものだろうし。

 ただ、男と女のモノの解釈は全く違う


 思えば、ここしばらくは、バードと2人だけの愛の巣も使っていない。

 ロックは一瞬にして最高レベルの集中力と、そして気合と度胸を要求された。


「まぁ…… ここから先は奇襲攻撃注意だと思うんだよ、例えば」


 アナとダブに説明の言葉を続けていたロックは、そのまま前進していく。

 そして、バードの背中側を通りざま、バードの両頬を後ろから両手で挟んだ。

 驚きの表情になったバードだが、ロックはそのままバードの頭を後ろへ倒した。

 そして、後ろから唇を奪った。チーム全員が見ている前での奇襲攻撃だった。


「えっ…… あ……」


 どう対応して良いか分からないバードは、一瞬だけ対応が遅れた。

 それを見ていたロックはニヤリと笑いながらバードの隣に腰を下ろした。


「な? 少々場数を踏んでても、対応が一瞬遅れんだよ。その間がアブねぇ」


 あたふたと気が落ち着かないバードは、小さく『バカッ』と呟く。

 その余りに幼い反応が可愛くて、チームのメンバーが一斉に笑った。


「これでトンデモねぇウォーモンガーってんだから、女ってわかんねぇよな」

「……チキショウ。見せ付けやがって」


 ペイトンとライアンが対照的な反応を見せ、それに再び皆が笑った。

 そんな穏やかな朝も、たまには良い物だとバードは思った。


「ワリィワリィ」


 苦笑いしながら皆に挨拶し、バードにも『おはよう』とロックは言う。

 余りに突然のキスで、バードはロックの目を見られなくなっていた。


「部屋のニュース見てて遅くなったよ。ダブが呼びに来てくれなきゃヤバかった」


 笑いながらそう言うロックは、バードの肩を抱いてコーヒーに砂糖を入れた。

 ライアン張りに甘党な様子だが、さすがにケーキの連食は無い。


「まぁ、こっから先は、ロックが言うように奇襲攻撃注意だな」

「しかも後方から意表を突いた形でな」


 エヘヘと下衆な笑いを浮かべるジャクソンとペイトン。

 スミスやビルは優しい笑みで二人を見ていた。


「とりあえずラウ政府は停戦履行するだろうけど、ラウ内部の……」


 笑っていたダニーは怪訝な顔になってボヤキをこぼす。

 ニュースには流れていないが、士官ならば得ている情報もあると言うもの。

 ラウ大陸内部には、ジュザ政府勢力が駐屯中で、それが問題視されている。


 この先に待ち受けるイヴェントは、ジュザ勢力の一掃だろう。

 その後、穏健派政府の独立承認と国家としての確立だ。

 シリウス連邦の一角を占めていたラウの独立でジュザは難しい立場になる。


 他に連邦維持を求める相手がなく、また国民からも不満が吹き出るだろう。

 地球への抵抗勢力として枢軸的な立場のジュザは、一層孤独を深める筈。

 元々強権的な国家指導体制だったので、下手をすれば粛清の嵐となる。


「トーチ作戦とは良く言ったモノだな」


 アラビアコーヒーを飲みつつ、スミスはそう言いはなった。

 たいまつを意味するトーチとは、本来明かりを得る為のものだ。

 だが……


「松明でやるのは篝火じゃなくて放火ってな」


 ビルはスミスの言いたい事を理解してぼやく。

 何に放火するのかといえば、ジュザ内部の不平不満を持つ層だ。


 そして、焚き付けられた層によってジュザ政府を倒させる。

 古今東西の歴史を紐解けば、住民を強権的に支配する国家は必ず崩壊するのだ。

 住民の持つエネルギーや、現状を変えようとする意欲は力では抑えられない。


「ただ、ジュザの厭戦派を焚き付けるのは良いとして……」

「そうだぜ。口説き文句がねぇ」


 ライアンとペイトンは同じニュアンスの言葉を吐いた。

 彼らジュザの市民は思想信条や感情論として反地球支配を掲げている。

 そんな連中の思想的な柱を圧し折るには、相当なものが必要だ。


「手順としちゃラウ政府より簡単だろうけどな」

「あぁ。要するに反政府活動を支援すりゃ良いんだ」


 言うは易く、行うは難し。

 そこに待ち受ける障害と困難は想像を絶するだろう。

 なにより、破れかぶれになって自爆してしまうのが一番怖い。


 ただ、バードはなんとなく解っていた。最高の切り札が地球側に存在する事に。

 そして、その切り札は一気に状況を逆転し、かつ、地球との関係を固定できる。


 ――――嫌なら闘争続行だ

 ――――もちろん、最後の一兵まで戦うぞ?

 ――――その最前線にいる兵士立ちは、そうとう嫌がるだろうが


 エディの存在が何よりも重要になるはず。

 だからこそ、エディを死なしてしまうわけには行かないだろうが……


「最終的には独立派市民による指導部の破棄と新政権樹立って所だな」


 最後まで黙って話しを聞いていたドリーが話を〆に掛かった。

 ロックとバードは顔を見合わせてからドリーを見た。


 恐らく、ドリーならばエディの招待を知っているだろう。

 だからこそ、余計な先入観を持たないよう、話を切りに掛かったと思った。


「さて、話しは続くだろうが、今日のイヴェントを再確認だ」


 面々に注意を促したジャクソンは、副長としての仕事を始めた。

 周囲の人間から耳目を集めぬよう注意を払いつつ切り出した。


「俺達の休暇は昨夜で終わり。午後には宇宙へ戻る。その後、ラウへ展開する部隊の降下支援に当たる。重武装の地上掃討部隊だから大事になるだろう」


 ジャクソンの言葉には何とも言えないやるせなさが混じる。

 たった一晩の息抜きで終わりな虚しさと、またも脇役扱いという悔しさだ。

 最強のG30シリーズが実力発揮な戦闘はまだ無く、遭遇もしていない。


 ストレスばかりが溜まる一方で、満足感や達成感を得られる任務がない。

 それは、どんなに優秀な人間でも心に不平不満を溜め込む元になる。


「まぁ、みんな言いたい事は一緒だろうし、ぶっちゃけ俺も良くは思ってねぇ。けど、やらなきゃいけねぇってのも辛いよな。面白くはねえが、しっかりやろうぜ」


 ジャクソンらしい言い回しにバードは笑みをこぼした。

 デッド+ドリー体制を一言でいえば、用意周到ってところだろう。

 今のドリー+ジャクソン体制は、体当たりでぶつかって妥協点を探る形だ。


 それは決して悪いことではないし、むしろ良いことと言える状態だ。

 なぜなら、現状のチームに積極的思考と意思疏通を求め、全員で考える体制だ。

 言われた事を実行するだけではなく、それが何故なのかを考えながら実行する。


 チームの全員が物事をより深く考え、少しでもよい結果を得られるようにする。

 きっとエディとデッドの二人が頭を捻ってそうしたのだろう。

 何の根拠もないが、バードはそんな風に考えていた。





 ――――同じ頃





 相変わらずニューホライズンを周回するネルソンの艦上にエディの姿があった。

 地上から駆け上がってくるロケットを見つめ、僅かに笑みをこぼしていた。


 シェルが秒速40キロで宇宙を跳び、太陽系からシリウスまで60日の時代。

 人類の英知が発展し、科学と魔法の境目が限りなく薄くなっている現代。

 そんな時代にも拘わらず、重力を振り切る手段は未だにロケットだった。


 真っ白な尾の柱を引いて宇宙を目指すロケットは、2段目の燃焼に入った。

 使い終わった部分を重力の底へとかなぐり捨て、更に加速を続けていた。


「いつ見てもロケットという乗り物は美しいな」

「美しい? どこが?」


 エディの突然な言葉に、テッドは少々間抜けな返答を返した。

 なんと言って良いのか瞬間的に思い浮かばなかったと言うべきだろうか。


 ただ、そのエディもどうやらそれは折り込み済みだったようだ。

 楽しげな声音になって、一方的な主観の説明を続けた。


「脇目もふらす、ただただ純粋に重力を振り切ろうとするだろ?」

「……そう言われれば、そうだな」

「あの乗り物には余計なモノが何も無い。純粋なんだよ」


 思わず『武装の事?』と言いかけて、テッドは言葉を飲み込んだ。

 余りに楽しげな表情でロケットを見ているエディを邪魔出来なかったのだ。


 ラウ大陸から上がってくるロケットは2本。

 やや離れた位置からの打ち上げだが、その間隔は軽く300キロの距離だ。


「……さて、任務はちゃんと果たしたろうな」


 独り言とはいえ、生々しい言葉を吐いてエディは笑う。

 そのロケットの中身はアリョーシャとマイクの筈だ。


「無事果たしたから、この結果だろう――」


 エディの隣にいたテッドは静かにそう言った。

 地上に降りてイヴェントに参加しなかった二人。

 下手に地上へ行けば、身バレしかねない二人だ。


 ラウまでも一気に戦闘停止とは予想外の事態だった。

 当初の目論見では、今頃はまだラウの各所で掃討戦の筈だった。

 だが、ジュザと連係したラウでの活動は、予想以上の良い結果になっている。

 ラウ各所にあるジュザ系の駐屯地が、地元住民の圧力で着々と閉鎖されていた。


「――ラウ展開部隊の移動には骨が折れそうだ」

「自力で移動させるさ。甘ったれるな……とな」


 その移動距離は大変な事に成りそうだ。

 だが、それでも軍隊と言う自己完結した組織はそれを可能にする。


「目的のモノも手に入りそうだ。かなり順調だという」

「……そうか」


 一瞬だけ視線を闘わせ、そしてニヤリと笑いあう。


「予定を進めても良さそうだな。誰を送り込むか……」


 一瞬だけ思案したエディは、笑いを噛み殺した顔でテッドを見た。

 目は口ほどに物を言うが、今のエディの表情は確認するまでも無かった。


「わかったわかった。行ってくるよ」

「大事な任務だ。しくじるなよ?」


 嗾けるような言葉を吐いたエディは、テッドの胸を小突いた。


「長かったが、やっと手の届く所に来た」

「あぁ…… 長かった」


 二人して視線を交わしつつ、再び宇宙へと目をやったエディ。

 ネルソンへ一直線にやって来るロケットは、減速を開始していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ