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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第16話 オペレーション・オーバーロード
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EMP兵器

~承前






「やっぱり居やがった!」


 ジャクソンの声が弾むと同時、降下しつつある降下艇が炎に包まれた。

 猛烈な速度で大気圏へ突入する降下艇は、この時点で何の防御措置もとれない。


 つまり、一番無防備な時間帯と言う事になるのだが……


「アレなんだ?」

「戦闘機って事にしとこうぜ」


 ライアンの素っ頓狂な声にペイトンがそう返す。

 降下艇を攻撃しているのはシェルでは無かった。

 そしてそのデザインは、航空機ですらも無い。


 一言でいえば、有人ミサイルだ。

 地上から撃ち上げられたその兵器は、高度100キロを超えるエリアにいた。


「レーダーに映ってなかったな」

「電離層辺りで待ち構えて居たんだろ」


 ふたりの会話が続く中、艦砲射撃とは違う一撃が虚空を横切った。

 ジャクソンが放った荷電粒子砲の一撃だ。


 その砲火は電光石火で宇宙を横切り、シリウス軍の兵器に命中した。

 見事な照準だとバードは思ったのだが、ジャクソンは射撃し続けていた。

 次々と火だるまになっていくシリウス軍兵器を見つつ、バードも砲を構えた。


 だが、その時。


 ――あ、そうか……


 何も言わずに荷電粒子砲のスタンバイをしたジャクソンの意味を理解した。

 敵がこの会話を聞いているかも知れないから、黙ってスタンバイをしたのだと。

 そして、それに気が付かなかったのは、自分の至らなさだと恥じた。


 何故なら、ジャクソンに続いてスミスやペイトンが砲撃を開始したからだ。

 射撃に自信のある面々は、一斉に攻撃を開始していた。


 ――邪魔しない方が良いな……


 漆黒の闇である宇宙では、砲火の眩い光でセンサーがゴースト塗れになる。

 リフレッシュさせれば良いのだが、コンマ数秒は視界が切れてしまうのだ。

 命のやり取りの現場では、そのコンマ数秒が命取りになる……


「そろそろどうだ?」


 ジャクソンの声に従い、全員が砲撃を止めた。

 降下艇を襲ったシリウス軍のロケット兵器は、あらかた撃墜されたようだ。


 まだ少数が残っているが、予想外の一撃を受けて混乱を来しているらしい。

 艦砲射撃の中を降下していく降下艇は、防御火器が無いはず。

 そんな隙間を狙った攻撃だったのだろうが、見事に返り討ちにされてしまった。


「まさか反撃されるなんて思ってなかったようだな」


 敵機の見せるてんてこ舞いの様子に、ビルはそんな分析をした。

 地上へ逃げ帰ろうとする者や、猪突猛進に体当たりを狙う者もいる。

 パイロットの性格が良く表れているらしいが、バードはふと思った。


 ――このパイロットはレプリじゃ無い……


 レプリは戦闘AIの様にどこまでもドライだ。

 生きて帰れないと判断した時点で、おそらく体当たりを選択するはず。

 そんなレプリと共に行動していると、生身の方が感化される事もある。


 瞬間的な迷いでどうするかを決めきれなかった者は、どっちも選択出来ない。

 そんな者達は、燃料切れか空中衝突か、さもなくば撃墜されるのだ。


 どんな選択をするにせよ、拙速を尊び貫徹する事が肝要。

 それは、戦場で生き残る為の、一大鉄則だった。


「これで最後だな」


 ジャクソンが放った一撃でシリウスの迎撃兵器が爆散した。

 もはやレーダーに映るものは無い。降下艇の安全は保証された。

 誰もがそう思った時、アナスタシアが声を漏らした。


「あれ?」


 Bチームの編隊で最外縁を飛んでいたアナのシェルは、重力震を捉えた。

 それは、かなりの数が一斉に次元の壁を越える時の物だ。


「重力震検知! 8時より11時方向全域! 推定200!」


 チームの誰もが左手エリアに意識を向けた時、宇宙の虚空から何かが現れた。


次元転移(ワープ)ミサイル!」


 ジャクソンは荷電粒子砲では無く140ミリを構えた。

 そして、次々と射撃を開始した。


 ――なんで?

 ――荷電粒子砲じゃないの?


 そんな疑問が横切りつつも、バードは140ミリに持ち替え迎撃を開始した。

 理屈じゃなく現実として、まずは撃墜せねばならない。


 そのワープミサイルは実体化した後でなければ迎撃できない代物だ。

 一言で例えるなら『受身しか出来ない』と言う仕組みなのだった。


「あれってさ……」


 ライアンは無線に中に無防備な言葉をボソリとこぼした。

 それは、溜息混じりとなった痛みの告白だ。


「あぁ。有人兵器だ。AIはフレーム処理されない限り無力だからな」


 ビルの言葉に全員が嘆きの言葉を漏らす。

 次元を転移して突然現れる驚異的な兵器だが、その照準システムは……


「AIって言ってもな……」

「あぁ。いきなり目の前に現れたモンの敵味方識別は無理だ」


 ジャクソンの言葉に人間サーバーであるドリーがぼやく。

 センサーが送ってくる情報の全てをAIは受け取ってしまうのだ。

 そして、情報の選択と集中を出来ないAIは、瞬間的にパニックを起こす。


 瞬間的な判断を行なえるAIはまだまだ登場していない。

 そして、本能レベルで判断するようになった歴戦のヴェテランレベルは……


「楽に殺してやれ」


 スミスは控えめな声音でそう呟いた。

 次々と放たれる140ミリの砲弾は、ワープミサイルのど真ん中を撃ちぬいた。


「……向こうも必死なんですね」


 アナは辛そうに言った。

 何を今さら言っているんだ……と、バードは率直にそう思った。

 だが、自分自身が変質している事には気がつかないでいる……


「戦争って奴はどんな事でも肯定するのさ」

「勝つまでの努力って大義名分があればな」


 ペイトンとビルは呆れた様にそう答えた。

 ただ、そこには心底呆れたと言う空気では無い物がある。


 アナは特殊な身の上だ。それ故にものを知らな過ぎる。

 だからこそ、ひとつひとつ教えていかねばならない。

 知らないと言う事は罪では無いが、知ろうとしない事は罪だ。


 降下艇が一気に高度を下げた頃、ワープミサイルの転移が無くなった。

 もはや大気圏外での迎撃は行なわないのだろう。


「あとは物量の戦闘だ……」


 スミスは吐き捨てるようにそう言った。

 プラズマ炎をまとって地上へと降下して行く降下艇は、各所で逆噴射している。

 その高度は100キロを切り、もはや地上へは指呼の間だった。


「なんか…… シリウス側が静かだな」


 ビルはボソリと呟いた。

 大気圏外に展開している軍は国連軍だけだ。

 どこかにある秘密基地で出番を待つシリウス軍は、影も形も無い。


「ビックリ兵器の登場待ちか?」

「今まで色々やらかしてくれてるからな」


 ペイトンとライアンはコックピットのゲージを弄り、索敵範囲を広げた。

 広域探査を行なうも、返ってくるエコーは小さなものばかりだ。


 それは、撃破されたシリウス軍兵器の残骸であり、亡骸でもある。

 ニューホライズンの重力に導かれ、それらは次々と地上へ落下していった。


「地上へ帰っていくみたい……」


 バードは震える声で呟いた。

 ざわざわと身体中を静電気が走るような感触に身悶えた。


 それは、母なる星へ戻ろうとする本能なのかも知れない。

 もしくは、魂の故郷へ帰る本能。


 きっと生身ならば涙の一つも流したことだろう。

 地上へ向けて伸びる流星を見ながら、バードはそんな事を思った。


 だが……


「なんか変じゃねぇ?」


 突然ライアンが素っ頓狂な声で言った。

 それにロックが相槌を打つ。


「あぁ。なんつうか、身体中に静電気が走ってるみてぇだ」


 ――え?


 バードは驚いて言葉が無い。

 この妙な感触が自分だけでは無いと知ったのだ。


「なんか嫌な予感がするな」


 ジャクソンは警戒感を露わにした声で言う。

 こんな時には、直感に従うのが兵士の基本だ。


 バードは無意識に地上をレーダーで走査した。

 地対空兵器を使ってくるなら、何らかの動きがあると思ったのだ。


「今のところ地上に動きは無いけど……」

「おいおいバーディー!」


 バードの呟きにダニーが笑う。

 呆れたような、冗談めかした声音だ。


「たった今、ワープ兵器使われたばかりだぜ?」

「……EMP(電磁パルス)兵器とかじゃないと良いね」


 僅かに怪訝な声音を織り交ぜ、バードは可能性の話をした。

 だが、当の本人も忘れていたチームのお約束を皆が気が付いた。


「……一旦帰還しよう。EMPを使われると厄介だ」」


 ドリーは最優先でハンフリーへの着艦希望を出した。

 艦の側の受け入れ態勢が整っていないだろうが、なんとしても帰りたいのだ。


 母艦級のサイズであれば、よほど強力なもので無い限り被害は少ないだろう。

 だが、シェル程度の大きさであれば一撃でセンサー系統が死ぬかも知れない。


 ぶ厚い装甲に覆われたコックピットからは外部の視界はほとんど無い。

 コックピットカバーを開けた状態で飛ぶのも自殺行為だ。

 宇宙を漂う微細なデブリで即死がありうるのだから。


「ハンフリー管制! Bチームのドリーだ! 対EMP警戒で最優先での着艦を希望する! 今からそこへ向かう!」


 ――こちらハンフリー管制

 ――現在ハンガーのレイアウトを変更中

 ――5分待ってくれ


「いや、間違いなく危険が迫っている! 隙間にもぐりこむ! いまか――


 無線に流れるドリーの言葉が唐突に途切れた。

 バードは完全に反射神経レベルでシェルのメインスイッチをオフにした。

 視界に映っていたシェルの情報が全て消え去り、漆黒の闇になった。


 そして、次の瞬間、視界の中を様々な光が駆け抜けた。

 生身の網膜に当たるイメージセンサーにサージ電流が流れたのだ。


 ――ウッ!


 頭の奥底に鈍い痛みが走った。まるで脳の裏側を触られたような感触だ。

 きっとそれはブリッジチップの異常なんだと直感した。

 同時にオールブラックアウトがやってきて、バードは五感の全てを失った。

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