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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第15話 オペレーション・スレッジハンマー
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内部戦闘

~承前






 迂闊に入れば被曝しかねない処なのかもしれない。

 だが、入らなければ中身はわからない。


 こんな条件の時こそ、サイボーグが威力を発揮するのだろう。

 放射能汚染されたなら洗い流せば良いのだから。


「開く?」

「鍵はかかっていません」


 核ハザードマークがついた電源制御室の前で、バードは逡巡を繰り返していた。

 鍵がかかっているなら破壊するだけ。軍隊ならばそんな対処なのだろう。

 だが、もし中にリアクターがあってそれがダメージを受けたら酷いことになる。


 バードは周囲の兵士に距離を取らせ、自らの手でドアノブを捻った。

 もしこの向こうにブービートラップがあれば即死になりかねない。


 クレイモアでも設置してあれば、サイボーグとはいえ、一瞬でただの残骸だ。

 サンクレメンテでの経験から、それは確信していた。


 ――勘弁してよ……


 そんな本音を漏らしつつ、まわりきったドアノブを凝視したバード。

 こんな時にダニーでもいれば、ドアの向こうをX線サーチして貰える。


 Bチームは本当に芸達者な集団だったのだと改めて再確認したが、状況は進行し続けている。

 そっとドアを開いたバードは、内部の音に注意を払った。ヘルメット越しではセンサーの能力もスポイルされるが、ブレードランナー向けに作られた足音センサーはこんな時にも有効だ。


 ――音は……

 ――無い……


 静かにドアを開くと、中は様々な操作パネルで一杯だった。

 小さなモニターが幾つも並んでいて、その向こうには極小規模出力リアクターが鎮座していた。


「核反応炉じゃなくて有機転換炉だわ、これ」

「……と言いますと?」

「私の電源と同じよ。兄弟みたいなモノね」


 ニヤリと笑ったバードは手順に従って有機転換炉のスクラムを始めた。

 それは、サイボーグの体内にある有機化合物から発電するためのモノと一緒だ。

 自立電源として動かすだけの、最低限の電源が一基だけ存在しているのだった。


「つまりは…… どういう事ですか?」


 それなりに場数を踏んでいるはずのバーンズ曹長も首を傾げている。

 スクラムを掛けた有機転換炉は出力を大幅に低下させ、操作パネルには一斉に警告表示が点灯した。各部にあるジェネレーターやコンバーターが異常を知らせ始めていて、オーバーヒートやオーバーロードを警告していた。


「ここの主電源は別にあるの。地下に広域送電線網でも持ってるって事よ。」


 操作パネルを一目見たバードは、そこに書いてある内容に従い操作を開始した。

 といっても、自由自在に仕えると言う事では無い。操作パネルに書いてあるのはメインキャノンやレーダーやファイアコントロールの文字だ。

 何処かの電源から電気供給されているこの施設は、それらの制御の為だけに小型のリアクターを装備していたのだ。


 ――シリウス側も有機転換炉持ってるんだ……


 漠然としたイメージで、シリウス側は科学力や工業力で地球に劣るとバードは思っていた。だが、少なくとも目の前にあるこれを見る限り、その見識は改めねば為らないと思う。

 少なくとも、条件さえ揃えばシリウスは地球と全く変わらない実力を持っていると言うこと。つまり、自分と同じサイボーグを作るくらいの事は出来るはずだと思うのだ。


「警告パネルが!」


 フレディが叫んだ。

 バードの操作したダイヤルの影響か、警告パネルに点滅する部分が増え始めた。

 なんともアナログなメーターと警告ランプで埋め尽くされているパネルだが、それゆえに明滅するランプが増えると賑やかだ。


「ぶっ飛んでくれれば重畳!」


 透明なアクリルパネルの奥にコンデンサーリリースの文字を見つけ、迷う事無くそのパネルを割ってボタンを押したバード。

 どこか離れたところで何かが作動する音が響き、それの直後に鈍く響いていた砲撃音が止まった。間違いなく対空砲の主砲であるレールガンが機能しなくなったのだと確信したのだが、それと同時に制御室の中へ警報音が響き渡った。


「賑やかになってきたわね!」


 主砲電源操作パネルと思しきそこを離れ、続いてトーチカ塔を制御するパネルに取り付くと、そこに並ぶスイッチを片っ端からオフにし始めた。一瞬の間をおき空調が止まり、続いてメインサーバー室の冷却機能が停止した。

 コンピューターが高性能になるにつれ、熱との戦いはどんどんエスカレートしてきた。そして、性能向上を熱容量ではなく処理能力へと差し向けてきたコンピューターは、冷却なくば機能を発揮出来ないレベルにまでなっていた。

 サーバーの廃棄余熱で発電できるレベルにまでなっているその熱が、自分自身へと牙を剥くのだ。


「そろそろお別れのお時間ね」

「機能を停止しましたな」


 バードの軽口にフレディが真面目な言葉を返した。

 なんとも四面四角で硬い性格だが、小隊を預かる下士官の長はコレくらいで無いと勤まらないのかも知れない。


「……名残惜しいけどね」


 あくまで軽口を続けたバードは、操作パネル周囲に爆薬の設置を命じた。

 小隊の中に紛れていた工兵がいっせいに動き出し、エマルジョン爆薬を準備し始めるのだが……


「少尉! 上から――


 コントロールルームの外に居た兵士が何かを叫び、その直後に銃弾を浴びて即死した。周囲に居た兵士がいっせいに応射し始めるのだが、火力が違いすぎて次々と戦死者が出ていた。


グレネード(手榴弾)!」


 バードが叫びバーンズが一気に投擲した。

 一瞬だけ身を晒したのだが、幸いにして直撃弾は喰らわなかったようだ。

 鈍い爆発が響き、遠くでうめき声が聞こえ始めた。


「続けて!」

「イエッサー!」


 バードの指示で手持ちグレネードの投擲が続いた。

 手持ちを使いきる勢いでの攻撃だ。

 だが、場面チェンジを意図するならコレが一番手っ取り早い。


 一瞬の隙を突いて飛び出たバードは、負傷者を幾つも抱えてコントロールパネルに引き込み、医療兵に応急手当を命じた。生身の人間とはいえ、手足が吹き飛んだくらいでは死なないモノだ。

 応急止血剤とモルヒネで処置された兵士を壁際に並べ、その間にバードは対応を考える。上の砲座から降りてきた兵士は推定で8名か9名。その全てがグレネードで吹き飛んでいる。


「上に後どれ位いると思う?」


 フレディとバーンズに問い掛けたバードは、ライフルを置いてドラムマガジンを装備したYackを2丁抜いた。狭いところで戦うなら、コレに勝る装備は今のところ無いと言うのがバードの結論だ。

 反応速度に優れ、技術もあるロックならば、小刀やロングナイフの二刀流で切り込むのだろう。だが、バードの武器はやはり飛び道具だ。敏捷性と応答速度の良さがバードの武器だった。


「多くても20か30人でしょうね」

「砲のオペレーションは高度に自動化されているはずです」


 4門の主砲と10か12程度の火薬系小型対空砲。

 そのオペレーションを行える人間だけいれば良いはずだ。


「行くよ! 運の良さに自身がある者だけ付いて来て!」


 バードはそんな言葉を残して一気にダッシュした。

 その直後をフレディが飛び出して行った。


 一瞬送れてバーンズも駆け出し、幾人かがそれに付いて行った。

 この場の指揮はどうするんだ?と言う事などバードの頭からは抜け落ちている。


 走り始めた猪は止まらない。


 ――ッ!


 階段を駆け上がって行くバードの前方に行く人かが姿を現した。

 敵味方を識別する前にバードはYackの弾をばら撒いた。


 大口径サブマシンガンと同じ威力の拳銃が猛然と火を噴いているのだ。

 至近距離でその弾を受ければ、アーマーベスト程度貫通してしまう。


 そして、苦しむ間もなくシリウス軍兵士が絶命し、階段を転げ落ちてきた。

 その身体からは真っ赤な血が流れていた。


 ――あらら……


 それ以上の感慨は無かった。

 一時的な感情の麻痺とは違う妙な諦観だ。


 人の命を奪っていると言う感覚などとっくに消えている。

 そこにあるのは純粋な闘争心だけ。


 脱兎の様に階段を駆け上がり、左右へと続く通路との連接点にバードは立った。

 状況としては踊り場のような場所だ。どっちへ行くか一瞬だけ逡巡し、無意識に右を選んだのだが、一歩踏み出して足を止めた。


「少尉!」

「何か来る! 通路の直線上にた――


 『立つな』と言い切る前に銃弾が飛んできた。

 バードの正面側にいくつかの直撃弾があり、その運動エネルギーを受けて後方へと吹き飛んだ。強い一撃を受け内部構造へのダメージが懸念されるも、その前に後方を逃がすことが重要だ。

 尻餅をついて後方へ転がりつつも、そのまま飛び起きてフレディを通路から広間に押し戻したバード。素早く視野に赤外をオーバーレイさせ、振り返って暗闇の中を睨み付けた。


「ヤバッ!」


 慌てて自分自身を通路から影へと押し込んだのだが、そのバードがいた辺りへ再び銃弾が襲い掛かった。寸前の所で影へと逃げ込んだバードだが、通路の奥から散々と撃ちかけてくるのは13ミリ口径と思われる大型火器だった。


「通路の奥に13ミリがいる!」


 カッとなった訳ではないが、制御室にS-16を置いてきた悪手を呪った。

 通路の奥の暗がりにいる13ミリのガンナーは、防循の影にいるのだ。


「厄介ですね」

「全くね」


 影へと押し込んだフレディは幸いにして無傷だった。

 僅かながらもホッとしたバードだが、現実はある意味で最悪だ。


「グレネードは?」

「そろそろ看板です。あると言ったらスタングレネードくらいで……」


 あれだけ派手にバンバンと使ったのだ。手持ち武器の残数から逆算すれば、そろそろゲームセットの頃合いなのは致し方ない。

 実戦とは尽きることなく銃弾をばらまけるビデオゲームとは違うし、生き残るためには要領よく武器を使わねばならない。


「さて、どうしましょうかね」


 袋のネズミになっているのは敵も一緒だ。

 このトーチカの出口は下にしかないのだから、逃げ場など無いのは自明の理。

 そんな状況下だが、諦めることなく執拗に抵抗を続けている。


「増援でも来たら厄介ですね」

「……私もいまそれを言おうとしたとこ」


 危惧する内容が一致を見た以上、モタモタしている場合では無い。

 例えそれがどれ程不毛な戦闘であっても、先ずは生き延びなければならない。


「少尉!」


 アレコレを堂々巡りの思考を積み重ねていたとき、階段を駆け上がってきたODSTがS-16を担いでやって来た。かなりの重量になる実弾兵器で、生身が使いこなすのは到底無理な代物だ。


「使いますか!」

「もちろん!」


 S-16を抱えるように持ってきたのはカリムという名の北アフリカ人だ。

 大柄な体格の男だが、少々の膂力であっても手に余す代物と言って良い。


 だが、バードはそのS-16を軽々と片手で持ち上げ、そして、腰のポーチから未使用のマガジンを取りだして使い掛けと入れ替えた。中途半端なマガジンでは残弾の様子が掴めないのだ。

 12.7ミリの巨大な弾丸が70発も詰め込まれた自動小銃を抱え、バードはグッと気合いを入れた。


「フレディ! スタングレネード投げ込んで!」

「ッサー!」


 バードの声に弾かれたフレディは、通路の奥へ向かってスタングレネードを投げ込んだ。爆発するモノとは違い、スタングレネードは轟音と閃光を撒き散らす。生身の兵士が目の前でそれを受ければ、数分は目も耳も使い物にならない。

 大音響と共に爆発したスタングレネードを確かめ、バードは通路に身体を晒していた。通路の奥からは13ミリの銃弾が飛んでくることはなかった。


 ――いける!


 一気に通路の奥へと走って行ったバードは、至近距離になってからS-16の引き金を引いた。火薬発射では無くレールガン式に弾体を加速させる銃火器は、その初速の速さが最大の武器だった。

 バンバンと音を立てて防循を貫通していく銃弾は、その向こうに居たシリウス軍兵士を次々と肉塊に変えていた。貫通しズタズタになっていく兵士たちは、白と赤の血をまき散らして床に倒れていた。


 ――白と赤が混じればピンクよね……


 流れ出る血に混じり、様々な液体が床を流れていく。

 それを無視して駆け込んでいくバードは、13ミリマシンガンの防循を蹴り飛ばしていた。派手な音が通路の中を転がっていった。


「曹長! 前進!」

「ヤーッサー!」


 言語とは思えない言葉を発し、ODSTが一斉に前進を開始した。

 必要なモノは勢いと迫力だ。通路を横一杯に並び、銃を構えて前進していく。

 バードは覚悟を決めた。半数を減耗させようと、このトーチカは落とすと。


 通路を掛けていくと、その終点には分厚い鉄の扉があった。

 ドアノブ自体が熱を持っているそこは、間違い無く砲座だと思った。


 ――開くの?


 そう訝しがるも、何のイヴェントもなくドアは開いた。

 そのドアの向こうには階段があり、見上げた先には青い空が広がっていた。


「砲座ですね」

「足音は…… 無い」


 目の前には巨大なレールガンが設置されていた。弾体加速用の砲身は長くの延びるタイプだ。高々度向け砲撃用と思われるその砲は、真っ赤に焼けた砲身を風に晒したまま、空を見上げたまま沈黙していた。


「散々撃ったようですね」

あっち(シリウス)も必死って事よ」


 階段を上がって砲の横に立ったとき、バードの背筋にゾクリと寒気が走った。

 絶対に碌な事じゃないと直感したバードは、一つ息を吐いて周囲を見た。


 ――うそ……


 四角いトーチカの屋上に設置される砲の残りは3門。

 その全てが砲身をこっちに向けていた。

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