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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第14話 オペレーション・キラー
182/354

足を止めた殴り合いの果て

~承前






 ――役に立てない……


 ハンフリーへと帰投するアナは、その一念で悶えている。

 その内心がどれ程かをバードは窺い知ることは出来ない。

 ただ、少なくとも現状ではそんな事を言っている場合では無い。


 爆発が発生したのは、おそらくニューホライズンの衛星表面だ。

 ツクヨミと呼ばれている岩石の塊な方では無い。

 何処からか運び込まれた、資源回収衛星の方だ。


「ツクヨミⅡだな」


 ドリーはデータを解析してそんな結論を出した。

 各シェルのコックピットにドリーは解析データーを送り込む。


「いやいやいや…… 勘弁してくれよ」

「ちょっと迂闊にゃ近づけねぇな」


 ライアンとロックがそんな事を漏らした。

 吹き飛んだ衛星は夥しい量のデブリを生み出している。

 四散していった破片はいずれ周回軌道を取るだろう。


 ニューホライズンに引っ張られるか、それともシリウスか。

 その破片が持つ運命は誰にも分からない事だ。だが……


「少なくとも、あの高密度な破片の雲には突入したくねえ」


 ペイトンはそんな言葉を吐いた。

 どちらかと言えば慎重な振る舞いのペイトンだ。

 鉄砲玉の様にやんちゃな突入をしがちなロックやライアンとは違う。


 速度を調整し、進路を確認し、攻撃手順を先にシミュレーションする。

 そんな事を何度も何度も繰り返し、ペイトンは確実に相手を屠るのだった。


「しかし、何が起きたんだろう?」


 ダブはわずかに震える声でそう言った。

 宇宙における戦闘は、地上で経験することとは大きく違う。

 その規模や威力や、なにより、スケール感が全く違うのだ。


「恐らくは大出力砲でリアクターを撃ち抜いたんだろうさ」


 そう説明したジャクソンだが、当の本人だって度肝を抜かれている。

 周辺に存在するシリウスシェルのパイロットも同じようで、動きが悪い。


 状況が逆転されている……


 そう感じたシリウスパイロトが自棄になったら危ない。

 バードは理屈抜きにそう感じていた。


 彼らは間違い無く、真っ直ぐに突っ込んでいくだろう。

 敵艦である国連軍戦列艦を一隻でも道連れにする為に。


「さて、ギアを一段上げるぞ!」


 ジャクソンはそう宣言した。

 周辺に居るシリウス軍側シェルの残りは、いつの間にか50程度だ。

 国連軍側も随分と消耗したが、幸いにして回収を受けたパイロットが多い。


「とっとと回収タイムに入ってやらないと、完全に死んでしまうからな」


 チームの医療兵であるダニーはそんな事を言う。

 中途半端な死に掛けでは、サイボーグ化一直線かも知れない。


「死んだ方が楽かも知れないぜ?」


 ヘラヘラとした声でペイトンが言った。

 善意でサイボーグ化されても、本人が苦労するだけ。

 バードも最近はそう思うし、ペイトンの言に賛成だ。

 素直に死んだ方が、後で苦しまずに済むかも知れない。


「だけど、生き残っておけば、まだ人生続けられるさ。良い事だってある」


 ロックは珍しくそんな言葉を吐いた。

 その良い事の意味を皆はよくわかっている。


「何でも良いさ。どんな結果でも本人の資質の果てだ。先ずは任務を果たそう」


 ドリーの言葉で再びスイッチが入った。

 残されたシリウスシェルの位置を確かめ、全機が突入進路を取る。


 その間も戦列艦とアラモは激しい砲撃戦を続けていた。

 戦列艦側もアラモ側も、稼働している砲が少なくなり始めているが……


「このラウンドも終盤戦だな」


 スミスがボソリと呟く。

 ビッキーがそれに応えた。


「まだ終わりのゴングは鳴っていません」

「なら、そろそろフィニッシュブローと行くか!」


 スミスは荷電粒子砲ではなくカノンを構えた。

 初速に優れ命中率の高い140ミリだ。


 当たればいける。

 そんな必殺の武器を片手に、アナを除く全機が突撃体勢に入った。


「スゲー!」

「ひでぇ弾幕だせ! 洒落にならねぇ」


 ライアンもペイトンも狂ったように喚いている。

 目映いばかりの防御弾幕が飛び交い、バードは思わず目をつぶった。

 当たれば即死の厳しいものだが、そこに飛び込まねば成果はない。


「敵の残り22!」


 ジャクソンが叫ぶ。

 気が付けば生身のパイロット達は遠目に見ているだけだ。

 土壇場で暴れられる度胸は、潜った死線の数に比例する。


 ふと、バードは鉄火場の中だというのに、エディの言葉を思い出した。

 時には自らの命を業火に曝し、危険を踏み越えてこそ充実を見る。

 危険を承知で行わねばならない事は沢山有るのだと痛感した。

 そして、過保護が生み出す愚かさや、成長の乏しさをも理解した。


「バード! 左手側!」


 ロックの声にバードは素早く反応した。

 すぐ目の前にはシリウスシェルがいて、カノンを構えていた。


 ――ッツ!


 考えるより早くバードは反撃体勢に入り、カノンをお見舞いする。

 直撃を受けたシリウスシェルが爆発し、吹き飛んだ。


「サンキュー! さっすが視野が広い!」

「止せよ! 照れるぜ!」


 ふたりの会話に無線のなかが一瞬沸き立った。

 そして『おいっ! バカップル! しっかりやれ!』とスミスが叫んだ。 

 緊張の極限にあっても平気で茶化すメンバー達だが、ふとバードは思った。


 ――アナ……

 ――悔しいかな……


 根拠など無い。ただただ、純粋にそう思ったのだ。

 そしてそれは、AIならスルーする筈という無意識な確認でもあった。


「なんだかそろそろ……」


 ビッキーがボソリと呟き、ペイトンが相槌を打った。


「あぁ。やばそうだぜ」


 明らかにアラモの反撃が弱くなっている。

 そして、その小惑星周辺に展開していた太陽光発電パネルが収縮し始めた。


 イオンエンジンなどで動けるには動けるだろう。

 だが、実際何処へ行こうというのだろうか?


 宇宙に逃げ場など無い。

 神は人間を無重力にも真空にも適応出来ないように拵えたのだ。

 その現実は誰もが嫌と言うほど知っているし、知らなければ宇宙に出られない。


「距離を取ろう」


 ドリーの言葉に導かれ、全員が大きく反転してアラモから離れた。

 戦列艦の砲撃は続々と行われ、そろそろ2時間が経過しようとしていた。


「撃つのを止めたな」


 ジャクソンはアラモの砲撃が止まったのに気が付いた。

 そして、その背後辺りから、続々と宇宙艇が発進しているのを見た。


 間違い無く脱出が始まったのだ。


「おー こりゃスゲェわ!」


 どこか脳天気な声を出して喜ぶライアン。

 同じようにロックも言う。


「まるでネズミの引っ越しだぜ。団体様のご出発ってな」


 アラモの中から出ていく宇宙艇は夥しい数だった。

 それはまさにネズミの脱出だった。


 沈む船からはネズミが居なくなる。

 船乗りはそんな迷信を本気で信じている。

 大海原の上を征く外洋船ならば、船底板の下は地獄と同義。

 そんな船に乗り込む船乗りならば、信じてしまうのだろう……


「あれ?」


 ジャクソンが素っ頓狂な声を出した。

 次の瞬間、アラモの表面が大きくめくれ上がって膨らんだ。

 内部で激しい爆発があったらしい。


「ふっとぶぞ!」


 スミスが叫んだ。

 その直後、二つの小惑星を連結してる辺りが眩い光を放った。

 高電圧を供給する母線がスパークしたかの様な姿だった。


 アラモは周辺に居る者全てに眩いばかりの光を撒き散らした。

 その光はバードの影を戦列艦に落とした。そして


 ――ひどい姿だな……


 バードは随分と異形な影だと思った。

 シェルの影ではあるが、()()が自分自身だと錯覚したのだ。


 そして、そんな印象を持った直後、連結部分が大爆発を起こした。

 夥しい数の破片が撒き散らされ、恐ろしい速度で撒き散らされた。

 途轍もなく巨大なスケールのショットガンだった。


「戦列艦の陰に!」


 ペイトンはパッと指示を出し、ビッキーとダブは素早くシェルを逃がす。

 土壇場の危険を幾つも掻い潜って場数を踏み、危険を察知できるようになる。


 それこそが経験と言う換え難い財産なのだった。


「しかし、ありゃこれからどうするんだ?」


 ペイトンの言う()()が何を指すのかは言うまでも無い。

 分裂したアラモがどうなるのかは誰もわからない。


 攻略作戦の概略は知らされているが、その全体像や手順を知るのは隊長クラス。

 現場責任者は、とにかく与えられた仕事を全力でこなすだけだ。


「普通に考えたら、シリウスに放りこむんだろうな」


 ロックはポツリとそう言った。

 いや、そう願ったと言うべきだろうか。


「やっぱそれが一番…… だよな」


 ペイトンは一瞬の間を空けてそう答えた。

 士官教育の中で、地球文明によるシリウス開拓史は事細かに教育を受ける。

 その中には、物語の中の出来事だったコロニー落しまで含まれる。


 ニューホライズンの地上で何が起きたのか。どれくらいの影響が残ったのが。

 その後、泥沼の報復劇が始まり、地球の地上が大幅に荒れ果てた事も……だ。


「まさかとは思うけど……」

「それを、その()()()をやるのが人間って生き物さ」


 バードの呟きにビルはそう答えた。

 あのアラモをニューホライズンの地上へ落としかねない。

 国連軍首脳部や国連機関の頭脳たちが復讐の炎に焼かれていたら……


「スミスはどう思う?」


 ロックはスミスへと話を振った。

 泥沼な中東の戦争を経験したスミスだ。

 復讐の連鎖は嫌と言うほど知って居るはず……


「復習ってのは何も生みださない。それは良く分かっている。だから……」


 スミスが何を言うのか、バードは息を呑んだ。

 自発呼吸の必要ないサイボーグだが、息を呑む事は出来る。


「徹底的に勝ちきって、相手を一人残さず殺すしかない」


 スミスの言葉に全員が絶句した。

 それは、博愛や友愛と言ったものの対極だからだ。


 だが、その直後に深い深い溜息が聞こえた。

 それを吐き出したのはスミスだった。


「恩讐を越えてだの民族の垣根を越えてだの、そんなのは幻だ。嘘っぱちだ。隣の集落とだって本気で殺し合いをするのが人間だぞ。隣の国や社会や、異なる人種となら相手が滅ぶまで戦争をし続ける。それが人間だ。俺たちは、中東人はそれをよく知っている」


 激しい爆発が発生し、小さいほうの小惑星が木っ端微塵に砕けた。

 弾薬庫に誘爆したのだろうか、予想外に大規模な爆発となっている。

 四散した小さな塊まで次々と爆発しているのがバードから見えた。


 ――危険物庫をユニット化してあるんだ……


 どこかが危険な状態になった時、危険物庫をパーツ単位でパージする。

 それをする事によってアラモ自体を護ろうとしているのだと気が付いた。


 構造的には非常に良く考えられているものだ。

 そして、ダメージコントロールの局地かも知れない。


「相手を屈服させる事は出来る。力で押さえつける事も容易い。勝利者が支配者になって、敗北者は奴隷になる。それが人類史そのものだ。そうじゃないか? 自分の生まれた国を思い出してみろ。育った社会を思い出してみろ。人間て奴は、一度でも受けた恨みや憎しみや悲しみ。憤ったことの全てを絶対に忘れない。どれ程の利があろうとも、感情はそれを塗りつぶして復讐を選ぶ。だからいっそ……」


 スミスはそれ以上の事を言わなかった。

 この、かつては中東のパリと呼ばれた街で育った男だ。

 廃墟となったその街で全てを失った男は何を見てきたんだろう……


 バードはふと、そんな事を思った。

 そして、自分自身が見た愚かな人間たちの事を、ふと思い出した。


 己の欲望が、本来なら恥ずべき部分が果たされるなら、人間は猿以下になる。

 病に苦しむ無抵抗な人間ですらも、構う事無く陵辱し蹂躙する。

 どれ程に心が折れ悲しみに暮れていようとも、相手のことなど考えないのだ。


「ひとり残らず滅ぼした方が良いってか?」


 怪訝な声で言うジャクソン。

 だが、そのジャクソンとて意味は分かる。


 家族の全てを失ったのはジャクソンも同じだ。

 テロは復讐の連鎖ではなく悲しみの連鎖なのだ。


 己の味わった悲しみを相手にも味合わせる。

 復讐の様にも見えるのだが、その本質は全く違うことだった。


「……まぁ、そう言うことだな」


 スミスは辛そうにそう答えた。

 その中身にバードは思いを馳せた。


 生まれた(ところ)皮膚(はだ)や目の色や、そんな、()()()()()()()()()()というだけの事。

 たったそれだけの事で、人間は戦争に至る理由とするのだった。

 そしてそれは、相手を征服し蹂躙し、破壊し尽くし、根絶やしになるまで続く。


 バードの生まれた日本史がそうだったように。

 世界を二分して戦った地球がそうだったように。


 今は星と星の単位でそれが行なわれているだけのことだった。


「で、あのデカイ方だけど……」


 ジャクソンは『そろそろ言えよ』とばかりに話を振った。

 振った先はドリーだ。もちろんジャクソンだって話は知っている。

 ただ、その話しは隊長からするべきだ……と、それだけのことだった。


「まぁ……」


 一つ呟いて気を練ったドリーは、厳しい言葉を漏らす覚悟を決めた。

 ビリビリと伝わってくる緊張感に、バードは表情を硬くする。


「質量を失ったアレは受ける引力の低下で速度を落とす筈だ。つまり……」


 コックピットの中で小さく『アッ』とバードは呟いた。

 ドリーが言ったとおり、分裂したアラモは大きい方が軌道を外れ始めた。

 ラクランジェ点に位置するには質量が軽くなりすぎたと言うことだろう。


 宇宙空間は目に見えない重力と言う名の糸で全てが結ばれている。

 その糸は必ず一定のバランスで張っているのだが。


「ニューホライズンに置いていかれるって事だな」


 ドリーの言葉に続いてジャクソンが種明かしした。

 アラモの現在地は、シリウスを公転するニューホライズンの軌道上だ。

 各種の重力などが均衡する小さな点に過ぎないと言うことだ。


「じゃぁ、ニューホラが一周したら追いつかれるって事か」


 ライアンは間髪入れずにそう答えた。

 質量を失ったアラモはニューホライズンからの引力も低下している事になる。

 当然その速度は落ちるが、軽くなった分だけシリウスの影響も小さくなる。

 軌道を飛び出さず、ギリギリのバランスで周回軌道に残るらしい。


「あのままニューホラに墜落したらえらい事だぞ?」


 呆れたような声でライアンがぼやいた。

 分裂したアラモのデカい方は直径30キロに達する。

 そのゴツゴツとしたジャガイモ状の形状は……


「巨大な弾道弾の弾頭そのものだな」


 溜息混じりにビルが呟いた通り、その弾頭が持つエネルギーは洒落にならない。

 ニューホライズンは、シリウス公転軌道を毎秒40キロ近くで周回している。

 その地上へ落下すれば、地上文明の全てどころか惑星自体を破壊しかねない。


 スミスが言うとおり、懐柔も同化も出来ないなら、根絶やしにするしか無い。

 その手段としてみれば、まさにうってつけの存在と言う事だ。


「考えたくも無いけど…… 本気で滅ぼす気なの?」


 バードの語気が僅かに強くなった。

 本気の抗議染みた声音とも言える。


 そもそもに柔らかくて丁寧な言葉遣いのバードだ。

 教科書英語とも、或いは、上品な上流階級英語とも言われるモノに近い。

 だが、今のバードの言葉遣いは、街中の中低層階級が吐く様な言葉だった。


「いや、落とすか落とさないかはここで決める事じゃ無い」


 ドリーは取り繕う様な事無く、スパッと言い切った。

 現場で判断する様な問題じゃ無いし、判断してはいけないことだ。

 高度な政治的判断によってのみ決定される事と言って良い。


「で、どうするの?」


 バードの声が上ずった。

 ニューホライズンの滅亡は、地球文明として歓迎せざるる事の筈だ。

 安全に軌道を外れさせ、出来るものならシリウス辺りに放りこむしかない。


「安全に破壊する方法は――


 ドリーが何かを良い始めた時だった。

 各機の無線の中に突然女性の声が響いた。


『こちらは軌道拠点アラモ中央管理室。アラモ周辺の全艦艇に通達します』


 バードはその声が随分と澄んでいると思った。

 まるで、湖の畔に佇む女神のようだと、そんな印象を持った。

 全てを把握してなお、最善の手を尽くすべく残る者。


 バードの脳裏には、あの金星の上空に漂っていたジェフリーが現れた。

 そしてあの、シリウス軍のジェントリー少佐の晴れがましい表情。

 地上への墜落を見届けねばならないと言い切った少佐は、笑っていた。


 ――あれ?


 バードはなにか、とても重要な事を見落としている様な気になった。

 なんとなく見えそうで見えない全体像だ。


 それは、シリウス軍でも国連軍でも無く、それらとは違う意志を持つ存在。

 どちらの組織にも存在していて連携を取っている、全く違う形の組織だ。


『アラモ周辺艦艇は爆発に備えてください。繰り返します。爆発に備えてく……


 そのアナウンスが終わる前に、機械音声でカウントダウンが始まった。

 100から始まった数字は順次減っていくようだ。そして……


『ニューホライズンの地上に暮らす人々へも通達します。この巨大な小惑星が地上へ落ちたら大変な事に成ります。ですから、これから私たちはこの小惑星を木っ端微塵に爆破します。アラモの破片が降り注ぐかも知れません。ですがそれは地上へ帰りたかった私たちの一部です――


 アラモの中央管理室から新しい声が響いた

 ただその声は、バードをして絶句させるのに十分なモノだった


 ――今はもう誰も恨んではいません。ただただ、帰りたかっただけです。花咲くニューホライズンの地へ帰りたかっただけです。どうか私たちを恨まないでください。そして、新しい世界の為に頑張ってください。美しい大地に根を下ろしてください。私たちの理想を奪った者達に抵抗してください』


 合成音声で続くカウントダウンは30を切った。

 アラモの残骸に当たる巨大な小惑星は不規則運動を行っていた。


 フと見れば、ドリー以下の全機が機首を返して変針していた。

 大型戦列艦の影に隠れる算段だ。だが、戦列艦が持つかどうかは解らない。


 ――祈るしか無いのね……


 小さく溜息をこぼしたバードは一気に速度を殺して大型戦列艦の影に隠れた。

 その間も、アラモの中央管理室からは声が続いていた。


『救いの御子が帰ってきました。私たちの所へ帰ってきました。立ち上がる時が来たのです。圧政と暴虐と理不尽の続く世界の終わりの始まりです。あぁ、あと10秒です。これで終わります。始まります。皆さん、さようなら、さようなら――


 ザザッとノイズが混じった。

 その直後、全バンドに猛烈なノイズが入り、強力な磁気嵐が発生した。

 シェルは最初からEMP対策が協力に施された兵器だ。

 そしてもちろんサイボーグも対策済みだ。

 少々の磁気嵐は問題ない。


 ただ、戦列艦の影にいてなお、強い重力震を受ける理由が分からない。


 ――なっ!

 ――なにこれ!


 無線の中に叫んだはずだが、全く声は通らなかった。

 通るはずが無い事をバードは直後に理解した。

 全バンドに強力なジャミングが掛かっている状態なのだ。


 洒落にならない状況下だが、本当の大問題はその直後に発生した。

 戦列艦の船体が強く押し出され、バードは弾き飛ばされそうになった。

 慌てて船体に装備されているアンテナの基部へしがみついたのだが……


 ――うそっ!


 ハッと見上げた視線の先にはシリウスシェルがいた。

 アラモの大爆発により生み出された、原因不明のストリームが直撃していた。

 そして、機体が驚く程の速度で崩壊し、粉々に砕け散った。


 ――ニュートリノシャワー……


 言葉を失ってそれを見ていたバード。

 常識を外れる強大な出力の暴力は、その宙域全てを木っ端微塵に粉砕した。


 ――これが、さっき見た遠くの大爆発の正体かも……


 今さら遅い気もするが、現実だ。

 ただただ祈るだけのバードは目を閉じた。

 シェルの機体がビリビリと共振を始めた。


 アラモの残骸は、粉々に吹き飛んだのだった……

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