ロシアンルーレット
~承前
アラモの外壁は次々と赤熱して剥がれた。
だが、撃っても撃っても砕くのは岩石ばかりだ。
天然の小惑星は伊達ではないとバードは呆れる。
ただ、指をくわえて眺めてるばかりもいられない。
アラモの表面にある小さな穴がほんのりと赤く光った。
それが何であるかを気がつくと同時に眩い光が虚空を横切った。
戦列艦のそれとは出力が一桁以上違う荷電粒子砲だった。
「マジかよ!」
「冗談じゃねぇぞ!」
ロックとライアンが叫ぶ。
そのとんでもない威力に、シェルのセンサー類が一瞬バカになった。
「こりゃシャレにならねぇな」
ボソッと言ったペイトンは、コックピットでセンサー類を調整していた。
桁違いな威力の荷電粒子砲は、莫大なプラズマ状態のイオンを虚空に残した。
その影響でレーダーにノイズが混じり始め、戦闘AIは異常を来すのだが……
「ちょっとシャレにならねぇな」
遠距離攻撃用のスキャナが全くあてにならなくなったジャクソンも泣き言をこぼした。
実際には目の前の敵シェルを叩くのが重要なはずだ。余所見をしている暇はない。
「奴さん達何処行きやがった?」
「見えねぇな」
「ずらかったろ」
気が付けば敵も味方もシェルの姿が無い。
いや、正確には無いのでは無くセンサーが捕らえてないのだ。
プラズマ化した膨大な量の燃え滓がレーダーの邪魔をしている。
その関係でリニアコックピットの中に表示される敵機情報が欠損していた。
「こうなってくると電子情報ディスプレイって面倒だな」
ドリーはふとそんな言葉を漏らした。
ただ、その言葉にバードはハッと気が付く。
「これさ、生身の乗ってるシェルは戦闘不能じゃない?」
「なんでだ?」
ジャクソンが聞き返すも、バードは冷静な声で言った。
手順を組み立てる様な倫理的説明だった。
「生身のシェルって戦闘自体はAIが行ってるでしょ? アルゴリズム的なもので。でも、そのAIが見ている筈の世界はレーダー情報で立体的なはず。じゃ、AIはどうやって敵を認識してるの?」
バードの言葉が続く中、ビルは感心する様に言った。
無意識に論理的矛盾を探す人間だが、その倫理が破綻している現状を見落としていた。
「あぁ…… そうだな。そう言う事か」
AIは目を失った事になる。
複数のシェル同士で情報を共有し、戦域を立体として捉えるAIだ。
そのAIに情報を送るレーダーエコーが全く役に立たない。
膨大な量のプラズマカスにより、目隠しをされた様なものだ。
「って事はよぉ……」
どこか笑いを噛み殺す様なライアンの呟きに、ペイトンが答えた。
冷たい笑みを浮かべペイトンの表情がバードの脳裏に浮かび上がった。
「アサシンモード発動だぜ」
ペイトンはシェルを捻って急旋回を掛けた。
機体と完全に一体化できるサイボーグなら、自分の視界を頼りにすれば良い。
宇宙空間には大気の揺らぎが無い。その関係で視程は驚く程だ。
「みっけた!」
ペイトンの視覚情報を共有したBチーム各機が連係を始めた。
レーダーが無いなら目で見れば良いじゃない……と、そう言う事だ。
「全機散開しろ。ウルフパック戦闘だ。大きく広がって囲い込め」
ドリーは自らがイメージした物を視覚映像化して全員へ送った。
点では無く面として広がり、網を閉じる様に追い込んでいくのだ。
地上で狩りをするオオカミの群れと言うより、魚群を追い込む網だった。
だが……
「やべぇ!」
ジャクソンが叫んだ。
それと同時にBチーム各シェルのコックピットへ被砲撃警報が届いた。
考える前にバードは機体をねじって逃げを打った。機体の消耗は無視した。
左手方向に展開している戦列艦の群れが斉射を行うと通告してきたのだ。
「うそだろ!」
「勘弁してください!」
ダブもビッキーも泣き言を叫ぶ。
それが何の意味も無いことを知らないはずでは無いのだが……
「良いから逃げろ!」
スミスは荒々しく叫びながら砲撃危険エリアを脱した。
サイボーグの視界には空域を横切る黄色の帯があった。
それは、荷電粒子砲の砲撃に巻き込まれる危険があるエリアの立体表示だ。
「きたっ!」
「スゲェ……」
ロックとライアンが漏らす。
戦列艦を一瞬にして屠ったアラモへ向け、残された戦列艦が一斉砲撃を始めた。
粒子加速器の出力を最大最強モードで使う荷電粒子砲の一斉射撃だ。
「あんな出力でバカスカ撃ってちゃ……」
「コライダー系使い切るつもりだろうな」
ジャクソンもスミスも唖然とした様子でそれを眺めた。
どんなに強靭な構造にしたとて、加速器は消耗品だ
ただ、現状では遊んで居る場合ではない。
砲撃戦は足を止めた殴り合いだ。
手痛い一撃を受けてでも相手を力一杯殴った方が勝つ。
理屈じゃない。度胸と根性と気合だ。
「スゲェ…… マジでスゲェ……」
「そんな所にいると巻き込まれるよ!」
戦列艦の総力砲撃に見とれていたロックはバードの声で我に返った。
驚くべき威力での砲撃だが、それはアラモも同じだった。
全てのセンサーにゴーストが現れ始め、承知の上でセンサーを引っ込めた。
このままセンサーをプラズマ粒子に曝し続ければ、やがて故障するからだ。
「なんだかパーティー会場を外から見てる気分だぜ」
苦々しい言葉を漏らしたジャクソンは、明らかにイライラしている。
だが、戦闘とは冷静さを欠いた状態で継続できるほど甘いモノではない。
そして、油断や慢心といったものの代償はすぐに現れる。
実際には5分か10分かの程度でしかないのだが、明らかに注意散漫だった。
その極々僅かな刹那に、シリウス軍は戦況を建て直すところまで回復していた。
「まだまだ砲撃してるな」
「ここで撃ち負けるわけにはいかねぇからな」
ドリーもスミスもそんな事を言う中、アナは何かに気が付いた。
視界に映るシリウス側シェルの群れが大きく動いているのだ。
コンピューターの様に冷静なアナは、どんな状況でも観察を怠らない。
それはきっと、シスマネとしてシミュ管理をしていた経験からだろう。
機体の制御とて思うようにならない事もあるアナだが、頭は全速力で回転する。
「シリウス側シェルに再編の動きがあります!」
アナの言葉に驚いたバードは、改めて状況確認に徹した。
言われるとおりシリウス軍は状況を建て直しつつあった。
被害の出たシェルを帰投させている。
そして……
「……新手か」
スミスは苦々しげにぼやいた。
ガンガンと砲撃を行うアラモだが、その裏手当りから幾つも光が伸びた。
蛍の様に舞い出しているその光の大群は、間違いなくシェルだ。
流れる水の様に大きく旋回し戦闘空域へとやって来た新手のシェル達。
その数は軽く100を越えて居る状態だった。
「こりゃ……」
「……手間だな」
珍しくビルもぼやき、ダニーがそれに応えた。
残っていた戦力に新手が加わり、シリウス軍側の陣容が大きく変わる。
国連軍側の戦力は変わらないのだから、これは違いなく手間だった。
「マジか……」
無線の中にロックの声が流れた。
だが、その直後に毀れた様なライアンの笑い声が流れた。
「おいおい! マジかよこれ!」
ライアンの笑い声が響いた直後、ペイトンも乾いた笑いをこぼす。
それはまるで、嘲笑うかの様なものだ。
「これ、全部AIだぜ」
ペイトンから送られた視覚情報は、カラフルな色分けだった。
Bチーム各機の視覚情報にオーバーレイされたそれは、AI機の区別表示だ。
アラモから送り出されたシェルは、その全てがAIで動くスレーブシェルだ。
過去幾共も訓練を積み課されたBチームにとって、それは見慣れた機体だ。
コックピット部分が細く仕上げられ、その分だけ武装と燃料を多く積んでいる。
しかも、そのシェルは生身の耐久性を計算しない分だけトリッキーな動きだ。
心臓や血管と言った生体部分への負担を考慮しなくて良いのだ。
「ペイトン!」
「解ってるって! やろうぜ!」
何も言わなくともライアンとペイトンはハッキングを始めた。
そもそもが電子情報戦専門と言って良い能力の持ち主だ。
こんな条件では本領発揮と言える。
だが、この戦闘における彼らの立ち位置は少々難しい。
目の前では今も同時進行で激しい砲撃戦が展開されている。
そして、その合間を縫ってシリウスシェルは編隊を組み襲い掛かってくる。
必死になって躱すライアンとペイトンの2機を全員が支援し始めた。
誰も何も言わなかったのだが、自然とそんな動きになったのだ。
「……手強いな」
そう呟いたドリーの言葉に皆が顔を顰めた。
接近戦を挑まざるを得ない状況となると、スレーブシェルは予想外に強敵だ。
一つ一つのマニューバが生身の乗るシェルとは違う次元だ。
しかもそれはミスの許されぬ戦闘でもある。
AIによる完全自立戦闘は、過去の戦闘データから最適なマニューバを選ぶ。
生き残る確率が少しでも高い方。
敵機を撃墜する確率が少しでも高い方。
効率よく敵機の機動余地を削っていき、回避不能へと追い込んでいく。
「向こうも必死ってこったな!」
苦し紛れの言葉で余裕風を吹かしたジャクソン。
シリウス側のシェルは生身のシェル2にスレーブ1などで構成されている。
AIシェルは言うなれば、捨て身で掛かっていくプレッシャー役なのだ。
機動余地を削られた敵が逃げそうな方向に生身のシェルが圧を掛ける。
こうして確実に敵を1機ずつ屠っていくやり方は、ある意味では最強だ。
そして、戦う者にしてみれば最悪の敵と言う事に成る。
数で圧し、連係で圧し、そして、犠牲を厭わない部分で精神的に圧する。
「スレーブシェルを優先して撃破した方が良さそうだな!」
スミスは接近戦を挑み至近距離からモーターカノンを喰らわせた。
シリウスのAI作動シェルは被害を被ることを恐れずに突っ込んでくる。
このシェルが存在する理由はただひとつ。勝つ為の方程式を見つける事だ。
例え撃破されたとて……
いや、そもそもAIで動くスレーブは撃破される事を求めている。
壁役で追い込み役。そして、囮だ。敵シェルをおびき寄せるエサだ。
射撃の瞬間にはどんなパイロットでも機体を安定させてしまう。
どれ程に腕の立つヴェテランであっても……だ。
熟練パイロットでだいたい2秒。上級パイロットならば1秒。
あのウルフライダーや、クレイジーサイボーグズのオリジナルでもコンマ5秒。
その僅かな刹那だったとしても、射撃の瞬間には隙だらけになるのだ。
「スミス! アブねぇ!」
金切り声で叫んだロック。
スミスを狙っていたシリウスシェルはロックの140ミリを受けた。
一瞬の刹那と言うにも短すぎる瞬間だったが、敵シェルは大爆発した。
「射撃の瞬間がアブねぇな」
「そこまで含めて連係するんだろ?」
「……油断ならないね」
ビッキーの言葉にダブが応え、アナは恐怖を漏らした。
コンビプレーで数的優位を作るだけでは無く、消耗や減耗を恐れない敵だ。
そんな事実に気が付き、国連軍側はジリジリと後退し始めた。
「ヤベェな……」
再びジャクソンがそう漏らした時だった。
一際眩い光が戦場を横切った。アラモから放たれた大口径砲だ。
その直撃を国連軍の戦列艦が受けてしまった。
直後に大爆発を起こした。
「アチャァ……」
小さく呟いたバード。そのカメラは捉えていた。
大爆発を起こした巨大な戦列艦が、まるでマッチ棒の様に折れていた。
そして、その破断面からは夥しい量の乗組員が宇宙へと放出されていた。
大型宇宙船ともなれば、その乗組員は軽く五千人を越えるものだ。
高度に自動化され無人化されたセクションも多いが、ダメコンには人出が要る。
超光速大型船ならば、それは絶対的に必要な人員だった。
「おぃ! あいつら!」
ジャクソンの狙撃用高倍率カメラは捉えていた。
艦外放出されて漂う乗組員がシリウスシェルに撃たれて絶命していた。
「あの糞共!」
「ふっざけんな!」
ペイトンとライアンが叫んだ。
ただ、ハッキングはまだ完了していない。
そんなBチームの目の前で起きている惨劇は、全員を沸騰させるのに十分だ。
「あいつらを生かして帰すな!」
ドリーが珍しく荒々しい声で叫んだ。
シリウスシェルは戦列艦の乗組員を執拗に殺して歩いていたのだ。
そのシェルに対し、ドリーは荷電粒子砲を使った。
一瞬の閃光でシェル二機が同時に爆発した。
「クソッタレが!」
ジャクソンも次々と砲撃を開始する。
放出された乗組員を避けるように機体を滑らせ、角度を選んでの狙撃だ。
次々とシリウスシェルが爆発して行くのだが、その破片ですらも危険だった。
ただ、シリウス側はそれに怯む事無く乗組員を攻撃している。
宇宙の虚空に体液を撒き散らしながら、乗組員たちは凍死している。
真空中における沸点温度は限りなく零度に近い。
気化熱として体温を奪われていく乗組員は、酸欠ではなく全身凍結で死ぬ。
丹念に、執拗に、丁寧に。流れ作業ではなく純粋な殺意、敵意だった。
まるでキラキラと輝く様な、混じりけの一切無い殺意。
「ペイトン! ライアン! どうなんだ!」
スミスは状況を訊ねた。
狼狽しつつもどこかまだ落ち着いている状態だ。
だが、現実はジリジリと後退を続けており、実際の所はどうにも出来ない。
全体として推され始めていて、ジリジリと後退中なのは否めないのだ。
「ダメだ! ハッキング出来ねぇ!」
ライアンは泣き言を漏らした。
まるで泣き出しそうな声だとバードは思ったのだが……
「こいつら、前回遭遇したAIシェルとは根本的に違うぞ。そもそもOSが違う」
ペイトンは具体的な手順を語り始めた。
ただ、それと同時進行で乗組員を攻撃するシリウスシェルを追い払っている。
それらの対処とハッキングを同時進行で行なっているのは驚異的なことだ。
ただ、ペイトンが語ったその手順は、正直に言えばさっぱり分からない事だ。
専門外と言う部分もあるが、それ以上に上級者向けの会話は呪文と同じだ。
「つまり、どういう事なんだ?」
僅かに苛ついたダニーが問いただした。
それに答えたのはライアンだった。
「要するに、そもそも通信してねぇんだよ、こいつら!」
「AI同士が通信してるわけじゃないんだよ。スレーブに合わせてんだ。生身が」
ライアンに続きペイトンが叫ぶ。
そしてその真相をバードも理解した。
そもそも決められたアルゴリズムに従い、スタンドオフで走るAIだ。
AIの動きにあわせ生身の方が効率よく振舞っているに過ぎない。
敵を攻撃すればそのフォローし、AIの囮に釣られた奴を攻撃する。
このスレーブは、基本的にアルゴリズムのリアルタイム変更を考慮していない。
それ故、AI同士の情報に紛れ込んでのハッキングが効かない。
通信していなければAIのアルゴリズム書換も出来ないと言うことだ。
「つまり、あのAIは純粋に敵を攻撃する存在って事か?」
ドリーの質問はいたってシンプルだ。
そして、それに答えたペイトンの回答もまたシンプルだ。
「それが一番単純で分かりやすい答えだ!」
「ハッキングも終了だ! 時間の無駄だぜ!」
ライアンは機の操作に専念し、次々と敵の撃墜を始めた。
もはやエリア上の国連軍乗組員は碌にいない状態だ。
その多くから生存反応が消失し、救援ではなく収容を求める信号が出ている。
死体となって宇宙を彷徨うのは辛いから、できれば収容して欲しいと願いだ。
――なんて酷い……
バードはここにきて、始めてテッドが言っていた言葉の意味を初めて理解した。
AIに任せられた戦闘は、ただただ単純なプログラム上の判断をこなすだけだ。
ただそれは、何処までも冷徹な血も涙も無い振る舞いと言う事だ。
敵機を撃破する/されるのいずれかを観測し、有効な戦術を導き出す為のもの。
自らが追い込まれ撃墜される事ですら、その材料となる様に振る舞う。
それがAIだ。単なるプログラム上の存在。虚ろな存在と言うことだ。
「とにかくスレーブシェルを潰せ! あいつらが一番厄介だ!」
ジャクソンはそう判断した。
間髪いれず『同感だな。ガンガン行こう!』とドリーも言った。
自らが破壊される危険性を考慮せず、簡単に死んでしまう人間の抹殺を選んだ。
そこにはシリウス側の言外な意思がにじみ出ていた。
つまり、地球人は生かして帰さないし、生き残る事を許さないと言うことだ。
「全くもって仕事熱心な野郎どもだぜ!」
スミスもまたカノンではなく荷電粒子砲を構えた。
距離があっても簡単にシェルを打ち抜ける威力なのだから便利だ。
戦場を横切る閃光が敵味方のシェルを照らすたび、何処かで爆発が発生した。
そして、そんな閃光を塗りつぶすように、一際眩い光が飛び交っていた。
「あっちゃぁ……」
アナが溜息混じりの言葉を漏らした。
アラモの放った強力な一撃は、少し小型の戦列艦を直撃した。
船体の中央部分がそっくり蒸発し、その断面から再び乗組員が吸い出された。
機関部へ直撃したのだろうか。
一際眩い閃光が広がり、スクラムをかけ損ねたリアクターが誘爆した。
それはまさに、剥き出しの核弾頭だった。
「なんとか回収したいな……」
ビッキーの漏らした言葉にダニーが素早く応えた。
なんとも言えぬ虚無感を漂わせて……
「まずは目の前を何とかした方が良いと思う。回収はその後だな」
撃破された戦列艦の周辺にいた大型艦艇は、負けじと砲撃を再開した。
アラモまでは数万キロ単位の距離だが、荷電粒子砲ならば指呼の間だ。
猛然と砲撃し続けるアラモ。国連軍も激しく砲撃を繰り返している。
双方が意地を掛けて、一歩も引かない激しい砲撃戦を展開していた。。
「あっ!」
「マジか!」
バードとライアンが叫んだ。
同時に全員がその視覚情報を共有した。
どちらかが放った閃光の帯に、敵味方問わず数十機のシェルが巻き込まれた。
一瞬にして機体が蒸発した者はまだ幸せかも知れない。
不幸にも蒸発しきらず爆発した者は、半死半生で宇宙へと放りだされた。
そして、逃れ様の無い死の鎌に首を狩られ、あの世へと旅立って行った。
「こんなロシアンルーレットは歓迎しねぇぜ」
ジャクソンは小さな声で泣き言をこぼした。
目の前で起きたそれは、いつこちらに来てもおかしく無いモノだ。
思わずゾクリと寒気を覚えたバード。
アレが当れば即死は免れない。
――ほんとに勘弁して欲しい……
心のそこからそう願うしかないのだ。
光速で飛び交うその荷電粒子の塊は、互いを激しく削っていた。
どれ程強力な装甲でも、防ぎきれないモノだった。
「……なんだか旗色が悪いな」
そんな事を漏らしたビル。
その言葉にビッキーが呟く。
「大丈夫なんでしょうか……」
「何がだ?」
「……帰れる場所は残っているのでしょうか?」
ハンフリーまで撃沈されてしまえば、、シェルは実際どうしようもない。
国連軍艦隊が全滅し無い事を祈るしか無いし、その為に努力するしかない。
「理屈じゃない。運の良い方が生き残るだけだ」
なんとも巨無的な言葉を口にしたドリー。
どうあがいても、どうしようもない事だって世の中には存在する。
泣きも喚きもせず、ただただ『そう言うモノだ』と受け入れるだけ。
きっと、それが当たり前に出来る者を、ヴェテランと言うのだろう。
ふと、バードはそんな事を思った。
そして……
「またかよ……」
国連軍艦艇が大爆発し、それを見たロックがぼやき節をこぼした。
機関部に直撃を受けたのだろか、猛烈な光が撒き散らされ、各所に影を落とす。
誰かが小さな声で『アチャァ……』と呟いた。
その時だった。
「アッ!」
バードが悲鳴染みた声を上げた。遠くに見えるアラモも大爆発したのだ。
小惑星同士を連結するトラス部分から莫大な量の岩石が撒き散らされた。
動力系統でも接続されていたのだろうか。凄まじい規模の爆発だ。
「逝ったな」
「こりゃ効果ありだろ」
ドリーやジャクソンが静かに呟く。
アラモは姿勢制御を甘くし始め、不規則に回転を始めた。