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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第14話 オペレーション・キラー
179/354

超・超高速飛行

~承前






 ――戦域砲術管制より通達!

 ――エリア3038から4284までのエリアは直ちに退去せよ!


 戦域無線の中に砲術管制の声が響いた。

 バードは慌てて機体を捻って当該エリアを脱出する。


 ややあって、バード達が居たエリアを有質量弾が通過していった。

 真っ赤な尾を引いて飛ぶその物体は、毎秒数千キロという猛烈な速度だ。

 純粋な破壊の意志として存在するそれは、小惑星へと吸い込まれていった。


「ウッヒャッヒャ!」

「すげぇぜ!」


 ジャクソンもペイトンも変な声を出して喜んでいる。

 戦列艦から放たれたその一撃は、巨大な小惑星に降り注いだ。


「このまま全滅してくれねぇかなぁ……」


 ボソリと呟いたロックはそんな言葉を漏らした。

 どう見たってシェル如きでどうにか成る様な者じゃ無い。

 このアラモに到着した時、全員がそんな印象を持っていた。


 移動要塞でもあるアラモは、簡単に言えば複数の小惑星を連結したものだ。

 ジャガイモの様な小惑星とにんじん状の小惑星を中心に構成されている。


 天地方向で約100キロ。

 最大径部分で凡そ30キロの円筒形に近い形状だ。


「あれをどうやって破壊するんだろう?」


 アナは壊すことを前提に話を振った。

 そんな一言にバードはアナスタシアの中にある獰猛な部分を感じ取った。

 闘争本能を遠慮無く剥き出しにする姿は、戦闘AIそのものだった。


「あの小惑星自体は艦砲射撃で機能を停止させる。それは心配しなくて良い」


 ドリーは静かな口調で言った。

 ただ、それは安心や平穏を意味する物では無い。

 何故なら、シェルのレーダースクリーンには夥しい敵影があるからだ。


「まるで蜂の巣を突いた様だぜ」


 ジャクソンがボソリと呟いたとおり、アラモから続々とシェルが発進していた。

 かなりの距離が有るせいか、その実態はまだ見えない。


「あれ…… 敵のシェルですよね?」


 アナは相変わらず天然な言葉を漏らす。

 攻撃対象の小惑星から出てくるシェルがなぜ味方だと思うんだろう?

 思わず吹き出しそうになるバードだが、それは皆同じようだ。


「おいおい、ディズニーランドのネズミならミッキーマウスだろ?」

「……そうですよね!」


 ビルの言葉にアナは明るい声で返答を返した。

 ただ、あまりにそのやり取りが白々しいものだとバードは思った。


 ――AIだから?


 頭の中をそんな言葉がグルグルと回っている。

 この距離ではIFFも確定情報を吐き出しては来ない。


 敵味方の識別がIFFのインジケーターだけなら、そうもなるのだろう。

 攻撃を受けるまでは、敵でも味方でもないUNKNOWN(識別不能)なのだから。


「だけどよぉ…… シェルってこんな速度も出せるんだな」


 嗤う様なライアンの言葉に全員が乾いた笑いをこぼした。

 視界に浮かぶフラワーラインは、まるでストローの様だ。


 Bチームのシェルは、まだ速度を落としきっていないハンフリーから発艦した。

 秒速100キロからのカタパルト加速はバードも初めての経験だった。


 ――絶対に急旋回するな!


 ヴェテランであるドリーの言葉が震えていたくらいだ。

 過去様々な経験を積んでいるはずのドリーですらも身を堅くした発艦。

 それはつまり、チーム内の誰もが未経験な難しいオペレーションだった。


「この速度じゃあっという間だぜ」

「生きた心地しねぇけどな」


 ペイトンの言葉にジャクソンがそう応えた。

 速度計はまだ秒速100キロ少々を示している。

 アラモまでまだ10万キロを軽く越える距離での発艦だった。


 視界に浮かぶフラワーラインの縮尺を変えたバード。

 ストロー状になった機動限界表示は、巨大な漏斗状へと形を変える。

 ただ、その情報が指し示すデータには、顔を顰めざるを得なかった。


 進路を180度変えて戻るには、千キロ単位での旋回半径が必要だ。

 そして、それよりも急旋回を試みれば、間違い無く遠心力の餌食になる。

 光速を越える速度を実現したとて、こんな時は神の摂理逆らえないのだ。


「それよりさぁ……」


 バードはなんとなく猛烈に嫌な予感を覚えていた。

 言葉では表現できないが、今すぐここを立ち去りたいと言う衝動だ。


「どうした?」


 バードに対するロックの言動は、どこか一線を越えてぶっきらぼうだ。

 だが、バードはそれについて怒るとか気分を悪くする事が一切無い。


 ロックは全く無防備な姿を、自分に対して遠慮無くさらしてくれる。

 まるで身内と言う様な解釈は、バード自信が身悶えるほどに嬉しい事なのだ。


「なんだか…… ヤバイ」


 バードの勘が警報を発している。

 その次の瞬間、Bチームの新人3人以外が一斉に緩やかな蛇行動を始めた。

 レーザーなどの対空火器を躱す努力だった。


「バードしょ『バーディーって呼べば良いのよ』


 ビッキーの言葉を遠慮無く切ったバードも、この時点で蛇行動を開始した。

 徐々に速度が落ち始め、距離を詰めつつも蛇行動の振り幅が大きくなってく。


「対空火器に注意しろ。向こうもレーザーなりビームなりの兵器で攻撃してくる」


 スミスは新人3人を呼びつけ、蛇行動の手本を見せた。

 シェルで構成された飛行隊の戦闘を飛ぶBチームは、全機がそんな動きだった。


「……あっ」


 ダニーが呟くと同時。眩い光が宇宙の虚空を駆け抜けた。

 間違い無く荷電粒子砲だとバードは思った。

 そしてそれは、あのサイコロ要塞との戦闘で経験したことだ。


 ――もしかして……

 ――また、エディの手の上……


 バードの直感は概ね当たっている。

 先に行ったザッパー作戦の経験がここで生きていた。


 当たる事無く躱したBチームだが、その後方では次々と爆発が起きた。

 かなりの規模での爆発が続いていて、1機や2機の撃破では無いと直感した。


「あー」

「後ろな」

「ヤベェぜチクショウ」


 ジャクソンの漏らした呻きにペイトンとライアンが反応した。

 後方監視によれば、宇宙軍のシェル10機近くが一瞬にしてデブリに変わった。


 宇宙軍艦艇から発艦したシェルはざっくり勘定して200機近い。

 物量で押す形の国連軍故に、数は力を地でいく作戦だ。

 そのパイロットは大半が生身だが、戦闘AIによる自動戦闘はかなり手強い。

 だが……


「いくらAIでもなぁ」

「勘とかってのは、結局経験だからな」


 スミスとビルはそんな会話をした。

 どれ程に作り込んでいった高性能はAIでも、いきなりの攻撃は防げない。


 敵と相対し、その中で激しくドッグファイトを行うならAIはかなり手強い。

 幾万もの戦闘パターンから最も生存と撃破の確率の高い手を組み合わせるのだ。

 チェスや将棋と言った一定のパターンの中で過去データから最適な手法を選ぶ。

 そう言う作業に関しては、AIの能力が人間を完全に凌駕していた。


 しかし、AIは出会い頭の先制パンチには対処が出来ない。

 敵側のアクションからこちらの動きを考えて手順を組み立てる仕組みだ。

 だが、レーザーなど光速での攻撃は、直撃を受けるまで把握が出来ない。

 そして、撃つ前にそれを把握するには、距離が有りすぎる。


 言葉では説明出来ない違和感を感じ取っての対策や対処と言ったものは、結局、ファジーな感覚を量子論的に処理出来る人間の脳しか出来ない事だ。


「めんどくせぇから一気に斬り込もうぜ」

「……だな。どっちかって言うと、それを期待されてるし」


 ロックは迷う事無く進路を直進に取り、ライアンも負けじと直進した。

 徐々に速度は落ちていて、気が付けば秒速70キロほどだ。

 進路をねじ曲げているのだから、直進方向の慣性力は失われる。


「おっ! もう一発来やがるぜ!」


 楽しそうに言うスミスは、やはりガンナーだ。


 真っ赤に光る有質量弾が再びアラモへと幾つも降り注いだ。

 火薬発射+電磁力加速での複合砲撃は尋常ならざる速度を砲弾に与える。


 猛烈な爆発を伴ってアラモの表面を削り取っている。

 だが、その実は……


「見た目の派手さほどダメージがあるとは思えないな」


 ドリーは冷静に分析していた。

 恐らくは岩石部分の装甲が厚いのだろう。

 打撃力は凄まじいのだろうけど、小惑星自体を破壊するほどでも無い。


「もっとバカスカ撃ちゃぁいいのになぁ!」


 僅かにイライラ気味のダブが漏らした。

 その言葉にビッキーも応えた。


「なんか遠慮気味にも見えるよな」


 新人ふたりが感じた違和感は、当然の様にバードも感じていた。

 だが、それについて何かを言おうとしたその前にスミスが口を開いた。


「遠慮してるんじゃ無くて効果を確かめてるのさ」

「効果ですか?」

「教育課程でなかったか? 弾道再計算と目標撃破率計算」

「……あっ そうか」


 スミスの言葉にビッキーが確認を返した。

 士官教育の中で学んだはずだが、実地で見るのと座学では大きく違う。

 実際に目の前で崩れていくアラモを見れば、その意味を理解出来るものだ。


「重力場を再計算して、狙ったところに当てるってこったな」

「そう言う事だ」


 ジャクソンはスミスとは違う形での弾道計算を行うエキスパートだ。

 宇宙は決して無重力空間ではなく、複雑な重力場が絡み合った状態だ。


 そんな場所で狙った場所へ正確に砲弾を当てるには、何よりデータが要る。

 つまり、経験則で砲撃を加えると言う事だ。


「ほら。参考になるデータが揃った様だぞ?」


 スミスの言葉が終わる前に、夥しい数の砲弾が通り過ぎていった。

 それらは見事な軌道を描きつつ、アラモに降り注ぐのだった。


 小惑星の表面が赤熱化するほどの爆発が続く。

 その合間を縫ってシリウスのシェルは次々と飛び出していた。


「こっち来るぜ!」

「出番だな」


 ライアン機はアラモに向けてチェーンガンを放った。

 それは、キックオフ代わりの一撃かも知れない。

 眩く光る点が恐ろしい速度で駆け抜けていくのだが……


「まっ! まだ遠すぎます!」


 ダブの言葉が上ずった。

 敵への一撃は、ここに居るぞと言う通達の様なものだ。


 なにも敵に教えなくても……

 ダブがそう考えたとしても仕方が無い。

 だが、ライアンはあっけらかんとした調子で答えた。


「コレが仕事だぜ?」


 絶句して二の句の無いダブに対し、皆がヘラヘラと微妙な笑いをこぼす。

 そして、ペイトンやスミスが言った。


「俺たちはその為に居るのさ」

「その為に必要とされてるってこったな」


 何とも嫌なコメントだが、ダブはもう抗議する気力も無かった。

 それならそれで仕方が無い……と、そんな心境だったのだ。


「ん?」


 ダニーは微妙な声音で呟いた。


「なんか光らなかったか?」

「面倒の予感だぜ」


 ロックもまたそんな言葉を口にする。

 アラモを飛び出すシェルとは別に、何かが続々とアラモから飛び出している。

 レーザーやビームとは違う光が見えるのだが、まだまだ距離が有りすぎた。


「……ミサイルだな」


 光学機器としては最大倍率を持つジャクソンがそう分析した。

 敵機までの距離はまだ4万キロ強を残している。


「全機減速しろ! 踊るぞ!」


 ドリーのスイッチが入った。バードはそう思った。

 同時に逆噴射を掛けて速度を殺していく。ブレーキバーニアの炎が続く。


「流石になかなか落ちねぇな」

「慣性の法則ってな」


 ペイトンとビルの声が無線に流れるのだが、冗談を言ってる場合じゃ無い。

 秒速50キロ程度まで速度が落ちるも、まだまだフラワーラインは細い。


「慣性は仕方が無い。感性に従って迎撃しよう」


 ドリーのジョークが漏れた。

 思わず脱力する系のものだが、緊張した空気をかき回すにはちょうど良い。

 バードもチェーンガンをキックオフして射撃に備えた。油圧は問題ない。

 アラモから放たれた高機動ミサイルがグングン迫ってくる。


「さて! 迎撃迎撃!」


 まだ数百キロの彼方だが、ジャクソンは荷電粒子砲を構えて迎撃を始めた。

 カノンでは無くビーム兵器と言う所がポイントだ。

 光速で跳んでいく荷電粒子砲ならば、回避は出来ない。


 当たるか当たらないかでは無く、手を拱いて見ているか否かの違いだ。


「収束射撃しよう。全機、データリンクだ」


 ドリーの指示が飛び、バードは仮想スイッチの中のリンク17を起動した。

 複数のシェルが持つ敵探索機能とレーダー解析を連動させて情報精度上げる。

 要するにRAIDモードだが、コレが案外効いてくるのだ。


「射撃管制はジャックに任せる」

「あぁ、了解」


 散開した各シェルの荷電粒子砲が全て連動し始めた。

 次々と撃破される高機動ミサイルの火球は、まだまだ遙か彼方だ。

 だが、飽和攻撃状態となって次々と発射されるミサイルの数は夥しいものだ。


「……撃ち尽くす腹だぜ」

「義務を果たしてるんだろうさ」


 例え生き残ったとしても責任を追及されることになる。

 指揮官の辛さはここに尽きる。故に、残弾無しになるまで撃ち続けるのだ。

 小惑星故にその在庫も豊富なのだろうとバードは思う。


 撃てども尽きぬその数は、夥しいなどという表現では生ぬるいものだった。


「まだ撃ってるよ……」

「在庫一掃ってこったな」


 バードとロックが呆れた声を出す。

 ビルがそれに口を挟んだ。


「陥落するのを前提に、爆発物を外へ放出してるんだろうな」


 小惑星の内部に弾薬が残っていれば、それだけで誘爆の危険がある。

 戦闘基地である以上は、洒落にならない数での備蓄がある筈だ。

 それら全てを事前に使い切っておく事で、兵士の命を救うのだろう。


 考えてみれば、理に適っている話だった。


「あの基地の中にゃ、例の政治将校とやらは居ねぇのかな」


 ふと、ライアンがそんな事を言った。

 『なぜ?』と聞き返すビルにライアンが言葉を続けた。


「いや、撃ち尽くしたら徹底抗戦ってのが難しくなる筈だ」

「むしろ余力を持った状態での戦闘の方が処分されると思うぞ?」


 『そうかなぁ……』と腑に落ちないライアン。実はバードも同じ意見だ。

 戦闘余力を常に残しておかないと……と、そう教育を受けていた。

 だが……


「逃げ出すにしたって、戦力が残っていれば敵前逃亡を疑われる」

「……だよな」

「これだけの戦力差だ。陥落するのは誰だって解るだろうし、むしろひっくり返せると思ってるなら――


 なんとも小馬鹿にした様な乾いた笑いをビルはこぼした


 ――戦闘指揮官としては失格以前の問題だな」


 戦闘とは命のやり取りでしか無い。

 そんな状況で希望的観測や理想的展開を前提に戦闘を考える者をバカと言う。

 常に最悪の状況を想定し、そのなった場合にどう対処するかを考えるものだ。


「じゃぁ、負け戦前提の場合は?」

「簡単さ。チャッチャと撃ち尽くして、後は尻に帆を掛けて逃げるのさ」

「逃げる?」

「あぁ。お前ら逃げるな!とか喚く政治将校をふん縛って、後は急いで逃げる」

「……あぁ。そうか」


 部下に慕われない上司の辿る末路はいつも悲惨だ。

 戦闘能力を消失した状態で逃げられない様にしておき、置き去りにする。

 敵が殺してくれれば重畳だし、捕虜になっても言い訳は立つ。


 どんなに忠誠心篤く強い信念を持っていようとも、人間の本質は利己的だ。

 先ずは自分が生き残る為に最大限努力する。そしてそれは組織も同じ。

 組織的な死を迎える前に、膿を出し切り、癌を切除するものだ……


「とりあえず、俺たちが海兵隊から切除されない様にだな……」


 ドリーの微妙な言い回しに全員が笑った。

 ミサイルはジャクソンが全て撃ち落とし、虚無の空間には破片が漂っていた。


「デカい破片は自力で躱せ。突入する。敵シェルを片付けよう」


 そんな指示が無線に流れ、バードは奥歯を噛んだ。

 本格的なシェル同士の戦闘が始まろうとしていた。


「いくぞ!」


 ドリーが先頭に立って突入する。

 各機が散開編隊で一気に斬り込んでいった。

 その後方には宇宙軍のシェルが続く。


マリーン(海兵隊)の流儀をネイビーさんらにお見せしようぜ!」


 ペイトンの言葉は、本当にそのままの意味だ。

 殴り込み部隊で斬り込み隊で、そして喧嘩屋。

 海兵隊はその為に存在する。


 改めてエライ所へ来てしまったと気を重くしたバードだが……


「見えてきたね……」

「……白いぜ。あいつら」


 ロックはボソッとぶっきらぼうに呟いた。

 遠くに見えるシリウスのシェルは、純白のボディに真っ赤なバラのマークだ。

 赤薔薇はシリウス暫定政府以来の象徴だそうだが、問題はその隣だ。


「あれは……」

「音符マークか」


 スミスとビルもそう呟く。

 飛び出してきたシリウスシェルは夥しい数だが、そのどれもが音符付きだった。

 立たないはずの鳥肌が立った様に錯覚し、バードは装甲服の上から腕を撫でた。

 そこに居たのは、間違い無くウルフライダーと同じ音符のシェルだ。


「テッド隊長とヴァルター隊長が言ってたっけ」

「……だね。メンバーそれぞれが育てたチームに同じマークがあるって」


 ロックとバードはふたりの隊長から来た言葉を無線に流した。

 それはきっと自分たち以外が知らない情報だと思ったのだ。


「距離700!」


 バードの声が無線に流れた。

 ここまで来たらガチでやり合うだけだ。


 シリウス軍シェルは基本的に3機一組で事に当たるシステムのようだ。

 バードは手近に居たロックやライアンと編隊を組んだ。


「しっかり訓練されてんな……」


 何を思ったのか、ロックはそっと呟いた。

 ライアンはそれに素早く反応した。


「こっちだって場数じゃ負けねぇぜ」

「……だな」


 ロックの声が明るくなった。

 やり合うだけだとバードも覚悟を決めた。

 ひとつひとつのグループを撃破しつつ、全体を俯瞰するバード


 ――圧倒とまでは行かないけど……

 ――押されてるね……


 なんとなくだが国連軍側が押され気味だ。

 ジリジリと後退しつつ、上手く受け流して反撃している。


 シリウス軍は不退転の覚悟を見せて果敢に攻撃を繰り返す。

 国連軍側はターンチェンジのチャンスを待つ様に、ゆっくりと後退していた。


「コレは圧されてるね」


 バードの率直な言葉にアチコチから乾いた笑いがこぼれた。

 正直に言えば、問題なく敵機の撃墜を行えるのはBチーム以外に余りない。


 生身の搭乗するシェルは、高速戦闘をAIの自動制御で戦う。

 幾多の戦闘データから『勝ちパターン』を探しだし、それを実行する仕組みだ。

 生身のパイロットはAIの提案を承認し、監督するのが主な仕事になる。


 秒速10キロを超えた辺りから、手動操作では制御が追いつかなくなるのだ。


「AIが負けてるのか?」

「いや、どちらかというと連係が上手いんだな」


 ドリーの言葉にペイトンがそんな分析をした。

 シリウスシェルは実に上手く逃げ場を埋めながら迫っている状態だ。


「とりあえずフォローに回ろう」

「そうだな。それが良い」


 ドリーはBチーム全体を移動させて弱いエリアのカバーに向かう事にした。

 あまり後退しすぎれば、戦列艦の砲撃に邪魔となるのだ。


「しかしよぉ!」

「まだ増えてんぞコレ!」


 ライアンもロックも泣き言を漏らす。

 それを聞いてたバードも『敵機は100を越えてる!』と喚く。


「とにかく自分がやられねぇ様にな!」


 ペイトンとビッキーを燎機にしたジャクソンが叫んだ。

 距離を取って狙撃するのがジャクソンの勝ちパターンだが、ここではガチだ。

 激しいドッグファイトを演じ、全周囲の敵シェルを撃破している。


「いずれにせよ、先ずは押し返すのが先決だ」


 スミスはダブとダニーを従え、シリウスシェルのトリオを次々と撃破していた。

 幾度かやり合って得たスミスの勝ちパターンは、まず1機を落とす事からだ。

 燎機が落とされ、穴を埋める様に後続が上がってくるタイミングを狙うのだ。


 何とも陰湿なやり方だが、3機一組のシステム戦闘ではコレが案外盲点になる。

 その戦闘パターンは全員が共有し、各所で徐々に押し返し始めた。

 猛烈な処理能力を持つドリーにより、戦域を俯瞰する戦闘支援の賜物だ。


「ドリー! そっちはどうだ!」


 ジャクソンは後続を削りきり、小惑星からのシェル発進が止まっていた。

 ビルとアナを連れて事に当たっているドリーもまた、戦域を削っていた。


「そろそろ看板らしいな!」


 そう叫んだドリー。

 同じタイミングで戦列艦の砲撃が収まっていた。

 気が付けばアラモがアチコチで炎上している状態だった。

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