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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第12話 オペレーション・ビッグウェーブ
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機雷封鎖面突破

~承前





「だいぶマシになってきたな」


 編隊の先頭を飛ぶドリーは満足そうにそう呟いた。

 チームの中で2週間の猛訓練を行なったビッキー、ダブ、アナの3人は、とりあえず飛ぶ以上のコントロールは身につけている。だが、それでシェルの神髄を得られるほど甘い物では無い。


「シェルドライブは素質と慣れが大きいからな」


 Bチームからやや離れたところ。

 単騎で飛ぶテッド中佐は、満足そうな言葉でそう言った。

 Bチームの12機は見事な編隊を組んで虚空を飛翔していた。


 その編隊からテッド機を挟んだ反対側。

 漆黒の闇に一際輝いているのはCチームの12機だ。


「誰だって最初はレベル1だからな」


 Cチームを率いるウッディ少佐も、新入り4人を徹底的に鍛えたらしい。

 Bチームの3人もそうだが、新人訓練のカリキュラムはどんどん進化している。


 一日で一年を過ごせるサイボーグだが、その実はやはり仮想空間でしか無い。

 厳しい横G環境で身体中をギシギシ言わせながらの訓練は中身が違うのだ。


「あとは、百回の訓練より一回の実戦だ」


 テッド隊長の言葉には、キンと冷たい棘が有った。

 慣れてくれば油断するし、侮れば気を抜いてしまう。

 そんな時にこそ痛い目に遭うし、場合によっては戦死する。


 どんな事でも一緒で、根拠の無い自惚れを持った頃に一番失敗しやすいものだ。

 ヴェテランとは、傍目に見て臆病なほど慎重になっていくもの。

 経験という名のステップを、一つ一つ踏みしめて登っていく。

 きっとそれを『人生』と言うのだろうし、それを理解して初めて上級なのだ。


 高い山の頂に立たねば見えない景色がある。

 一つ一つ積み重ねていかねば、たどり着けない境地がある。

 幾度も幾度も痛い目に遭って、厳しい経験を積み重ねて、辛さを乗り越えて。

 百の訓練よりも勝るモノがあるのだと言う事を、バードは理解しつつあった。


「さて、では手順を再確認しよう。今日の任務は簡単だ」


 ドリーが切り出した。

 24機のシェルは、漆黒の宇宙を秒速35キロで飛翔していた。


「バウショック面に向かって広がる機雷原を掃除する。そもそもシェルはこういう任務の為の船外作業機だ。本来の任務に狩り出されることを感謝しよう。そして、レーダーエコーに寄れば未知の存在がここに居るらしい。正体は残念ながら解析出来ていない。ただ、IFFに反応しないのだからシリウス側兵器だ。それを掃除する事になっている」


 バードは思わず『うへぇ……』と声を漏らした。

 その音が無線に広がったのか、クスクスと小さな笑い声が聞こえた。


「民間船ですら通過出来ない状況だ。航路開鑿の任務は重大だからな。抜からずにやろう。多少の妨害は折り込み済みだから、実力で排除して良い。とにかく大切なのは、こちらに被害を出さないことと、もう一つは航路を作ることだ」


 グングンと加速し速度の乗っているシェルは、気が付けば秒速39キロまで増速していた。その辺りでエンジン推力の限界に達し、速度の上積みは無かった。


 機体は極々僅かな震動を発しているが、問題になるレベルでは無い。

 バードはコックピットのレーダーを操作して、前方の封鎖機雷面を表示させた。


 まだまだ距離が有りすぎるのか、封鎖面を形作る機雷位置は完全に特定されておらず、存在の可能性が高い雲としての分布確率表示状態だ。


 ――これ、厄介なパターンだ……


 バードは内心でそう独りごちた。

 30秒で千キロを飛べるシェルだが、レーダーの解析能力はそれほどでも無い。


 そのとんでも無い相対速度で接近してくる敵機や、撃破し敵機だった残骸(デブリ)になりはてた物を分析し、直前で自動回避したり迎撃したりと言った機能は素晴らしいのだが、いかんせん物理的な距離だけはどうしようも無い。


「後方からハンフリーが接近してきている。先ずは艦艇が通過出来る隙間を作ることが重要だ。しっかりやっていこう」


 ドリーの言葉が終わり、バードは共通戦術状況図(CTP)に表示される全体配置を再確認した。後方三千キロ程の所にいるハンフリーは、距離を保ったまま淡々とした速度で前進中だ。

 パンツァーカイル陣形を取っているBチームは、先頭の楔にドリーが陣取り、そのドリー機を正四面体の頂点となるよう、スミスとペイトン、そしてロックが陣取っていた。

 その後方にはジャクソンを頂点とし、ビルとライアンにダニーが形作る正四面体が続く。最後方に陣取るバードは新人3人を連れ、三段目のポジションで正四面体を作っていた。


「飛び込んでいくけど絶対目を閉じないように」


 先輩風だけは吹かせたくない……と、バードはそんな事を思っている。

 ただ、士官学校で教え込まれたリーダーシップの意識はまだある。

 苦い記憶や経験は、後へ続く者に伝えなければ意味が無いのだ。


「……これ、平気なんですか?」


 ダブはやや上ずった声でバードに尋ねた。

 言いたい事はよく分かるし、バードも最初はそう思った。


 今さら思い返せば、随分な()()()だった。

 いきなり夜中に叩き起こされて、いきなりの実戦シェルドライブだった。

 ショック療法の好きなテッド隊長の方針なのだから仕方が無い。

 ただ、まだシミュレーターしかやってなかったシェルでいきなりの出撃だった。


「平気かどうかは神のみぞ知るって奴よ。運が無ければ死ぬだけ」


 サラッと言い切ったバードの言葉にチーム内から爆笑が沸き起こった。


「おいおい!」

「もうちょっと新人に優しくしろよ!」

「冷た過ぎんぜ!」


 最初に突っ込みを入れたロックに続き、ジャクソンとライアンが笑った。

 その笑い声の向こうにはドリーやビルやテッド隊長の笑い後も混じっていた。


「まぁ、間違ったことは言ってないけどな」


 ダニーはフォローにすらなって無い言葉を吐いてトリを飾った。

 間違い無く唖然としているアナやビッキーは、言葉を失っていた。


「……現実問題として、ヤバイと思っても避ける事は出来ないからね」


 朗らかな声で言ったバードは、新人3人が震え上がっているのを感じた。

 あまり脅しても良い事は無いが、油断させてはいけないことだ。


 こんな時、キュッと手綱を締めたり緩めたり出来るテッド隊長は凄い……と。

 改めてバードはソレを痛感した。

 そして、ソレを教え込んだエディのすごさを感じ取った。


「目を閉じずに飛び込んで、機雷封鎖面を突破するの。気合と根性よ」


 サラリと笑ったバードは新兵器である荷電粒子砲を構えた。

 従来の大型兵器だったソレと比べ、大幅に小型軽量化されていた。


「大丈夫。1段目2段目で全部片付けてくれるから」


 アハハと笑って発火電源を入れたバード。

 同じタイミングでドリーは機雷面へ手が届く所へ進んでいた。

 前方でパッパと電光が飛び交い、小規模爆発が連続している。


「絶対に目を閉じちゃダメ!」


 ドリーの直下にいる3機が連続砲撃を開始した。

 機雷封鎖面と言っても、案外と奥行きがあり、面と言うより帯という状態だ。


 強力な磁気反応系のため、接近しすぎればシェルでも反応し爆発するだろう。

 そうならぬよう距離を取り、連続射撃を可能とした荷電粒子砲で砲撃する。

 激しい爆発が連続し、その破片が飛び散って周囲の機雷が連鎖爆発する。


 猛スピードで飛ぶシェルの編隊は、各機が機体各所にガンガンと細かい破片をぶつけている状態だった。

 機体各所から火花が飛び散り、流石のバードも肝を冷やすのだが……


「こりゃ深いぜ!」


 先頭に陣取っていたロックが叫んだ。封鎖面の帯へと斬り込んでいった先頭の4機は、掘っても掘っても終わらない機雷の帯へと足を踏み入れてしまっていた。


「後続で頼む!」

「おう! 任せろ!!」


 二段目に陣取るジャクソンは、狙撃型の砲を構えて遠距離射撃に移った。

 弾着距離がかなりあるので、爆発に一瞬だけ間が開く状態だ。

 ただ、そんな事を気にすること無く、ジャクソンはガンガンと撃ち続ける。

 ジャクソンのサポートに付いているダニーやライアンも、次々と砲撃していた。


「……避けるよ!」


 バードの声が響き、新人3人はクワッと目を見開いて前方を見た。

 迫ってくるのは巨大なドラム缶状の何かだ。


 その正体を掴む前に機体は回避不能点へ到達し、判断を迫られる。

 すさまじい速度で迫っていく副作用で、安全であるか否かを確認する前に決断が要求されるのだ。つまり、事実上のギャンブルでしかない。


 外せば死ぬと言う命懸けのギャンブルだが……


「よしっ! 突破した!」


 先頭に立っていたドリーが叫んだ。

 チームの12機は機雷封鎖面を突破し、外宇宙へ第一歩を踏み出した。

 感慨深く何かを感じる事もなく、バードは広大なボイドの闇を眺めていた。

 この闇の向こうに、自らのルーツがあるのだと思いながら。


 遠くに輝くシリウスは蒼く気高く光っている。

 10光年の彼方にあるその星が、一瞬微笑んだような気がした。


 その時……


「スレーブシェルだ!」


 ペイトンが叫んだ。

 仮想敵としてさんざん練習相手にして来たシェルがそこに居た。


 ──何もない訳じゃないよね……


 目視で確認できる距離ではないので、レーダーを確認するバード。

 少なくとも20機か25機はそこにいて、戦闘体制になっている。

 そして更にその後方にはあと二つ程度の『存在する可能性の雲』があった。


「さて…… ビッキー! アナ! ダブ! 慎重に変針してこっちへ来い!」


 テッド隊長が新人3人を呼び寄せた。

 まだまだ高速戦闘が覚束ない3人は、素直にテッド隊長機の下へと移った。


トミー(トーマス)! ジェフ(ジェファーソン)! メイ(メイファ)! ダム(ヴァンダム)! お前達もだ!」


 ウッディ隊長はCチームに配属された新人を呼び寄せ、テッド機の所へと寄っていってクラスタを作った。ある意味でヴェテランばかりが残されたことになるのだが、そんな彼らにテッド隊長からの冷たい指令が流れた。


「新人へのお手本戦闘だ。抜からずやれよ」


 ――うへぇ……


 思わず舌を出してしまうバード。

 コックピットの中の空気が僅かに震えた。


「さて……」


 何処からかロックの声が聞こえた。その僅かな音でバードは気を入れ替える。

 花も恥じらう乙女では無いが、恥ずかしい所は見せたくない。

 ロックがチームの中で欠かせぬ存在な様に、自分もそうなりたいのだ。


 『隣に立つ為に』


 それがバードを支える魔法の言葉だった。

 ただ、現状すでに彼女はチームの中で欠かせぬポジションに居る。

 チームの中で一定以上の立ち位置を獲得している事を、本人は気付いてないが。


「闇雲に掛かるとアブねぇな」

「ビル! スミス! ペイトン! 前衛だ! 斬り込んでくれ!」

「「「りょーかい!」」」


 ドリーの指示で3機が前に出た。

 正確には全機が目一杯の速度なのだから、それ以外が後退したと言うべきだ。


 バードはロックとライアンが下がってくるのを見計らって速度を調整した。

 全速力よりもちょっと遅いくらいがコントロールしやすいのは経験済みだ。

 徐々に速度を落としていって、気が付けば秒速25キロになっている。


 遅すぎると言う気もするが、実際にはとんでも無い速度だ。


「ロック! バード! ライアン! ダニー! 後衛だ!」

「おっけー!」


 やる気満々のライアンが叫ぶ。

 バードだって『了解!』と返していた。


「ジャック! 狙い撃ちで行こう!」

「そうだな。良い戦術だ」


 全機がポジションに着いた所で前衛側が自動戦闘シェルの面を突き抜けた。

 AIは純粋に戦う事を選択して旋回する者や、全体を様子見して大きくRを描く者に別れていく。このAIは死ぬ事に対し抵抗が無い。

 敵を観測し、その動きを観察し、そして、次の動きを膨大なデータから予測して対応する。将棋やチェスと同じように、序盤は弱いが手を進めるウチにドンドン強くなっていくのだ。


「とにかく数を減らすか」

「それが良いね」


 ロックとバードは側面や背面を見せるシェルを狙う。

 後衛組み近くまで進出してきたAIシェルがターンし始める中、後衛組みは一斉に射撃を開始した。次々と爆散するAIシェルは、莫大なデータを何処かヘ送信して果てていく。


「……なんだか妙な気分だな」


 ロックの言葉には、微妙な感触の悪さと罪悪感が滲んだ。

 AIシェルは撃破する/されるの経験を仲間に伝えて消失する。

 そのデータ(経験)から生き残ったAIシェルは最善手を希求するのだった。


 ただ、敵シェルからは闘争心や敵愾心と言った物を一切感じない。

 それはつまり『こころ』が無いのだ。言い換えれば『意識』が無い。


「だけどさぁ……」


 バードが僅かに言いよどんだ。

 それにビルが言葉を返した。


「やっちまったな」


 前衛面を突破したAIシェルが全て撃破された事で、敵シェルは強引な突破を行なわなくなった。そして、ビスやスミスが()()()()()として十字砲火を浴び始めてしまった。

 敵シェルはこちらの前衛と後衛に挟まれるのが危険と判断し、まず前衛に攻撃を集中させる作戦のようだ。


「案外賢いな!」

「俺たちより賢いんじゃね?」


 ペイトンの言葉にライアンが笑いながらそう返した。

 それとほぼ同時進行で、前衛のビルとスミスに狙いを定めるAIシェルをジャクソンが狙撃していく。従来の荷電粒子砲は、15発も打てばカートリッジ式バッテリーが尽きていた。

 しかし、タイプ04と共に支給された荷電粒子砲はリアクターが燃え尽きない限り、ジェネレーターが焦げ付かない限りに連射できる。それは文字通り、夢にまで見たビームライフルの実用化だった。


「とりあえずあいつら何とかしようぜ!」


 ジャクソンの声に弾かれ前進していくロックとライアン。

 そのやや後ろをバードも上がっていく。その隣にはダニーが陣取った。

 9機が様々な角度から遠慮なく撃っていけば、敵シェルは一気に数を減らす。


 ただ、最初のグループを全滅させても、後方には次が控えている。

 安全な場所に陣取っていた別のグループは、ジワジワと前進して来ていた。

 こっちは更に数が多く、40機程度のグループに見える。

 

 そのシェルたちは各所に磁気浮遊機雷を撒いていた。

 Cチームの面々も次々と敵を撃破しているのだが、やはり数が多すぎるらしい。

 優先的に機雷を除去しつつ、航路開削に力を入れている。


 ただ、その開けた場所から優先的に機雷を敷設するAIは、犠牲を省みない。


「マジかよ!」


 ペイトンはシェルの姿勢を調整して射撃を開始した。荷電粒子砲は絶好調だ。

 次々と敵機を撃破しつつ様子を見ていたバードも、思わずニンマリする威力だ。

 ただ、それにしたって敵の数が多すぎる……


「最後方のグループは百機近くいるな……」


 ウンザリするように呟いたライアンは、小さく溜息をこぼしつつそう言った。

 実際に荷が勝ちすぎているのは如何ともしがたいのだ。


「まだ百機程度じゃないか。諦めるには早いぞ」

「そうだ。俺とテッドはニューホライズンの上空で13対300の戦闘をした」


 テッド隊長とウッディ隊長が発破を掛けてくる中、バードは溜息をこぼす。

 余りに酷い戦闘だが、それを乗り越えてきたから隊長達の技量があるのだ。

 そのデタラメに近い武者修行の成果が今の無敵ぶりだとするなら……


「なんか違う手を考えないと」


 ぼそっと呟いたバードの言葉に、ライアンが『そうだよな』と漏らした。


「なぁ! アナ! 敵の広域通信バンドは分かるか?」


 職能として通信手であるアナスタシアは『はいっ!』と上ずった声で答えた。


「送受信両方のバンドをシュトラって(束ねて)送ってくれ」

「はいっ! ……今送りました!」

「早いな! ジョンソンよりよほど早いぜ!」


 ライアンの軽口に全員が笑った。

 戦闘中と言うのに予想外の緩さを見せるBチームにアナが驚く。

 もちろん、ダブやビッキーもだ。


「どっかでくしゃみしてんぜ!」


 ジャクソンの言葉が漏れると同時、ライアンが『あはっ!』と笑いだした。


「ペイトン! こいつらのセキュリティ、ザル以下だ」


 ペイトンへデータ通信用バンドのヘッダ情報を転送したライアン。

 そのデータを確認しつつ、ペイトンも小さく笑った。


「こいつら…… この程度か?」


 チーム無線の中にザーッとノイズのような音が流れた。

 その直後、Bチームへ突撃を開始していた敵機が急遽ターンした。


「え? 何したの?」


 驚いたバードの声が上ずる。

 もちろん驚いたのはバードだけではない。

 ロックやダニーも警戒態勢を崩さないままだ。


「あのAIにハッキングを仕掛けた。敵識別アルゴリズムの中のIFFチェックのところを書き換えて、敵反応では無く味方反応に攻撃を加えるようにしたのさ」


 ライアンは楽しそうにそう言った。

 いたずらっ子が自分のイタズラの成果をひけらかすようなものだ。

 敵機はスーっと旋回し、味方である筈のシェルを攻撃し始めた。

 激しい砲火が飛び交い、次々とシェルが爆散している。


「なんだよ、案外上手く行ったぜ」

「こうやって見てると、なかなか優秀なアルゴリズムだな」


 ライアンとペイトンの仕掛けたハッキングは大成功だ。

 次々と同士討ちを演じているシェル達は、勝手にかずを減らし始めた。

 これこそが無人兵器を戦場から駆逐した一番の要因だった。


「しかし……」

「あぁ、エグい手を使う奴がいるな」


 戦場を観察していたチームの面々は、戦闘アルゴリズムのなかにトリッキーな動きを選択する個性を見つけた。そんな機体は大体が、正攻法のなかに予想外の動きをいきなり混ぜ混んでいる。


「なぁテッド」

「あぁ」


 離れた位置で見ていたテッド隊長とウッディ隊長がクスクスと笑いだした。

 ややあってその笑いは賑やかなものになり、やがて大笑いに変わった。


「いまの見たか!」


 聞いたことのない声が無線に流れた。

 声の主はウッディ隊長だ。


 そして……


「あぁ! 一瞬だけ焦ったさ!」


 ウッディ隊長と同じようにテッド隊長が笑った。

 ゲラゲラと笑うテッド隊長とウッディ隊長は、手を叩いて喜んでいる。


「よしっ! かわせ!!」

「あぁ! そっちじゃないぞ!」


 何がそんなに楽しいのかと訝しがるバード。

 だが、その答えはテッド隊長が叫んだ。


「アーッ! まーたディージョがやられた!」

「あいつのパターンだったな!」


 なんだそれは?と首をかしげたバード。

 そのすぐ脇にやって来たロックからスケルチが入った。


『なんだと思う?』

『テッド隊長の青春時代……とかな』

『やっぱりそう思う?』

『あぁ。動きがまんまテッド隊長だ』


 AIによる自動戦闘は、まるで複数の隊長達がジャレあっているようなものだ。

 予想外の動きを見せたかと思えば、手堅い動きで相手を追い詰める事もする。


 それはまさに、テッド隊長やウッディ隊長がみせた熟練の動きそのものだ。

 そして、訓練の時などで散々と味わった、狙い済ましたかのように一撃を入れていくヴェテラン揃いな隊長達の動きそのもの。

 多少は甘い部分もあるが、『群れ』を作り点ではなく面で推してくる動きは、熟練を感じさせるものだった。


「またテッドの勝ちだな」

「あぁ、まるでニューホライズンの上空だ」

「さんざんやった戦闘そのものだな」

「まるでディージョがそこにいるようだ」


 寂しそうな言葉を吐いて黙ったテッド隊長は、突然荷電粒子砲を放った。

 つい先ほどまで良い動きをしていたAIシェルは、ど真ん中に一撃を受けて爆散した。


「また俺の勝ちだな! ディージョ!」


 その言葉に帰ってくるものはなかった。

 辛そうなため息と共に、戦闘空域から敵機の姿が消え去っていった。


 重い沈黙が続き、やがてテッド隊長が『帰投する』と漏らした。

 バードは祭りの後の寂しい余韻を感じつつ、大きく旋回していった。


 ふと振り返った時、AIシェルの残骸が幾つも漂っているのが見えた。

 あのAIシェルの戦闘プログラムに、バードは隊長たちの青春を感じていた。

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