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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第10話 オペレーション・クトゥーゾフ
105/354

後退

 ――――金星 アフロディーテ基地内部 中央棟手前付近

      暫定金星標準時間 5月28日 1700






 中央棟に突入したBチームはODST3個大隊を支援しながら基地内部を前進していた。Bチームの後方には新生Aチームが展開していて、海兵隊の工兵チームと共同で中央棟を根こそぎ吹っ飛ばす為の爆薬設置を進めている。

 だが、そんな国連軍を妨害するべく、シリウスレプリによる文字通り捨て身の攻撃が続いていて、ODSTの犠牲者が段々と増えていた。最初は面で押していた海兵隊も、気がつけば穿孔突破戦術状態になっていて、各所で分断されたり、或いは孤立しかけてBチームが救出るす場面が増えていた。


「なんだか空気が悪いな」


 ポツリと呟いたドリーは溜息をこぼした。一時的な小康状態を受け小休止を入れているBチームの面々は、バッテリーマガジンの残量を計算したり、或いは、同行しているODSTの負傷隊員をケアしていた。


「ダニー そっちはどうだ」

「軽傷者8名、銃軽傷者12名、重傷者1名、死亡9名です」


 ダニーの報告を聞いたテッド隊長も頭を抱えつつある。降下突入責任者のフィールズ少佐は海兵隊とODSTを率い建物の爆破準備に忙しい。つまり、建物内の残敵掃討はBチームと共に矢面に立つODST102の仕事になっている。

 総勢100人を越えるODST102だが、既に30人が事実上戦闘不能になっていて、ここから先は更に厳しい抵抗が予想されている。現実に続々と新手のレプリが現れていて、そんな中で海兵隊は善戦しつつも、面で押されていた。


ボス(隊長) 一旦仕切りなおしに……」


 ジョンソンの声にはネガティブという色が混じる。現状では誰だってそう考える局面だ。少なくとも部下の命を預かっている指揮官であれば、ここで無理に前進を図るよりも仕切り直しを選択するべきだし、むしろ、それを行わない積極的な理由は無い。なぜなら、犠牲者は増え続けている上に、弾薬や電源の残量は続々と厳しい局面を迎えているのだから。


「テッド!」


 後方からやって来たフィールズ少佐は、フルフェイスヘルメットのバイザーを上げてきた。厳しい表情に言いたい事を理解したテッドも僅かな首肯で応じた。


「余り良い状況じゃ無いなロニー」

「一旦後退するべきだと俺は思うが、テッドもそう思うか?」

「俺たちだけなら色々と面倒が起きても最後は力技で切り抜けるし、それに、無茶も出来る。しかし……」


 テッド少佐の言う『力技』が何を意味するのかを知っているだけに、フィールズ少佐は思わず唾を飲み込む。過去何度もサイボーグが目の前で自爆を選択し、笑いながら爆散して果てるのを見てきたのだ。

 だからこそ降下突入の責任者としてはサイボーグにも気を使わねばならない。追い込まれたとなったら、Bチームと言えども迷わず自爆を選択するような責任感の強い者たちばかりだ。


「……後退しよう。テッド」

「そうだな。それが賢明というモノだろう。それに」


 生身もサイボーグも同じく、作戦は無事な帰還を果たして初めて成功と言える。後退局面を迎えつつある中、安全に部下を連れ帰り次の作戦へと繋げる事も指揮官の重要な能力と言える。テッド少佐はBチームのメンバー全員に聞こえるように、敢えて無線を使って喋っていた。


「勇気のいる事だが誰かが言い出さなきゃならない」


 全員が士官で構成されるBチームは、ある意味で非常に特殊と言える集団だ。そして、その特殊で特別な集団を任されたテッドという人物には、指揮とは別に本当の任務が有るのだとバードは初めて気がついた。間違いなくこの男性はエディにとって息子のような存在であり、そして最高傑作なのだ。


オヤジ(隊長) いいんですか?」

「あぁ。やむを得ない。戦力をすり減らして次の作戦行動に支障が出るよりかは良いはずだ。そう思わないか?」


 テッドがエディから託された本当の任務はひとつしかない。一癖も二癖もある人間の上官となって、エディのお眼鏡に叶う能力を持った一流の士官に彼らを育て上げることだ。

 そう遠くない将来、海兵隊の都合でサイボーグチームが増えた時の為に、大隊を任せておける能力を与える事。その為に厳しい局面へガンガン投入し、揉まれ、しごかれ、鍛えられ、士官としてでは無く指揮官として一流の人物を作り上げる事。


「生身を先に後退させてくれ。Aチームと孤立した隊の救出に当たる」

「あぁ、頼む。ただ、デッドポッド(死に溜まり)なんか作らないでくれよ」

「それはあの男に言ってくれ」


 テッドは笑ってロックを指さした。その仕草に驚いて背筋を伸ばしたロックは、ヘルメットの中で息を呑んだ。


 ――なんか今回は俺が槍玉だな……


 少しだけ苦笑いしているのだが、ヘルメットの中では誰にもわからない。ふとそんな事に気が付いたバードは無線の中で呟いた。


「ヘルメットの中に小型カメラ欲しいね」

「なんでだよ?」


 ニヤニヤと笑うような声で理由を尋ねるビル。

 もちろんライアンは口を尖らせるのだが。


「気になる男の表情はいつも確かめたいもんだよな。そうだろ?」


 バードを指差しているリーナーの言葉に皆が爆笑した。ほんの数メートル向こうにレプリの兵士がいる筈なのだが、Bチームは相変わらず、緩い。


「まぁいい。それより、これ以上負傷者が出ないように注意しろ」


 テッド隊長の言葉に全員が答え再び戦闘散開したBチーム。フィールズ少佐は手を上げ『いつもすまない』と、労をねぎらった。


「パット! シェーファー! 順次後退しろ! Bチームに面倒をかけるな」

「イエッサー!」


 一斉に動き始めたODST102の隊員たちだが、負傷者を乗せた担架が後退を始めたとき、随分後方の一般海兵隊が展開している辺りで、散発的な銃撃音と小規模爆発音が発生した。

 驚いて全員が目を向けると、そこには重装備姿のレプリカントが30匹近く立っていて、手当り次第に鉛弾をばら撒いているのだった。基地の外部で戦闘していた海兵隊の戦列がシリウス軍の猛攻による面圧に負け、遂に突破を許してしまったようだ。基地の外壁を爆破し、突入チームの背後へいきなり現れたシリウスレプリ。


「おいおい! 洒落になってねぇぜ!」

「全くだ!」


 一般的に包囲線を乗り越えた敵と言うのは厄介だ。将棋に例えれば、例えそれが

歩であろうとも成金となった日には面倒な存在となる。包囲線の向こうに入られて

しまうと防御手段が大幅に少なくなるからだ。

 ジャクソンとスミスが急行しようと走り始めたとき、レプリ突入兵の辺りに猛烈なブラスター連射音が響いた。眩いマズルフラッシュが屋内を照らし、幾つもの断末魔が響く。


「……お! 彼女もやるな!」


 どこかご機嫌な声になっているスミスが足を止めた。レプリの兵士に向かって一人奮闘するアシェリーの姿が見えたのだ。周囲の海兵隊を後方に下がらせ、たった一人で両腕に銃を持ち、猛烈な抵抗射撃を続けている。

 突入してきたレプリの兵士がガクッと崩れ落ち、白い血を吐いて次々と床に倒れている。その後方から新手が続々と現れるのだが、アシェリーはたった一人の状況下でも果敢に銃撃を続けるのだった。


『ウッディ!』

『わかってるさ!』


 テッドの声に答えたウッディ少佐が銃を持ってアシェリーのところへと駆けつけた。Aチームの分隊支援火器持ちが猛烈な射撃を開始し、その高サイクルな発射音はまるでチャックを開け閉めするかのような一体音になっていた。


『Aチーム集合! レプリを押し返すぞ!』


 続々と結集してくるAチームのメンバーが突破された戦列を立て直すべく集中砲火を加え始めた。そして、その射撃を管制しているウッディ少佐の視界がBチームにも送られてきた。外壁に穴を空け、そこから突入を図ったシリウス軍士官の死体が映っていた。


「へぇ…… 士官学校の戦術試験なら落第もんだな」

「だけどあれを思いついた奴は間違いなく優秀だぜ」

「そうだな。理想的な奇襲攻撃だし」


 ジョンソンやドリーが言いたい事を言っているなか、着々とシリウスレプリを押し返しているAチームは、手持ち火器以外にもパンツァーファウストを気前良く使いながら、ついに奇襲攻撃を跳ね返した。

 ただ、残念ながら少なからぬ数のレプリが基地内部へと進入したらしい。事実上挟み撃ちになっている状態で、前後から猛烈な撃ちかけられていた。


「しかしまぁ……」

「なりふり構ってねぇっておっかねぇぜ」


 呆れて言葉を失ったジャクソン。スミスはどこか(おど)けるようにしているのだが、そんな言葉とは裏腹にMGー5へ新しい銃弾ベルトを挟み込み、シリウス軍へ向かって遠慮無く撃ち始めた。

 だが、そんな必死の抵抗をあざ笑うかのように、シリウス軍のレプリは海兵隊の前後から襲い掛かった。ギリギリのところで総崩れは防いだものの、戦列崩壊一歩前だ。

 統制の取れた面戦闘が出来ない状況に陥りだしているのは火を見るより明らかなのだから、各個判断での後退を始めるしかない。幸いにして後方の敵はまだまだ手薄なのだから。


「フィールズ! まずは動いてくれ!」

「わかった! ここを頼む!」


 ついに戦線は崩れ、海兵隊は引き潮局面となった。


「総員後退!」


 フィールズ少佐の叫び声か基地内に流れ、全ての海兵隊は順次後退を始める。口惜しいが、いたずらに犠牲を増やすばかりてまは作戦とは言えないのだ。しかし、後退すると言ってもここからが一苦労だ。


「さて、俺達は俺達の仕事をするか」


 テッド隊長の言葉に促され、再び全員がブラスターライフルの加速器電源を投入した。自らが持つライフルの加速器に快調を示すグリーンが灯るのを皆が確認する中、バードはグリーンでは無く消耗有りのイエローが灯るのを見ていた。


「さて、楽しいことになりそうね」


 余裕風を吹かせたバードの言葉にスミスやリーナーがサムアップする。ふたりは通路の片隅で、後退に備え各へ設置した爆薬の信管を取り替え始めた。


「近くまで来たらドン! 無理に剥がそうとしてもドン! 遠隔操作でドン!」

「トラップには最適だな」


 引きつった様な笑みを浮かべつつ、黙々と作業を開始したリーナーとスミス。それを見守りながら、チラホラと現れるレプリを狩り続けるBチームの面々。やがて視界の中にフィールドマップが現れ、Aチームが順調に後退している事をBチームが理解した。


「リーナー! 状況は?」

「まぁ、いつでも吹っ飛ばせる状況ですが作動テストしていません」

「手近なやつを一発吹っ飛ばして見ろ」

「へい」


 一番遠いとこにあった遠隔発火信管に作動信号を送ったリーナーは、スローもションに見える爆発のシーンをジッと見ていた。


「問題ないですね」

「よし。こっちも後退する。ジョン! ジャック! ライアン! 中央棟内を家捜ししろ! 生き残りは出来るだけ回収するんだ!」

「イエッサー!」

「スミス! ロック! バーディー! このフロアを制圧し続けろ!」

「イエッサー!」

「残りは俺と走れ! 後退するODSTを支援する!」


 Bチームは一斉に散開し、スミスとロックはバートと共にフロア中央部で押し寄せてくるレプリへ銃弾を降り注ぎ続けた。海兵隊が置いて行った分隊支援火器を構え、気前良く銃弾の雨を降らせたのだ。


『ODST103より海兵隊各隊へ。降下艇ポイント周辺を確保してあるが、そろそろシリウスの来襲が予想される。全員急いで撤収してくれ』


 広場の周辺で警戒を続けるODST103の面々は、槍衾の陣を敷いて警戒を続けていた。


『こちら海兵隊第2大隊! 全中隊結集を確認し降下艇への搭乗を完了! 離脱する。サイボーグチームの支援に感謝する!』

『同じく第3大隊。こちらも離脱する。A、B両チームの無事な脱出を祈る』

『こちら第1大隊。第4大隊と一緒に離脱する。申し訳無い』

 

 一般海兵隊の離脱が着々と進むのだが、ふとバードは、無線の中の空気が変わったのを感じた。


『第5大隊! どうした! まだか! 撤収しろ!』

『こちら第5大隊! 現在第2と第4中隊を探している!』


 取り残された海兵隊が居るらしい……

 その事実にバードの表情が曇る。周辺に展開するレプリの兵士は夥しいという表現が最も正しい状態だ。取り囲まれればじっくりとすり潰されていくのが避けられない。

 サイボーグですらも手を焼くネクサスⅩⅢなのだから、生身の兵士が揃う一般海兵隊では接近戦を挑まれれば全く歯が立たない事態となるのだろう。


ボス(隊長)……」

「あぁ、そうだな」


 チーム無線の中、ジョンソンはテッドに無言の提案を行った。それが何であるかは考えるまでも無い事だ。ただ、その言葉を聞きながらバードは無意識にシェルを探して、そして気が付いた。今回はパラ降下したと言う事にだ。つまり、基地内の家捜しなどを行って撤収最終組となった場合、地上から降下艇がバンバンと撃たれる可能性があるのだ。

 間違い無くBチームは救出に向かう事になる。自分たちのレゾンデートル(存在意義)として、こんなシーンでは率先した戦闘参加が言外に要求されていると言って良いのだ。さらに言うなら、誰かに相談されたり、或いは『命令されて行う』のでは無く、自らに救出を提案し、それを確実に実行し、必ず成し遂げなければならない。


「シェル無しの脱出は大変な事に成りそうだね」

「まったくだ。降下艇ごと撃墜されるのは屈辱の極みだな」


 バードの声に応えたロック。そんなやりとりだが、ふとバードの心がホンワリと暖かくなった。苦痛も苦労も分かち合ってくれる仲間が目の前に居た。


『こちらBチーム。各ODSTは先に降下艇へ搭乗しろ! 上空で対地支援してくれればいい。海兵隊第5大隊の残存兵を探し、救出してから降下艇へ向かう!』


 無線の中に流れたテッド隊長の言葉。それはつまり、これから家捜しするぞと言う意味だ。ふいに周囲を見回すと西棟の中に眩い閃光が幾つも続いていた。アレ?と目をこらすバード。小さな窓越しに見えたそれば、抵抗し続ける海兵隊の面々と、そして数に頼んで力押しするシリウス軍だった


「西棟内で海兵隊が抵抗中!」


 無線の中に叫んだバード。一気に走り出したい衝動に駆られたが、勝手な事をすれば隊長のお叱りを頂戴する事になる。故にバードは心の中で溜息を一つついて、それから顔を上げて金星の空を見た。


 ――私の墓場もここになるのね……


 今すぐ行った方が面倒が無い。だが、指示を待てばそれだけリスクは増える。だが、不思議と後悔は無かった。嫌な気分も無かった。ただ、最後まで責任を果たすと言う事だけを考えていた。目の前に助けを求める生身の兵士が居て、それを助ける戦力となる為に今の自分が居る。

 誰かが必要としてくれるなら、その為に死んだって良いじゃ無いか。それは絶対意味の有る死なんだと、全く外連味無く、瞬間的にバードはそう思ったのだ。そして、ふと隣を見ればロックがいて、今にも走っていきそうだ。


 ――私は一人じゃない…… 怖くない……


 そんな言葉が自分の内側から滲み出てきた。ただ、ロックに自分の気持ちを伝えていない事が心残りだ。もし流れ弾にでも当たって即死したらどうしよう。この気持ちを伝えないまま、永遠の別れになってしまうかもしれない。それは嫌だ。

 もう一度チラリとロックを見たバードはスケルチにして呼ぼうとした。だが、その直前、無線の中にジャクソンの言葉が響いた。


「中央棟3階に海兵隊! これから救出に向かいます!」


 あぁなるほど。こうすれば良いのか……

 そう再確認したバードはロックと共に走り出した。同じタイミングでスミスも走り出していた。


「西棟の海兵隊を救出に向かう! ロックとバードが同行する!」


 ジョンソンのグループと同じようにスミスのグループも走る。つまり、これが上手い振る舞いだとバードは学んだ。金星の地上を掛けていって西棟の入り口近くまで来た時、広場の向こうにレプリの一団が見えた。どう見たって千人単位で居そうな大集団だった。


 ――ほんとに?


 さすがに焦ったバードだったが、その時、目の前に我が目を疑うモノがやって来て思わず言葉を飲み込みこんだ。その巨大な物体は普段使うシェルより一回り大きな黒尽くめのシェルだった。


 ――なにこれ……


 驚いたバードはチームの無線に視界情報を送り出した。これによりチーム内でバードの視界が共有される。その映像の中では両手に大口径のガトリング砲を持ったシェルがいて、周辺の建物やシリウス軍の固まっているところを遠慮無く砲撃し始めるところだった。


『グレイフォックスよりBチームへ。救出作戦を支援する』


 ――え?


 Bチーム全員が一瞬手を止めてバードの視界に写るシェルを見た。その姿はアニメ漫画に出てくる大型ロボット兵器その物だった。そして、ガトリング砲を持っていないシェルは砲打撃系武器とは思えないモノを抱えていた。


「あれ、なんだ?」

「わかんねー」


 ジャクソンの声が無線に流れ、ペイトンは首を傾げるばかりだ。しかし、次の瞬間にはその兵器の正体をBチームだけで無くシリウス軍のレプリや指揮官までもが嫌と言うほど認識した。

 細長いノズル状になった砲口がエクステンション状に前方へと伸び、その先端から眩く輝くような高温の炎が吐き出されたのだった。


「火炎温度は四千度を超えてるぜ!」

「もしかしてプラズマフレイマーか?」


 ある意味で武器マニアであるスミスやペイトンが声を弾ませている。シェルの強力なリアクターで生み出されたプラズマの火炎を吐き出すフレームランチャー(火炎放射器)がシリウス側陣地を一瞬にして消し炭にしていた。


「おー! すげー!」

「レプリのバーベキューだぜ!」

「こりゃ最高だ!」


 次々と興奮気味の言葉が流れる中、バード達は西棟の中へと突入した。建物内でレプリに抵抗していた第2中隊は、持てる弾丸を総動員しバリケード越しに抵抗を続けていた。


「全員抜かるなよ!」


 テッド隊長の言葉が無線の流れ、その声が終わる前にレプリの固まっている所へロックが飛び込んだ。一瞬の隙を突いた斬り込みは絶大な心理的効果を生む。一瞬の精神的空白を突いたロックの剣舞は瞬きする間に30匹以上のレプリを切り捨てている。

 そして、その周辺に居たレプリがロックへ気を取られている間に今度はバードとスミスが一斉に収束射撃を加え始め、コンクリートの壁や柱をガリガリと削り取る勢いでレプリを射殺していた。


「チャッチャとくたばれ!」


 恐ろしい速度で繰り出される太刀の威力に負けたレプリは次々と後退を試みる。だが、その後退する側には第2中隊が陣取っていた。ロックはレプリの群れを挟み撃ちにする方向から突入したのだった。


『Bチームだ! こっちには撃つなよ!』

『こちら第2中隊! 支援に感謝する!』


 涙声にも聞こえる言葉が返ってきて、そのままバードは前進する事を選択した。ライフルを背中のマウントに預け、拳銃を二丁とも抜いていつものスタイルになったバードは、低い姿勢のまま廊下を一気に走っていった。遠慮無く鉛の弾をバラ撒きながら。

 走りながらの射撃は嫌でも銃口のブレを生む。だが、発射サイクルの早い銃で適度なそのブレは銃弾の拡散を生み出し、狭いところで陣取る敵の塊には実に有効な打撃となるのだった。


「なんだよ! やっぱり鉄砲玉じゃ無いか!」

「この方が早いじゃん!」


 気が付けばロックがバードの真後ろに付けていた。続行して走りながら二振りの太刀を別々に使い分け、左右のレプリの首を撥ねていた。バードの銃弾を受け怯んだ隙に首を刈る。美しい流れ作業に仲間達が歓声を上げる。


「ロック! バード! そのまま全滅させたらジョン達を支援しろ!」

「イエッサー!」


 孤立していた第2中隊の救援を終えたロックとバードはテッド隊長の言葉に従い、西棟の外へ飛び出て中央棟を目指した。ふたりはレプリの兵士が中央棟の中まで逃げ込むのを見ていたのだ。一瞬だけ迷ったバードだが、ロックは迷わず中央棟へと踏み込む姿勢を見せた。


「追い込んで内部を爆破しようぜ」

「そうだね。それが良い」


 中央棟の入り口へたどり着きドアを蹴り開け、基地の内部へ突入したバードとロック。だが、目の前にはレプリの兵士が5段12列の凶悪な火線を形成し、その銃口でロックとバードを狙っていたのだった。

 間髪入れずバリバリと射撃を開始したバードだが、遂にドラムマガジンを2つとも撃ち尽くした。マガジンだけ捨て拳銃を腰のホルスターへと戻すと、背中のマウントに預けてあったライフルを構えて射撃を再開する。幾つも鉛弾を受けたはずのレプリだが、殆ど怯んだ様子も見せず反撃の射撃を開始した。


「アハ! やるぅ!」

「バカかよ!」


 左右に別れ飛び退いたロックとバード。レプリの銃口が左右に分かれた瞬間、後続に付いていたスミスが内部へと進入し分隊支援火器を乱射し始めた。猛烈な発射サイクルであっという間に挽肉を量産したスミスは、不幸にも生き残ったレプリ達にトドメを入れた。


「これで全部か?」

「多分な」


 スミスとロックが確かめる中、最後に入ってきたリーナーは最後の爆薬をセットし終えた。


「よし、いつでも吹っ飛ばせる」


 リーナーの言葉がこぼれた時、中央棟の上層から海兵隊の一団が現れた。ジョンソンを先頭にジャクソンとライアンが死傷した隊員を納めた死体袋を担いでいた。


それ(死体袋)、どうするの?」

「……連れて帰ってやろうぜ」

「そうだな。バードと同じだ」


 バードの言葉にジャクソンとライアンが3人分程度の死体袋を担ぎ、スミスやリーナーやロックも二人分を担いでいた。後は脱出するだけだと安堵したバード。だが、Bチームの試練はまだ終わっていなかった。『脱出しよう!』と言うリーナーの言葉に促され脱出へと走り始めた時、Bチームが飛び込んだ後方の出入り口辺りから新たなレプリの一団が現れ、Bチームへ遠慮無く銃撃を開始したのだった。


「本当にしつこい連中ね!」


 手ぶらだったバードは力一杯手榴弾を投げ込んだ。鈍い爆発が起きて白い血の霧が舞い上がったのを見届けると、引き続き銃を乱射し始めた。それに続いてリーナーが基地奥から順次爆薬の爆破を開始し、激しい衝撃波が襲いかかってきた。


「とにかくずらかろうぜ!」

「よっしゃ!」


 一足先に第4中隊を脱出させた5人だが、中央棟の正面玄関に当たる気密室の中にレプリの姿を見つけたバードが銃撃を加える。西棟側の扉付近はレプリが塞いでいるし、メインエントランスにも外から次々とレプリがやって来ている。つまり、出口が無い状況だ。


「あんまり歓迎しない状況だな!」

「全くだ!」


 スミスとロックが忌々しげに吠える。そんな時、建物の外に眩いほどの光りが降り注いだ。メインエントランスに殺到していたレプリが一瞬で消し炭になり、Dチームの支援が降り注いでいる事を皆が理解した。中央棟の外には降下艇が着陸していて、西棟の中から第2中隊が続々と負傷者や遺体袋を運び出していた。


「よし! チャンスだ!」


 リーナーが叫んで走り出した。その間にも爆発は続いていて、文字通り背水の陣となっていた。全員で銃撃を加えながら走っていた時、後方に人の気配を感じたバードは足を止めて振り返った。後方からさらなる新手が現れ、銃を構えていたのだった。


「とにかく走って!」


 援護射撃を開始したバードの脇をジョンソン先頭に皆が駆け抜ける。だが、撃ちかけてくるレプリを振り返って見たロックは、偶然その中に父の姿を見つけた。幾人かの手勢を引き連れ、中央棟の上階層から降りて来たのだった。


「バーディ! これを頼む! 先に行ってくれ!」


 死体袋をポンとバードへ渡したロックは、愛刀の抜け止めを外して臨戦態勢になった。


「待って! 行っちゃダメ! 脱出よ!」

「そりゃ解ってるが決着を付けたいんだ!」


 この時バードは非常に嫌な予感を覚えた。


「第2中隊の撤収完了までまだちょっと掛かる! 時間稼ぎするさ!」

「でも! いま行ったら死んじゃう!」

「大丈夫だって! バーディの隣へ必ず帰ってくる!」

「だめよ!!!」


 追いすがるバードの手をロックが握った。


「お願い! 行かないで!」

「……何をそんなに心配してるんだ」

「あなたを愛してるの……」


 ギュッとバードを抱き締めたロック。


「……知ってるよ」

「ロック……」


 バードを抱き締めていた手をゆるめ、ロックが一気に走り出した。後ろを振り返る事無く、一切の迷いを見せずに。


「先に脱出してくれ! 5分でケリを付けて追いつく!」

「ロック!」


 精一杯叫んだバードはその場にガクリと膝を付いた。だが頭を振って立ち上がり再び走り出した。とにかくこのクソ重い死体を早く投げ出して、そしてロックの支援に向かおうと決めた。

 中央棟を飛び出し広場に出てみれば、そこにはDチームの強力なシェルに守られて降下艇が待機していた。死体袋を渡したバードは再び中央棟へと走り出す。


「バカ! バード! なにやってんだ!」

「ロックを引きはがしてくる! 私は鈴の役だから!」


 降下艇の中に残っていた生身用の自動小銃を持ち出し走るバード。


 ――お願いだから死なないで!


 と、そう祈っていた。

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