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【終章】DUGOUT

 あと三分でいつもの電車を乗り過ごす。

 琢磨が時計を睨みつけていると、雑踏の向こうから駆けてくる小さな影が一つ。

「ごめーんクマちゃん! 布団の野郎が私を放してくれなくて……朝から三回も――」

「三度寝の言い訳はいいからさっさと行くぞ」

 玉響一家は昨年こちらに帰ってきていたらしい。

 新居は昔住んでいたところからは少し離れているが最寄り駅は同じだったので、こうして朝は一緒に通学している。

 何より琢磨にとって、男一人でいるのと女連れでは、電車の中での扱いが全く違うのだ。

 晴れて彼は、毎朝痴漢冤罪におびえる日々から脱却できたのである。

「あ、そういえば見て見て。やっとこれ届いたの!」

 みなもがズイっと鞄を持ち上げる。

 新しいキーホルダーが一つ。ミニチュアサイズの投手用グラブだ。

「おお! これがあのグラブかよ! よく出来てるなぁ」

「うん! すごいよね、部長のお兄さん」

 このミニチュアは、あの落書きだらけの忌まわしい品から作られたもの。

 使わなくなったランドセルを材料にして、ミニチュアの記念品にしてくれるサービスがあるが、あれと同じだ。

 いじめを思い起こさせる物は捨てた方がいいと言う琢磨と、頑として拒否したみなもが喧嘩になり、見かねた茶々が彼女の兄を紹介したのだ。

 茶々の兄はまだ大学生だが工芸品のデザインや制作を手掛けており、茶々の揺れない胸で揺れる勲章たちも彼の作品である。

「上手く落書きの無いとこだけ使って、形もそのまま再現してるな……完全にプロフェッショナルの仕事……何者なんだ部長のお兄さん」

「すごいと言えば、部長もすごかったよねー。この間の試合の後」

「ああ、あれか――」


■□   □■


『ありがとうございました!』

 整列して礼を済ませると、飯島理事長と娘の春江が、苦虫を口いっぱいに頬張ったような顔でグラウンドにやって来た。

「これはどうも、理事長閣下」

 茶々が慇懃無礼に出迎える。

「約束は覚えておいででしょうね?」

「……もちろんよ。野球部はこのまま存続。さらにソフト部から任意の部員を野球部に入部させる。特待生枠も一枠与える。そして私と夕霧さんの関係も存続する」

「ちょっとママ!?」

「春江は黙ってなさい! あなたも……彼女に抱かれれば分かるわ――」

「なんでママは頑なに私をあの女に抱かせようとするのよ!」

「うるさいわね! 私は夕霧さんとは絶対に別れない! 絶対に別れない!! 絶対に!!」

「あの……そういうのはご家庭で……」

 茶々はつい素で二人をなだめ、ヒステリックに喚いていた理事長は咳払いをして続けた。

「コホン……で、あなたはソフト部の誰が欲しいの」

「当然、最も優れた選手をいただく。野上だ」

 容赦のない宣告に、静佳はビクリと肩を震わせた。

 他のソフト部員が「部長……」と呟くのを制し、引き攣った笑顔で顔を上げる。

「えへへ……うん、負けたのはキャプテンの私の責任だしね~。また茶々ちゃんと野球ができるのが楽しみだよ~」

「そして当然、特待枠は野上だ。皆、異存は無いな?」

 茶々が矢継ぎ早に告げた。野球部の面々は多少面食らったが、全員頷いた。

「え……茶々ちゃん? そんな……もしかして最初から――」

「――んんん~? おおっとしかしこれは困ったことに気が付いたぞ~っ?」

 茶々は突然素っ頓狂な棒読みになり、ポケットから生徒手帳を取り出してパラパラ。

「『ソフト部から部員を入部させる権利』は頂いたが、『その部員をソフト部から退部させる権利』を要求するのを忘れていたなぁ~? 校則によると部活の兼部は認められているから~? 今の野上はソフト部と野球部を兼部している状態になるなぁ~? そんな野上が日々どちらの部で活動するか強制することは出来ないよなぁ~? ソフト部に入れ込み過ぎて野球部は幽霊部員状態になってしまったとしても文句は言えないよなぁ~。う~ん困った困った~。諦めるしかないかぁ~。せっかく勝ったのになぁ~! か~っ!」

「茶々ちゃん……!」

「これからも部長と一緒にソフト出来るんですね!」

「モウ、マケナイ、ニドト」

「デドさんの言う通りだ!」

 その後は泣きじゃくる静佳が部長を抱き締め殺しそうになったり、さらに他のソフト部員たちにも上から抱き着かれ圧死しそうになったり、大騒ぎだった。


■□   □■


「すごいよねー。結局全部丸く収めちゃったんだもん」

「ああ、飯島家の家庭問題以外はな……」

 電車に揺られ十数分。段々と金剛学院の女子生徒で車両が埋め尽くされてくる。

 必然的に二人の距離は縮まり、いつの間にかみなもが琢磨の懐にすっぽり収まる。

「……………………」

「……………………」

「…………あの、何か話して仲の良さアピールしないとさ、また痴漢扱いされちゃ――」

「んぁ……っ! もう、クマちゃん!」

「え?」

「仲の良さアピりたいからって、こんなところでやめてよ……!」

「な、何を?」

「何って……さ、触ってるでしょ? 今、私の……おしり……!」

「はぁ? するわけないだろ……! 李下に冠を正さず!」

「でも性的倒錯者なクマちゃん以外に誰が……あっ、スカートめくっちゃ――」

「馬鹿野郎! 俺に痴漢趣味なんてない! おしりは触りたいけども!」

「もうっ! クマちゃんのおしりかじり虫! じゃ、じゃあ今触ってるのって、もしかしてこの前の……ぁ、中はダメ――」

「あの時の痴漢……?」

 辺りを見回す。みなもの周囲に男は琢磨のみ。まさにあの時と同じ状況。

(ならば俺の役目はただ一つ。今度こそ痴漢の正体を暴き、お縄に着かせることだ!)

「よし……みなも、じっとしてろよ」

 琢磨はつり革を掴んでいた左手をゆっくりと下ろす。みなもの腰を抱くようにしながら、痴漢が先にいたずらしているであろう彼女のおしりへと手を伸ばす。

 乱れたスカートを掻き分け(「ちょ……クマちゃ……」)手探りで犯人の手を探す。

 その際うっかりみなもの立派な尻を鷲掴みにしてしまったり(「あふぁ……っ」)、尻の割れ目に指を這わせてしまったり(「はぁぁぁ……っ! クマ、ひゃ……んっ!」)といったアクシデントもあったが、ついに琢磨はみなものパンツの中にまで侵入して大胆に彼女の感触を楽しんでいる大罪人の穢れた手を探り当てた。

 その手首をがっしりと掴み、無理やり捻り上げる。

「捕まえた! さあ大人しく――」

「いで! いででででで!」

 痛みに呻く声は、なんと女のものだった。

「まさか痴女!? 顔見せろオラァ!」

 息を荒げているみなもを脇に除けて、琢磨は咎人の顔を確認。

「なっ……お前は――」

 琢磨が驚いたのと、電車が琴張駅のホームに滑り込んだのは、ほぼ同時であった。

 またもやバランスを崩してしまった琢磨は、うっかり罪人の手を放してしまった。

 さらに前回のようにみなもを巻き込んで転ばぬよう踏ん張ることを優先し、視線も一瞬逸らしてしまう。

 扉が開き、周囲の学院生が怒涛の降車。

「マズい逃げられる! 追いかけるぞみなも!」

「ま、待って……腰が抜けて上手く歩けな――」

「チッ……仕方ない。仇は必ず取る!」

 足腰の立たなくなっているみなもをその場に置いて、琢磨は犯人の後を追った。

 そいつにはすぐに追いついた。

 なぜなら、彼女は琢磨から走って逃げ切るほどの体力が無いからである。

「――最初の頃よりは長く走れるようになったじゃないですか」

 駅舎の床にへたり込んでゼエゼエ言っている彼女を見下ろす琢磨。

「ねぇ……夕霧先輩? あなただったんですね、痴漢の正体は」

「チッ……バレちゃあ仕方ないね……」

「いやまあ、キャラ的にあなたか伊藤我しかいませんけどね。こんなことすんの」

「それで……あたしをどうする気だ……」

「もちろん、警察に突き出しますよ」

「ま、待ってよクマちゃん!」

 やっと追いついたみなもが合流。

「部から逮捕者なんか出たら、今度こそ野球部潰されちゃうよ!」

「そうだそうだ。それに理事長の文代と付き合ってるあたしにそんなことして、ただで済むと思わないことね……ヒヒヒヒヒ……」

「だ、だからってみなもの尻を好き放題した奴を野放しにするわけには……!」

「うん、クマちゃんちょっと自分の過去の行いを振り返ってみよっか」

「くっ……この変態性犯罪者を野放しにしておけば、また良からぬことをするに違いない。しかし警察を頼れば、野球部に再び危機が――仕方ない。もうこいつ殺して埋めよう!」

「クマちゃん思考が一気に地平の果てまでカッ飛びすぎだよ!」

「……なあ男、忘れたのかね」

 中がニチャリと嗤う。

「忘れたとは言わせないぜ……あたしゃあんたにあげたよなぁ……ゼブラ柄の――」

「……ッ!?」

 琢磨は思い出した。あの白黒ストライプの宝物のことを。

 現在、立派な額縁に入って彼の部屋の壁を彩る美しいインテリアとして活躍している、あの逸品のことを――

「……俺たちは、何も見なかった。痴漢なんて存在しなかったんだ。いいな、みなも」

「えぇっ!? なに、怖っ! クマちゃんどんな弱味握られてんの!?」

「うるせぇ! 俺は先輩には大恩があるんだ! 尻なんざいくらでも触らせてやれ!」

「酷っ! そんなこと言うならクマちゃんには一生触らせないよ!?」

「えっ、じゃあ言わなければ触っていいの?」

「うっ…………じゅ、順序を守ってくれるなら――」

 みなもが何か言いかけたその時だった。

「駅員さーん! こいつ! こいつです! その女の子のおしり触ってました!」

 中が琢磨を指さして大声を上げた。

「テ、テメエ! なんて嘘を!」

異性愛者(ヘテロ)は黙ってろよ! ……あたしゃな、あんたが邪魔なのさ。あの美少女揃いの野球部……あたしはその全員を食い散らかし、セフレにしたい……! その為にわざわざ引きこもりやめて、野球なんて難儀なもんをやってやってんのさ……!」

「な……なんて壮大な夢を語りやがる……!」

「あたしの理想の美少女ハーレムにあんたは要らないのさ!」

 中が野望を語る間にも、駅員や、痴漢殺戮女子中高生たちが集合していく。

「ヒヒヒヒ……これに懲りたら、もうあたしの邪魔はしないこった……」

「ヒッ……そ、そうだみなも! 助けて! またあの時みたくさ!」

 琢磨は必死にみなもの足に縋りつく。

 しかし、無情にも彼女は琢磨を蹴り飛ばす。

「……クマちゃんはちょっと反省した方がいいと思う」

「そ、そんな――」

 そして駅構内にはただ、骨が砕かれ、肉が引き裂かれる鈍い音が響いた――


■□   □■


「ってことがあってさー。いやー朝から保健室登校だよ」

「そりゃ災難だったな」

 五時間目にやっと授業復帰した琢磨は、授業後にローランに愚痴を零していた。

 しかしローランは何かを読むのに夢中で上の空な返事。

「さっきから何読んでんの?」

「ん? これさ」

 B5サイズの薄い本だった。その表紙には中世ヨーロッパの高貴な生まれの騎士を思わせる男と、東洋人顔の兵士が、鎧を半分脱いで煽情的に絡み合うイラストが描かれている。

 タイトルは『俺の城*門も落城寸前っ! ~燃える王都に濡れる穴~』。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 琢磨は潜在的恐怖によりその本をローランから奪い取り、ごみ箱に投げ入れた。

「ああっ、直腸(ちょくちょう)くりくり左衛門(ざえもん)先生の名作を! 恋愛モノとして普通に面白いのに!」

「直腸くりくり左衛門!? 倉の奴なんてペンネームでなんてもん描いてやがる! お前もなんで持ってんだよ! 明らかに俺達がモデルじゃないか!」

「今日の昼休みに体育館で、ロー×タクオンリー同人誌即売会『高貴なる背徳の宴6』が開催されてさ。僕は直腸くりくり左衛門先生のブースでコスプレして売り子の手伝いしてたんだけど、列が体育館を五週もしちゃってさ、大変だったよ」

「そういえばそんなこと言ってたなチクショウ!」

「それで僕も一冊貰ったってわけ。あ、琢磨にも預かってるぞ、ほれ」

「そういえばくれるとも言ってたな! 一応貰っとくけど!」

「ね、ねえ、ちょっとアンタ」

「ん? なんだよ鹿菅井、今ちょっと取り込み中で――」

 琢磨は息を飲んだ。

 恐る恐る近づいてきた蓬が、しっかり『俺の城*門も落城寸前っ! ~燃える王都に濡れる穴~』を携えていたからだ。

「な、なぜお前までそれを……!」

「う、うるせえ! 周りの付き合いで仕方なく……ってそんなことはどうでもよくて……その……これ、なんだけど……」

 蓬は琢磨の目の前で『俺の城*門も落城寸前っ! ~燃える王都に濡れる穴~』のページを開いて見せた。

 あろうことかそのページには――具体的描写は控えるが――とんでもなくエグい大業物が精緻な絵柄でグロテスクに描かれていた。

「OH……」

 固まる琢磨に、蓬は真っ赤に染めた顔を寄せて小声で話す。

「こ、コレって……こんなに、その……大きくなるものなの……? いや、あの……前に、ホラ、ぶ、部室での……ア、アンタのあの……こ、こんなんじゃ、なかった、ような……」

(こいつは何を言っているのだろう……)

「いやお前そんなわけ――」

 言いかけて琢磨は口を閉じ、蓬の開いた瞳孔を見つめた。

「な、なんだよ……! どうなんだよ!」

「――いいかい、もぎもぎ」

 琢磨はそっと蓬の両肩に手を置いた。

「あの直腸くりくり左衛門先生が、嘘をつくと、思うかい?」

「はわ……はわわわわ……」

 蓬はぷしゅ~と蒸気を吹いてへたり込んだ。

「や、やっぱり男って……嫌……」

「ふふっ、一つ大人になったな、もぎもぎよ」

「お前何もカッコよくないぞ琢磨……盛大に見栄を張りやがって……」

 ローランが心底呆れたように言った。


■□   □■


 放課後。

 琢磨と蓬がグラウンドへ着くと、既に美鶴が着替えて準備体操をしていた。

「早いな伊藤我。いつもは時間ギリギリなのに」

「それがね、今日会おうと約束していた子にドタキャンされてさ。悲しかったから石山君の穴でもほじくろうと思ってね」

 琢磨はすぐに背後を見せないよう後ろ走りで逃げた。

 グラウンドの外周に沿って走っていると、校舎裏手のジメジメして薄暗く人気の無い場所で彰子に会った。

「あらまあ、このような場所で奇遇ですね」

 いつものように穏やかに微笑む美しい大和撫子っぷりだが、その嫋やかな両手にはべっとりと何らかの赤黒い液体が付着していた。

「……め、鳴楽園さん……それは一体……」

「あら、これですか」

 彰子は深紅に染まった両手を恍惚とした表情で眺めまわしている。

「美鶴様に言い寄るお邪魔な泥棒猫がおりましたので、駆除を……ふふふっ、この手を血で穢すというのも、非常に宜しいものですね――」

(やべぇ……夕霧先輩よりもランク高い通報案件が発生してる……)

 中の痴漢は見逃した琢磨だが、さすがにこの事態は警察の手を煩わせねばならないのではないかと思った。

「石山様」

「は、はいぃ……っ!」

 思わずポケットのスマホに伸びかけた琢磨の手を、彰子のホラーめいた流し目が止めた。

「お父様はお元気でいらっしゃいますか?」

「え、は、はい! 光沢は増してきてるけど元気です!」

「そうですか……今後も何事もなく、ご健勝でいらっしゃることを祈っていますわ」

「あ……ありがとうございましゅ……じゃ、じゃあ僕はこれで――」

(駄目だ……この人にだけは逆らえない……)

 琢磨はその場をそっと立ち去ることにした。

「俺は何も見なかった見なかった見なかった見なかった……」

 極度にストレスフルな出来事が連続し、心が憔悴しきっていた琢磨は、足の向くまま帰り着いた部室に、ついつい無警戒に入ってしまった。

「げ」

 相変わらず散らかった部室では、ノノが着替え中だった。タイミングの悪いことに、上はスポブラのみ。下は今まさにスラパンを脚に通して上げる瞬間であり、均整の取れたプリっとしたおしりをモロに見てしまった。

「あ、ゴメ――」

「~~~~~~~~~~っ!」

 ノノは顔を真っ赤に染め、慌ててスラパンを上げてからそこら辺に落ちているものを手当たり次第投げつけてきた。

「バカバカバカバカバカバァ!」

「ちょ、痛っ……でもこの普通の反応がなんか落ち着くぅ……」

「その場でホッとしてんじゃないわよ! 早く出てけ!」


■□   □■


「うむ、揃っているな」

 最後にみまの鎖を引いた茶々がグラウンドに姿を現し、メンバーが全員揃った。

「夏の大会も近い。初心者だからと甘えていられる期間も終わりだ。人数の少ない我が軍に居る限り、一人一人が戦力として役立ってもらわねばならん。残された時間(とき)は有限だ。有効に使って、徹底的に鍛え上げねばならん。貴様達も、そして我もだ」

 日に日にグラウンドを吹き抜ける風は夏の香を帯びてくる。

 尖がった個性の集まりだが、その目はゆっくりとではあるが、着実に同じ未来を見据え始めているように琢磨は思う。

『バラバラでもいいんデスヨ』

 そんな話をエリスにしたとき、いつもの女神の微笑みでこう言われた。

『野球は、各Positionごとに必要とされる能力も、動きも、役割も全く違いマス。そんなバラバラな人たちが、勝利という一つのGoalへ向かって一丸となるから強くなるのデス』

 ――それならば、こんなメチャクチャな奴らが本当に一つになれる日が来たとしたら、どんな凄いチームが生まれるのだろうか。

『全てのPlayer、そしてもちろんアナタもデスよ、タクマ』

 ――すっごく、ワクワクする。

「クマちゃん、今日も牽制の練習なの? もう飽きたー。ランナー出さなきゃいいんでしょ?」

「なあみなも、これ見てくれよ」

 琢磨はみなもの目の前に右手を突き出した。

 面食らった彼女の目の前で、凝り固まった指に力を籠める。

 ほんの僅かだが、握ったままだった五本の指が開いた。

「……!? クマちゃんこれって――」

「リハビリ、やっとここまできた。この先まだまだ時間かかるだろうけど――」

「いつか! 絶対! やろうね! キャッチボール!」

 みなもは彼の右手を、両手で強く握った。

「約束! ずっと待ってるから!」

「はは……分かった。約束な」

 この眩しい笑顔が、彼女の一番の武器だ。

「――みなも、野球って本当に良いもんだな」

「うん、知ってるよ。クマちゃんに教えてもらった時から、ずっと」

「大好きだよ、俺」

「うん、私も」

 やりたいことをやってる奴は、最強だ。



〈了〉

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