8/11
哀
ここに来るのはもう何度目になるだろう
薄紅色の花を持って
照りつける日差しの中で
長い石段をゆっくり上る
こうして毎年通っているのに
まだ実感が湧いてこない
心の中は空っぽなまま
今も私はあの日々を
昨日のことのように覚えているのに
時間は無情に流れていって
君と私を引き離す
皆の君は思い出の人
でも私はまだそうできない
振り返ればそこにいる気がする
また笑いながら出て来てくれるような
そんな気さえしたままで
君の声をまだ覚えてる
君の瞳をまだ覚えてる
君の癖やそれを指してからかったこと
私が君にあげたもの
君が私にくれたもの
君の手の暖かさを
私はまだ覚えてるのに
不意に強い風が吹いた
潮の香のする涼やかな風
合わせていた手を離し
膝を払って立ち上がる
振り返れば海が見える
君がそう望んだから
水平線は遥かに遠い
ただきらきらと輝いている
君の声が聴こえた気がした
そうか 君はもういないのか
そうして
やっと 私は小さく泣いた