#8 劣等 side nozomi
今日の終わりを告げるチャイムが鳴って
私は欠伸をひとつ。
だって今朝はバタバタしててもう疲れ気味だ。
早く帰りたい。
「あの、ちょっといいですか?」
少しか細い声がして初めは私に向けられたなんてしらなかった。
だって何かに脅えてるみたいな声。
私見た目は一応 優しい そうですから。
そのまま下駄箱で靴を出していると今度は肩を叩かれた。
その感触も弱弱しくて初めは鞄がずれたのかと思ったくらい。
なんとなく後ろを振り返るとそこにはすごい美少女。
思わず目を見張った。
・・・・なんていうの?守ってあげたくなるって感じ?
無意識に彼女の記名章を見ると
何度か男子達の間から叫ばれていた名前。
なるほど、公認の美少女ね。
?で・・・・?その美少女が何の用?
なんとなくというか脅えている彼女。
これじゃあ私が何か困らせてるみたいじゃない?
私も少し眉を下げて苦笑いしながら彼女に向き合う
「・・・どうしたの?・・・」
そう聞くと彼女は一瞬肩をびくっとさせて口を開いて閉じた。
うーん、可愛い。
可愛いんだけど、私こういうはっきりしないの苦手なんだよね。
「あの、私今日用事があって、ごめんね、急いでいるんだ」
なるべく優しく言うと彼女は決心したかのように私を見た。
用事なんて無いけど寝たいんだよ、今は。
「あの、用事って・・・浅野君とですかっ?」
「へ?」
「浅野・・君と付き合ってるんですかっ?」
「・・・・・・えええーーーーー!!!!」
予想外の出来事に思わず叫ぶ
何人かの生徒がこっちを見た。
そうだ、私浅野と学校に来たんだ。
見られてることなんてないと思ってたのに。
「つ、付き合ってない!!!」
そうだ、付き合ってるわけじゃないよ!
ゲームだもん。
「本当ですかっ?」
すがりつくような瞳で彼女が前に出てくる。
その目まぶしいよぉ!!
「ほ、ほんとっ!一緒にいても恋愛感情なんてないから!!」
・・・・恋愛感情・・・・
そう自分の口から出た瞬間頭には澤田先輩の顔が浮かんで
ゆっくり消えていった。
ああ、私、まだ。
本当しつこい女だ。
しつこい性格 なんて自分が一番嫌いなのに。
私が俯くとともに彼女は少し頬を緩ませた
「ごめんなさい、誤解してました。でもありがとうございます」
ふんわりとした笑顔で去っていく彼女。
その最後まで可愛くて、しつこい女の私なんか
可愛いわけなくてなんだか胸がいっぱいになってしまった。
・・・・・帰らないと。
静かに靴を履き替えて校門へ向かおうとした。
でも足は動いたのに進まない。
誰かが私の腕を掴んでいるから。
その誰かは浅野洋平なんだって事は見ないでもわかった。
彼のつけている香水の匂い。
本当、心が落ち着くその匂い。
「・・・・約束したじゃねえか」
「・・・・え?」
「・・・ったく・・」
そういって彼は舌打ちをした。
初めて彼を振り返る。
「あそこで待ってろ」
そう言って昇降口の小さなベンチに顔を向けて
「俺、鞄とってくるから」
そう言って走り去った彼。
一人残った私は腕に残る掴まれた感触とよくわからない彼の行動に
ひたすら頭を働かせた。
私、約束?
とりあえず大人しくベンチに腰掛ける。
待たなかったら彼の事だから私の家まで文句を言いにきそうだ。
大人しく腰掛けたベンチはこないだ座った何処かのベンチと似てて
冷たくて、固くて。
それでも座った瞬間心がほっとした。