#6 公園 side nozomi
人の心は誰でも読めるってわけじゃない。
ただ、なんとなく可能性はある。
嬉しそう、だとか哀しそう、だとか。
でも今横にいるこの男はそれが不可能に思う。
目の前に広がる見慣れているのに入るのは懐かしい公園
小さい頃よく遊んだブランコ
ベンチなんて遊ぶのに夢中で座った覚えがない
だから初めて座っているそれはとても固くて冷たい
手には暖かい紅茶
空はなかなかいい天気
隣には全く関係なかった恋人という名の男
長い足をだらしなく伸ばして座っている
さっきから約15分間このままだ
なんだか息も詰まる
呼吸のたびに触れ合う肩が意識してるとくすぐったくて
なんで自分がここにいるのかわからなくなりそうだ
今頃本当は授業中
「どうせなら2時間位遅刻しちゃおうぜ、2時間目の数学嫌なんだよね」
そう笑って強引に公園に連れ込まれた私
でも私も2時間目の科学は嫌いだから静かに頷いてついてきた
今日は風が無い
だからもちろん黙っていれば沈黙だけ
何の音もしない
そんな中こんなに寄り添って
ベンチに座っている私達は仮にも恋人同士なわけで
心なしか私の心臓は早く脈打っていた
浅野は動かない
なんだかこっちにずっと顔を向けている
見られてるのか、違うのか
私はこんな至近距離を確かめる勇気もなければ
ずっと気にしないで居られるほど男の子との経験もない
息がしづらい・・・・
さっきから咳払いを何度かしてこの沈黙を埋めている
これじゃあ、私がなんだか浅野を意識しているようで悔しい
そう思っても余計に咳払いの音が響くだけだった
「ねえ、本城さんー」
しばらくの沈黙の後いきなり浅野が口を開いた
そのついでに時計を見るともう40分は経っていた
「もうそろそろ2時間目終わる頃かなーどうする、行く?」
私はすばやく首を縦に振る
そして立ち上がる
・・・・と思ったらスカートを浅野が踏んでいて立ち上がれない
「浅野、スカート・・・」
「え?ああ、ごめん」
そう言っても立ち上がらない彼
「浅野・・・・立ってよ」
「・・・うん・・」
なのに立ち上がらない彼
私も立ち上がることができない
「浅野、邪魔!」
そういって浅野を軽く叩く
・・・叩いたはずだったのにその手はもっと軽く
浅野に掴まれる
「嫌だって言ったら?」
「はあ?」
「まだここに居たいって。そういったらどうする?」
「なに言って・・・」
「俺はもう少しここに居たいんだけど」
「・・・・我侭男だね」
「なあ、本城。も少しいてよ」
「・・・・・・・・嫌。私は学校に行くから一人でいれば?」
そういって空いている手で浅野を今度こそ軽く叩いた
するとすんなり浅野は立ち上がった
「良かった。俺もうお前に惚れられたかと思っちゃった」
そう笑って言う男が初めて昨日と同じ顔に変わった
「あ?浅野私を試してたの?」
「ちょっとね」
最低。そう思った
目の前に居る男に
「馬鹿男、試したりしたって無駄」
「なんでー?」
「私の心はまだ澤田先輩だけだから」
「うわっしつこい女は嫌われるぜ」
「・・・あっそ、でもこれだけは言っとく。私浅野の事カッコイイって
思えたことないから」
「・・・まあ君の趣味がおかしいんだよ」
「あっそうですかー」
いらだって一人で歩き出す
やっぱりあいつは最低だ
公園の門を荒々しく開けて外に出ようとした時
すごい力で引きとめられた
今、腕がグキッていったんだけど!!
声も出せなくてなんとか頭を上げるとそこには
少し眉を下げた男の顔
太陽の光がもとから薄めの色の黒髪に反射して
男の子とは思えないくらいサラサラに光っていて
それがこの整った顔にとてつもなく似合っている
長めの前髪から私を捕らえる切れ目の瞳が
綺麗過ぎて思わず目を反らす
「・・・・何よ、痛いんですけど」
なんとか出せた声に
彼は腕を掴む力を弱めた
「ごめんな、怒んなって」
「・・・・・・」
何その顔。
柄にもなく小動物みたいな目しちゃって
「でも、少し本気だったんだぜ、も少し居たいって」
薄めの唇から飛び出すその言葉は素直に受け取っていいの?
「・・・そんなこと言ったって無駄って言ってんでしょ
今ので3%位は心臓動いたけどね、まだまだ私は堕とせないわよ」
「・・・・・」
「甘いよ、浅野洋平」
「・・っぷっ・はははは!!・・」
私が口元を上げて言うと彼は何を血迷ったのか笑い出した
ちぇっ。少しぐらい悔しそうな顔しろっつの!
「ははは、本当あんた面白いね。楽しい」
「・・同い年なんで目下に扱うような口調やめてくんない?」
「・・・!ははっははは!!!」
余計に笑い出した彼に苛立って睨む
こっちが挑発したのに挑発されてどうすんだ、私よ
そう思ったのに彼の顔は挑発なんかじゃなくて
本気で子供みたいに笑っていた・・・?
あ、これも作戦の1つかもしれない
騙されない
口元から自然にでる笑み
こんなに人の気持ちを疑って頭使うなんて
勉強嫌いの私には新鮮だった