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第一話「名前」

「………………んぅ」


瞼が重い目を見開き、周りを見れば藁の壁に開けられた窓から光が差し込んでいた。


もう陽が昇っているらしい。

外からは鳥の鳴き声が聞こえている。


上半身だけ起こし、未だにはっきりとしない意識を目覚めさせながら、記憶を辿っていく。

昨日はずっとティエラの作業を眺め続けていて…………。

あぁ、ティエラの作業で確認出来る自分の知識の把握している内に眠くなって、寝転がってからの記憶が無いから、そのまま直ぐに寝てしまったのだろう。


作業台の方に視線を動かすと、最後に見た記憶よりも沢山の薬が散乱している。

私が寝た後もかなり作業を続けていたらしい。


そしてティエラは机から崩れ落ちたかのように床に寝転がって寝ていた。


「…………」


顔は見えないが、疲れきったように爆睡しているであろう彼女

手には直前まで調合していたであろう草がしっかりと握られていた。


その姿に二つの複雑な感情が私に湧き上がる。

それは喜びと悲しみ。

満足気な彼女に喜びを覚え、疲労困憊している彼女に悲しみを覚えてしまうのだ。

分からない。

なぜ、私は彼女にこの感情を抱く?

命の恩人である事には確かに感謝の念を抱いているし、その分の強い感情を私は持っている。

しかし、この感情を抱くのはおかしい。


――『保護欲』

私がティエラに向けて抱いている感情の名。

意識すればする程、自覚できてしまう。

どうしようもない程に彼女を守りたいのだ、私は。

守ってあげたい、甘やかして上げたい……泣いているティエラを『自らの手』で抱きしめて上げたい。


彼女の姿を見ていると、そんな感情が隆起してくる。

しかしおかしい。今の状況から考えると、むしろ保護されているのは私だ。

なのに、なぜ私が彼女を保護したいと思っている?


私には理解できない、自分の感情が。

故に目の前の寝ている存在に対して、恐怖と疑惑を覚えてしまう。

見ず知らずといった私にこのような感情を抱かせる存在であるという恐怖。

そして何か隠しているんじゃないかと思う疑惑。

記憶という自己の証明を失った私を騙す事なんて簡単な事なのだから。


「…………ッ」


痛みを感じるようにわざと頭を強く振る。


私は一体何を考えていた?

弱いというか、脆いというか。

記憶を失い、弱気になっているらしい。

他人、しかも恩人に責任を押し付けようとするなんて、なんて脆弱。



気持ちを切り替え、寝台からゆっくりと立ち上がると床の木の音を鳴らさないように慎重にティエラに近づいた。

顔を見れば、床に押し当てていたのかくっきりと藁の跡が付いている。

服も寝返りを打っていたのか所どころがはだけていたり。

とりあえず、握りつぶしてしまいそうだった薬草を手から抜き取って机の上に置いておく。


さて、どうするか。

今日は村長が来ると言っていたし、一番良い選択肢はこのまま起こす事だと思うが、疲れきって気持ち良さそうに寝ているティエラを眠りから覚まさせるのは抵抗がある。


…………やっぱり寝かせておこう。

対談はその気になれば私一人で出来るだろうし、疲れている彼女を無理に起こす必要は無い。


自分が寝ていた寝台から掛け布団を取ってきて、ゆっくりと掛ける。

力があれば、彼女を寝台まで運びたいが、今の力だと引き摺るくらいしか運ぶ方法が無い。

そんな事をしてしまえば、痛みを伴って彼女は睡眠から強制的に起こされてしまう、本末転倒もいい所だ。


「後は、昨日の確認」


ぼそっとそう呟いた後に、彼女が座っていた場所に座り作業台に置かれた薬を確認していく。

自分の訳の分からない知識の確認の為に、ティエラには悪いが薬を見させて貰おう。


作業代の上には材料棚と様々な器具、そして薬を入れた陶器の小瓶がある。

その陶器の小瓶を確認して、昨日の記憶と照らし合わせていくと、次々と出てくる名前と効能。

昨日の最初に作られていた四物湯は当然として、桂枝湯、加味帰脾湯、当帰芍薬散、茯苓飲。

日常生活において、どれもが役立つ効能を持っている薬だ。


しかし、どれを見ても昨日に彼女が言っていた「呪力」という知識は出てこない。

全てがあくまで飲んだり塗ったりと「普通」に使う事で効果を発揮するとしか私は知らないのだ。

やはり、私は呪術医では無いのか?

しかし、薬学に対する豊富?な知識がある事を考えると無関係で無いとも言い切れない。


一応、材料棚も開けて、中を確かめていく。

そこには芍薬、甘草、麻黄が入っている。

そして一番下にある他の物とは違う装飾がなされた引き出しを開けた。


「……こんな物まで」


一番下の引き出しにあったのはコカの乾燥した葉。

麻薬であり、麻酔薬でもあるコカインを生み出す原料。

他にも劇薬になりうる大麻、生アヘン等が詰まっていた

歯を抜く時の麻酔として使っているのかも知れない。

昨日に使った様子は無いし、違う装飾がなされているから危険性も把握しているのだろう。


「…………」


包帯が巻かれ震えている手がその引き出しに伸びる。

正直、コカの葉は一枚欲しい。

今に村長が来て村から追い出されたら生きる為には別の場所、街か森に行かなければならないのだ。

その場合、痛みを忘れさせ、空腹感を消し、気分を高揚させるコカの葉を噛んでおけばかなり楽になる。


「………さん」

「ッ!?」


もう少しで葉を掴みそうだった躰がその言葉と伝わってきた感触で震えた。

急いで見ると、隣で寝ていたティエラが私の服を握って擦り寄ってきていたらしい。

服を手で握り締めて、少し微笑んでいる顔を脚に押し付けている。


「…………屑」


そう、屑だ、私は。

人が寝ている時に物を盗むなんて。

ましてや恩人の物を。

コカの葉は基本的に熱帯地方にしか生えないし、別の地方から取り寄せたんだとしたら高級品、効果を考えれば最高級と考えてもいいぐらいだ。

それを勝手に盗むのは恩を仇で返す事になる


開けてしまった引き出しを元に戻す。

それが終わると、私はティエラの頭の自分の足の上に乗せた。

硬くザラザラとした床よりかは、ましだろう。


「……ごめんなさい」


そう、まだ目を瞑って眠る彼女の頭を撫でながら言う。

もう、死ぬ時は死ぬしかない。

見苦しい真似をするのは止そう。

この家で初めての笑みを浮かべながら、私は達観した表情で彼女の頭を撫で続けていた。





頭を撫で続けて、どれ程の時間が経っていたのか分からない。

数分かもしれないし、数時間かもしれないが、あっという間にそれは来た。


「ティエラの嬢ちゃん、ちょいと失礼すッ!?」


この家に入って来ようとしたのは、初老とは言いすぎだがそれなりに年を経た一人の男。

四十台後半ぐらいで、ティエラと似たような民族衣装を身に纏い、衰えてはいるが服越しでも力強さが分かる男だった。

この人が村長か。

精悍で頼りになりそうな顔立ちの中にも優しさも混じっており人の上に立つ人物として申し分ない。

しかしなぜか、入って来てこっちを見た瞬間に固まってしまっている。


大声を出して彼女を起こされては問題なので、指を口に当てて静かにするように仕草を出しティエラに視線を向ける。

村長も私の視線を追って、彼女がぐっすりと寝ている事に気がついたのか、固まっていた状態から一度、首肯して、慎重にこっちに来る。


「起こしちまっていないか?」


近くに座り、小声で私に問う。


「大丈夫、起きていない」


って、しまった。

また片言で喋ってしまった。

昨日は喉の調子が悪かったから、抑揚が無い必要最低限の片言で喋っていたが。

今は大丈夫だから。


「大丈夫です、起きてはいません」

「いや、二回言わなくても分かるぞ?」


一応、敬語で言い直したつもりだったのだが最初の失礼な言葉は気にしていなかったらしい。


「彼女は昨日遅くまで薬を作っていたから、寝かしておいて上げたいのですが」

「こっちもそう思っているさ、今日ここへ来た用はお前さんだけに対するもんだからな。

嬢ちゃんを起こす必要はない」


私の目を見て、そう言う村長。

そして視線を外して、外の方に向ける。

つまりティエラがいない場所に行って話そうという事か。


「分かりました」


頷いた後に小声で言うと、ゆっくりとティエラの頭を膝から下ろして立ち上がる。

しかし、まだ完全に回復していない所為もあり足元がおぼつかなく倒れかけてしまった。


「おっと、大丈夫か?」

「ッ……ありがとうございます」


そんな私を抱きとめて支えてくれる村長。

痛みは走ったが、予想していた衝撃よりも少ない。

どうやら、わざわざ優しく受け止めてくれたらしい。

こっちの身を気遣ってくれたつもりか、ティエラを起こさないように配慮したのか分からないが助かった。


「俺の肩に手を回せ。

その足だと一人でまともに歩くのは無理だろう」

「本当にありがとうございます」


私はそう言った後に彼の肩に手を回し、助けて貰いながら外に向けて歩いていった。





「それでお前さんの名前は、ってすまん、すまん。確か記憶が無いんだったな」


外に出た私達は家の側面の日陰にあった丸太に座り、目の前に広がるうっそうとした森を見ながら話を始めていた。


「気にしないで下さい、むしろそれで余計に迷惑をかけているのはこっちですから」

「まぁ、そうだな」


正直というか、単刀直入で邪魔だという事を伝えて来た。

やはり、外に出してこんな場所で話を始めたのはこのまま追い出すか、殺すつもりがあるからなのかもしれない。


「おいおい、そんな諦めきったような表情はしないでくれ。

お前さんを今すぐどうこうするつもりはこっちにはないさ。

とりあえず、その傷が癒えるまでは何も気にせずに村で治癒に集中して過ごしてくれて構わん」


言っている事が矛盾している。

邪魔だと宣言した相手にする行いではない。


「私の事は邪魔では無いのですか?」

「勿論、邪魔に思っている事は確かだ。

俺らと同じ『森の民』でもなけりゃ、傷だらけで俺の肩を掴まなきゃ歩けない奴なんだぞ、お前さんは。

そんな奴が村にとって邪魔じゃない訳がないだろう?」


だから、それは矛盾だらけの言葉だ。

邪魔だと思っているのに、なぜ保護しようとする?

そもそも『森の民』とは何なんだ?


「ならば、なぜ私を保護するのですか?

今ここで村から追い出すか、もしくは殺す。それが貴方達によって一番良い方法でしょう。

しかし貴方達は私を傷が癒えるまでここに居ていいと言う、さらに傷が癒えるまで面倒を見ると。

それはどうしてなんです?」


私は素直に疑問を問いかける。

彼らの思想は私には理解できて、納得も出来る。

しかし、行動だけは理解できない。


「そこまで分かってて付いてきていたのかい。中々肝が座っているねぇ。

……それとも、全てが分かってやっているのか」


少しだけ感心したように、そして疑惑の感情を込めて村長は言う。


「何が分かっていると言っているのか分からないですが。

そのような行動を取らないのはおそらくあの子、ティエラに関わる事が原因ですよね?」


行動は理解できないが、その原因は何となく分かっている。

――ティエラだ。

私に不思議な感情を向けて、なぜか私も不思議な感情を抱いているあの子。


「……そうだ。

お前さんは村から追い出しなんかすれば、あの子は村を捨ててついていくだろう。

殺せば俺達の事を今度こそ絶対に許さない。

それにそんな事が無くとも、俺達はお前さんを再び見殺しにするなんて事は出来ねぇんだよ」


ますます分からない、ティエラも原因だが私にも原因がある?

というか、再びとは何だ?


「それはどういう事なんですか?

私はこの森の中で傷だらけで倒れていた、見ず知らずの余所者なんでしょう?」


私を詰め寄って問いかける。

そこに私の記憶の鍵がありそうだから。


「あぁ、それはお前さんが言う通りであってる。

お前さんは俺達にとってはまったく知らない赤の他人だ。

だがな、その姿は知っている」


私の姿?


「今のお前さんの姿はな、二年前に死んだティエラの嬢ちゃんの母親の姿とそっくりなんだよ。

最初に見た時はハライソから戻ってきたんじゃないかと思った程によく似ている」


ティエラの母親に似ている?

私が?

妙に納得してしまう自分が怖い。

もし私が母親であるならば、彼女に向ける保護欲も分かるし、ティエラが私に向ける不思議な感情も納得出来てしまう。

しかし、その母親はもう死んでいると村長は言っている。

死人は生き返らない、これは世界の鉄則だ。

なら、私は?


「その母親が死んだというのは確認されているんですよね?

行方不明という形で死んだという事は?」

「無い、遺体は俺達の手で焼いて、遺灰は嬢ちゃん自身が墓に埋めた。

それにお前さんは『無の民』であの人は『森の民』だ。

だから、俺はお前さんがあの人とは別人だと分かっているし、理解している」


村長はティエラの母親と私を同一視をしないという事か。

しかし、村人の中には私の事をそのティエラの母親と同一視している人がいると暗に言っているのだろう。

それが、私を単純な利害関係から追い出せない理由になると。

それ以前に『無の民』とか『森の民』の区別が私には分からないのだが。


村長は一呼吸をした後にため息を吐くように首をうなだれて喋る。


「だがな、ティエラの嬢ちゃんはそうは思っていない。

お前さんの事を死んだ自分の母親と思っている節がある。

本当はお前さんとあの人は別人だと分かっていると思うんだがなぁ。

だけど、ココがそれを受け入れるのを拒否しちまってる」


自分の胸を指差してそういう村長。

つまり感情の問題という事か。


「彼女の父親は?」


彼女には聞けなかったが、気になっていた事。

まぁ、半ば予想はついているが。


「本当の父親はいない。

そもそも、ティエラの嬢ちゃんが赤ん坊の頃にあの人は二人だけでこの村にやって来たんだ。

呪術医だったあの人と俺が交渉して、村でその力を役立てるのを交換条件に村に入って貰った」


つまり母子家庭という事か。

そして今は彼女が呪術医とやらをやっている以上、それを教わった師匠でもある、その母親は。

ティエラの中にある依存心というか、思い入れはかなり強いだろう。


しかし、本当の父親とわざわざ言ったのだからこの別の父親がこの村にはいる筈だが。


「本当の父親と言ったという事は。

その人はこの村で結婚していたんですよね?」


そう言うと、村長は苦虫を踏み潰したような顔をして、私から視線を外すと言う。


「…………あぁ。俺と結婚していた。

と言っても、必要だったからしただけで名目上の結婚だ。

一緒に暮らしてもいなかったし、そういう関係も感情もあの人と俺の間には無い。

ティエラの嬢ちゃんもそういう認識を持っている。

だから、俺はそういう問題には突っ込めん」

「すいません、不躾な質問をしてしまって。

それ以上はいいです」


これ以上はさすがに聞けない。


「……すまねぇな」


私から視線を外したまま、村長は頭を掻いてそう言う。

彼の言葉をそのまま全て信じるのなら、確かに色々と辛いだろう。


「構いませんよ。

事情は完璧では無いですが把握出来ましたから。

では、単刀直入に聞きます。

この村の長、村長として貴方は私に何を求めますか、そして何を与えてくれますか?」


私が聞き、知りたいのは村の総意。

こういう狭い共同体において、村長の決断はそのまま村の総意になる。

私を最終的には追い出すのか囲い込むのか、どっちの方針を取るのか私は知りたい。


その言葉に少しビクッと跳ねた村長は目を細め、仏頂面とした顔を緩めると私の目を覗き込むように見て言う。


「……本当にあの人と似ているねぇ、お前さんは」


その村長の黒い光を放つ目に映るのは「私」の姿。

ティエラをそのまま成長させたような姿を持つ女性の姿があった。

年は二十台の後半で、長い黒髪、青白い皮膚。

ただ、ティエラが幾ら成長しても違うと断言できる点が二つある。

私の耳は彼らと違って短く、目の色が黄色、いや金色だった。

その瞳の中にはティエラと同じ黒い瞳を持つ、村長の姿が鏡のように映っている。


「村の総意としては、どっちでも構わない。

お前さんの好きにしたらいいさ。

自分で出て行くのなら、ティエラの嬢ちゃんを連れていかなければ何も文句は言わねぇし、言わせねぇよ。

だが残るのなら、村の一員として働いて貰う必要がある。

今の時代、貴族でもない俺達は働かねぇ奴に食わすのは無理だからな。

体調が回復したら食い扶持分は色々と手伝って貰う、それは村の女としてもだ」


本当に嘘が嫌いな人らしい、村長は。

個人的にはかなり好感を抱ける相手だ。

誤魔化されたりするよりかはこう正直に言って貰った方がありがたい。


さて、どうするか。

そのまま追い出されて野垂れ死にするか、ここで殺されるかを覚悟していただけあって、何も考えていなかった。

保留はティエラの事を考えると出来ない、出て行くのなら先に言っていた方が良い。

傷が完治して、いきなり出て行きますなんて言うのは彼女の気持ちを考えると裏切りにも程がある。



…………残ろう。

外に行き、自分の正体を探したいがそれ以上にティエラの事が気がかりだ。

私の正体だって、ティエラを見ると湧き上がるこの感情や容姿の事を考えると彼女の近くにいた方が良い気がする。

あくまで感にしか過ぎないが、ティエラの母親と私は何か接点があると確信があるのだ。

それに外に出た所で食べる事が出来ずに野垂れ死にする可能性が高い。


私は村長に向かって頭を下げると言う。


「村長、私をこの村に置いて頂けませんか?」


彼は頷くと、私の肩に手をかけて言う。


「……分かった、このサンタナの村の一員として迎え入れよう。

もう既にお前さんは俺達の村の一員だ。

それは家族も同然、だから頭を上げてくれ。

家族に頭を何時までも下げさす趣味はねぇからな」


そう言われた私は頭を上げる。

村長は顎を手で触りながら言う。


「とりあえず、しばらくはティエラの嬢ちゃんと住んでてくれ。

とにかくにもその傷の治癒が最優先だ」

「分かりました」


確かにこの傷が癒えない事には何も出来ない。


「おっと、そうそう。一つお前さんに決めて貰わなくちゃいけない事がある。

名前だ、名前。

二人の時はお前さんって呼べばいいが、三人が居る時だと名前があった方が便利だからな」


名前、私の名前か。


「いいですけど、自分で自分の名を決めればいいのですか?」

「それでもいいが、そうだな…………セリカ。

お前さんの名前、セリカなんてどうだ?」


スペイン語で「天空」。

いや、だからスペイン語とは何だろう?

聞いても分からないそうだし、聞く事はしないが。


「天空ですか?」

「ほぅ……お前さん、よく知っていたなぁ。

その通りだ、古代語で天空という意味がある」


スペイン語ではなく、古代語?

スペインは昔という意味を持つ言葉なのか?

しかし、村長のその名づけをした理由には少し微笑みが漏れてしまう。


「良い名前だと思います、ありがたく頂きますね。

それと、これは確認ですがティエラは「大地」、それか「故郷」という意味を持っていましたよね?」


「ティエラ」という言葉には理解出来ない「地球」という意味もあったが、その他に意味が分かる「故郷」や「大地」という意味もあった筈だ。

ようは「大地」、「故郷」を「天空」から見守れという意味を含めたのだろう、この村長は。

それを考えるとティエラを自分の家に引き取らずわざわざ、この家に残している辺り……。

村長はティエラの母親との結婚を張りぼてだと言っているが、実は案外、愛していたのかも知れない。


「ッ!!……本当にお前さん、ハライソから戻って来たあの人じゃねぇよな?」

「分かりません、私には記憶が無いですから。

……ただ、私がその、あの人だったとしたら。

本当に良い男であり夫だったと思いますよ、貴方は」


私がそう微笑んで言うと、村長は頭を掻きむしりながら立ち上がった。


「……むしろ最悪の夫だったと思うがね、セリカ。

っと、今日はまだ体調が悪いのにわざわざ外に連れ出して長話につき合わせてしまって悪かったな。

しばらくはゆっくりと休んでくれ、体調が良くなったらまた来る」


そう言って私の手を持ち、肩を掴ませる彼に私は声を掛ける。


「村長、最後にもう一つ聞いていいですか?」

「何だ?」


一緒に歩きながら、答える村長。


「貴方の名前と、ティエラの母親の名前を教えて下さい」

「それだと二つだが、まぁいい、今日は特別だ。

俺の名前はホーキン、あの人の名前はベアトリスだ」


ホーキンは知識に引っかからなかったが、ベアトリスは分かる。

ラテン語で「幸福」。

「幸福」から生まれた「故郷」か。

ベアトリスは何を思って、その名を付けたのだろうか?


「そうですか、ありがとうございます。ホーキン村長」


そうして無言となって私達は再び家に戻っていった。


そして勿論、起きていたティエラから二人揃って物凄く怒られた。


名前に意味を持たせよう計画進行中。

勿論、村の名前も村長の名前も元ネタが存在します。

それと改訂は一週間はし続けると思います。

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