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G線上のアリア  作者: 月島秋
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第一楽章② ガール・ミーツ・ボーイ

 凄まじい歓声が湧き上がる中、私は目の前の現実に絶望していた。

 何でこんなことになったの!?

 姉がギターを始めたのは二カ月前、姉の中学の軽音部員が腕を骨折し急遽、姉が助っ人として参 加することになった。

 たった、二か月。

 たった、二か月しか姉はギターをやっていないのに。

 ボーカルもやったこともなかったのに。

 ……それなのに。

 ど、どうして……姉さんが、あそこにいるの?

 私は六年間、一日中ずっと引いてきたのに。何度も左指のタコも剥けたのに。

 音楽だけは、姉さんにも負けない。そう思っていたのに。

 今や、姉のギターの腕は私より否、他の参加者より遥かに勝っている。


『か・な・で! か・な・で!』


 振り上がる拳。轟く奏コール。

「あ……ぅ……」

 無駄だった。

 私の六年間、全てが無駄だった。

 ……頑張ってきたと思う。

 どんなに周りから比べられても。馬鹿にされても。

 本気で努力してきたと思う。

 もっともっとギターが上手になる様に。

 ただ、私を認めて欲しくて、姉には持っていない私だけの物が欲しくて。

 そのはずなのに。そのはずなのに……!!

 そう思うと悔し涙が止まらない。

「うえっ……。うええ……」

 同い年の姉妹なのに何でこんなにも違うのだろう。

 風になびく綺麗な銀髪、蒼い瞳、大きな胸。ステージ上でギターを引き、歌い続けるイギリス人の母の血を深く継いだ才色兼備、完璧な姉さん。

 三つ編みの黒髪に眼鏡。日本人の父の血を深く継ぐドジで情けない私。

 神はなんて残酷なのだろう。


『か・な・で! か・な・で!』


「い、や……」

 止まることを知らない奏コール。

 耳を塞いでも、その声は消えてくれない。

「や、め……て」

 がらがらと崩れていく。

 私の世界が、六年間の努力が。

「うわあああああ……。うわあああん」

 死んでしまいたい程、惨めで情けなくて、私は嗚咽混じりの声で泣き続けた。

 だけど、私の泣き声は観客の声援にかき消された。

             ◆


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