DF-001 夢遊患者カルテ
…………
見知らぬ天井だった。
オフィスによくある白い天井。微かなテクスチャが浮いていて、薄暗がりの中にぼんやりとその輪郭を浮かべている。背中に敷かれているのは薄いカーペット。だが寝心地は良くない。古びた、湿気を含んだ織物の上に横たわっているようで、かすかにカビ臭い匂いがした。
エアコンの低い唸りが途切れ途切れに聞こえる。この部屋で唯一、絶え間なく続く背景音だった。その合間には、時計の秒針の音。速くもなく、遅くもない。
けれど、時計がどこに掛かっているのかは見えなかった。
「……俺、寝てた?」
天井を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。喉の奥から絞り出した声は、ひどく掠れていて、自分のものとは思えなかった。
身体に異常はない。傷もないし、四肢も動く。縛られている感じもしない。
肘をついて体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
そして、目の前の光景がはっきりと見えてきた。
部屋の間取りは、どうやらオフィスのようだ。目の前のデスクの上には、書類フォルダー、ファイルバインダー、ペン立て、コーヒーカップ、キーボード、ディスプレイが整然と並べられている。隣のゴミ箱は、まるで一度も使われたことがないかのように清潔だった。全てのものが、あるべき場所に置かれていて、乱れた箇所は一欠片もない。
「違う……確か、まだ残業してたはずだ……」
記憶は鮮明だ。俺は自分の席で今日のレポートを書いていて、途中でまぶたが重くなってきて、そのまま机に突っ伏して少しだけ目を閉じた。それで……
それで、ここだ。
この場所は自分の作業スペースのように見える。けれど、はっきりと分かる。ここは自分のオフィスじゃない。
もっと正確に言うなら、まるで——
「……夢、か」
たぶん、そういうことなんだろう。
だが、その考えはすぐに打ち消された。
ここの感触は現実だったからだ。ほこりが空気中に浮かんでいて、ディスプレイの微かな明かりに照らされて細かい軌跡を描いている。その一粒一粒が、あまりにもリアルだった。エアコンの冷風が肌を撫で、鳥肌が立った。夢がここまで再現できるとは思えなかった。
できるのかもしれない。とにかく、確信は持てなかった。
適当に椅子を引いて腰掛け、机の上の物をじっくりと観察し始めた。
しかし、見れば見るほど違和感が募る。
どの品も異常なほど合理的に配置され、整然と、対称的に並べられている。だが、それが逆に不気味だった。よく見ると、フォルダーに書かれている文字も、現実世界のいかなる言語でもないように見える。ただの意味のない線の集まりのようだ。
この秩序は、使う人間の習慣から生まれたものではなく、何か意図を持って陳列されたようにしか思えない。
人間が残した痕跡には、どうしても思えなかった。
「……これは?」
一本のペン。
机の上にボールペンがあることに気づいた。
手に取って押してみるが、問題はない。
紙を一枚引き出して、数回書いてみる。ペンは普通に使え、書き心地も滑らかだ。
ペンに問題はなかった。
ペンを握ったまま、ふと何をすればいいのか分からなくなった。
たぶん夢にはヒントがあるものだ。奇妙な夢はいつだって、どこかの曲がり角に鍵を隠しているか、予言を一つ置いていくものだ。それを掴めれば、将来のプロジェクトの節目を予見できるかもしれないし、失敗を避けられるかもしれない。そして、昇進して、給料が上がって、深夜まで残業しなくて済むかもしれない。
そう考えると、むしろ冷静になってきて、少し笑えてきた。
目が次第に暗がりに慣れ、部屋の輪郭もより鮮明になってきた。
壁には丸い時計が掛かっていて、針が動き続けている。秒針の音と一致している。エアコンは冷気を送り続け、風速は安定していて、異音はない。
窓の外は果てしない闇だった。灯りもなく、建物の輪郭もなく、月明かりすら差し込んでこない。部屋自体もほとんどが闇に沈んでいて、パソコンの右下にあるインジケーターランプがゆっくりと点滅し、エアコンのパネルに浮かぶかすかな青い光が、辛うじて闇の中でごくわずかな明るさを保っているだけだった。
これらの現象が重なっても、それでも背筋が凍る。
全てが正常だからだ。
吐き気がするほどに。
部屋を一周し、大まかな配置を把握した。
六つのデスク。ディスプレイと本体の他に、備品は六等分されている。本来なら六人が座るべきなのに、今は自分だけしかいない。
だが、そのうちの一つの机には、三台のディスプレイが置かれていた。それが何を意味するのかは分からない。
コーヒーカップの中の液体は、まだ温かかった。カップの縁に手を触れてみると、そのわずかな温もりが、この陰気な場所でほんの少しだけ安堵を与えてくれた。
だが、飲む勇気はなかった。この飲み物が誰のものか分からないし、飲んで何か問題が起きるかもしれないからだ。
歩き回って疲れた。いや、疲れたというより、この部屋が自分を横たえさせようとしているような気がした。だるさが足元から湧き上がり、少しずつ這い上がってくる。
また眠ってしまった。
目を覚ますと、首が凝っていて、肩が重かった。反射的に時計を確認する。
「三時間……? この時間、どこに消えたんだ……?」
頭が混乱した。ほんの一瞬目を閉じただけのはずなのに。三時間はどこへ行ったのか? その間の時間は誰かに奪われたのか?
それに、眠っている間、何か異様な感覚があったような気がする。頭蓋骨を優しく撫でるような感触が。それが温かいのか冷たいのかも、はっきりしない。
錯覚かもしれない。
ともかく、ここに来てから約三時間が経過したようだ。
目が覚めた後、何かして自分を保とうと思い、机の上にあった使われていないノートを開いた。手持ち無沙汰だったので、適当にそこに何かを書き留めることにした。
一日目:
「これは個人的な記録だ。自分への警告のようなものだ。ここに来てから約三時間が経過した。オフィスに時計があったおかげで時間感覚を失わずに済んでいる。観察するに、ここの配置は現実世界とほぼ同じだ。しかし、なぜ夢の中でこんなものを記録しているのかわからない。まあいいや、夢の中だし、適当に書いておこう。」
書き終えて、ノートを閉じ、上着の内ポケットにしまった。
何の動機からかは分からないが、このノートを持っていると何か良いことがあるような気がした。
しかし、夢の中でノートを持ち歩くこと自体、全く意味のないことのように思える。
その後も部屋を観察し続けていたが、ふと前に気づかなかった細部に目が留まった。
床の中央に、円形の領域が出現していた。直径は約一メートル。縁は何か道具で切り抜かれたかのように整然としているか、あるいは直接床に埋め込まれたかのようだ。
その領域は色も質感も周囲とは異なり、そばに立つと空気がほんの少し冷たく感じられた。
「……これも何だ?」
踏む勇気はなく、触れることもしなかった。直感が、それは安全なものではないと告げていた。そして、この部屋自体も、もしかしたら危険になり始めているのかもしれない。
そう思い、俺は出入り口に向かい、ドアノブを回して外へ出た。
扉の外は、果てしなく続く廊下だった。両側の壁はまっすぐに遠くへと収束し、やがてぼやけた点になる。三メートルごとに蛍光灯が設置されているが、半分は切れていて、残り半分も明滅を繰り返している。
廊下の両側には、先ほどと同じような扉が並んでいる。数枚を開けて中を覗いてみたが、間取りはほぼ同じだった。そして、それらの部屋にはあの円形の領域はなかった。
考えた末、俺は新しい部屋に留まることにした。少なくともしばらくは、そこにいることにした。
椅子に座って、長い——
いや、どれだけ座っていたか分からない。
また眠っていた。
目を覚ますと、新しい部屋で別の奇妙な点を発見した。
机の上のパソコン、右下にある丸いアイコンが絶え間なく点滅している。その色は、床にあったあの領域と完全に同じだった。微かな光が、波紋のように広がっていく。
「……」
そのアイコンを長い間見つめていた。ずっと点滅し続けていて、頻度は変わらない。
そして、俺はその場を離れた。それが安全なものなのか、危険なものなのか、確信が持てなかったからだ。
とにかく、慎重に越したことはない。
外に出ると、廊下の反対側、約二十メートル先に、一つのドアが異質に見えた。
表面がごく淡い緑色に輝いている。扉の裏側から光が漏れているようだ。周囲のドアは普通なのに、あの一つのドアだけが光を放っている。
廊下に立ち、その光るドアを見つめて、長い間迷った。
中に何かがあるかもしれないし、何もないかもしれない。だが、こんな場所では、何もないことの方がむしろ怖い。
歩いていき、ドアノブを回した。
中は倉庫だった。
オフィスよりも一回り大きい。十数人は楽に入れる広さだ。そして、そこには何列かの鉄製ラックが整然と並び、大小様々な段ボール箱が置かれている。それぞれの箱の外側には、ナンバーラベルが貼られていた。
最初のラックに近づき、開けられた箱の中を覗き込んだ。
「……うっ」
箱の中には、見事なラブドールが収められていた。顔の造形は曖昧で、目は半分閉じ、唇は微かに開いている。手足は折り曲げられて箱の中に押し込められており、その姿勢は歪で、もがいている最中に押し込まれたかのようだった。その感覚をどう表現すればいいのか分からない。ただ、あの曖昧な顔を数秒間見つめて、胃の内容物が逆流しそうになった。どうやって入れられたのか、知りたくもなかった。
その異様な物体を目にし、二歩後退した。
その時、外から奇妙な唸り声が聞こえてきた。
「はぁ……すぅ……ぐるる……」
声は大きくないが、部屋の中にははっきりと聞こえた。
息を殺し、耳を澄ませて外の音を探る。
足音だ。引きずるような、何かが床を擦りながら歩く音。速度は遅く、だが確実に近づいてくる。
鉄製ラックの後ろに下がり、しゃがみ込む。背中が冷たい金属の支柱に当たる。音はドアの前でしばらく止まり、その後、ドアの周りをぐるぐると回り始めた。時折、あの不明瞭な唸り声を発しながら。
…………
どれだけ経っただろうか。
音がようやく遠ざかった。ゆっくりと廊下の反対側へと移動していく。引きずるような足音が次第に小さくなり、最後には完全に消えた。
すぐには立ち上がらなかった。しゃがんだまま、さらに長い時間待った。本当に静かになったことを確認してから、ゆっくりと顔を出し、ドアに耳を当ててしばらく聞き耳を立てた。
外には何もなかった。
考えを巡らせた末、鉄製ラックのそばに戻り、ラックに寄りかかって座り込み、ポケットからノートを取り出した。
今回のことを記録することにした。
二日目:
「ここに閉じ込められて二日目だ。まだここが何なのか理解できていない。ただ夢を見たらこの場所にいた。しかしここは普通の夢には見えない。部屋の外からはたまに奇妙な唸り声が聞こえてくる。誰が出しているのか確かではない。似たような倉庫に隠れている。ここは比較的安全そうで、物資も豊富だ。いつ目が覚めるのかわからない。」
書き終え、ノートを上着の中にしまい、壁に寄りかかった。目を閉じ、あらゆる微かな物音に耳を澄ます。
さらに数時間が経過した頃、ゆっくりと目を開けた。
おそらく三日目になった頃だろう。分からない。ここには時計がないからだ。
なぜまだ現実で目が覚めないのか、分からない。それに、自分がここで異常なほどはっきりと意識を持っていることに気づいた。
この間、箱の中の食料で何日かは凌げた。
箱にはペットボトルの水、ビスケット、缶詰が入っていて、包装はしっかりと閉じられていたが、製造年月日は空白だった。
三日目:
「三日目だ。まだ目が覚めない。しかもここにいるときは妙に頭がはっきりしているが、夢を自由に操る力はない。どうやら正体不明の力によって閉じ込められているようだ。この空間には奇妙な感覚がある。非現実的な空間という感じだ。とにかく、ここは夢には見えない。」
この内容を書き終え、ノートを閉じて、部屋の中を観察し始めた。
残念ながら、ここでは怪しい場所は何も見つからなかった。鉄製ラックと箱、そして箱の中身があるだけだ。
外からは、やはり時折あの奇妙な音が聞こえてくる。
外に何がいるのか分からないが、ただ少し怖いと感じるだけだ。
この倉庫から出るつもりはなかった。
…………
そんな風に数時間が過ぎた。
「……これは?」
ゲームカセットだ。段ボール箱いっぱいに詰まったゲームカセット。分厚い束が、きちんと重ねられていて、包装フィルムすら破られていない。
隣の箱には、鍵がぎっしりと詰まっている。銀色で、どれも同じ形。歯型も完全に一致している。箱の番号は404。
その三桁の数字を、しばらく見つめていた。
「……まあいいや、二個取っておこう。」
箱から二本の鍵を選び、鉄製ラックの上に置いた。
自分で持ち歩くと、なぜか無くしてしまいそうな気がしたからだ。ラックの上に隠しておくのが良い選択かもしれない。
観察したところ、箱の中身はリセットされるが、箱から出して別の場所に置いたものはリセットされないようだ。この方法で、役に立ちそうな物を保管できるかもしれない。
四日目。あるいは五日目。
カウントをやめた。
ノートには「四日目」と書いてあるが、その数字がまだ正しいかどうか確信が持てなかった。箱の山に座り、ペン先を紙に当てて、何かを書こうとしたが、頭の中は空っぽで、あの唸り声だけが繰り返し再生されている。
四日目:
「もう四日だ。まだ閉じ込められている。ここの物資は毎日リセットされているようで、内容も毎回違う。食べ物の時もあれば、ゲームカセットの時もある。たまに鍵が出現することもある。外のドアは鍵を使う必要がなさそうだが、念のため二本取って鉄架の上に置いておいた。」
書き終え、鉄製ラックの上に置いた。
なぜだか分からないが、この部屋にこんなに長くいて、なぜか心身ともに疲れていた。
そして、そのまま深い眠りに落ちていった。
…………
おそらく、五日目だろう。この部屋に約二日、いや三日ほどいただろうか? 定かではない。
とにかく、外に出て歩き回ってみることにした。出口が見つかるかもしれない。
五日目:
「五日目だ。そろそろあちこち歩き回って探索してみようと思う。それから、マーカーペンの色がほとんど褪せてきているので節約しなければ。ところでオフィスに新しいものがあるはずだ。とにかく、この場所を探索して出口を見つけたい。」
今日の記録を書き終え、ドアノブを回して外へ出た。
外に出ると、奇妙な現象が目に飛び込んできた。
以前、ドアの外の壁には引っかき傷があったはずなのに、今はなぜか消えている。それに、このドアは角のところにあるはずだったのに、今は中央に移動している。
「……どういうことだ?」
何が起きたのか分からなかった。でも、そういえば、今日はあの奇妙な音がしなかった。その点は少し安心できた。
適当な部屋に入ると、すぐに新しいボールペンを見つけた。
ところで、いつボールペンを一本使い切ったんだ?
記憶では、五回しか記録を書いていない。それに、合計の文字数も千文字に満たないはずだ。インクはまだたくさん残っているはずなのに。
深く考えずに、ペンを手に取り、ドアを出た。
外の廊下は、相変わらず特別な変化はない。いつも通りだ。
だが突然、廊下の照明がちらつき始めた。
そして、周囲に電源が落ちる音が響き渡った。
【バチン——】
遠くの蛍光灯が、突然暗くなった。
そして二つ目、三つ目と、まるでドミノ倒しのように一列ずつ暗くなっていく。闇が両端から同時に迫り、一歩一歩、前に押し寄せてくる。
「やばい——」
俺は振り返って走り出した。来た道を、倉庫へ戻ろうとして。
しかし、すべてのドアは同じように見える。緑色の光もなく、番号もなく、全て同じドアだ。何枚か開けてみたが、中は全てオフィスで、鉄製ラックも箱もない。
灯りが自分の後ろ約二十メートルまで消えた時、廊下に別の音が響き始めた。
足音。
とても軽く、そして粘っこい。濡れた布がカーペットの上を引きずられるような音。速度は一定で、速くも遅くもなく、闇の境界線の後ろについてくる。
適当なドアを開け、飛び込み、後ろ手に閉めた。鍵はかかっていなかったが、体でドアを押さえ、しばらく激しく息を切らした。
外の足音がどんどん近づき、ドアの隙間の前で止まった。息を殺し、後頭部をドアに押し付け、心臓がドアごと震えるほどに鼓動していた。
入ってこないでくれと、ただ祈るしかなかった。
長い時間が経って、音は去っていった。
外の音がしなくなったのを確認して、ほっと息をついた。
部屋の中の雰囲気は、心をいくぶん落ち着かせてくれた。エアコンとパソコンのインジケーターランプが放つかすかな光は、完全な闇よりははるかにマシだった。
手探りで机の方へ歩き、コーヒーカップに手を伸ばす。カップの縁はまだ温かい。少し冷めてきたが、それほど冷たくはない。置いてからまだ間もないようだ。
カップを手に取り、一瞬ためらってから、一口含んだ。
温かい液体が喉を滑り落ちる。苦く、渋く、ほんの少し焦げたような風味。味は現実のコーヒーと同じだが、効果は現実のものよりはるかに劣っていた。
だが、口に含んだ瞬間の温かさが、ほんの少しだけ緊張を解いてくれた。
少し落ち着いてから、椅子に座り、ノートを机の上に広げ、今日の記録を書いた。
九日目:
「九日目だ。自分の精神がおかしくなっている気がする。さっき廊下の灯りが全部消えた。闇の中から何か音が聞こえてきた。怖い。倉庫に戻りたい。壁が最初からずっと見つめているように感じる。ドアの外に何かが歩いているようだ。足音はとても軽いが、粘っこい。オフィスのコーヒーで気を保とうとしたが、効果はほとんどない。それでもないよりはマシだ。少なくとも、かろうじて正気を保てる。」
書き終えて、最後の行をしばらく見つめ、ノートを閉じた。
たぶん、気絶していたのだろう。ノートの三ページが破り取られている。力任せに引きちぎった跡があった。
あのページを破った記憶も、そこに何が書いてあったかも覚えていない。
ゴミ箱は空っぽで、何もなかった。
…………
何……
「何日目だ……?」
手にしたノートを見つめ、考え込んだ。
昨日……いや、数日前、廊下が闇に包まれたような気がする。
それで?
それで、また気絶したような気がする。
時間がカレンダーから一枚一枚、剥がされているかのようだった。目が覚めると倉庫にいることもあれば、オフィスの床に倒れていることもあった。壁に寄りかかって座っていることもあり、その時はペンを握りしめていて、ペン先は噛み跡だらけだった。
あの唸り声に慣れた。足音にも慣れた。闇の中で自分の鼓動を数えることにも慣れた。
そんなある日、床にあの円形の領域が再び現れているのを見つけた。倉庫の床の中央に、直径一メートル、鋭い縁を持って、埋め込まれている。今回は、中から音が聞こえてきた。
「……すぅ……ぐるる……お前……」
中から一言、はっきりと聞こえた。文字通り、はっきりと。
その一言は、円の縁から染み出るように、湿った息遣いとともに。
ここに長くいることで、彼らの言葉が理解できるようになったのか。それとも——
——自分が少しずつ彼らに同化されているのか?
分からない。
その円をじっと見つめ、二歩下がり、振り返って走り出した。
ドアが閉まった瞬間、円の中から発せられていた音が一瞬止み、そして鋭く耳障りな叫び声に変わった。爪が黒板を引っかくような音だった。
外に出ると、廊下はすでに照明が戻っていた。
いつ戻ったのか?
分からない。
廊下は相変わらずどこまでも続いていて、見渡す限り先が見えない。
だが、それに加えて、もう一つ恐ろしいことが目の前にあった。
「……すぅ……ぐるる……」
廊下の少し先に、白い生物がうろついていた。
人の形をしている。四肢は細長く、そのバランスは著しく崩れている。腕は膝下まで垂れ下がり、脚は逆関節のように曲がっている。肌は真っ白で、滑らかで、毛は一切なく、顔にはただ、裂け目が一つ、こめかみからこめかみまで横一線に走っている。
目はないにもかかわらず、その頭部がゆっくりとこちらを向いた。
「……すぅ…………あああああああああああああああああああああ————!!!」
その裂け目から、金属が引き裂かれるような鋭い悲鳴が噴き出した。
「……しまった」
そして、あいつは四肢を使ってこちらに向かって追いかけてきた。
同時に、先ほどの部屋からも、何かがぶつかる音と、粘っこい足音が聞こえてきた。
走り出した。
後ろから音が追いかけてくる。一匹だけじゃない。湿った足音が重なり合い、唸り声、ぐるぐるいう音、そしてあの鋭い叫び声。
四肢で地面を駆け、その速度は速く、爪が廊下のカーペットをかきむしる音がザリザリと響く。
角を曲がると、緑色の光が見えた。倉庫のドアがすぐそこにある。あの見慣れた淡い緑色の光を放っている。
全力で駆け寄り、ドアノブを回して中に飛び込み、ありったけの力でドアを閉めた。
扉が閉まった瞬間、何かが激突した。鈍い音がして、ドア全体が揺れた。
そしてもう一度、さらにもう一度。
衝突音はしばらく続いたが、やがて弱まり、最後にはドアの前を行き来する引きずるような足音だけが残った。
その場にへたり込み、背中をドアに預けて、荒い息を吐いた。心臓が喉から飛び出しそうで、手に浮いた冷や汗でズボンの太もも部分が濡れた。
「はぁ……はぁ…………」
なぜか涙が突然あふれ出た。
声は出ない。ただ涙腺が勝手に水を押し出している。そこに座り込み、ドアに背を預けて、顔を膝にうずめて、しばらく肩を震わせていた。
…………
しばらくして、顔を上げた。鉄製ラックは相変わらずそこにあり、箱もある。ノートがラックの上に置かれていて、開かれた状態だった。
いつそこに?
歩み寄って手に取ると、また新たに四ヶ所が破り取られている。文字の跡がかすかに残っているが、内容は全て消えている。
最新のページを開き、ペンを取る。
十四日目:
「探索中に怪物を見た。はっきりと見えた。人型の四肢を持っているが、そのプロポーションは異様に歪んでいて、顔には裂けた口だけがある。あれが何なのかわからない。とにかく、当分外には出ないつもりだ。おそらくあいつらは俺を探している。」
ノートを閉じ、箱の中身を調べ始めた。
箱には新しいスマートフォンが追加されていた。新品で、画面も傷一つない。
残念ながらここには電波はないが、懐中電灯とカメラの機能は使えそうだ。そこで、そのスマホをポケットにしまった。
それから、倉庫の中に長い間こもった。
一日、二日、何日も。数字が分からなくなってきた。
ノートには十五日目、十六日目、そして二十日目、二十七日目と書かれている。数字は次第に乱雑になり、紙面は何度も塗りつぶされ、破り取られたページもあり、コーヒーのシミで読めなくなったページもある。そして、それら全てを破り捨てた。
外の音は絶え間なく続いていた。時には近くで、時には遠くで、時にはドアの前を行き来し、唸り声がドアの隙間から入り込んできて、ブーンと鳴り響き、こめかみが膨張するように痛んだ。
…………
三十九日目。
もう我慢の限界だった。
「ああああああ————!」
バールを手に取り、鉄製ラックに叩きつけた。金属のぶつかる音が倉庫内に炸裂し、耳がキーンと鳴る。
箱の上の物が床に叩きつけられ、散乱した。あのラブドールが箱から転がり出て、顔を上にして横たわっていた。その曖昧な顔は、薄暗がりの中で笑いかけんばかりの表情に見えた。
バールで壁を叩き、ラックを叩き、手の届くもの全てを叩いた。
手のひらは痺れ、指の間からは血がにじむ。それでも止めず、腕が重くて上がらなくなるまで続け、ついにバールを床に投げ捨て、膝に手をついて荒い息を吐いた。
「くそっ……くそおおおおおおお————!!!」
どうしてしまったのか、声は次第に嗄れ、肺の奥底から削り取るような音になっていた。精神も衰え、限界をさまよっていた。
一瞬、外に飛び出してあいつらと死闘を繰り広げようかとさえ思った。
ノートを開き、書く。
三十九日目:
「もうたくさんだ。いつになったら目が覚めるんだ。ここに来て三十九日も経っている。外のクソどもがしょっちゅう通りかかる。足音がどんどん鮮明になってきている。あいつらが何匹いるのかもわからない。もうたくさんだ!」
ペンを机の上に放り投げ、壁の隅にしゃがみ込み、拳を額に当てて、しばらく動けなかった。
どれだけ経っただろうか、目を覚ますと額が床に着いていた。冷たさが床から頭蓋骨に伝わってくる。
立ち上がると一瞬くらくらして、ラックに手を伸ばして体を支え、ノートを見た。
ノートには、また新たに四つの破り跡があった。
…………
数字は四十四日目に飛んでいた。
「四十四日目……午前四時……四十分……」
自分の声が、静かな倉庫の中で異様に耳障りに響く。この広い場所で、まるで壁を平手打ちするような音だった。
あるいは、長期間の孤独で、聴覚がますます敏感になったのかもしれない。
数日前から、外の音は完全に消えていた。すっかり静まり返っている。
それでも、頭の中ではあの音が延々と反響し続けていた。
口を押さえたが、指の間から笑い声が漏れた。
「ふ……ふふ……あああああ……」
哀しいことに、笑い声は変調し、喉の奥で詰まり、出てこず、飲み込めず。
大笑いする力も、叫ぶ力も残っていなかった。
座り込み、ノートを開く。紙面には、以前破り取られたページの跡が、深く浅く残っている。
ペンを手に取り、書いた。
四十四日目:
「これが最後の記録になるだろう。これを書き終えたら、ここを出て歩き続けるつもりだ。おそらくこの夢からは永遠に覚められないだろう――――
これを書き終えたら、もう終わりにしようと思った……
…………
もしかしたら。
もしもの話だ。
もし、別の誰かがこの場所に来たら?
もし、その誰かがこんな危険に遭遇したら?
そう考えて、ノートの最後のページに、長い文章を書き記した。
「誰かがこれを読むかどうかはわからないが、とにかく俺が知っていることを伝えておく。ここは現実世界の範疇には属さない空間だ。どこまで行っても終わりがない。五部屋ごとに角があり、そのような角を俺はすでに千近く通過した。どの場所も配置は完全に同じで、この倉庫だけが違う。同時に、この倉庫に入ると、空間全体をランダムに移動することになる。扉を開けた先は必ず前回とは異なる場所だ。計算によると、以前訪れたことのある場所に到達する確率は約0.0000000000000000000000341%、それよりもさらに低い可能性もある。もちろん、これは俺の計算に過ぎない。また、オフィスに置いてあるコーヒーを飲もうとするな。あれは精神に影響を及ぼす性質があるようだ。さらに、あいつらはどうやら他者の存在を特定できるらしい。その仕組みは今もわからない。ただし、この部屋にいれば、あいつらはおそらくお前を見つけられない。俺の観察によれば、この部屋は不安定な存在であるらしい。そこに生命があるのかはわからない。とにかく、これらは俺が最近知り得たことと推測した内容だ。」
書き終え、ペン先が一瞬止まった。
そして、最後にもう一言、付け加えた。
【もしこの文章を読んでいるのなら、この夢から逃げ切ってほしい。】
そして、ノートをこの箱の一番目立つ場所に置いた。
それから、バールとあの拳銃を手に取った。
弾丸を確認する。
一発。
いつ、こんなものを手に入れたんだ……?
もう考えるのをやめた。
倉庫を出て、ドアが後ろで閉まった。
今回は振り返らなかった。
廊下は長かった。ずっと歩き続け、足音が誰もいない通路にずっとついてくる。
あいつらは近くにはいないようだ。あるいは、しばらく俺に興味を失ったのかもしれない。分からない。
一つのドアの前に着いた。他のドアとは違っていた。
深い黒色で、取っ手はなく、鍵穴だけがあった。円形で、直径は約一センチ、縁は滑らかだった。
ポケットを探ると、ふと、あの時倉庫の鉄製ラックに置いてきた鍵のことを思い出した。
「はっ……はっ……」
笑い声が廊下に響き渡った。一声、一声、途切れ途切れの咳のように。
そして、バールを振りかざした。
バン————!
一撃目、ドアの板にひびが入った。
バン————!
二撃目、鍵穴の周りの金属が歪んだ。
バン————!
三撃目、ドアが開いた。
中には何もなかった。ただ純粋な闇だけが広がっている。手を伸ばせば届きそうな闇。机も、時計も、エアコンの音もない。
ゆっくりと中へ足を踏み入れる。ドアが後ろで閉まり、ぴったりと隙間なく閉じた。
「ああ……」
ここに閉じ込められたのか。
そういうことか?
立ったまま、長い間動かなかった。音もなく、光もない。自分の息遣いまでもが、次第に小さくなっていく。
ポケットから拳銃を取り出した。冷たい金属がこめかみに当たり、また離れ、また当たる。
運命の不条理か、神の嘲笑か。この一発の弾丸は、どうやら自分のために残されたもののようだ。
そして、何か言葉を発した。
忘れた。
声が小さすぎて、形になる前に消えた。
引き金を引いた時、最後の音が聞こえた。
とても大きな音で、何かが砕けるような音だった。
そして闇が、より深い、何もない闇が広がった。
しかし、痛みはなかった。
何もなかった。
…………
——自分が死んだのかどうか、分からなかった。
この場所は答えを出さなかった。ただ静かに動き続けている。廊下の灯りはまだ点滅し、倉庫の箱はまだリセットされ、あのノートはまだ鉄製ラックの上に置かれ、最後のページが開かれたまま。
そこには、一行の文章だけが、力強く書かれていた。ペン先が紙の裏側に突き刺さりそうなほどに。
【もしこの文章を読んでいるなら、この夢から逃げ切ってほしい。】
そして、署名の部分は水で滲んでいて、何の字か読めなかった。
名前かもしれないし。
そうでないかもしれない。




