第九話 寄せ集めの英雄機
寄せ集めの英雄機
■ ハルの胸が締め付けられる
ハルは作業台の前で固まった。
目の前には、完成したばかりの“寄せ集め機体”。
見た目は不格好だが、
確かに“機体”として成立している。
だが――
動かない。
どれだけ電源を入れても、
どれだけ制御系を調整しても、
どれだけ祈っても。
動かない。
「……なんでだよ……!」
拳を握りしめ、
ハルは機体の胸部を叩いた。
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■ 整備員たちが叫ぶ
仲間の整備員が駆け寄る。
「何やってる、ハル! 後方の陣地に下がるぞ!」
「ここはもう危険だ! 前線が崩れたら巻き込まれる!」
ハルは振り返り、叫ぶ。
「ミカを見捨てるのか!!」
整備員たちは苦い顔をする。
「見捨てるんじゃない! 俺たちは整備員だ!
戦える機体は全部出払ってる! 俺たちに何ができる!」
「そうだ! ここで死んだら意味がない!」
ハルは歯を食いしばる。
「……くっ……!」
胸の奥が焼けるように痛い。
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■ ハルの絶望
ハルは再び機体に向き直る。
完成した。
形はできた。
全パーツは繋がっている。
なのに――
動かない。
「なんでだ……
何が足りない……
何が……!」
彼は頭を抱え、
機体の胸部に額を押し付ける。
「コイツが動けば……
“ミカを助けられるのに!!”」
その叫びは、
格納庫の喧騒の中で誰にも届かない。
だが――
機体の奥で、微かに“何か”が反応した。
ほんの一瞬。
紫とも黒ともつかない光が、
胸部の奥で“脈動”した。
ハルは気づかない。
だが確かに、
“何か”が応えようとしていた。
―それは理解ではなく、到達だった―
格納庫の警報はまだ鳴り続けていた。
赤い光が断続的に点滅し、整備員たちの叫びが飛び交う。
だが、ハルの世界は静かだった。
目の前には、自分が組み上げた“寄せ集め機体”。
不格好で、規格もバラバラで、誰が見ても「動くはずがない」機体。
それでも――
ハルはその胸部に手を置いたまま、動かなかった。
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■ 「足りないもの」は、理解ではなかった
ハルは考えていたわけではない。
分析していたわけでもない。
ましてや誰かに教えられたわけでもない。
ただ、胸の奥にひっかかる“何か”があった。
昨日拾ったパーツ。
1号機の右腕の残滓。
格納庫の残骸の山で見つけた“呼んでいた”欠片。
それらが、頭の中で線にならないまま、
ただ“重なっていく”。
「……足りないのは……」
言葉にならない。
概念にもならない。
でも――
たぶん、これだ。
ハルは機体の胸部パネルを開き、
そこに“あの黒い結晶片”をそっと押し込んだ。
それは、理屈では説明できない行動だった。
「これが正解……そうだろう?」
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■ 機体は動かない
結晶片をはめ込んでも、
機体は微動だにしなかった。
電源も入らない。
制御系も反応しない。
外から見れば、ただの“失敗”。
周囲の整備員が叫ぶ。
「ハル! もう時間がない! 避難しろ!」
「ミカは戦ってるんだぞ! 俺たちじゃどうにもならない!」
ハルは振り返らない。
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■ だが、ハルには“分かった”
動かない。
反応しない。
沈黙したまま。
それでも――
ハルには分かった。
「……動くようになった」
誰も信じない。
誰も理解しない。
だが、ハルは確信していた。
機体は、
“まだ動かない”のではなく、
“ハルが乗るのを待っている”だけだ。
まるで最初から、
ハルが乗り込むことが当然だったかのように。
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■ コクピットへ
ハルはゆっくりと機体の胸部へ登り、
コクピットに足を踏み入れた。
その瞬間――
空気が変わった。
格納庫の喧騒が遠ざかり、
世界が静まり返る。
ハルがシートに座り、
操縦桿に触れた瞬間。
胸部の結晶片が、
紫と黒の光を同時に放った。
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■ 機体が“応えた”
電源が入ったわけではない。
制御系が起動したわけでもない。
もっと根源的な、
もっと本質的な“何か”が動いた。
機体が、ハルに応えた。
「……行ける」
ハルは呟く。
その声に呼応するように、
機体の内部フレームがわずかに震えた。
外から見れば、
ほんの数ミリの揺れ。
だがハルには分かった。
この機体は、ミカと1号機以上の動きを見せる。
自分が乗れば、必ず。
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■ そして、戦場へ
ミカが巨大脅威に追い詰められている。
援軍はない。
時間もない。
だが――
ハルにはもう迷いはなかった。
「待ってろ、ミカ。
今度は俺が、お前を助ける番だ」
寄せ集めの機体が、
ゆっくりと、しかし確かに立ち上がる。
格納庫の床が震えた。
整備員たちが振り返り、
目を見開く。
「……動いた……?」
「嘘だろ……あれ、動くのか!?」
ハルは操縦桿を握りしめる。
「行くぞ――相棒」
そして、
“寄せ集めの機体”は初めて歩き出した。
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