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第五話 「右腕ユニットの分解」

「右腕ユニットの分解」


深夜の格納庫。

作業灯の白い光だけが、ハルの作業台を照らしていた。

周囲は静まり返り、遠くで冷却ファンの低い唸りが響く。


ハルは1号機の損傷した右腕ユニットを前に座り込んでいた。

外装は焼け焦げ、内部フレームはねじれ、配線は溶断している。

だが、その“壊れ方”に、どこか違和感があった。


「……普通じゃないな、これ」


彼は工具を手に取り、慎重に外装を外していく。

金属片が外れるたび、微かな紫の光が内部から漏れた。


ハルは思わず手を止める。


「……まだ光ってるのかよ。電源なんて完全に落ちてるはずなのに」


内部には、コアに近い制御ラインが残っていた。

本来なら完全に沈黙しているはずの回路が、

まるで“呼吸”するように脈動している。


ハルは眉をひそめ、さらに奥へと手を伸ばす。


配線を束ねていた固定具を外した瞬間――

紫の火花が、彼の指先をかすめた。


「っ……!」


反射的に手を引く。

だが痛みはない。

代わりに、指先がじんわりと温かい。


ハルは息を呑んだ。


「……これ、電気じゃない。なんだ……?」


彼は恐る恐る、内部の基板を引き出した。

そこには、通常の制御回路とは明らかに異なる“異物”が埋め込まれていた。


黒い結晶片。

混沌核片に似ているが、もっと小さく、もっと不安定で、

そして――

まるで“心臓”のように脈打っていた。


「……おいおい、冗談だろ。

こんなもん、誰が仕込んだんだよ……?」


ハルは震える手で結晶に触れようとした。

その瞬間、視界の端で“何か”が揺らめいた。


影。

いや、残像のようなもの。


ミカが覚醒したときに見た紫光の“余韻”が、

まだこのパーツの中に残っている。


「……ミカの言った通りだ。

こいつ……まだ呼んでる」


ハルは結晶を見つめた。

恐怖よりも、強い好奇心が勝っていた。


「……分かったよ。

お前が何者なのか、俺が確かめてやる」


その言葉は、

ハルが“整備員”から“創造者”へと変わる最初の宣言だった。


そしてこの瞬間、

ハルの機体の“核”が決まった。


---


格納庫の残骸の山


格納庫の隅に積み上げられた残骸の山。

昨日まではただの“ゴミ”だった。

誰も見向きもしない、戦場帰りの廃パーツの寄せ集め。


ハルも同じだった。

毎日ここを通っても、何も感じなかった。


だが今日は違った。


ふと視界の端で、

何かが“こちらを見ている”ような気配がした。


ハルは足を止める。


「……ん?」


雑然と積まれた金属片の中に、

ひとつだけ“浮いて見える”パーツがあった。


形は歪で、用途も分からない。

外装は剥がれ、内部フレームが露出している。

ただの廃材のはずなのに――


妙に、気になる。


ハルは近づき、手を伸ばした。


触れた瞬間、

胸の奥がざわりと揺れた。


「……なんだ、これ」


昨日まで何も感じなかったのに、

今日は“何か”がある。


似ている。

近い。

でも、何に?


ハルはパーツを持ち上げ、じっと見つめた。


「このパーツ……何か似ている?

近い?

……なんだ?この感覚……

何が似ているってんだ?

何が近いってんだ?」


答えは出ない。

だが、胸のざわつきは強くなる。


まるで――

昨日分解した1号機の右腕ユニットの“残滓”と共鳴しているような感覚。


ハルは思わず息を呑んだ。


「……まさか、こいつも“呼んでる”のか?」


パーツは沈黙している。

だが、確かに“何か”がある。


ハルはゆっくりと立ち上がり、

そのパーツを抱えた。


「……分かったよ。

お前も、俺に拾われたいってわけか」


その瞬間、

格納庫の空気がわずかに揺れた気がした。


ハルは気づいていない。

だがこのパーツこそ、

後に彼の機体の“心臓部”となる運命の欠片だった。


---


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